君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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鯨の報せ

 

 

 

 

 

 

 

 新しい覚醒はジャーヴィスには伝えておいた。

 同時にガングートにも一報を伝える。

 桜庭にはガングートから言っておいてくれるという。

 此度の一件はガングートが七海たちの世話をしてくれる。 

 対処に乗り出した二人には捜索は任せておけと言ってくれるので一任する。

 で。

「司令官は如月のモノよ。それ以上仲良くすると……如月は貴女を殺すわ」

 嫁が凶暴化の悪影響が進んでいる。普段なら大本営に直送されて検査されるので詳細がわかるが今はできない。 

 いつ、コロラドが出てくるか分からず対応が一般的な艦娘にできるかも不明。

 ガングートが特別に教えてくれた。

 コロラドが変異した姿は……既知の深海棲艦に似ている。

「太平洋深海棲姫。一度ハワイの方で出現した戦艦だ。ただ、そいつは歴とした姫。人間の姿をしていた。艤装のようなモノであの白い鯨がいたんだが……奴は喰われて鯨になったしな。本体の形状は正直予想はつかない。生きてはいるだろうが」

 という大型の新種だと。

 待機して何時でも抜錨できる態勢にしておかないと横槍が入って出来なくなる。

 対応策としては無理矢理だが理解はしてもらえた。問題は普通の艦娘の変異だがこれも既にデータはある。

 村雨たちの存在が如月の奇行にも対応してくれたのは幸いだが……。

『大丈夫。あたしは、友達だから。同じように人間に大切なものを奪われた奴等同士の』

 如月が執務室で相談していたとき、同席してジャーヴィスに放った敵意にも朗らかに言った。

 自分の過去を喋っていいと言うので概要を如月に教えると。

「……そう。ごめんなさい、てっきり司令官を利用するのかと思って」

 大人しく殺気を引っ込める。簡単に信じたのはジャーヴィスが実際、何なら試してみるかと提案したからだ。

『良いよ? ポーラでも殺ろうか?』

『止めなさい。今はコロラドさんが先決です』

 と、七海に良く似た殺意を笑顔で切り出すジャーヴィスに、七海が制止する。

 それを肌で如月は感じていた。同じだ。全く同じ迷いのない真っ黒な殺意が見えた。

 邪魔な障害認定の他の三人はもういない方がジャーヴィスは楽でいい。 

 ことあるごとに、始末しようと言い出している。

 本性を見せても互いに問題ない。七海も友達だからという発言を否定しない。

 気さくに名前で呼びあっていると七海が自分から如月に教えた。

 本名はアリス。アリス・ガーネットと、彼女は言うらしい。

『如月、あたしが信用できないなら殺してもいいんだけどさ。ちょっと時間頂戴? 最低でもコロラド連れ帰って来るまではあたしも死ぬわけにもいかないし』

 自分から消してもよいが時間をくれと言う辺り、七海と同質の中身が異常な人間。

 歪んでいる。歪んだ海外の駆逐艦に、彼女はなにもしないと言った。

「司令官の同年代のお友達って、見るのは初めてだから。そういう人は、大事だと思う」

 理性的に判断して、殺すのを撤回した。

 そういうのは良くないと七海にも言われる。

『あははっ。愛されてるね七海。嫉妬は愛情の動かぬ証拠だよ。大事にしてあげてね』

『言われずともしてますよ』

 ですよねー? とジャーヴィスは笑っているが普通は無理だ。

 ここにいる三人は破綻している艦娘だから、何にも違和感はない。

 白い怪物と戦うという荒唐無稽な事を計画しているし、一応戦艦が相手なのだ。 

 それを駆逐艦だけでどうにかしようという無謀と、ガングートの助力が果たして間に合うのかも分からないのに。

 三人は念入りに立てていく。残った三人は待機命令で大人しくしているが不安は募っていた。

 そして、運命は動き出す。

 二日後。ガングートから緊急の入電。

 遠方の外洋で、電探に反応しない巨大な白い鯨と戦っているという情報が入ってくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎮守府では直ぐ様準備に取りかかる。 

 留守番を五十鈴に命じて、正式な命令と言われてなにがなんだか理解しないまま五十鈴は請け負い。

「ちょっと七海!? 何事なのよ!?」

「ごめんなさい、こっち側の問題なので」

 利口な五十鈴は、暗に七海の言う言葉が今請け負っている関係と、居なくなったコロラドの事だと経験で悟った。

 で、どうにも事情がわかってない他の三人と違ってジャーヴィスのみが意思疏通が取れている。

 つまりは二人で対処する問題であり、他は部外者になるということ。

 五十鈴はなにも聞かずに任されて、一緒に抜錨と命じられしまった三人も困惑していた。

「へっ……? 出撃? 何でですか?」

「待機命令じゃ……!?」

 ポーラとザラはとくに理解できていない。

 ゴトランドは雰囲気で分かったのか、七海に言った。

「戦う準備、しておくね」

 ガングートの指摘通り、ゴトランドは意外と適応力が高かった。

 呆然としている姉妹とは違って、察する洞察力に優れているのか。

 ともあれ、如月も何故かついていくが気にするなと言って、挙げ句には。

「みんな、お供を」

 工厰で浮遊要塞たちにお願いして同行してもらう七海。

 漸くただ事ではないと分かるポーラとザラ。真っ青になって行きたくないと言うが命令だ。

 拒否すればどうなるかなど分かったことであり、従うしかない。

 装備して示される海域に向かって飛び出していく。

 その背中を、心配そうに窓から見送る五十鈴だった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 外洋に向かう途中、文句や質問をする姉妹を全部七海とジャーヴィスは無視した。

 ただ、旗艦代理である七海は冷たく言った。

「お前らの意見は聞いてない。黙って従いなさい」

 一方的に通達する。そこには微塵も信用していないという意味合いがあった。

 やることを全部決めておいた。どうせ意見のないお前らは従うだけでいい。

 その態度にザラは反論するが……。

「五月蝿い。お前らの意見は決まっているんですよ。単なる民間人上がりが、なに言うんですか」

 七海は前を見ながら、吐き捨てる。

 ゴトランドも仲裁はせずに意見を聞くと今はなにも言わない。

「民間人上がりって……あなたもそうでしょう!?」

「ええ。ですがこれでも、士官学校で最低限の教育を無理矢理受けさせられた正規の軍人ですが何か?」

 義務で学ばせられたと言って、ただ民間人のまま戦場に立ったザラとは違うと、ハッキリ告げる。

「それなりの経験はしているんですよ。死にかけた経験も一度や二度はありますし、見れば分かるでしょう? あたしは散々周囲から迫害されました。区別され、差別され、誹謗中傷や心無い行為も受けている。お前らにそんな経験ありますか? 心底人間が嫌になる、そんな瞬間が」

 自分は良いが周囲にそれをするから対応しないといけなかった。

 七海は自分の評価の扱いをそう、理由として話した。

 自分の行いの結果だから受け入れる。それは良いとして。

「決めつけと言いましたね? ならば問いますがザラさん。あなた、うちの深海棲艦を未だに怖がっているでしょう。敵意はない、武器もない、力もない。物証を見て、本人を目にしておきながら。まだ、自分が殺されるかもしれないと」

 七海は自分がそうであると言うのだ。

 ザラが鎮守府の深海棲艦を受け入れる気などなく、忌避したいという気持ちと同じ。

 ザラはこの案件においては、全く信用できない。何故ならばその態度が雄弁に語っているから。

「そんなの……当たり前じゃないですか! だって、深海棲艦は……」

「深海棲艦は敵ですか。当たり前ですか。ならハッキリ分かりやすく教えます。……そんな人間に、あたしが言うわけ無いんですよ。お前は最初から、信用する価値がない。言動を確認するまでもなく、明確な答えを表している」

 ザラは普通に考えて完璧な返答をした。

 至ってマトモな、万人の答え。だからこそ、最大の誤答をしてしまう。

 まだ口論してる二人に辟易して、ジャーヴィスが口を挟んだ。

『もういいよ七海。だから言ったのに。コイツら殺せば後が楽になるって、あれほど』

 然り気無く名前で呼び、いつの間にかそちら側に居たことを教えつつ、翻訳機を通じてジャーヴィスの言葉を聞いたポーラが速度を落として距離を開いた。

 今、ジャーヴィスは。ポーラとザラを、殺そうとしていた。

 そう、言った。

「ひっ!?」

 ザラですら、ジャーヴィスの声色が本気のそれと感じ取って短く悲鳴をあげた。

 鬱陶しい虫けらを見ているような視線で一瞥してくるジャーヴィス。

「…………命令ですので。殺しはしませんよ。邪魔さえしなければ、の話ですけど」

 七海も会話の内容を否定しなかった。要は命令でないなら沈める理由もあると。

 邪魔するなら結局殺すと。この駆逐艦たちは本気で言っていた。

 ポーラは最早喋る余裕もなかった。下手に言えば逆鱗に触れてそのまま死ぬ予感があった。

「……止めようよ。仲間内で言い合うの。意見が違うのは分かるけど、夕立さんもジャーヴィスさんも短絡的過ぎる。協力を強要しても、二人ともなにもしないよ? 何となく、私は言いたいことが理解できたけど……」

 ゴトランドがそこで仲裁した。

 互いに言いたいことは分かったと言ってから、改めて問う。

「……居なくなったコロラドさんの事だよね。この出撃。で、きっと……コロラドさんは襲ってくる可能性があるんじゃないの? 多分、深海棲艦になれるって話の夕立さんがそこまで言うなら……コロラドさんもそっちに流れちゃったとか。それで、理由あって鎮守府から消えちゃった。合ってる? 現状の情報を纏めた限りはそんな感じになると思うんだけど」

 ……訂正する。ゴトランドは、恐らくこの残った面子の中で最も利口で、最もマトモだ。

 中立の立場から、客観的に見て意見が言えて、まとめることが可能なリーダーに向いている性格。

 七海とは違って、相手の言葉を聞こうとする姿勢があった。

 驚く姉妹に対して、二人は大体合っていると隠さず肯定した。

 如月と浮遊要塞はその為の戦力としていると言った上でコロラドのプライベート以外の事情を漸く話した。

 みるみる様子が変わっていくザラとポーラ。

 軈て、ザラは全てを聞いてから怒鳴った。

「な、何を言っているか分かっているんですか!? そんな鯨のお化けみたいなものを連れ戻す!? 滅茶苦茶ですよ!!」

 案の定の言葉に二人はやっぱりかと諦め聞き流す。

 想像通りの展開に自分の予想は合っていたと分かった。

 ザラは連れ戻したとしてどうするのか聞いた。

 七海は知っていると言い返す。

「あの装備、元々はあたしのですよ? 使い方を知らないとでも? あんなもの、意識のないコロラドさんを叩き起こして内部から屈服させるだけ。精神力の強さを問われますが、負けず嫌いであろうコロラドさんなら応援すれば何とでもするでしょうし。意識ないなら叩き起こす。無理なら仕留める。二つに一つです。何か他に質問は?」

 七海の所有物なのだから、当然扱いも知る。

 何気無く、もしも無理なら殺すとジャーヴィスにも向かって言った。

 結局は博打だ。無理とジャーヴィスと七海が判断すれば……その時は遠慮なく殺しておしまい。

 その辺の分別もついている。駄々のように無駄な足掻きも危険なのでしない。

 今はまだ可能性があるから進める。ダメなら桜庭の言う通り、殺す。

 責任がある以上は、抗うが必要以上にしがみつかない。

 互いに子供とは言え、戦場に居るのだ。

 言い出した以上は決着も自分達でつける。

 軽く頷いたジャーヴィスも、了承した。

 こう言われると、ザラは何も言えない。 

 絶対に取り戻すと、激昂して桜庭に噛みついた時とは違い、冷静になった今の七海には。

 ジャーヴィスも努力はするが悪足掻きはする気もない。

 コロラドが内部にいないならもうそれは深海棲艦。ただの怪物。

 踏ん切りは……大事なのだ。

 何も言えずに完封されて、押し黙る。

 俯くザラに、そんなだから言わなかったんだとジャーヴィスが容赦なく追撃して喋らせない様に釘まで刺した。

 ポーラも言うことは聞くとだけ言って、ゴトランドのみ神妙な顔で思案していた。

 そんな分離している彼女たちに……戦いは近づいていた。

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