君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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初めての、死

 

 

 

 

 

 

 

 運命の演習が始まった。

 イムヤ、大井による先制雷撃。

 回避が遅れた数名、夕張と初雪、白雪に狙い通り直撃。

 ソナーを持っている役目は夕張のようだ。

 つまりは、七海の敵は夕張と駆逐二名に絞られた。

 支援を行いながら、隙を見て自分で排除する。

 支援特化と言えど、彼らは彼らで戦っている。

 火の粉ぐらいは自分で払おう。

「如月。様子は?」

「現在、空母たちによる艦載機が接近中。狙う予定の数は……聞きたい、司令官?」

「数えるのもバカらしいほどですか。では、手筈通りに」

 如月の電探に無数の艦載機が表示される。

 こちらでも確認しているが、目視で確認できるかと聞かれて、肯定。

 小さな点ほどだが、確認している。

「了解。如月の活躍、ちゃんと見ててね」

「見てますよ。そんなこと言って油断してると、艦載機の特攻受けて沈みますよ」

 それはきっと違う鎮守府の彼女。

 嫌な話を先程聞いたので、釘をさす。

 クスクスと如月は笑っていた。

「はーい。油断慢心せずに護衛いたします」

「足元にも注意しなさい。雷撃も注意して」

「全方位だものね。集中していくわ」

 艦載機による爆撃、雷撃に加え砲撃にも気を付けないと。

 既に周囲は、上空で戦闘機の戦いが始まり、海上では砲弾が行き交う。

 如月は無線を繋いだまま、独自に判断する。

 七海は事前に入れ知恵をしていた。それを意識する。

 両手の装置内蔵の主砲を構え、発進。

 機動力を上げて、走り回る。水飛沫が後に続く。

 七海は言った。爆撃する物と雷撃する物だけ落とせ。

 攻撃の艦載機と爆撃の艦載機は、自分にも甚大な被害が出る。

 狙われる前に、片っ端から撃ち落とす。散々瑞鳳と飛鷹で訓練したのだ。

 やり過ぎてボーキサイトが随分と消耗してしまったが、七海はちゃんとフォローしてくれた。

 経験だけじゃない。七海は情報についても、如月に画像まで見せて覚えさせている。

 狙うべき標的。相手が使うであろう予想を全部見せて如月に刷り込んだ。

 空母が誰であろうが、使う艦載機は既存のもの。

 ならば、種類を覚えて効率的に落とすのが一番。

 性能に差違あれど、目的が同じである以上撃破はする。

 電探が示すそれは、型式が出ない。

 ただ、漠然と相手の艦載機の位置を知らせるだけ。

 種類は自分の目で確認するしかない。

 無闇に落とせば時間と弾の無駄。

 顔を上げて、水中の雷撃に気を付けながら走り回り、目を凝らす。

 電探の位置を見て、見るべき方向に定める。

 動き回らないと的になる。これも散々練習した。

 伊達に艦載機を撃ち落とし過ぎて瑞鳳を泣かせていない。

 特訓は無駄じゃない事を証明してやる。

 付き合ってくれた瑞鳳の涙も無意味になるのは避けるのだ。

(……天山。彗星。あとは、初期型……。何だっけ、何々式とかいう種類だったっけ? あら、忘れちゃった……)

 膨大な知識を短期間で刷り込んだせいで、名前までは思い出せない。

 辛うじて種類は分かる。ならば、全部落とすまで。

 如月はちょっと失敗と苦笑しつつ、狙いを定める。

 射程にノコノコ入ってきた艦載機を装置が捉えて、放つ。

 七海の教えを思い出す如月。

(足を止めるな。冷静に、落ち着いて。狙いは正確に。足元をお留守にしない。周囲に気を配る。……あと何だったかしら?)

 激しく動き回り、連射する。頭上で爆発。当たった。

 弾の数よりも多い艦載機の数。対空砲火は他も隙を見て行っている。

 専門でやっているのは、如月だけ。その如月は当然狙われる。

 鬱陶しい相手だ。邪魔をするなら諸とも、となるが。

「させないわ!!」

「ぱんぱかぱーん!」

 高雄姉妹の砲撃が、背後から飛び交う砲弾に紛れて、長門たちを足止めする。

 向こうの熊野は神通が押さえ、夕張と駆逐はなんと龍田一人で迎撃していた。

「うふふ……輪切りメロンにしてあげるわァ……!!」

 ハイライトのない目で嬉しそうに微笑むヤバい笑顔で、得物の薙刀を振り回して、夕張たちを追い回していた。

「いやあああああああ!? 輪切りはいやああああああ!!」

 足を負傷し、只でさえ遅いのに龍田に追われて絶叫している夕張はなす術もなく、逃げ惑う。

 駆逐二名が、砲撃して迎え撃つが……。

「あらぁ?」

 なんと薙刀で弾き飛ばした。

 派手な火花を散らして、スイングしていなす。笑ったまま。

「そんな……アホな……」

「えっ? えっ? なんか知ってる龍田さんと違う!?」

 初雪が呆然と、白雪は混乱していた。

「……お仕置き、決定♪」

 で、狙われる子供たち。悲鳴を上げて逃げ出した。

 怖すぎる。あそこだけ戦いじゃなくてなんか狩りになっていた。

 更に、そこに無慈悲に海中から追撃が襲う。

「イムヤ。旗艦に合わせて支援雷撃」 

 海中で様子を見ながら、イムヤが狙った座標に魚雷を放つ。

 その都度、足元で飛沫が舞い上がる。

「くっ……!? 潜水艦を入れているのか!?」

「あらあら……道理で一人少ないわけね……」

 ダメージが入る。まだ、戦える。倒れるわけにはいかない。

 長門は隠れている潜水艦を探したい。

 陸奥もそれは同じだが、現在唯一のソナーを持っている夕張は……。

「スライスメロぉぉぉぉぉぉぉン!! 待ちなさあああああい……!!」

「うぎゃああああああああーーーーーー!!」

 メロンが龍田にまで襲われていた。汚い声がここまで聞こえる。

 砲撃よりもデカイ声とは、相当な声量。余程ピンチのようだ。

 助けようにも、肝心の火力である第二艦隊の空母の手数が減っている。

 それはそうで、専門で撃ち落とす駆逐艦が走り回って、妨害しているからだ。

 更には、海の中から潜水艦も邪魔をする。ジリジリと追い詰められていた。

 如月は聞いた。仲間からの入電。

 背後から航空機で援護していた連中を確認。

 相手の第二艦隊の面子が判明。

 瑞鶴、翔鶴、葛城、天城、千代田に千歳。

 全員空母であった。しかも大半が足の速い正規空母。

 狙われるリスクを抑えるべく、背後で援護しているようだ。

 が、それは此方も同じこと。

「よっしゃー!! 戦艦は対空もバッチリだぜ!! 往け、マイ嫁ーズ!! 大鑑巨砲主義を見せてやれー!」

 赤松が景気よく叫んでいた。

 マイ嫁ーズ……? と大半が訝しげに見るが。

「オッケー!! 私の実力……見せてあげるねー!!」

「はいっ!! 榛名は何時でも大丈夫ですっ!!」

 ちゃんとエセっぽくない、日本語喋る金剛が妹と共に叫ぶ。

「三式弾、装填!!」

「空母は、榛名とお姉さまが、許しませんっ!!」

 爆風を放って、姉妹が三式弾を空に向かって打ち上げる。

 大量の艦載機を目掛けて放たれる砲弾は、空中で炸裂し飛んでいる艦載機を巻き込み撃墜した。

 今ので結構な数が減った。慣れているのだろう。誇るように胸を張っていた。

 相当な数がいたのに、密集している空域を目掛けて放った一撃により半滅に近い。

 流れは、こちらに向いていた。騒ぎだす相手方の空母だが、こちらはまだ隠している。

「うっはー……。容赦ないねあっちの戦艦……。提督、私も秘蔵の瑞雲使う?」

「使うか。相手の数も減ってるし。伊勢、やっちゃいな!」

 隣にいた伊勢も、切り札を切ったようだ。

「……提督。すいません、対空砲火で弾が終わりました」

「大井、お疲れ。じゃ、全部ぶちこめ。盛大にな!!」

 大井と伊勢の提督の命令で、航空戦艦の秘蔵、特別な瑞雲が放たれた。

 空母たちに空を任せて、砲撃に集中していた伊勢の、飛行甲板が無事だったので解き放つ。

 大井も残りの魚雷を、砲撃の殴りあいをしている金剛が狙う相手に定めて放った。

「……。瑞鶴と翔鶴、ですか。多少は頑張るかと思いましたが……」

「ま、まあまあ。此方は専門で撃ち落とす駆逐艦がいるんです。あまり責めないで加賀さん」 

 どこか残念そうに加賀は相手の二名に言うが、赤城の言う通り撃ち落とす数が多いので差が出ていた。

 切り札、瑞雲の投下で艦載機の数が上回った。

 加賀、赤城の残存する艦載機と無傷の瑞雲が空を駆け抜ける。

「あら……瑞雲だわ」 

 走り回って、大量の艦載機を叩き落とした如月は停止して見上げる。

 相手は撤退していくようだ。第一艦隊が既に戦艦も含めてボロボロ。 

 頭上を走り去る艦載機の数。圧倒的に残っていた。

 如月の主砲は弾が切れた。邪魔なので片方を外している。

 魚雷は一応、一回ぶんだけ残っている。予備の弾薬は使いきった。

 恐らくは逃げて態勢を立て直すのだろう。

 追撃しろと、七海が言っている。

「イムヤ。一隻も逃がさず、仕留めなさい」

 冷酷な声だった。いつも通り、深海棲艦相手と大差ない声色。

 雷撃がまだ走る。夕張は危ないと叫ぶ。駆逐たちが龍田を押し止めようとするも、無駄。 

 軽く薙刀で殴打されて吹っ飛んでいた。

 海上をバウンドしている。生きているだろうかあれは……。

「危ないのはメロンちゃんよぉ!!」

「いぎゃああああああああ!!」

 狂ったように恐ろしい高笑いの龍田の凶刃が迫っていた。

 夕張はソナーに集中できない。龍田が怖すぎる。

 如月は一応、合流するために戻っていく。

 加賀たちが言っている。第二艦隊確認、空爆開始。 

 こっちも天山や彗星、そこに何故か瑞雲まで混じっていた。

 兎に角、一斉に大半の艦載機を失った案山子の空母たちを襲う。

「瑞雲は良いよね、瑞雲は!! 日向の言う通り、切り札になるよ!!」

 伊勢が誇らしげに叫んでいるが、果たして瑞雲は切り札になるんだろうか。

 如月にはちょっと分からない。

 撤退すら許さない第一艦隊の雷撃が無慈悲に襲いかかる。

「あっ、不味い……!! 長門、あなたは先に行って!!」

 庇うように、目視で影を見つけて陸奥が長門を押し出した。

 無情にも、過剰とも言える雷撃が陸奥一人に直撃。

「陸奥ーーー!!」

 退いていく長門が叫ぶ。

 ブザーが鳴った。陸奥、轟沈判定。

 第一艦隊、一名脱落。数秒後、再びブザー。

 今度は酷い。第二艦隊、全滅。全員が轟沈判定を受けていた。

 空母と航空戦艦の瑞雲により、武器を失った彼女たちは抵抗できずに被弾していた。

 残り、五名。旗艦も分かった。庇われた長門だろう。

 此方は消耗はしているが、大半が大きなダメージはない。

 提督たちがあれこれ話している間に、七海は問う。

「……イムヤ、魚雷は?」

 安全と言われて、慎重に息継ぎに顔をだすイムヤはしばらくぶりに声を出した。

「撃ち尽くしたわ。全部当たったから、被害は大きいと思う」

「そうですか。お疲れ様でした」

 また危ないので潜れと言われ、大きく息を吸って再度潜航。

 見えない悪魔は静かに消えていく。

 更には、被害は広がっていく。

「きえぇぇぇああああぁぁあああああ!!」

「ぎゃあああああああああああ!!」

 夕張が輪切りに切られて倒されていた。

 雄叫びをあげて切り捨てる龍田が、バッタリ白目を剥いて泡を吹いて倒れる夕張を見下ろしていた。

「気持ちいい悲鳴をありがとう、夕張さん」

 満たされた嗜虐的笑みに、ゾッとする如月。

 七海以上のイカれてる奴が然り気無く混じっていたようだった。

 最後の神通は、熊野の抵抗に合いつつ、なんと刺し違えて倒していた。

 双方、轟沈と言われたが、彼女の無理は反省点だろうと七海は思う。

 フォローし損ねた。空母と支援に力みすぎた気がする。

 残り、三名。その時。

 

 ……その抵抗は、始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「せめて、駆逐艦だけでも……!!」

「刺し違えてでも倒そうっ!!」

 そんな声を、如月は聞いた。

 何事かと思えば、初雪と白雪が、黒煙をあげる艤装を暴走させて、突っ込んできていた。

 ……狙いは、吹っ飛んでいた近くにいる、如月だった。

「!?」

 如月は驚く。大破している艦娘が、演習なのに……鬼気迫る勢いで向かってきていた。

 既に装備は大半死んでいる。主砲は折れて、魚雷はない。その状態で、向かってくる。

 止めろと、長門は叫んでいた。悲痛な声で。なのに、死に物狂いの駆逐艦は悲しく叫ぶ。

「どうせ、ここで失敗すれば解体なんだ……だったらせめて、海の上で死んでやるッ!!」

「駆逐艦でも、敵は倒せるって、証明するの!!」

 ……何を言っている?

 なんで、あんな必死になって、襲ってくる?

 待て。これは、演習だ。降伏だって認められている。

 なのに、なぜまだ戦う?

「えっ……?」 

 理解できない如月は棒立ちしていた。

 あの二人は、何をしようとしている?

 倒す? 誰を? どうやって?

 

「……自爆ですか」

 

 七海が、冷たくそう溢していた。

 聞いていたのだろう。その、悲痛な叫びを。

 背後で、他の艦娘が言った。逃げろ、そのままでは本当に死ぬ。

 二人は特攻する気だ、と。

 機関を暴走させて、自爆する。それは、安全装置の穴である。

 装備のダメージは無力化するが、爆発などの副産物はしない。

 つまり、機関に引火すれば、如月も……死ぬ。

(……えっ? 如月、死ぬの?)

 なぜ? 何故狙われる?

 あんな死を覚悟したような相手に。

 諸とも爆死しようとする相手に。

 ……なんで、如月が?

 理解できない。理解できない。演習だ。演習で死ぬわけがない。

 死なない。死なないはずのルールだ。

(……死ぬの?)

 頭が処理できない。棒立ちすれば、巻き添えになって共に爆死する。

 共倒れが狙い。そこは分かる。けど、艦娘同士で? 同類なのに、どうして?

「お前のせいだあああああ!!」

 悲しい声で、責められる。

 真っ直ぐ突っ込んでくる。味方もその剣幕に、攻撃できない。

 下手にすれば、向こうが死ぬ。その確率はあった。

 どうすればいい? なにもしていない如月は、巻き添えで死ぬのか?

 誰か、教えて。どうすればいいの? 如月は、どうすれば生きられるの?

 

 ――撃ちなさい如月。

 

 耳元で、そう、囁かれた。

 

 ――撃って、如月。あなたは悪くない。

 

 もう一度、囁かれた。

 

 ――死なせないと言ったでしょう? 

 

 再度、彼女は囁いた。

 

「……提督のあたしが、許可します。如月……殺しなさい」

 

 七海は許した。殺せ、と。

 

 持っていた主砲を素早く捨てる。

 左足の速射砲を外して、構える。相手は回避しない。

 一直線に突っ込んでくる。引き金さえ引けば、終わる。

「司令官……」

「あたしが責任をとります。……殺しなさい。あたしに、死を見せないで」 

 殺せ。生きたければ、殺せ。

 自爆などしなくていい。殺しに来るなら、殺せ。

「如月は……死にたくない」

「あたしも、死なせたくない」

「だから……」

「ええ。……殺りなさい」

 特攻をする、哀れな艦娘。彼女の命を狙うから。

 如月は、自分が生きるために。

 ……引き金を、黙って引いた。

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