君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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エロサキュバス覚醒

 

 

 

 

 

 

 

 ……最初、その話を聞いたときにはとても驚いた。

「き、如月が出るの!?」

 駆逐艦如月。旧式に分類され、その性能は駆逐艦のなかでも最も低い部類に入る。

 戦闘向きじゃない。というか、戦いは苦手な部類。遠征などで輝く型式であった。

 なのに、この人は言ったのだ。イムヤと一緒に出ろと。

「どうして……? 如月じゃなくても、他にも駆逐艦はいるのに……?」

 真っ先に出てくるのは、疑問。

 対抗演習に抜擢されるような性能はしていない。

 なのに、七海は語った。

「性能なんて、生きていれば何だって構いません。……正直、周囲の人は攻撃に突出しているんです。フォローが必要になるでしょう。……如月。あなたが一番適任なんです」

 一から説明する。今回は、守りを視野に入れているので、先ず駆逐艦と潜水艦を選んだ。

 軽巡も重巡も既にいる。だから、被らないようにしていると。

 夜の執務室。飲み会から帰ってきた早々、如月は叩き起こされた。

 部屋で眠っていたのを、マスターキーで侵入されて誘拐された。

(いやー!? 誰かー!?)

 口を何かで塞がれて、首根っこを捕まれて左手で引き摺られていく。

 バタバタ涙目で抵抗する。無理矢理引き摺る相手。

 寝ている間に無理して引いていったのか、寝巻きが汚れてしまった。 

 先日、七海が何の気紛れか奢ってくれた大切な、初めての贈り物なのに。

 息苦しくて気がつけば廊下を無言で引っ張られていた。

 で、数分かけて執務室に拉致。犯人は七海本人であった。

 いわく、何度声をかけても起きないので、強引に回収したらしい。

 今すぐじゃないと困るので、憲兵には知らせていたと。

 起きない方が悪いと言いたげな七海に如月はべそをかいていた。

 何でこの人は毎回理屈で判断するのか。凄く怖かった。

 泣き出す如月に、流石に七海も慌て出した。やり過ぎたと感じていた。

 自分でもどうなんだこれと思いつつ実行したので、泣かれるのは想定していた。

 実際泣かれると結構、罪悪感を感じた。取り敢えず散々謝って、抱き締めて宥めた。

 スキンシップを詫びでするとは思わなかった。いや、全面的に七海が悪い。 

 時間をかけて泣き止んでもらい、文句を言われて反省した七海は、着替えも貸した。

 彼女の寝巻きは汚れてしまったので、反省も込めて私物の服を貸したのだが……。

(……司令官のにおいがする……)

 初めて私服に触れた如月は、酷い扱いのことも忘れた。あっさり。

 何せ、他人の服の匂いなど嗅いだことは建造されてから一度も無いのだ。

 新鮮な気分になり、それが仲良くしたい七海だから、尚更テンションアップ。

 嬉しそうに頬を赤くしてクンクンしていた。七海は気にせず、着替え終わるまで待っていた。

 そして、冒頭に戻る。

 真夜中の執務室で、秘密の会瀬。如月には何だかいけないことをしている気分になる。

 七海はボーッと熱に浮かされて、袖の匂いを夢中で嗅いでいる如月の顔を見て、呆れていた。

「何をしているんですか如月? なんです、本当にエロサキュバスですか……?」

「違うわ。それは鈴谷さんの専売特許」

 鈴谷の扱いはお色気キャラだった。酷いが、気にしないで続ける。

「そういえばサイズ合ってます? あたしと背丈は変わりませんが」

「……実は胸のサイズがキツいの……」

 実際、胸元は少し窮屈だった。

 すると途端に殺気を纏う七海。

 見慣れた不機嫌顔になった。

「そうですか。すいませんね、凹凸のないドラム缶で」

 気にしているらしい。謝った方が良さそうなので如月は謝った。

 近距離で睨まれるとやはり七海は怖い。

 外見は、高校生には見えない。

 小柄のやせ形。寸胴で、髪の毛は如月よりも長く、焦げ茶色。

 ただ、ボサボサで枝のように伸びた毛先が広がって、基本的にだらしない。

 外見には無頓着らしく、七海は軽巡たちに髪の毛を弄られる。

 最初はかなり嫌がっていたが、最近では諦めたのか、お人形のように弄ばれていた。

 由良や五十鈴は提督らしい外見を、とたしなめるため追い回しているのも見かける。

 本人は寝癖などもそのままで仕事しているが。

 客がくれば簡単に直すが、それ以外は放置している。

 そんな七海だが、意外と良いにおいがするようだ。

(あっ……如月、この匂いは結構好みかも……)

 同じ女性だからか、少し甘く感じるにおいはなんとも言えず、たまらない。

 口では言えない幸せな気持ちになれる気がした。

 この時点で如月さん、エロサキュバスと言われても否定できなかった。

 危ない道に片足を早くも突っ込んでいるようだった。

 恍惚の表情で再び袖の匂いを堪能している如月。

 蕩けたような瞳で、獲物として七海を見ていた。

(もっと欲しい。もっと、もっと司令官のにおいを間近で……感じたい)

 抱き締められたとき、凄く安心した。

 怖かった気持ちが一気に鎮静化していくのを感じた。

 酔いしれる様な危険な甘い香り。

 蜜のように感じる如月は、酔っぱらいに似た表情であった。 

「……人の服で何を変態的に喜んでいるんですか? 別にいいですが。話さえ聞けば、些事は気にしませんので」

 七海も大概である。大筋さえ無事なら自分が獲物として見られても気にならない。

 反応するのも確認したし、話を続ける。

「脱線していました。先ず、選んだ理由でしたか。それは、守りに関しては如月は一番だからですよ」

 適任として、如月を選んだ理由。

 他の駆逐艦は適性がないこと。

 睦月は性能通り、遠征に適性がある。荷物の運搬や要領がいい。

 但し、戦闘時にはパニックになりやすいので不向き。

 次、吹雪。論外一人め。

 能力は全てにおいて平均を超える優秀な艦娘。

 然し、七海への不信感が強いため客観的に見て向かない。

 次、五月雨。論外二人め。

 天性の、最早呪いレベルのドジのせいで遠征以外は任せたくない。

 というか、表に出ると予想できない被害は拡散するので出してはいけない。

 最近では本人が気を付けても他から巻き込まれる事案もあるので要注意。

 次、暁。論外三人め。

 性格的な問題。幼すぎる暁は大任なので無理。

 どうせ未だに治らない見栄で自滅するので、却下。

 次、響。 

 どちらかと言うと、フォローよりもチームプレー。

 姉妹との連携が素晴らしく高いため他人とやると逆に効率が下がる。

 次、雷。向かない。

 何でも彼んでも引き受けてオーバーフローするので、自滅するだけ。

 彼女は響の監視下に置くべき。

 次、電。向かない。

 そもそも性格が楽観的平和主義。

 競争心のない内面なので、やるだけ無駄。実証されている。

 なので、如月になった。

「……吹雪ちゃんは?」

「無理です。当てにしてません。彼女はやる気がないので」

 能力に一切の問題はないが、不信感がある吹雪は頼るには不確か。

 裏切る可能性があるので連れていかない、と七海は判断していた。

 結局この大役は如月の元に来てしまった。

「……自信ないなぁ」

 正直に如月は言った。

 期待されても困ってしまう。

 所詮は低性能の旧式駆逐艦。自分の性能ぐらい自覚している。 

 内容は主に対空と、主戦力の防衛。あとイムヤのフォロー。

 一辺に、できる気がしない。力不足なのは何よりも自分が一番分かっている。

「嫌ですか?」

「……んーん。嫌じゃないわ。できないと思うだけ」

「まあ、性能から言えばそうでしょうね」

 七海もそこは認めている。旧式には重い役目。

 数がいないのは分かるけど、如月じゃなくても問題はないと思う。

 辞退したいと、如月は言った。……なのに。

「あたしは性能だけで判断したんじゃないです。内面でも判断してます」

 性格を考えて、七海は如月を選んだ。そして、託そうとしている。

 意外そうに見る。あの七海が、艦娘の内面で考えるとは。

 性格的に信用できると思ったから、彼女は決めたそうだ。

「響は、姉妹の中の方がずっといいんですよ。外行きじゃないと思います。身内の中で真価を発揮する人間ですし」

 響も候補だったと七海は言った。けど、彼女は姉妹の中でこそ一番輝く。

 そう見れば、パニクる睦月よりも如月。

 自爆が連鎖する五月雨よりも如月。

 こうなるわけだ。

「でも……」

 それでも渋る如月。

 自信のない、旧式というレッテルに足踏みする。

 七海は軈てこう言った。

 予想外の条件を出したのだ。

 

「そこまで渋るなら、何かご褒美でも出しましょう。あたしに出来る範囲なら、何でもしてあげます。やる気、それで出してくれませんか?」

 

 ……なんと。

 七海が譲歩した。艦娘相手に、褒美を出すと言い出したのだ。

 あの七海が。艦娘に厳しい七海が、何でもしてくれる。

 如月、瞬間的に反応していた。

「やるわ!! 司令官のご褒美で何だか出来る気がする!!」

 目を輝かせて、やる気全開。驚く七海に、条件を出していた。

 チャンスだった。中々進展しない七海と仲良くなるチャンスだった。

 これを逃がす手はない。如月は必死に考えて、やがて出した。

 それは、後から思い出すと七海の大きな失敗の一つであった。

 嬉々として如月はご褒美の内容を明かす。それは……。

 

 

 

 

「如月の言うことを好きなだけ聞いて!!」

 

 

 

 

 

 ……という強欲そのもののお願いであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 二日後。

 海上訓練に励む如月がいた。

 今日は瑞鳳相手に対空の特訓だった。

 125mm速射砲を扱えるように、練習を重ねていく。

 この主砲、本当に扱いにくい。

 威力は何やら砲弾が特殊らしく、破壊力抜群。

 射程もそこそこ長く、取り回しも悪くはない。

 問題は、連射性能だった。

 反動がバカみたいに強く、速射砲の名の通り連射していくと、狙いがどんどんずれていく。

 最大速度でぶっぱなすと、コントロールを失い暴走する。

 で、しっかり構えないと反動で尻餅をつく。対空にはとてもじゃないが向いていない。

 なので、七海は考案した。工厰の髭が悲鳴をあげるレベルの案を。

「性能は装備で底上げしましょう。珍獣、如月をフルアーマメントにしなさい。ボーナス出しますので」

 例の計画で引き取りを続けて、余剰パーツさえ出てきている現状で出来る、最強の如月艤装の改造。

 要は、オーバーホールして根本から改造しろと言い出した。無論反論する髭。

「アホ!! 出来るかそんなもん!! 練度以上に改造したって、如月の嬢ちゃんが操作できずに暴走して最悪自滅だ!! なに考えているんだおめえは!!」

 必要な装備を全部搭載しろと言われたのだ。そりゃ怒る。

 が、七海は聞かない。

「練度をあげればいいなら、順序よく上げていけばいいんでしょう? なら、この順番でやってみなさい」

 予想していたと言わんばかりに計画書を提出。それは、如月の特訓のメニューだった。

 暫くはひたすら訓練。イムヤと一緒に死ぬ気で訓練。そうすれば問題ないと。

「……すげえ。何じゃこの細かいスケジュール!? おめえ、これこの短時間で仕上げたのか!?」

 髭も愕然。緻密な計画書は、本人も了承で他者が見ても無理のない健全なスケジュールだった。

「本気だしました。ま、装備の在庫と如月の特性、各種装備の性能を知れば、簡単に組み立ては出来ます」

 重点的に如月の超強化を開始した。

 元々低性能なら、底上げして戦えれば問題ない。

 それで高性能に追い付いて見せると、如月もやる気スイッチが入っているので、一週間後には。

「……どう? 今の如月なら、島風ちゃんにも勝てそうよ!!」

「数字の上では勝ってますね。……けど、なんか改二ぐらいにまで性能上がってませんか?」

 練度はまさかの65。イムヤの55を大きく抜いて、ついでに改二にしておいた。

 恐ろしいのは、如月の成長速度だった。

 艤装を全部載せするべく、基礎を鍛えているうちに、何でか練度がバカみたいに上がっていた。

 因みにぶっちぎりの練度一位である。実戦も交えて特訓した成果だと本人は言う。

 七海はここまでは想定していない。完全に如月のガッツであった。

「如月も本気だしたわ!! ご褒美に今度は一緒に寝ましょ!!」

「……良いですけど……」

 で、七海は如月の言いなりである。

 如月はご褒美に拒否権の剥奪を要求した。

 つまり、如月のお願いは基本的に絶対に聞いてもらえる。恒久的に。

 毎日毎日、如月は七海に何かしら要求しては、七海は困惑しつつも受け入れていた。

 如月のお願いは回数を重ねるごとに悪化……もとい、過激になり、現在は既に同棲のようになっていた。

「うわぁ……」

「何が起きてるのね……!?」

 響はドン引きしていた。睦月は驚きを隠せない。

 なにしてんだこの駆逐艦のエロサキュバス。

 本人も自覚なく、今では如月は仲良くを女子校のような、仲良し意味深になっていた。

 本人の友愛は建造され間もない時期もあって、歯止めが利かずに結果、友愛を超えた意味深状態に。

 満足している如月。七海に四六時中べったりなので、たくさん知れた。

「んふふふ……」

「……なんですかこれ?」

 同じぐらいの背丈の、満面の笑顔の艦娘に嬉しそうに抱き締められる七海。 

 呆然と、どうしてこうなったか、分からない。

 エロサキュバス如月。

 演習を切っ掛けに先ずは覚醒。

 意味の分からない七海を、見事に制覇しつつあった。

 演習までの日にちは、すぐ近くだった……。

 

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