君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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艦娘の始まり

 

 

 

 

 

 

 

 彼女が帰ってきた、その日の夕刻。

 全員を僅かな時間で集めて、七海は食堂に立っていた。

 帰りを知らない皆は唖然としていた。七海が、提督が艦娘になっていた。

 外見も、クリーム色のロングヘアーに、深紅の瞳に他人の声と黒いセーラー服。

 完全に別人であった。

「さて、何から説明しましょう。先ずは、あたしが夕立になった理由でも話しましょうか?」

 腕を組んで、皆を一瞥する夕立こと、七海。

 皆は困惑していた。七海が突然艦娘になって帰ってきた。

 その理由を真っ先に聞きたい。というか、どんな原理でこうなったのかを。

「……司令官。先ず、艦娘になれた原理を、ご説明して頂けますか?」

 真っ先に声をかけたのは、固い表情の吹雪だった。

 何やら複雑そうに、七海を見て口を開いた。

「ん……。そうですか。じゃあ、先ずは歴史のお勉強と参りますか」

 七海は聞かれて、話し出す。

 艦娘の皆が知らない、艦娘の歴史。

 その原点を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在の艦娘は、人間として扱われない。

 欠点として、通常の人間とのコミュニケーションが不可能。

 大量生産が可能で、基本的に大本営は無機物扱いとし、要するに物扱いが原則である。

 そこには、過去の教訓があった。

 前提として妖精などの珍獣に関しては省く。

 コイツらは軍の最高機密。触れるには元帥にでもなれという話。

 艦娘は、元々は深海棲艦に対抗するべく、人間の女性が体内に艦の魂を宿したのが始まりだった。

 妖精がもたらしたという古き時代の遺産をサルベージして、魂として器に……人間に注ぎ込む。

 そうすることで、原点の艦娘は生まれていた。

 つまりは、赤松が言っていた始まりは人間である、というのはこういう意味だった。

 詳しい過程は、七海にも明かされていない。現在でも、志願すれば七海のようになることもできる。

 但し、人間に戻るには定着した魂を再び剥離するので、事故が起きると死ぬ。

 七海が言っている、艦娘適正とは、注がれる魂に対して、器である肉体がどれだけ適合できるかの数値。

 低ければ低いだけ、注がれる艦の魂に器を奪われて、肉体は変異を起こす。

 人間は自我を持っている。後天性の魂とは拒絶反応を起こし、最悪失敗して死んでしまう場合があった。

 低いだけ、その元々の魂と艦の魂が傷つけあう。奪う艦と、抗う人の魂が戦争を始める。

 肉体の変異は、魂の具現化だと言う。

 同じ夕立の魂を七海以外に注いでも、外見は変化して最後は同じ見た目になる。

 人間の身体を、艦は自分が動きやすくするために改造して、奪ってしまうのだ。

 大本営はそれを最適化、という名前で呼ぶ。人間の変異は、注がれれば大体起きる。

 ……一部の、例外を除いて。

 そうして出来上がった艦娘は凄まじく不安定で、大体は艦の記憶に支配され、下手をすると人間に襲いかかる。

 決まって、こう言っていたという。

 

 ――なんで静かに眠らせてくれなかった!?

 

 と。彼女たちはもう、戦争なんかしたくなかった。

 それが化け物であろうが無かろうが、戦いはもう、疲れたと。

 先駆者である艦娘たちは、人間と艦の記憶と人格に蝕まれて戦い続けた。

 提督は苦しみながら抗う彼女たちと懸命に戦った。時には艦娘に殺されることすらあった。

 大本営はそれを人間として扱いたくなかった。何せそうだろう。

 国内では当時、女性を兵士にして何をさせていると、抗議が頻発していた。

 以前は激しい戦いで、徴兵令のようにちょっとでも適正があれば子供でも容赦なく連れていった。

 否応なしに、だ。そういう時代だったこともある。そうでもしないと、国は滅んでいた。

 深海棲艦は今よりも活発で、沿岸の都市はいくつ壊滅したか、忘れているだろうが数えきれない。

 艦娘も海軍も、国防に必死だった。手段など選べず、そして安定するまでは、どんな非難にも堪えてきた。

 そうして、人口はたくさん減った。女性だけじゃない。提督をしている男性もたくさん死んだ。

 国を守るため、たくさん海軍は犠牲にした。その甲斐があったから、今こうして平和に生きている。

 一番怖いのは、なにも知らずに騒ぐだけの国民。蚊帳の外で、当然の様に権利だけを求める。

 ……振り返れば、大本営が艦娘を刷り込む様に道具というのは、従来型と呼ばれる人間が基盤の艦娘の歴史が、彼らには痛みしか無かったからだろう。

 国防のために国民に糾弾され、前からも後ろからも襲われて、堪えなければならない時代。

 七海は思う。成る程、だから物扱いしたいのだ。

 人間として扱えば面倒ばかりが起きて、二の舞になるから。

 つまり、島村提督は間違ってなどいない。浅はかな国民のせいで、大本営はこうなったのだ。

 では、今の主流である人造艦娘はどうか?

 これは、沢山の従来型の犠牲の上になりたった、安心安全な艦娘の作り方。

 資材を用いて、艦が求める最適な肉体を空っぽの状態で作り上げてそこに流し込む。

 現在の艦娘は、艦の魂が動きやすい最適化を受け入れた肉体で動いている。

 故に従来型にあった極めて不安定な状態には陥らない。

 代わりに、艦しか内部に入っていないため、適正のある人間以外とは会話すらできない欠点があった。

 夕立で言うなら、魂の夕立が求める器を最適な状態で作り上げたのが現在の夕立たち。

 七海は、夕立の魂の最適化を、髪の毛と瞳の色、声だけで済んでいた。

 適正が異様に高く、逆に艦の影響を外見以外全く受けておらず、夕立の影響は微塵もない。

 あの特徴的な口調も出ず、戦闘時に凶暴化する心配もない。

 従来型は、適合率が高いだけ、人間の魂が勝っている。そして、高いだけ比例して身体能力も向上する。

 現在現存する従来型のうち、90を超える適合率は、七海を含めて三人しかいない。

 驚異の完全適合、100%で一寸も隙を与えず自分で艦を従えるという、大戦艦大和。

 僅かに声が変わったが、それ以外は人間のままの、最古の空母艦娘の一人、鳳翔。

 そして、突然現れた命知らずの女子高生と呼ばれる新顔、駆逐艦夕立。

 この三名のみが、現在適合率90オーバーの従来型艦娘。全員が、規格外と呼ばれる正真正銘の、化け物。

 主流の艦娘の常識が一切通じない、廃れた従来型艦娘たちの、上から三番目が、七海だそうだ。

 つまり、話を戻せば。この化け物を含めて全員が提督をやっており、大和に至っては元帥だと聞いた。

 従来型の艦娘の影響で、一部の色と声が変わった。

 恐ろしいのは従来型は更に適合率があがると外見は変化するらしい。

 人間の魂が勝つと、もとの姿に戻れると言うことだそうで。

 大和は一見して大和だと分からない普通の女性だと言うし、鳳翔も見た目は変わらない。

 七海だけ、あと少し上がると元に戻れる。

 ……というのが、艦娘になれる原理。

 今の時代、こんな危険な事をする女など居ないと思われていた。

 形骸化した制度を用いて、七海が受けると言ったときは、大本営は頭がおかしいのかと笑った。

 どうせ意味などない。奇人の酔狂だ、と。蓋を開ければ化け物の再来。

 これはスゴいと掌返しであれこれ準備を言う前から勝手にやって、データを寄越せと任務を出した。

 貴重なモルモット扱いであったが、自分の願いが叶った七海は気にせず言うことを聞いた。

 で、一週間の間の半分はテストと訓練をずっとやっていた。

 なので、直ぐにでも戦える。

 基礎は全部、大和がわざわざ駆けつけて丁寧にレクチャーしてくれた。

 物珍しい七海に、大和と名乗る若い女性は言った。

「成る程ね。君も中々、狂っているじゃない。嫌いじゃないよ、私は。君みたいなおかしな子は」

 と笑って。失礼極まりないが、相手は凄く偉い人。我慢して七海も黙っていた。

 で、懇切丁寧に教わったのは、常識外、規格外の戦い方。

 艦としてじゃない。人として、艦の力を振り回すのだそうだ。

 故に通常の戦法は意味がない。独自のやり方で好きにしてみるといい。

 そう、言われた。

 故に、七海をもう一度よく見れば、顔立ちや背丈、身体はそのままだ。

 色と声と服装で第一印象が激変しており、一見すると夕立に似ている、様に見える。

 が、実際は髪型を適当に戻して見れば、何となく七海の面影はあった。

「司令官はまな板だもの!! お餅じゃないわ!!」

「……如月? 今のあたしは、運動苦手なあたしとは違いますよ?」

 クンカクンカと未だに堪能しているエロサキュバスが自信満々に叫ぶが、七海は怒る。

 流石にこの状況でそれを言うか。五十鈴が納得しているのが腹が立つ。

 ガシッと如月の頭をひっ掴む。

「あっ、司令官ごめんなさい、止めて痛いのはご褒美じゃないの、如月優しいのがいいの」

 アイアンクローをされると察して、必死に謝る如月。

 ため息ついて、七海は止める。ホッとする如月。

「今のあたしがやると、頭蓋砕けちゃいますしね。聞いての通り、戦艦引っ張るぐらいは朝飯前です。イタズラしたら今度からは物理でお仕置きしますのであしからず」

 さらっと恐ろしい事を言ってそれからこの選択肢を選んだ経緯も話す。

 如月と七海が起こした事件の概要を、全て彼女たちに、打ち明けた……。

 

 

 

 

 

 

 

 

「司令官。私は、納得できません」

 おおよその流れを聞いたあと、吹雪は初手で七海に抗議した。

 どこか悲しそうに、そして……悔しそうに。

 七海が何が出来ないと、聞いた。

「司令官の言うことは、聞いていて頭では納得しました。証拠の書類も拝見しました。嘘じゃないのは分かっているんです。然し……司令官。私は、如月ちゃんではなく、貴女が許せない。私の妹を、殺す様に迷わず命じた、貴女だけは」 

「…………」

 吹雪の言い分はめちゃくちゃだと、七海は思う。

 こっちが正しい、その判断に異論はないと言いながら、納得できないと、許せないと宣う。

「如月ちゃんは、苦しみました。私の妹が、如月ちゃんを殺そうとした事を、許してくれながらも、自分のせいではないかと……。如月ちゃんのことは、私謝らないといけないんです。所属が違うとはいえ、妹の不始末ですので」

 律儀、何よりくそ真面目過ぎて七海には更に理解できない。

 吹雪のせいではないのに、自分の責にする。関係などないのに。

「でも……司令官。ごめんなさい、無理です。貴女を憎まずにはいられない。私の妹が死んだのは己の環境と、向こうの提督が原因だと分かっているのに……逆恨みに近い、因縁すら感じています。いっそ、貴女も同じ目に合わせてやりたいくらいに、憎い……」

「そこまで分かっているのに、あたしに憎いと言うんですか。呆れた姉ですね、吹雪」

 淡々と、七海は吹雪に言った。吹雪も分かっている。

 今回は全容が分かれば、七海は別段異常ではないと。

 だが、吹雪はこう、言いたい。

「知ってますか、司令官。理屈と……感情は、別物なんです。そして私は、理屈で納得できるほど、大人じゃありません。今だって我慢しているんです。死んでも良いから、貴女を殺したい……。そんな破滅的な真っ黒い憎悪すら感じているんです」

「人間は理屈と知性の生き物です。感情を制御できないなら、小学生以下の駄々と大差ありません。身を弁えなさい吹雪」

 殺したいと言われているのに、七海は冷淡に言うのだ。

 何がいけない、逆恨みは止めろ、みっともない。

 姉妹が死んだ、自分の行いが関係している吹雪相手に、正面から堂々と。

 睨みあう両者に、ハラハラする大半。

 今にも殺しあいそうな雰囲気の一触即発。

 そんな中、一名が名乗り出る。

 

「……見てられないな。七海、悪いが私は吹雪の味方をするよ。今の君は酷すぎる。看過できない」

 

 響が吹雪の味方についた。

 意外そうに見ている吹雪に理由を明かす。

「悪いね、吹雪。君の考えに賛同する訳じゃないんだ。私はあくまで、七海の友人として、仲間として……そこのアンポンタンにお灸を添えたいだけ」

 と言うが、七海はやはり理解していない。

 なんの話かも、分かっていなかった。

「七海。君は他人の気持ちも、自分の印象にも、無関心すぎる。確かに大本営や君を悪く言う連中の事はそれでもいいよ。けど、私達は同じ鎮守府の仲間じゃないか。どうして、私達の気持ちや君への印象まで気にしてくれない? 私達は同じ場所で生きているんだ。気にしたっていいだろう? それとも、君は私達までどうでもいいと、そう言うのかい?」

「…………一理ありますね」

 確かにそれは不味い。理解するために、艦娘になったのだ。

 なのに、吹雪を蔑ろにしていい理由はない。

 と、響はそれを止めろと怒り出した。

「私達は人間だと言っただろ。なら、その無機質な対応を今すぐ止めて。理屈で考えないと君は何もできないの? それこそ、君の方が人間じゃない。マシーンだ」

「……よろしい。響、どうやらあなたは、あたしを挑発しているようですね」

 怒らせる様な事を続ける響に、七海は怒った。

 彼女は、七海を否定している。それが気に入らない。

「怒りはあるんだね。それ以外は、私達に向けないくせに。君は怒りしか知らない、ただの化け物」

 一種の事実。怒り以外を艦娘に向けない七海をそうやって嘗て彼女が言った言葉で罵った。

 響は謝らない。いつまでもこんな冷たい七海には、うんざりだった。

 艦娘になったんなら、ちょうどいい。

 彼女はああ見えて、理論で刺激されると直ぐ乗ってくる。

 自分の行いを謗られて、案の定怒った。

 響は文句があるなら、演習でも何でもしてかかってこいと更に誘う。

 彼女の性格はもう知っている。こう言えば、絶対に乗る。

 だが、計算外のことも起きた。

「ひ、響はやらせないわよ!!」

「司令官、何かあったら私に頼ればいいじゃない! 今回は胸を貸してあげるわ!」

「お、落ち着いて……落ち着いて欲しいのです!!」

 響の姉と妹まで参戦する。いけない、無関係の人が来てしまった。

 が、七海サイドにも援軍登場。

「吹雪……? 言いたいことは分かるけど、屁理屈言うのも大概にしなさい? 五十鈴も怒るわよ」

「司令官を悪く言うなら、如月が相手になるわ」

「あたしも、お姉ちゃんに味方する。お姉ちゃんは何も悪くない」

「うーん……睦月も七海ちゃんの味方かなぁ。如月ちゃんの恩人になるんだし」

「わたしも、今回は間違ってないと思う」

 五十鈴、如月、イムヤ、睦月、意外なことに五月雨。

 この面子が、七海についた。そして。

「七海ちゃん……。正しければ、何を言っても良い訳じゃないよ? 由良は少し、怒りました」

 静かに怒る由良がこっちについた。

 吹雪に賛同している訳じゃないようだが。

 ああ、不味い。響の想定以上に大事になった。

「……上等ですよ。どいつもこいつも、司令官に歯向かって……!! 全員ぶっ飛ばして牢屋に放り込んでやりますよ!! あたしも艦娘になったんですから、言葉じゃ気が済みませんッ!! 文句があるならかかってきなさい!! 全員血祭りにしてやるッ!!」

(ああああああああああ!? 想定外の大事になっちゃった!? 違うんだ、私と吹雪が彼女と戦うのに意味があるんだ!! 喧嘩じゃない、やりたいのは喧嘩じゃないのに!!)

 一人頭を抱える響。

 どんどん膨らむマイナスの連鎖。

 結果、初任務は、取り敢えず殺したい吹雪と気に入らない七海との、多分命懸けの演習に決定したのだった……。

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