君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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初めての対抗演習 始まり

 

 

 

 

 

 

 会議から二週間後。いよいよ、演習の日がやってきた。

 あれから、各々連れていく艦娘は徹底的に鍛えたと聞いている。

 ルール上、互いの艦娘は対峙するまでは分からない。

 想定する相手を考えるのも提督の仕事。

 どんなことにも対応してこそ。皆は通常任務をこなしつつ、由良に鎮守府を任せる。

「いってらっしゃい、提督さん」

「いってきます」

 笑顔で頑張って、と見送られて、三人は憲兵と共に鎮守府を後にする。

 緊張しているイムヤ。ガチガチに固まっていた。

「……どうしましたか?」

 七海が送りの車の後部座席、中央に如月とイムヤに囲まれながら問う。

 至って普通の七海は、緊張と言うものがないらしい。けろっとしていた。

「し、司令官は……」

「ああ、移動中ですので普段通りでいいです。意識すると余計に苦しみますよ」

 司令官と呼ばなくていいと言うと、情けない顔でイムヤは泣き言をいった。

「や、やっぱあたしには無理だよ……。沢山強い艦娘いるんでしょ? お姉ちゃんが決めたのはいいけど、あたしは出来る感じしないよ……」

 普段では一人称が七海と同じになり、姉と唯一呼ぶ真面目なイムヤ。

 もう一名はちゃらんぽらんゆえ、頼れる人がいいと言うので以前許可して呼んでいた。

「気負う事などありません。見てください、この如月のだらしない顔。リラックスを通り越して頭まで溶けてますよ?」

 隣で改二のお祝いをくれと言われて受け取った髪留めや上着をくんくん匂いを嗅いで愉悦している変態がいた。

 如月、あれ以来匂いフェチになったのか、兎に角七海の匂いを犬のように嗅ぎたがる。

 要はやっぱりエロサキュバス。完璧発情している顔であった。

「……ハッ!? な、何かしら司令官? 如月は緊張しているわよ?」

 今更我に返り、取り繕うが七海の目は呆れていた。

「はいはい。そこまで気に入りましたか、アネモネの髪留め」

「ええ。似合うかしら?」

「似合うと思うからお祝いで買ったんですが?」

 黒い長袖の上着を普段の制服の上から羽織り、アネモネの髪留めをしっかりとつけてから、如月は窺うように聞く。

 何でもかんでもお願いを聞いている状態は、最早なし崩しのようなもの。

 最初はやる気を高める為の物だったが、予想以上の成長に合わせて、延長して出来る範囲の事を聞いていた。

 基本的に出来ない行為は言わない。

 求められたのは、ご褒美買ってとか、添い寝としてとか、同棲してもいいかとか。

 大抵、そんな半端なものばかりだ。出来ることだったので全部叶えた。

 断る理由も特にない。いや、同棲してもいいかと言われて流石に嫌がったが、一応非番の日で妥協させた。

 自分の時間を失うのは嫌なので、折り合いはしっかりと。

 如月も兎に角一緒にいる時間を増やそうとする。理解をするには手っ取り早いが、既にストーカー顔負け。

 それを嫌がらないで理屈で、自分が言い出した手前、可能な範囲と断じる七海もやはりおかしい。

 執拗な行動でも、非常識でも、七海は自分が言い出したのだから最後まで面倒見るというのが当たり前と判断。

 暴走していても艦隊任務に支障は出ないし、自分の時間もあるし、誰にも迷惑はかけてない。 

 故に平然と受け入れて、そのまま過ごしている。理屈だが、自分が対象の理屈であって常識には欠けている。

 無論知っての上。が、軍規違反でもないし、憲兵にも知らせて許可を貰っている。

 つまりは、問題ない。あれこれ言われる筋合いはないと下して、一緒にいた。

「……絶対にこう言うときに、司令官は褒めないわよね。もしかして、ツンデレ?」

「生意気言いますね、駆逐艦のエロサキュバス。折檻がお望みですか」

 大抵、七海は他人を褒めない。遠回しにしか、言わない。

 だからイチイチ誤解されるのだ。言い方も素っ気ないし、と如月は気付いた。

 指摘しても大体、理屈で潰されるが。口で勝てる試しもない。

 本当に口喧嘩も強いが、その異常な精神のあり方はこういう場面でも強かった。

「緊張して、全力を出せないなんて言わないでくださいねイムヤ。プレッシャーをかけたくはないですが、あなたは如何せんビビりすぎです。潜水艦の特性はなんですか?」

 マイペースに、イムヤを落ち着かせる。

 が、やっぱり方法は悪い。余計に胃痛でも感じているのか、前屈みになった。 

 イムヤも適当な私服を着ているが、あとで水着に着替えて潜航する。

 浮上はなるべくするな、と口を酸っぱくして言われていた。

 出来ることを復唱させる七海は、言い聞かせていた。

「じゅ、重巡と戦艦と正規空母を足元から襲える……」

「天敵は?」

「軽空母と、爆雷とソナーを持った軽巡と駆逐艦と海防艦……」

「それらに共通する弱点は?」

「基本的に装甲が薄い……」

「なら他の人に倒してもらえばいいんですよ。重巡と戦艦の火力なら撃破できます」

「うぅ……そうだけど……」

 出来ることを完遂せよと言うが、ビビっている現在エースのイムヤ。

 練度も晴れて50を超えて、改造もされていた。彼女も徹底的に演習のために改造されている。

 七海が既に工厰の髭と相談して、決戦仕様と言える程に弄くり、普段とはかけ離れた性能をしている。

 いわく、殺すつもりでカスタムしたとのこと。

「ま、安全装置がありますので死にはしません。思い切り魚雷放っていいんですよ」

「……そうだけど」

「まだ言いますか。普段通りで緊張するなら、あたしも考えますよ。失敗したら罰か、成功したら褒美か。どっちがイムヤの場合は成功しますかね?」

 演習にも実弾を使うが、艤装に安全装置が仕込まれて大破で停止して撤退を余儀無くされる。

 七海は舌打ちしていたが、撤退する前の大破の艦娘を囮や人質にして過去には勝っている外道もいたらしい。

 同じことをこの女は考えていたらしい。最低すぎる。

 現在はルール違反なので不可のようだ。

 イムヤは罰、と聞いた瞬間に青ざめた。七海が初めてそういう事を言い出したのだ。

 人間扱いして以降、決して言わない言葉で脅している。

 以前からも言わなかったが、イムヤは竦み上がった。

「お、お姉ちゃん勘弁して……。あたし頑張るから、精一杯やるから……」

 震える声で意気込むが、顔面蒼白だった。

「あれ、逆効果……。というか、やるとは言ってません。罰を与えるなら、あたし拷問ぐらいしか思い付きませんし」

 空気を読まない七海に、如月はたまらず止めろと制止したが遅かった。

 更にビビるイムヤは、どうすればいいのか分からずにとうとう完全に停止した。

「司令官……?」

「褒美にしろと? 何をすればいいんですか?」

 じとっと睨む如月に、七海は不満そうに聞いた。

 如月ならまだしも、イムヤは何を求めているのか分からない。

 真面目で地味な大人しい少女。

 ろくすっぽ内面を知らないままなので、扱いも不器用だった。

 仕方無く、如月が耳打ち。こうすればうまくいくかも、と入れ知恵してみた。

 七海はそんな馬鹿なと思いつつ、イムヤに声をかけた。

「…………」

 完全停止。無反応。依然として震えている。

 可哀想なくらい七海に追い詰められていた。

「イムヤ。ごめんなさい、少し脅かしすぎました。大丈夫、お姉ちゃんがついていますから」

 急に優しく、七海はイムヤの頭を撫でて、ひきつった笑顔で言い出した。

 ポカンと、硬直が解ける。イムヤの前で、見たことのない七海の声色と顔があった。

「……頑張ってくださいね。お姉ちゃんは、イムヤが頑張る所を見たいです。一杯努力したんです。きっと、成功します。ね?」

「……お姉ちゃん」

 慣れない誉め言葉。七海に圧倒的に足りないのは、飴だ。

 鞭ばかりを振り回して威嚇して、それで成功するわけがないと、説明して成る程とは思う。

 が、そんなに七海は厳しかったり、怖いのだろうか? 自覚がないので分からないまま。

「一緒に頑張りましょう。お姉ちゃんが、後ろに居ますから。怖がらないで」

 不安になる言葉を言うから余計に萎縮する。

 安心させろと言って、取り敢えずそれっぽい台詞を如月が捏造してみた。

 すると、効果覿面。イムヤは俄然やる気になっていた。

「……そ、そうだね!! お姉ちゃんがいるんだし、負けるはずないよね!? よし、気合い入れていく!!」

 要は背中を押す、という理屈だが慣れない七海ができるはずもない。

 結局如月の入れ知恵で証明され、納得した七海。

(イムヤには甘やかす事が大切なんですね……)

 あくまで、イムヤには。

 如月は別に緊張していない。

 クンカクンカと現在、七海からリラックスアロマをダイレクトに吸収している。

 その様子はまさに犬。あるいは変態。エロサキュバス。

(ああ、落ち着くわぁ……。不安なんて微塵もない。如月は勝って、今度こそ司令官と同棲を……)

 完全に思考は変態であった。目が軽くイッている。

 嗅がれても気にしない七海。もう慣れた。

 髪の毛をクンカクンカされても、怒らない。

 これで緊張が解れるなら許す。ため息はつくが。

 そんな二名の、初めての対抗演習が、幕を上げる……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数時間経過した頃。ある海域で。

 総数12の艦娘が互いに挨拶していた。今回の対抗演習の仲間だ。

「第一艦隊の旗艦を務めます、高雄と申します。宜しくお願いいたします」

 礼儀正しい巨乳の重巡が頭を下げる。青い服の綺麗な女性だった。

 イムヤは着替えて浮き輪の上に座って浮かび、如月は周囲の様子を司令官に伝えている。

 旗艦は高雄。その他、愛宕に軽巡は、神通と龍田。以上であった。

 七海は小声で指示している。各自の装備を見た目で教えて、連携が取れそうな相手だけに絞っている。

 如月は艤装が様変わりしていた。

 両手に連装の高角砲を、高射装置を組み込んだ10cmの物を装備。

 予備の弾薬も腰の後ろについている。いざとなれば投げ捨てるのもよいと言われている。

 七海と同じく利き手が左なので左ももに、例の速射砲を懸架している。

 右足腿には連装魚雷を、背負う機関は出力が高いモノに交換しておいた。

 これにより、運動性能は抜群に高く、更に機動性も上々。

 余計な装甲を全部取っ払って軽量化して、頭部には二つの電探を装備。

 対空と水上の電探で広範囲をカバーできるようにしておいた。

 目的特化のため、汎用性はまるでないが、ある程度の自衛まではできる。

 電探は皆と共有できるし、支援特化は伊達じゃない。

 イムヤは背負う機関を如月と共通化しつつ、余計な音を立てないように隠密も視野に入れている。

 彼女は特殊で、魚雷を召喚して放つタイプ。携帯に似た装備で出すのだ。

 潜水艦専用の強烈な魚雷を八つ同時に放てるので、火力は十分。

 装甲を気にせず、速力と火力と隠密性能のみを追求したため、他には精々ソナーぐらいしかない。

 これも頭部のアンテナを介して、無論共有している。 

 第二艦隊の金剛、榛名、赤城、加賀、伊勢、大井には火力を依存するので全部任せると軽く言ってある。

 複数の提督の同時指揮なのだ。ある程度の事前の打ち合わせをしていないと大変になる。

 勝敗は旗艦の撃破。こっちで言う、高雄と金剛の轟沈判定。

 それぞれ細かいルールを聞いてから、とうとう運命の演習が始まる。

 ブザーが皆の耳元のインカムに聞こえる。戦いが、始まった……。

 

 

 

 

 

 

 

 先ずは偵察機で敵の艦隊を探し出す。

「イムヤ、急速潜航」

「了解」

 七海の指示通り、水の中に潜って隠れる。

 敵を発見するまでは、大人しくしておけと言われたので、水中で待機しながら相手にも潜水艦がいないか探す。

 偵察機を見送りながら、移動開始。皆で進むと、入電。敵を発見した。

 相手は第一艦隊に戦艦が二名、重巡一名、軽巡一名、駆逐が二名だそうだ。

 長門、陸奥、熊野、夕張、白雪に初雪の六名。

 空母がいないと言うと、七海は集団で電探画面を眺める彼らに言った。

「なら、どうせ第二艦隊に固まっているんじゃないですかね。空母を無視する奴はいないでしょうし」

 指示を出す提督は一ヶ所で集まり互いに議論して決めるのがルール。

 独断もありだが、そうすると大概自滅するだけだろう。

 七海の言うのもありか、などと言いながら様子を見る。

 まだ距離がある。が。

「すいません。相手、爆雷持ってます?」

 夕張と駆逐二名にどんなものがあるか聞く。

 荒い映像だが、爆雷らしきものはないと言っていた。

 成る程、と七海は頷いて。早速、動く。

「皆さん。お先に仕掛けます。――イムヤ、先制雷撃開始。敵軽巡、及び駆逐を撃破なさい」

 沈んでいるイムヤに命じた。黙ってイムヤは動き出す。

 ある程度ゆっくりで良いから放てと言う。同時に。

「大井。……やれ」

 第二艦隊の大井も一斉に魚雷を放った。

 偵察機による位置情報を入力して、疾走する酸素魚雷。

 夥しい数が放たれて、走っていく。

 距離があるが、追尾する魚雷は海のなかを突っ込み、向かう。

 同時にイムヤもどさくさに紛れて放った。後だしの潜水艦魚雷。

 携帯を操作して召喚した魚雷を見送り、停止。

 あとは、様子を見る。 

 偵察機による映像は、よく見えない海中の魚雷を警戒していたようで、夕張が反応。

 相手も偵察機放っていたのも合わせて、迎撃に入る。

 回避するも、射程が違いすぎて数名、いきなりの直撃。

 ダメージを受け、本格的に戦闘が始まる。

 七海は気合いを入れて、画面を見つめて、始めるのだった。

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