君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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艦娘殺しの提督

 

 

 

 

 

 

 演習は終わった。七海たちの艦隊の勝利。

 その後、恙無く終わった。ああ、何事もなかった。

(……あたし以外は、ですが)

 ちょっとしたトラブルはあったが、まあ気にするほどでもない。

 少しばかり、聴取を受けることになった。それだけの話。

 七海の帰りは、遅くなりそうだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結局、彼女が戻ったのは翌日の夜だった。

 憲兵が迎えにいって、事情を聴くと渋い顔で何も言わない。

 責めることも、慰めることもしなかった。当然だ。

 七海は、あんな事があっても平然として、帰ってきた。

 鎮守府に戻り、執務室に入ると。

「……遅かったわね」

 五十鈴が、書類を片付けて待っていた。

 彼女のいつもの場所を陣取り、待っていたか。

「ただいま戻りました」

「…………」

 特に変わったこともなく、七海は制服を脱いで、軽く挨拶してから自分の役目に戻る。

 彼女のその様子は、全くもって不可解。なんで、平然としてしているのか。

 五十鈴にはまるで理解できない。

「七海……。あんた、自分が何をしたか、分かっているのよね?」

「ええ。大本営でも同じ説明をしてきました」

 何故、七海は動じない。精神が揺るがない。

 己のしでかした事を、分からないわけでもあるまいに。

「如月から詳細は聞いたわ」

「そうですか。彼女は?」

「部屋に籠って魘されてる」

「でしょうね。……医者の手配をしました。あとで受診させてください」

 淡々と、片付けをしてその後私服に着替えた。

 五十鈴の眼光にも怯まない。明らかな糾弾の視線を、物ともせず。

 後処理はした、そんな態度。五十鈴はイラついてくる。

(……こいつは……)

 初めて、殺意に近い怒りを感じた。

 案の定だ。こうじゃないかとは思ってたが、本当にこいつはこういう態度で戻ってきた。

 信じたくなかった。人間扱いしているなら、後悔なり懺悔なり、抱いていると思っていたのに。

 ……七海は、その意識すらないようだった。

「五十鈴。……黙って睨んでいますが、そこまであたしが憎いですか?」

 七海は簡単に身支度を済ませて、五十鈴を見た。

 茶色の瞳には、感情は浮かんでいない。穴のように、見据えているだけ。

「憎い? ……勘違いしないで。怒っているのよ。あんたが、とうとう仕出かした事をね」

「だと思いましたよ。怒りの矛先を自分の提督に向けますか。……呆れてものも言えません」

 怒りを堪える五十鈴に、七海は真っ向から言い返した。

 自分は悪くない。表情のない彼女の言い分は、それなのだと分かった。

「……ッ!! あんたはッ!! ふざけないで!! 自分が艦娘を殺せって命じたのよ!? 人を殺したのよ!? なんで平然としているの!?」

 我慢できずに立ち上がり、怒鳴った。

 近寄って胸ぐらを掴み、怒鳴ろうと近づくが。

 

「的外れな指摘ですね。……なら、あたしはこう反論しましょう。五十鈴は味方を殺すつもりですか?」

 

 七海は涼やかに聞いた。それは、まさに提督としての、上に立つ身分の言葉。

 言外に言っている。あれは、事故だ。事件ではない。

 殺人ではない。過失ではない。

 あれは、必要な措置だ。

「……」

「人殺しとは心外です。あなた、きっと如月が死んでも同じことを言いましたよね? なんで逃げるなり、抗うなりしなかった、と責めるハズです。その場にいなかった部外者が、後からみっともなく騒がないで」

 どう転んでもどうせ噛みつくだろう、と言い返して七海はここでようやく怒りを見せた。

 笑わせるなと、正面から否定する。

「あたしは提督としての最善、最短を選び如月を守りました。で、あの行為は事故です。向こうの……島村提督は減給一ヶ月の処分を受けました。あたしはお咎め無しです。当たり前でしょう。あたしの行動は、自分の鎮守府の艦娘を防衛しただけ。トチ狂って殺しに来たのは奴らです。如月は言うなれば、正当防衛。ま、人権のない艦娘にはそれがありませんが……過剰でしたが、状況を大本営が判断した結果は、事故でした。ですので、あたしを責める理由もない。違いますか?」

「また理屈を……!」

 悔しいが、五十鈴とて七海の言い分を言い返せない。

 反論された通りだ。じゃあ如月を代わりに死なせるのか。

 そう言われれば、なにも言えない。正論であった。

 死にたくないから殺した。それの何が悪い。

 実際やらねば、如月は死んでいた。五十鈴はその場に居ない部外者。

 口では、後からは何とでも言える。が、現場で判断するのは七海の役目。

 七海が決定した事にいちゃもんをつけるなら、最低限現場に居るぐらいはするべきだ。

 だって、事の現状を五十鈴は知らない。

 知らないまま、感情的に七海を一方的に責めた。

 だから、真っ向から理屈で潰される。分かっている。七海はこういう奴だ。

 何を言っても、彼女には常にそれなりの理由はあり、そしてそれを基準に判断している。

 感情的な物は、一切無い。

「この件はもう終わったことです。死んだ? だから何ですか? トチ狂って殺しに来るから死ぬんでしょ。バカらしい。刃物をもって襲ってくる人殺しがいて、黙って殺される人間がいると思ってんですか? 五十鈴。あなたは今、刃物持った人殺しを擁護しているんです。自覚ありますか? 加害者を被害者に、被害者を加害者にするその沸騰した頭を冷やしてから物を言いなさい。如月を殺すようなことを宣う馬鹿者は、独房に入れて反省させないといけませんか?」

 怒っている。七海が、味方に死ねと言ったに等しい五十鈴を逆に。

 五十鈴は黙る。一つ、分かったことがある。今、分かった。

(七海は……この鎮守府以外の艦娘を人として見ていない……)

 そうだ。七海は、他の鎮守府の艦娘を事務的に見ている。

 襲ってくれば、深海棲艦と同じただの始末する敵。そういう顔で言っている。

 相手がどんなものであろうが、七海は考慮しない。

 だから何だと切り捨てて、吐き捨てる。

 極端過ぎる。七海の人間判定は、所属する鎮守府だけ。

 そこが基準で、後は死のうが殺そうが御構い無し。

 要は、そう言うことらしい。

「……」

「言いたいことはそれだけですか五十鈴。寝言は寝てから言ってください」

 人として当たり前の糾弾を、寝言と下す七海。

 不愉快そうに、五十鈴に出ていけと命じた。

「……そう。あんた、結局感情を理解していないって訳ね。よく分かったわ、今回の一件で」

「向こうの感情など理解しても意味などありませんし、事情も知ったことじゃ無いので」

 興味すらない。持つ理由がない。必要もない。

 七海は冷たく断じる。死んだその原因は島村提督であり、七海は巻き込まれただけ。

 死ぬか生きるかの選択肢で、七海は逃げて生きるか殺して生きるかを突きつけられた。

 で、殺してでも生きろと如月に命じた。その責任は受けよう。

 如月が感じている物の原因は、七海が請け負う。それが仕事。

 だが、それ以外は彼女は悪くない。周りも彼女も加害者も、そう結論を出している。

「あんたは頭がおかしいわ七海。間違いない」

「いいえ。理論的ではない五十鈴が幼いだけです。子供に子供と言われて、情けないと思わないんですか?」

 やっぱり、対立する。必然であった。

 五十鈴は艦娘。七海は提督。この立場は、決して交わらない。

「……五十鈴たちを守るための判断だって言うのは、分かるわ」

 出ていく際、ドアノブに手をかけたまま、俯いて五十鈴は言った。

 暗い影を、目元に落として。

 七海は代理で纏められている書類に目を通しながら、聞く。

「でもね……艦娘は、道具じゃないの。捨てられる事への恐怖ぐらい、わかってあげてよ……」

「嫌です。あたしは他人のやり口などどうでもいい。その気持ちを、ここにいる艦娘には味わわせない。それだけです。怖ければ他人を殺していい理由にはなりません。死にたいなら自分で死んでください。あたしは、あいつらが何を思おうが、如月を殺そうとした事実のみを重要視する。……あたしが、怒ってないと思いますか?」

 即答だった。七海はとことん、相手を無視する。

 振り返れば、目を落としている七海は、凄まじく不愉快そうにしている。

 度を通り越して雰囲気だけ、普通の動作なのに異様に尖っていた。

「如月に、ここの艦娘に……二度と死への恐怖を感じさせないようにしているのに、あのバカ共のせいで、如月が苦しんでいる。今でも思いますよ。……あたしが殺せれば、どれだけ良かったか。あたしが戦えれば、あんな屑鉄、海底に沈めてやるのに。……あたしは、決めました。今でも足りないなら、捨てるものも全部捨ててやる。自分の努力が追い付かないなら、命以外は何でも捨てて、誓いを守る」 

 ……ああ、訂正しよう。七海は、なにも感じてない訳じゃなかった。

 ここまで悔しがっている。相手を憎んでいる。寧ろ七海は、自分で殺した方が良かったと。

 そう、思っているのか。根本である、あの誓いのために。

 相手への同情は全くない。あるのは、理屈の下に隠された誓いと努力。

 形振り構わない、七海なりの答えだった。

 皆を人間として扱う一方、他は全員どうでもいい。

 極端すぎて、七海は異常に見える。事実、異常だろう。

「……。そう、それがあんたの本音ってこと?」

「ええ。正直な気持ちですよ」

 自分勝手な考えだ。

 ただ、その対象に対しての言動はちゃんと理屈がある。

 人間として見ている。絶対に死なせない。その恐怖も取り除く。

 代わりに、他者への配慮は完全に消えている。

 ……忘れていた。七海は異常と言われても、その異常性は他人への話。

 身内には、この鎮守府の艦娘には、不器用なりに向き合おうとしている。

「……ごめんなさい。熱くなってたわ」

「いいえ。責められるのも当たり前です。傍から見れば、艦娘殺しの提督ですもの。島村提督と同類です」

 客観的に見れば原因の提督と同類。

 自分をそう言った七海に、謝って五十鈴は退出した。

 七海は気にしない。相手が死んだ。それは相手が悪いと思っている。

 書類を纏めながら、七海はあったことを思い出していた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 演習のあと。

 如月は、自衛のために初雪と白雪を攻撃し、沈めた。

 機関部に直撃し、爆発をして二名は爆死。

 オーバーヒートを起こしている機関への射撃は、予想通りの結果になった。

 直ちに大本営の遣いが、演習を行う彼らを聴取した。

 艦娘を含めた全員の目撃情報と、通信の記録を回収。

 一連の流れからを、隅々まで洗い直した。

 結論。駆逐艦二名の提督、島村は一ヶ月の減俸。

 島村は元より、艦娘を兵器として扱い、指揮する事で悪名が広がっていた。

 何名も艦娘を沈め、だが強引な突破で撃破も確かにしている、有能な提督であった。

「私は言ったさ。次はないと。解体されたくなくば、成果を出せと」

 とは、本人談だ。

 普段より引きこもる初雪。遅刻をするなと言うのに何度もした。

 軍では遅刻は仲間の命を危険にする場合だってあると説明しても、尚だ。

 白雪は装備をめちゃくちゃに使う。主砲で弾幕を張るなと言っているのに聞かない。

 機銃は用意してもつかわない。命令を何度も無視していたと言う。

 そんな二名に、当然の仕打ちをしたまでと。大本営はそれに納得していた。

 それに反発して、暴走した艦娘が悪いと決めつけた。

 悪名は艦娘の間だけ。大本営は優秀の部類にはいると好評だった。

 その島村の指揮する駆逐艦が、突如反旗を翻し、彼の命令を無視して暴走。

 如月を攻撃し、如月は沈めた。これが一連の流れ。

 大本営は、島村にきちんと管理できていなかったとして、減俸を言い渡した。

 彼も甘んじてそれを受けた。七海は、お咎め無しだった。

 如月は彼女の鎮守府のエースであり、逃走よりも撃破の方が確実な方法だった。

 失うには、損失が大きかったとして、寧ろ褒められたぐらいだ。

 暴走した兵器の鎮圧、ご苦労様、と。

 七海が帰りが遅れたのは大本営の少し偉い人に褒められていたから。

 余計な被害を出す前に撃沈したのはよい判断だった。

 他の艦隊に無駄な被害が拡大する前に早期解決をしたとして、階級がひとつ上がるとか何とか。

 報酬も出ていた。七海は全く興味がないので適当に合わせて帰ってきた。

 帰りがけ。大本営に聴取された七海は、艦娘殺しの提督と、他の提督たちに陰口を言われていた。

 真っ先に殺しを選んだことは、通信の記録で残っている。彼女が迷うことがなかった事も知れていた。

 故に、艦娘親愛の提督たちに睨まれていた。本人はけろっとしている。

 やっかみがどうしたと言わんばかりに、平然としていたのが余計に周囲を軽蔑させている。

 候補生の時から問題ありと言われていた七海からすれば、評価など下らないで一蹴する。

 軍規には反していない。規律も乱していない。つまり、悪くない。

 堂々としている彼女に、知り合いたちは唖然としたり苦い顔をしたりだった。

「渋谷……お前、あれ分かってただろ? 殺した方が確実だって」

 同期の赤松が、微妙な顔で聞いてきた。

 戻る最中、自販機でコーヒーを買っていた七海に声をかけて言い出したのだ。

「……」

 どうでもいい七海は黙ってコーヒーを飲み始めた。

 赤松は、隣に立って同じくブラックを買って一緒に飲むと言った。

「気になって当時の状況、俺も洗ってみた。……逃げ切れる距離じゃなかったんだな」

「……」

 此方を見下ろす赤松の言葉に七海は沈黙する。

 彼は続けると言って、語った。

「あの二人の機関は、オーバーヒートして加速性がバカみたいに上がっていた。どうやら、あれで飛び込んで自爆する気だったみたいだ。早い話が特攻だな。で、如月はその状況に驚いて反応が遅れていた。……致命的な距離に入るまで」

「……」

「運が良いのか、艦載機が映像を残していてな。大体の二人の艤装の最大速度を計算してみたんだ。あと、悪いとは思ったが、お前の所の如月の艤装も調べた。それは、すまんかった。勝手にやっちまって」

「構いません」

 何やら、赤松は赤松で勝手に動いているようだった。

 どうせあれは、あの演習のための装備。数値など気にしない。次は使わない。

 彼はコーヒーを口に運んで、どこか悲しそうに息を吐いて、天井を見上げた。

「……映像から見えた距離も、大雑把だが算出した。で、そっちの数値と向こうの数値を計算して、彼女の反応からしての、おおよその予想も立ててみたんだが……ダメだ。どう足掻いても、間に合わねえ。100mも逃げ切れないうちに追い付かれて、そこで爆発している答えしか出なかった」

 赤松は言った。

 既に最高速度に達していた爆弾が迫っており、尚且つ棒立ちしていた如月の艤装よりも少し遅いぐらいの速度。

 最速に達するまでの時間を考えても、その前に追い付かれて諸とも死んでいた。

 距離が、近すぎたのだ。彼女が我に返る頃には、二人の詰めた距離では、撃沈するしかなかった。

 それ以外、助かる道は……無かったのだと、赤松は言い出した。

「道理で、お前が迷わない訳だ。お前、あの時点で分かってたんだな。殺すしかないって。沈めるしかないって」

「…………」

 なにも言わない七海。ただ、飲んでいる。

 赤松は、数秒考えて、そして切り出した。

「済まねえ。お前に、こんなことさせちまった。俺のミスだ。謗りは俺に向けるように言っておく」

「……はい?」

 いきなり、赤松が頭を下げた。何事か聞けば。

 赤松は、あんなことしなくても、戦艦が砲撃していれば間に合ったと言った。

 金剛、榛名の射程の中にいた二人を、位置的に狙えたと赤松は言うのだ。

「金剛と榛名は、精神的に余裕がある。あの子に辛い役目を押し付けずに済んだんだ。俺達がお前を庇えれば、お前が白い目で見られる事もなかった。本当に済まねえ、渋谷……」

 申し訳ないように、赤松は謝った。

 理解できずに、七海は首を傾げていた。

「いえ……。別に、気にしませんが?」

「いや、俺は気にする。今度、如月にも詫びをさせてくれ。気がすまない、そうしないと」

 よくわからないが、赤松はそう言って聞かないので、じゃあとお願いしておく。

 何を言われているのかさっぱりだが、赤松は謝ってから、急に怒り出す。

「一番許せねえのは島村の奴だ。あの野郎、今度見つけたらぶっ殺してやる……ッ!!」

「あの、赤松さん。ここ、本部ですよ?」

 キレているのか、空き缶を握り潰していた。スチールなのに。

 言ったら不味いことを言うので諌める。それほど殺気立っていた。

「あの野郎は知らねえんだよ。艦娘の大本が、人間だったって事をよ……」

 兵器扱いしている周囲が気にくわない彼は、そんなことを口にしていた。

 七海は、どちらかと言うと、そこに気になった。

 艦娘の大本が、人間だった? それは、どういう意味なのか。

 詫びの代わりに詳しく教えてくれと頼み込み、彼女は知った。

 どうすれば、今回のような事を回避できるか。

 その、方法を、思い付いたから……。

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