君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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立案、ABC作戦!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 愛情は、何が正しいと思う?

 正解はたくさん見てきた。けれど、どれも納得できるものじゃなくて。

 所詮は幻想。二次元の世界。都合のよい、理想しかない訳だが。

 それにしたって、なぜこんなにも解答は溢れているのに自分は納得できないんだろう?

 間違えたからか。失ったからか。逃げてしまったからか。間に合わなかったからか。

 でも、当時の自分は無力だったのだ。今考えても、結果は変えられたか……。

 言い訳か。手遅れになった今だから言える、情けなく見苦しい言い訳。

 悲しいけど、失った愛情は戻ってこない。時は戻らない。二次元とは違う。

 でも。また、出会ったのだ。自分が少なくとも、その調和を見ていたいと思える愛の姿を。

 嘗て見ていた、混じっていたあの幸せな世界が、そこにはあった。

 素晴らしい。美しい愛があり、そこには確かに幸福が詰まっていた。

 ……なのに。

 世界が、また、愛を阻む。邪魔をしているらしい。

 何故? 何故愛を潰そうとする。

 ただ、幸福な時間を過ごす無害な世界を破壊する。

 脅威という。バカを言う。脅威なのはお前たちの方だ。

 なにもしない人達を蹂躙して迫害する邪悪な存在が、何を宣う。

 殺そう。殺してしまおう。端役が主役を追い出す恋物語が出来ないように。

 今度は、間違えないように。主人公とヒロインが愛を貫く、その為には。

 

 ――読み手が作者を襲って、余計な端役を削らせることだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七海たちの艦隊は、リーダーをコロラドに決めた。

 最初はジャーヴィスが七海を推薦したが、

「嫌です」 

 と速攻拒否して、立候補したコロラドに決定した。

 コロラドは言った。自分がリーダーになったからには、怠けは許さない。 

 ビシビシ鍛えていくとノリノリで言っていた。

 実際、高飛車ではあるがコロラドの指導は的を射ており、七海的にはやり易い。

 然し、ポーラは相変わらずやる気がない。なので、七海がザラと共に医者に連れていった。

 無駄に抵抗するので、面倒臭くなった七海が一発腹に蹴りを入れて失神させた。

 流石重巡。蹴られた程度じゃ大した傷は負わない。ザラは真っ青になったが。

 で、三日ほど入院してアルコールを抜いた。強制禁酒で、ポーラは漸くシラフになった。

「お酒……」

「ポーラ。仕事中に飲むなって言ったでしょう。次は腕をへし折りますよ」

「ひぃっ!?」

 あまりに酒を寄越せと五月蝿いので、暴力による支配を決行した。

 正直、野蛮な上に流儀じゃないのでやりたくないが、ポーラが公私を弁えずに飲酒するので、最早仕方無い。

 口で言って止める次元は過ぎている。後は叩いて教えるしかない。

 もう虐待か何かだと自分でも思う。然し、甘やかせばまた元通りなので、自分を殺して進める。

 大本営で過ごしていた海外艦娘たちは、試験のために全国の鎮守府に預かってもらい、当日まで過ごす。

 受け入れ先でも早速問題が発生しているようだったが。

 いざこざが発生しているとしても、七海の知ったことじゃない。

 七海の鎮守府でも、ジャーヴィスたちを受け入れていた。上からの命令なので逆らえない。

 特殊な事情は皆はわかっているとは言うが、イマイチ信用は薄い。

 七海は暴れたら追い出すと脅してから、先んじて鎮守府にいる艦娘と深海棲艦に、客人が滞在すると通達。

 なるべく隠れていろと言っておいた。

 問題があればその場で対応すると約束して、招き入れた。

 その矢先の、出来事であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ、同人誌の艦娘! やっぱりあの時のエッチな駆逐艦だ!』

「い、いやあああああああーーーーー!!」

 招いた当日に、ジャーヴィスがメイドな村雨を発見して英語で指差す。

 ある真夏日の昼下がり、隠れている深海棲艦以外の、数少ない犠牲者が出てしまった。

 直感でまた自分が餌食になったと察知して悲鳴をあげて耳を塞ぎ、踞る村雨。

 廊下のお掃除をしていたのだが、客室に案内している最中に村雨を見つけてジャーヴィスは七海に聞いた。

 二次元のお得意様、ジャパニーズエロ艦娘村雨かと。

『知ってるよ、あらゆるジャンルで確実に一冊は存在する謎の村雨嬢! イギリスにいる頃から愛読してたんだよね! 実物間近で見るのは初めてだけど、可愛いー!』

 踞る村雨相手に走って近寄り、どんな顔をしているのかリアルで見たいとお願いしているが。

 村雨はこれ以上そういう題材にはなりたくないので、必死に抵抗。そもそも何を言ってるか分からない。

 唖然としている周囲と、すごい目で睨んでいる七海にジャーヴィスは気づかない。

 絶対に視線を合わさないで聞こえない見ないを貫く。可哀想に、苛めに等しい光景だった。

 本屋で真っ先に声をかけたのも、知っている顔だったから。

 ジャーヴィスは所謂、二次元オタクという人種であり、エロでも何でもありの雑食だそうだ。

 同人誌も趣味に入り、村雨は特にお気に入りの題材だそうだが……。

『ジャーヴィス……。あたしのメイドに、何してるんですか』

 プルプル震えている村雨に嫌がらせに近い行為を自覚なしにしているジャーヴィスに、七海がキレた。 

 この娘、七海のメイドにちょっかいを出した。有罪。

 客人だから何だと言わんばかりに近づいて、後頭部を左手でワイルドに鷲掴み。

 で、英語で聞いた。

『二次元と、三次元は別物。分かりますね? うちの村雨は、至って健全な艦娘です。混同すると、このまま粉砕しますよ。この見境のない茹だった頭を、この場で』

 目元に陰りがある七海の剣幕に、案内中の皆も絶句した。

 凄まじい殺気とプレッシャーを放ち、今にもジャーヴィスを殺そうとしているような感じだった。

 めちゃくちゃ怒っている。村雨が涙目で七海を見上げていた。

「提督ぅ……」

「村雨。気にしないでくださいね。この変態駆逐艦は今すぐ血祭りにしあげますので」

 訂正。今すぐ殺そうとしていた。

 そのまま壁に顔面から叩きつけようとしている。かなり本気で。

 慌てて制止する周囲。ジャーヴィスも顔面蒼白で、既に白目を剥いて気絶していた。 

 ジャーヴィスですら一発で失神する程の重圧。これが、日本の提督と言うものらしい。

 村雨が掃除に戻り、七海は連中に言った。

「うちの娘たちにセクハラしたら殺しますよ。あたしの鎮守府で、皆を悲しませたらお前らもその場で処分しますからね」

 処分の意味は、恐らくは殺すという意味だ。

 七海が一同に警告した。深海棲艦、または艦娘に少しでも不敬を働けば殺してやる。

 忘れるな、自分は駆逐艦である前に提督であり、ここの長なのだと。

「ポーラ。ここでは、あたしが指示を出します。抵抗したら独房に入れてアルコールを抜きます。ザラさん、妹がバカをして倒れる前に医務室に行きなさい。心労は艦娘でも天敵です。ゴトランド、瑞雲の使い方はうちの艦娘と練習なさってください。結構な数の瑞雲が余ってます。山城、扶桑、由良、鈴谷などに聞くと良いと思います。コロラドさん、後で作戦を決めましょう。一応で良ければ提督の経験と知識、お貸しします」 

 ジャーヴィスを掴んだまま、七海はそう皆に通達。

 万が一、何かしたら……命はないと思えと脅した上で。

「ここは、世界でも稀な深海棲艦と共存している鎮守府。あたしがその調和を保っている以上は、あたしの判断で皆様の処遇を決めます。良いですか、深海棲艦を見かけても決して攻撃したり罵倒したりしないでください。したら、ジャーヴィスみたいになります。怪我させたら生きたまま解体します。脅しかどうか……試してみますか?」

 七海の顔は、真夏と言うのに背筋に悪寒が走るほど冷たくて。

 それほど、ここの皆を大切にしているという意思と、家族のように愛している証拠なのだろう。

 恐ろしい女だと皆は思う。逸話通り、他人に対する異常な攻撃性は間違いない。

 だが、噂とは違い根拠はあった。身内のためという、分かりやすい理由。

 コロラドは頷く。ゴトランドは笑顔で了承。ポーラは絶句して、ザラは血の気が失せている。

 そんな危険な巣穴に……皆は訪れてしまったことを、後悔したり受け入れたりと様々だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて。

 問題は、最終兵器たちの課題だ。

 第一試験はまず、先代との戦いという一番ハードルの高い試練だった。

 相手は一人。此方は六人。それで演習で争うというシンプルなものだ。

「力押しで勝てないの?」

 執務室でそれぞれに軽く軽食を振る舞いながら、話し合う。 

 コロラドが自分達も仮にも最終兵器の候補生なのだから、勢いで勝てないか七海に聞いた。

「コロラドさん、貴方はどうもあたしの上司を侮ってませんか?」

 アイスのブラックコーヒーを飲むコロラドに、冷たいお茶を飲む七海は聞き返す。

 相手は、何と大和……要するに桜庭だった。七海は正攻法で勝ち目などないと断言する。

 一度交戦経験のあり、尚且つ深海棲艦にもなれると知る皆に教えてやった。

「あたしの上司は、あたしが深海棲艦になっても手も足も出ません。以前は、手加減状態で一時間ほどなぶられてました」

 これを見れば分かると、以前残していた映像を皆に見せた。

 自分の変化も分かるし丁度いいと、テレビに映して拝見する。 

 数分後には全員真っ青になった。僅かにゴトランドと復活したジャーヴィスは震えている。

「……これでも馬鹿正直に突っ込みますか?」

 早送りして、最後に血祭りの自分が映されるところまで見せて、改めて問う。

 全員首を振った。勝てる訳がないというお通夜みたいな空気になっていた。

「……いくら私がビッグ7でも、無理なものはあるわ。見てて気づいたことを言っても良いかしら?」 

 コロラドが、映像を見て絶望的と思う理由を明かした。

 それは……。

「あの人の主砲の口径、映像だけでも分かったのだけど……。多分、私の国でいう、20インチ……センチに直すと、恐らくは50は下らないわね……」

 コロラドいわく、普通の戦艦が使える口径じゃないらしい。

 巨大で射程が長く、威力も申し分なし。寧ろ過剰なレベル。

 自分だって16インチが最高なのに、大和はそれ以上の武装を軽々使っていたと。

 補足する七海は更に追い詰める。

「正解です。大和の主砲は、試製51センチ連装砲。あたしが調べ、体験した限りでは世界であのサイズを使えるのは彼女のみ。撃たれた感想で言えば、回避しても爆風でこっちの艤装が吹っ飛びます。範囲も普通の艦娘じゃ広すぎて逃げ切れずに終わります。巻き添えを受ければ直撃せずとも全滅は余裕です。空間攻撃って言うんでしょうか。砲撃するだけで、その一帯を粉砕するので想像以上に危険な代物ですかね」

 砕けた言い方をすれば、対戦相手は世界最強の万能戦艦。

 この国で最低でも一番強い人。一人で十分。

「……どうやって勝てっていうの……?」

 ゴトランドですら、目が死んで既に白旗。無理だと諦めていた。

 最低限、勝たなくても良いから評価をあげれば良いとコロラドは上から目線で励ますが……。

「あの……ザラは、まだ死にたくはないんですけど……」

「姉様と同じです……。ポーラもあんな怪物に沈められるのは嫌です……」

『って言うか、詰みじゃないこれ? 攻略不可能だと思うけどなあ……』

 皆には演習だというが、簡単に彼女の戦いは相手に死を自覚させる。

 これが、最終兵器の意味だと七海は皆に言うのだ。

「まあ、ルールを簡単に調べましたが、大抵の事は大丈夫みたいです。だから正直に言います。あたし、秘策があります。あたしが共倒れするという条件になりますが。勝てると言えば、勝てるかもしれません。お互いの手の内は知っているんで向こうも何かしらしてくるとは思いますけど、博打になりますが。やってみますか?」

 七海は皆に聞いた。博打で良いなら、五分五分ぐらいで何とかすると。

 驚く周囲に、搦め手を通り越して卑怯その物だと説明した。

「ついでに皆様にも被害が出ます。無差別範囲攻撃なので。全滅だってしても否定はできないのですが」

 何が言いたいのか、コロラドとジャーヴィスは分かったらしい。

 質問をして来た。

「夕立。貴女は無事に帰ってこれるの?」

「深海棲艦になっていれば理論上は可能です。ただ、協力してもらえるかなどの課題はあります」

 細かいことがまだあると言うが、とりあえずは大丈夫。多分。

『夕立、それ要するに自爆……』

『どのみち勝率は皆無に等しいのですよ? 捨て身の一つぐらいしてみないと。やってみる価値ありますし』

 英語で応答する七海に、名言を言われたジャーヴィスはならばと言い出す。

『オッケー! その作戦に乗るよ! あたしたちが遊びでやってるんじゃないって、大和さんに見せよう! 平気だよ、宇宙行ってないから!』

『似たようなものですって』

 オタク特有のネタの交ざりあった会話をしつつ、コロラドも現状それしかないならと了承。

 ゴトランドも、ダメ元なら賭けてみようと乗ってくれた。

 姉妹のみ、嫌そうだがゴトランドに説得されて渋々オッケー。

 で、内容を七海は漸く明かした。 

 それは……。

 

「世の中には、使ってはいけない兵器があります。ABCというモノですね。アトミック、バイオ、ケミカル。当然これとは別物ですが、然しあたしは敢えてこの三つに例えます。危ない、バイオ、クッキング。略してABC作戦。あたしの知り合いに、大和を唯一倒した料理人がいます。その人達に力添えをしてもらいましょう。高濃度暗黒汚染物質による毒殺。それが、ただ一つの活路です」

 

 愚かな惨事を繰り返す、バカがいた……。


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