ロシアの女性に、詰問されて過ごす時間。
女性は、ガングートと名乗った。
察しの通り、ロシアの最終兵器と言っている。
彼女は、世界中の艦娘たちを集めて、自分の仲間に相応しいかを審査すると言っている。
正直な話、厄介な空気しか感じない。
この話し合い自体が、一種のふるい落としを兼ねているようで、次々と脱落していく。
数少ない見逃された彼女は、減っていく室内を見て何も思わない。
寧ろ、自分が立ち去りたいとも思う。面倒くさい。
が、見逃されているせいか、その逃げられる仲間には入れないようだ。
思い通りにならない。
軈て、半分ほどに減らしたのち、ガングートは言い出した。
「最低限。貴様らは最低限の素質ぐらいはあるのは認めよう。だが、試練は続くぞ。次は実戦試験だ。貴様ら、今から次の部屋に向かえ。そこで、自分達で艦隊を作れ。試験を共に乗り越える仲間を見つけろ。そして、リーダーを定めるのだ。但し、時間制限は一時間。同国の艦娘は二名までだ。分かるか? 仲良しこよしではここで詰まる。かといって先程のような事をすれば時間制限で脱落する。然し適当な仲間を引き込めば勝てなくなる……。さて、貴様らの采配を見させてもらおう。精々足掻けバカ娘共。社交性やら協調性やら足りぬ貴様らでどこまでマトモな艦隊を作れるかな……?」
愉快そうに笑ったガングートに指示されて、渋々向かい出す皆。
七海は聞いてなかった。窓の外を眺めていて、聞き流していた。
「おい、貴様。早く行け。寝ぼけているのか」
ガングートに言われて、アクビをして向かっていく。
その様子に、ガングートは思わず聞いた。
「貴様……やる気あるのか?」
「任務ですので」
質問には答えないが、言外に任務でなければやらないという意味だろう。
最早言葉もないガングート。大和の説明通り、自分からは得にならねばこの態度。
慇懃無礼という諺を思い出す。
最後尾に出ていった彼女を見送り、別室でモニタリングしている皆に一報。
予定通りに進行中、次に向かう。
他の部屋にいた連中も、一堂に会して集まり、指示通りギスギスした空気の中で模索している。
翻訳機があれば、言葉は通じる。ただ、揉め事を起こせばもう次はない。
慎重に行うも、だが時間制限という壁もあり、自分達のプライドもある。
一番は、勝てない相手と組まないようにすること。
それが、一番の探りあっているポイント。
まあ、大体が民間上がりの素人に過ぎず、こう言うときには提督をしている軍人は重宝される。
早々に鳳翔は回収されて次の部屋に。残った海外艦娘は一番の狙い目が消えて困っていた。
その他、日本艦娘は全てが提督を兼ねているのであっという間に消えた。
残ったのは……窓際で眠そうにしているメイドだけ。
唯一、日本艦娘で取り残されたのは七海のみ。
仕方無い。相手は悪名轟く狂犬で、しかも深海棲艦の女王。
誰が勝つために、敵の親玉を仲間にする。散々人間を血祭りにしたような犬を。
皆、怖がって近寄らない。故に、残される。
七海は自分からは動かない。退場しても最悪構わない。
怒られはするだろうが、最悪どうにかする。
取り敢えず面倒臭い事は避けたい。
皆が戦々恐々と声を掛け合い、価値観の違いでにらみ合いをしているのを見つめていた。
残り、半時間。どうするのかだけを見ていると、命知らずとも言える一人が声をかけた。
『ねえ、あなたもしかして本屋さんの時の艦娘さん?』
流暢な英語で話しかけてきたのは……。
『……おや、そういうあなたはジャーヴィス、でしたか? お久し振りですね』
白いミニスカートワンピースに海兵隊の帽子。長い金髪と碧眼。
知っている顔だった。名前は……確か、ジャーヴィス。
イギリスの駆逐艦だったか。
『やっぱり! あなたも来てたんだ!』
ジャーヴィスは嬉しそうに、七海の両手を取って笑った。
久しぶり、と微笑んで挨拶してから本題を切り出す。
『夕立って言うんだね。一緒に組もうよ、あたしたちと! あと一人でクリアできそうなんだ!』
『……へえ? あたしの評判を知っての事ですか?』
あまりの無邪気さに、七海は嘲笑うように聞いた。
こんな爆弾を内部に引き込むなど正気かと、聞く意味で。
その意味を、ジャーヴィスは。
『知ってるよ。深海棲艦を預かっている人なんでしょ? だから何? そんなのどうでもいいよ! あたしは夕立にお礼したいし、知り合いが試験に落ちるのは見てられないし!』
ケラケラ笑ってどうでもいいと言っていた。
他の連中もジャーヴィスがどうにかすると言うし、責任は取ると言った。
何をそこまで気に入ったのかは分からないが……七海は渋々、ジャーヴィスの誘いを受けた。
根負けした。無邪気に誘う彼女には悪意は感じない。
お返しをしたいと言われれば、仕方なくもついていく。
『はぁ……。そこまで言うなら、全部任せますよジャーヴィス。責任は取りませんからねあたしは』
お前が言い出したので面倒なことは全部やるならという条件で請け負った。
途端に大喜びするジャーヴィス。跳び跳ねて歓喜している。
『ラッキー! これで何とか出来るよ! 提督経験者が居ればまだ頑張れる!』
結構計算しているようだったが、七海の知ったことでもない。
勝てなくてもよいし、七海の責任にはならない。
そういう約束で一緒に入ったのだ。
ジャーヴィスは次に行こうと、七海の手を取って向かいだした。
こういう、距離感を無視する相手は嫌いなのだが……ジャーヴィスが素直に喜ぶからか。
渋々、七海も黙って引っ張られていった。
そして。
「大丈夫なんですかこれは?」
肝心の艦隊の連中が、不安になる奴らばかりだった。
確かに、七海の存在を説得して認めさせる事には成功している。
だが、なんだこれは。勝ち目あると思っているのか?
こんな偏った編成で?
「失礼ね。このビッグ7の一人がいるのに、何が不満なのかしら?」
尊大な態度で此方を見下すアメリカの戦艦に。
「まあまあ、落ち着いて夕立さん。この人はこう言うのがデフォルトだからさ」
と、宥めるスウェーデンの軽巡に。
「…………ポーラは、何でも良いですよ……?」
ボーッとして泥酔している、真っ昼間から酒臭いイタリア重巡妹に。
「ポーラ!? 今日はお酒飲まないって……あぁ!? 蓋がない!?」
慌ててビンを奪い取り、愕然とするイタリア重巡姉。
『ゴメン、あたしまだ日本語わかんないから……コロラド、通訳して』
日本語分からないジャーヴィス。
待っていたのは、まさかの空母のいない艦隊であった。
空をどうするのだ、と七海は聞いた。
水上打撃力に特化しすぎて、足元と頭上がお留守になっている。
「あ、空母居ないけど水上戦闘機と爆撃機なら使えるよ。私とザラが空母の代わりに飛ばすけど、やっぱり不安かな?」
スウェーデン軽巡がそう能天気に言うが、空母と軽巡と重巡の搭載数は格段に違う。
銀髪で、ほくろのある綺麗な女の子。青い制服の彼女は、ゴトランドとか言うらしい。
上手な日本語で、七海に空母がいなくとも大丈夫と笑う。
何でも、日本の刀を持った師匠と呼ばれる戦艦が、すごい性能の航空機を教えてくれたらしい。
瑞雲とか言う、七海もよく知るあの艦載機。
(瑞雲って確かに傑作でしょうけど、果たして優秀でしょうか……?)
数値を知る限りは普通の水上爆撃しかできない至って通常の艦載機だが。
そう言えば新しく瑞雲教とかいう怪しい宗教団体が最近出来たとかどこぞで聞いた。
ゴトランドは既に入信済みか。弱ったもんだった。マトモそうな人なのに。
「これでも防空巡洋艦だからね。空の守りはゴトに任せて!」
七海の知る、五十鈴のようなもの。似たような感じだそうだ。
逆に水中はジャーヴィスが爆雷ぶちこむので問題ないと言うし。
潜水艦を殺すのは十八番。ヘッジホッグが火を噴くとかよくわからない事を言っていた。
『イギリスにいる頃から、潜水艦ぶっ殺すのは得意なの! あたし、こう見えて逃げ足も自信あるんだ。あとは……そうだね、自分で言うのも何だけど、ラッキーな方だと思うわ。結構幸運だから、いざとなれば運試しにも勝てる、かも!』
と、コロラドと言われた袖なしブラウスにデニムスカートの戦艦が通訳しながらジャーヴィスは言った。
可愛い顔してぶっ殺すとか恐ろしいことを笑顔で言う辺り、可憐な見た目によらず好戦的だった。
問題は……。
「……」
ボーッとしているこの泥酔重巡。虚空を眺めて話を聞いていない。
魂が抜けている。姉のザラと名乗る女性が頭を下げて謝るが、元からこういう生活をしているようで。
「た、戦いはこれでも妥協するぐらいには強いんです! 怒っても聞きませんけど、ザラもフォローしますから! すみませんすみません!!」
必死に謝罪する姉とは裏腹にボケーッとしている妹。
眉がつり上がっているコロラドは腕組みして仏頂面になった。
ゴトランドも気にしないとは言うが、ポーラという重巡を心配そうに見ていた。
こう言うとき、ハッキリとモノを言うのは大体こいつである。
「役に立ちそうにないですねこいつ。追い出しませんか? 足を引っ張る不安要素は排除すべきかと」
七海であった。迷わず置物になるポーラを切り捨て、空母を入れるべきと指摘した。
七海の指摘は間違いじゃないと、コロラドも賛同する。
「そこの虹彩異色の駆逐艦の言う通りね。努力する気持ちもない怠け者など、我が艦隊には不必要。即刻、切り捨てなさい。私は、戦う艦娘としてここに来たの。負け犬に興味などないわ」
「同感です。屑には用事はありません。ザラさんは兎も角、この女……話すら聞いてないところを見る限りは、やる気そのものの欠如と見て良いかと。ジャーヴィス、こいつの代わりに空母を見繕ってくれませんか?」
失せろと言うコロラド。屑と淡々と吐き捨てる七海。
ザラはぐうの音も出ないと認めていた。事実、ポーラの評価は頗る正しい。
ゴトランドが言い過ぎと言ってから、軽く謝るが撤回はしない。
『えっ!? いや、もう空母は皆いないと思うよ? ほら、艦隊の中核だし……手遅れじゃないかな?』
ジャーヴィスも話をフラれて困る。
急に言われても、周囲も完全に艦隊を作り終えて次の部屋に向かっている。
残っているのは、無駄に敵意をむき出しにする残り物で、これも地雷にしかならなさそうだった。
「別に、ポーラは構いませんよ……。ほら、どうせ役立つ事はないですし……」
本人もこんなダウナーでは途方にくれるしかない。
時間もない上に、そろそろ次に進まないと巻き添えで失格になりそうだった。
「はぁ……」
大きく溜め息をついて、おろおろするザラに向かって聞いた。
ポーラは、酒を与えれば役に立つか。
「えっ?」
「ですから、非番などで勝手に飲むのはこの際、妥協しますよ。戦闘中に泥酔さえしなければ。まあ、この様子じゃ恐らくは慢性的なアルコール依存症なんでしょうけど……。仕方無い、あたしがこいつを医者に連れて行きます。軍医なら、アルコール抜くぐらいは何とかしてくれるでしょう。最悪、監禁でも軟禁でもして酒を抜きます無理やりに。禁断症状がなんですか。そんなもの、ドックに放り込んで徹底的に素面になるまで繰り返すまでです。コロラドさん、こいつはやる気がない前提で使いましょう。日本には、バカとハサミは使いようという諺があります。あまり、軍人としてはやりたくない戦術ですが、本人がやる気がないなら致し方ない。痛い目を見てもらって反省させれば良いかと。時間も惜しいので、爆弾を抱えて申し訳ないのですが妥協はしてもらえませんか?」
恐ろしいことを言い出すと、ポーラが一瞬で驚愕と恐怖で青ざめた。
七海は要するに、本人がこんなんならば周囲が勝手に役割を押し付けて使えばいい。
やる気を出さない限りは非情に扱うと提案した。
「随分とハッキリ言うわね、貴女は。その姿勢、嫌いではないわ。なし崩しとはいえ、こんなこぶつきでは大層戦いにくいとは思うけど、それでも共倒れよりは万倍良いのも事実だし。良いわ、受け入れましょう」
コロラドは割り切ると言って、受け入れた。
ポーラが何やら今頃言い出すが、七海は理屈で封殺した。
お得意の理論武装による精神攻撃。ポーラは一分後には泣き出した。
「夕立……事実でももう少し言い方ってものが……」
ゴトランドが少々苦言を呈するが、
「甘やかすとこの手合いは必ず増長します。アルコール依存症など、本来ならあり得ないモノを抱えるのであれば、優しさなど不要。叩いて強制的に矯正させます」
バッサリ切り捨てて、ザラには痛みでアルコールを抜くと言うと、それでいいと許可が出た。
ジャーヴィスも酔っぱらいにはよい薬と言って助けないし、結局ポーラも続投した。
但し、それはただ辛く厳しい茨の未来の幕開けだった……。