君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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勝てば良いのです

 

 

 

 

 

 

 

 酷暑の続くなか。

 夏休みを満喫している皆の中、ジャーヴィスの本性を垣間見た七海。

 意外なものは兎も角、そろそろ準備を再開する。

 相手は最強に相応しい国の具象化。正直言うと、毒殺で倒れない可能性もある。

 艦娘としてではない。人間として倒せば行ける気がしたが、油断はしない。

 執務室で、仕事をしながら訓練している皆とは違い、作戦の要をコロラドに任されてしまい、あれこれ考える。

 秘書の五十鈴がドン引きしていた。七海が、人殺しの計画を練っている。

「七海、その毒はダメ。海洋汚染を引き起こすわ」

「……ダメですか。確かに宜しくない劇物ですが……桜庭さんは絶対これにも堪える……」

 書類に纏めたリストには、古今東西結構な種類の劇薬を纏めて、実戦に持ち込めないか思案していた。

 五十鈴も流石に桜庭相手に七海が如何に恐れているかが分かるが、行き過ぎというのが率直な感想。

 七海は何やらプライドをへし折って、髭にまで教えを聞いているレベルだった。

「はぁ!? 艤装を融かす!? いや、出来ないことはねえけど……。お前さん、何持ち出す気だよ?」

「王水を少々」

「バカ野郎ッ!! そんなもん人様に向けんな!! 演習でも大被害だボケェッ!!」

 勝ち目がある方法ならば片っ端から試そうとしていた。

 今回は強力な酸性の液体で桜庭を融解させてみるとか言い出している。

 髭も思わず怒鳴り散らす。そんなもの、艦娘だろうが確実に死ぬ。

「お前さんは怪獣でも相手する気か!? 人間、あくまで相手は人間な!? 落ち着けって少しは!!」

「桜庭さんは……人間なんですか? 怪獣と大差無いですけど」

「強さならな!? 一応人間だろうよ! いくら規格外でも!」

「なら確実に足止めできるように、砲弾にじゃあ液体窒素混ぜるとか」

「徐々に用意できる範囲に狭めるなァ! 軍の立場を悪用するんじゃねえ!!」

 で、砲弾に液体窒素混ぜて氷像にしてやるとか言い出して、ダメ出しを受けた。

 ダメだ。勝ちを狙うと、大抵が人道に反する。いや、そんなもん七海はどうでもいいが。

「取り敢えずは視覚、聴覚、嗅覚を最低限麻痺させて……あとは電探の感度を殺せばワンチャンあるかないか……。でも、どうやって毒の成分を接種させるかが問題。何かよい案はありませんか?」

 議題を打倒桜庭を掲げて、メイドと三人娘と会議を開いていたある日。

 涼しい執務室で、お菓子を食べながら如月が手をあげて提案。

「司令官。人間は必ず呼吸するから、その手の方向で吸わせれば良いと思うの。煙幕に混ぜるとか」

「……成る程!」

 余計な入れ知恵を嫁がして、煙幕に某シェフが焼いてくれた干物の暗黒物質を粉末にして混ぜてみた。

 目潰しと同時に毒も強制的に接種させる。至近距離ゆえに回避も不可能。七海も食らうがなんとかできる。

 更に春雨も外道な事を言い出した。冷たいお茶を啜りながらえげつないことを言った。

「電探の電波を殺すなら、金属片を空中に散布すれば良いんじゃないですか、ご主人様」

「……チャフ、と言うやつですか。ふむふむ」

 一種の電波障害を起こす金属片をばらまいて電探を無力化する。

 一理ある。手投げ弾として持っていけば嵩張らない。

 で、山風も案を出す。饅頭を食べていた。

「目潰しって言ったけど、やっぱり急激に燃焼させて強い光を出すのにするの?」

「それはそうですね……マグネシウムあたりにしようかと」

 これも自分で鎮守府で何とかする。設備さえ借りれば自作も十分可能。

 弥生もよい考えがあると七海に提示。

「……いくら規格外でも、艤装の構造は同じはず。電撃は通ると思う、金属だし」

「ああ、足元海水ですものね。それも視野に入れましょう」

 電流流して感電させるのもありと受け入れる。

 で、唖然とする村雨はさておき、小春も一個言った。

「結局は接近しないと始まらない。艦娘の装備ではどうせ勝てないわけだし、凍らせるとかありであろうお嬢様」

「あっ、小春もそう思います? あたしも同感です。ただ、液体窒素は却下されたので多少効果は薄いですが別の薬品が入手できるとコロラドさんから聞いたのでお願いしておきます」

 最早演習の話ではなく、桜庭を如何にして殺すかと言う物騒な話題にシフトしている。

 行き着く先は海洋汚染とかその手で、挙げ句には浮遊要塞を装備扱いで何匹か持ち込んで持久戦も辞さないとか言い出す始末。

「世の中には島風という艦娘がいます。自立型主砲ユニットを持つ駆逐艦です。あたしも駆逐艦。同じような装備なら許されます。ルールに従っているので問題なし」

 島風が良いなら浮遊要塞持ち込んでも良いじゃん? という勝手な理屈であの万能生物を持ち込むらしい。

 村雨は和気藹々と元帥殺害計画を練っていく皆を見て思う。

(これ……演習よね? なんでこんな怪獣退治みたいなノリになっているのかしら……? 確かに大和さん強いけど……薬品とかもうそれ悪役の思考じゃ……)

 正々堂々は無理。正攻法も無理。だからなんでもする。

 何時もの七海のノリに皆様すっかり毒されているが、何度もいう。

 桜庭は人間である。艦娘の前に一人の大人で、女性で、教官である。

 教え子は言った。怪獣みたいなもの。人間が勝てるわけないからできる道具は全部使用する。

 この時点で致命的な認識のズレ発生中。教え子は教官を人間として見てなかったのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 艦隊の皆に計画を打ち明けた。絶句された。

「夕立、落ち着きなさい。人殺しをする気なの!?」

 コロラドには止めておけと言われた。

「いや、明らかに過剰攻撃じゃ……」

 冷や汗を流してゴトランドが困っていた。

「これでも生きてるって……大和さんって、もしかして日本発祥って話の蜥蜴の怪獣に近いんじゃ……?」

 ザラは七海がこれでも勝ち目は半々と言われて怯えていた。

「く、口から放射線吐き出すんですか……ビームみたいに……?」

 ポーラに至っては怪獣決定だった。

『どっちかっていうとマジで宇宙行ってるよねこれ……。強酸受けて艤装が溶けない可能性あるってどう言うことなの……?』

 ジャーヴィスもドン引きだった。相手に。 

 映像のせいで皆様のイメージは某あんぎゃー! と鳴いている蜥蜴の怪獣に近い感じになっていた。

 七海も正直、どれがどこまで通じるかが分からない。 

 それほどまでに経験値と性能の差が有りすぎて。加減も見えてこない。

「最低でも判明している確実なことは、私達の攻撃は先ず通じない堅牢な装甲と、大火力超射程の主砲が相手にはあることね。それに加えて個人で全て賄える多様性もある……。成る程ね、最早相手は人間の姿をした怪獣と同じでいいわ。それぐらい倒すのは絶望的ってことじゃない」

 要点を纏めるコロラドは怪獣でもいいと言い切った。

 未知数の実力でも前提が勝てない相手なのだ。

 逃げても追いかけてくると言えば、ポーラも渋々戦う気になったようだ。

 と言うか。

「日本の怪獣と同じって言われると、ポーラも凄く納得しました。死にたくないので、全力で抗います……」

 ポーラもザラも、演習でも死ぬ思いは変わらないと悟ったようだ。

 少なくとも人生最大の強敵と言う認識は間違いない。

 怪獣大和をどうするか。倒すのは博打でも如何にして無事に乗りきるか。

 課題はソコであった。七海が聞く限り、他の彼女が相手した艦隊はものの見事に壊滅している。 

 それこそ、リアル怪獣キングが大暴れしたのとほとんど差がないほどには惨敗していたようで。

「えぇ……。夕立さん、本当に毒ぐらいで勝てるのこの怪獣? 核兵器使えないの?」

 ゴトランドが既に相手が人型怪獣大和として認識されていた。

 畏怖を通り越して単なる脅威になっている。

「……でも、映画見たことあるけど耐性あるのよゴトランド。やっぱり超低温で氷像にしてから砕くとかしないと勝てないかもしれないわね。夕立が言うには、それでも倒すので精一杯で、殺すのは到底無理って話だし」

 いつの間にやら彼女の扱いが謎の超生物大和に変化しており、海外艦娘の皆は怪獣退治の空気になっていた。

 コロラドが余計な話をしたせいでリアル怪獣キングと同類と確定されてしまった。

 落ち着け。彼女は人間だ。人間で十分だ。怪獣じゃない。

 言い出しておいてあれだが、本気の桜庭と戦ったことがない七海も何だかモンスターとして見た方が対処が楽な気がしてきていた。

 まあ要するに自分の先生はモンスターであると。そんなわけあるかと誰もツッコミを入れない。

 無知は怖い。想像が加速してどんどん膨れる超生物大和のスペック。

 不意に。ジャーヴィスが、真剣な顔で皆にこう言い出した。

 

『……あたし思ったんだけど。これさ、殺すつもりでいかないと皆無事じゃ済まないんじゃないの?』

 

 その言葉が、七海含めた全員の理性と良識のリミッターを解除した。

 事実、桜庭が相手した相手は大ケガをしている。言い換えれば、瀕死になった。

 つまりは。こっちが加減しないのを知ってるから、向こうも殺しにくるんじゃないと。 

 ジャーヴィスは皆にそう聞いた。ってことは?

 

 怪獣映画宛ら。敗北は……即ち、全員その場で死ぬと言うこと?

 

「じょ、冗談じゃないわ!! 私は嫌よ死ぬなんて!?」

 コロラドが真っ先に反応した。真っ青な顔で拒否して。

「こ、殺しに来るんですか!?」

「本気で……!? でも、あんなに強いなら……有り得るんじゃ」

 姉妹も血の気が失せていた。

 死刑宣告を受けたような表情をしている。

「……割とありそうだね、あんなに強いんだもん。認めてほしければ屍を越えていけって言うのかな。日本で言う、下克上……だよね」

 ゴトランドが半端に知っている言葉を言い出し、全員が死ぬ気でかかってこいという意思だと盛大に勘違い。

 殺すつもりでこないと、潰されるとパニックに陥った。因みに七海もだった。

 実際半殺しにしてオモチャに一度されているので濃厚に分かる恐怖。

『ちょ、アンラッキー過ぎるんだけど!? いつもの幸運が肝心なことに役立ってないよ!』

 半泣きでジャーヴィスも頭を抱えていた。

 経験のある七海が否定できないと答えると更に加速する恐慌状態。

「も、もう手段の選別できないじゃないですか!? 殺されるぐらいなら殺す気概がないと死ぬのは此方ですよ!?」

 七海が皆に通達。こうなれば全員で死ぬ気で桜庭を殺りに行くしか助かる道はない。

 あらゆる方法を準備するので、手伝えと。一同死にたくないので初めて一致団結した。

 殺るしかない。攻撃こそ最大の防御。捨て身上等。怪獣相手ならば覚悟も決まった。

「良いですか、全力で抗いましょう。生きるためなら何してもいいのです。我が国はこんな格言があります」

 血相を変えている皆に、死人の顔色の七海はある格言を持ち出す。

 それは……。

 

「勝てば良かろうなのです!!」

 

 勝てば何してもよいと言う最低な言葉。

 兎に角。この日、怪獣桜庭討伐が決定したのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大和ォッ!! お前の教え子が液体窒素やら王水やら硫酸やら手配しているとかいう情報が入ったぞ!? 何がどうなっている!?」

「あんぎゃあああああ!?」

 

 肝心の桜庭がキャラ崩壊起こしているのはまた、別の話……。

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