君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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七海の中身

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何人も言われれば流石に気になる。

(あたしは頭がおかしいのですかね?)

 吹雪は医者にいけと言った。大淀も言った。

 響も五十鈴も、頭がおかしいと言うのだ。

 ……大丈夫だろうか? 仮に精神に異常を来す人間ならば、吹雪の言う通り二度と出てはいけない。

 尤もな意見に七海は気になる。不安になるではない。単純に気になる、程度の事。

 ……一度軍病院に行こうと、次の休みに彼女は少し軍医に診て貰うべく、出掛けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、後日。お医者に向かったあと。

(……リーチ目って冗談じゃないんですが)

 顔面真っ青の七海は軍医の言葉がぐるぐると頭のなかで回っていた。

 診断結果。一応、異常無し。但し兆しが見えてきている。

 前に精神医学の本で読んだ覚えのある病名の疑いあり。

 無害な部類の異常らしいが……既に実害が出ている。

 医者いわく、

「七海さんのこの他者に関しての無関心。これこそが最大の特徴です。他人に共感できない、他人の感覚が分からない、他人の感情に興味がわかない。纏めるなら、多くのストレスは格段に強いものの、同時に他者とのコミュニケーションを、自分から取ろうとしない、しても最低限、あるいはする理由がないと決め全く行わないという症状ですね。一番厄介なのは、本人がそれに困らないから、医者に来ないんですよ。実際、七海さんも周囲と隔絶を感じて初めて来ましたよね? で、変わろうとしているので今は問題無いんですけど……そのまま行けば完全にアウトでした。自覚なさっているだけマシな部類です」

 異常者一歩手前。崖っぷちで変わろうとして、漸くだ。

 医者の言う特徴は七海の性格その物で、ああ成る程おかしいわけだと納得した。

 実際困りはしないし、一人でも何ら問題なく今まで生きてきた。

 家族もそれが当たり前、学校も当たり前と受け入れていたので、気付かなかった。

 ……軍医は大本営に伝えたらしいが、返ってきた返事は、相手は道具だから気にするな。

 憲兵にも知らせておくので、トラブルがあったら素直に頼れ。艦娘に殺されないように努力しろ、と。

(……運営に支障が無ければ異常者も雇うんですかこの国は)

 仮にも軍人だろう。

 一歩手前のサイコパスを起用して大丈夫なのだろうか。

 艦娘を道具として、兵器として扱うゆえにサイコパスでも無関係と来たか。

 正しくはサイコパス一歩手前の異常者というか、狂人と言うか……。

(……あたしって、マジで頭がおかしい奴だったんですねえ……)

 揉めるのもよくわかる。おかしいのは七海だったのだ。

 だからといって、いきなり自分を変えるのは無理がある。

 頭がおかしいまま、七海は生きてきた。問題なく生活していた。

 軍医が言うには、別段人間社会でも困るレベルには達しておらず、人を殺したりなどのサイコパスとはまた毛色の違う、無害なものだとか。

 ただ、人間関係では大抵揉めるらしい。それぐらいの次元で収まる。 

 兎に角七海のような人間はあらゆるモノに興味がないので、下手をすると自分の生死にまで無頓着な場合もあるとか。

 要するに、害を与えるよりは、関わりを持たないタイプの異常者。

 つまりは七海その物だ。通う理由もないが、定期的に顔を出せと強いられてしまった。

(……面倒臭いですが、行かないと皆が……)

 これでも命を預かる司令官。頭がおかしいぐらいで逃げていたら、皆に笑われる。

 いや、どう考えても逃げられない。

 艦娘で司令官やっている七海がどこに逃げろと言うのか。

(……人生、詰んだ……)

 まだ大丈夫と言われて何の慰めになる。

 執務室、自分の机に突っ伏して死んでいる七海。

 お仕事は終えている。午前中に大半が終わっていた。

 秘書の由良が七海の様子がおかしいと、気遣って聞いてくる。

「提督さん……いいえ、七海ちゃん? どうかしたの……?」

 仕事ではなく、個人的に心配して訊ねるが。

 自分の上司がサイコパス手前の異常者だと言えるわけがない。

 真面目に殺される気がした。抵抗できるが、出来れば……吹雪の一件もあるので、やりたくない。

 人生初、相談というピンチを迎えていた。

(誰に言えばいいんですかこれ。憲兵さん?)

 憲兵は因みに、露骨に近寄ってくるなオーラを出している。

 頭がおかしい新設の鎮守府など居たくないと、異動届けを出しているとも小耳に挟んだ。

 建前上聞いてはくれるだろうが、多分追い払われると予想する。

 邪険にあしらって終わりではないか。無駄だろう。

(……はい、詰んだ。あたしと親しい関係はお母さんだけです)

 外部には連絡をとれないし、サイコパス云々も外には言えない。

 親族でも無理であった。どう足掻いても七海終了のお知らせ。

 いつも通りの理屈で破滅を理解した七海は、ぐったり死んでいる。

 顔をずらすと、ハイライトのない深紅の穴が由良をギョロリと見上げた。

「…………」

 なにも言わない。由良はビクッと後退りした。

 怖い。七海が初めて、完全に感情を消した状態で見ている。

 今までいくら起伏の薄い彼女でも、大なり小なり不愉快とかそういう物を出していた。

 なのに、今はない。何だろう、あの爬虫類とか両生類のような目は。

(えっ……? 由良ってば、また何かした?)

 おかしい。接し方は気を付けているのに。

 また地雷を踏んだのか? 然し、今回は七海は怒りすら見せない。

 黙って、仕事だけして、最低限話して、死んでいる。

(ううん? 何が起きているの……?)

 内心疑問符を浮かべる由良。

 七海は言えないことを初めて苦痛と感じていた。

 幸い、本当のサイコパスに至るとこの痛みすら感じずにどうでもいいで流すので、まだ七海は手前である。

 誰かに相談する。そんな当たり前すら出来ない七海の孤立は、加速して悪化していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 如月はどうだ? 彼女ならば何とか相談を……。

「んふふふふふ……司令官って、良いにおい……♪」

 ……一瞬でも、この脳みそまで蕩けたエロサキュバスに相談しようと思った七海がバカだった。

 真面目な話が彼女に出来るのか?

 ここのところ七海の私室に住み着いて、暇な時間は毎回抱きついて匂いを堪能する発情駆逐艦に。

 見ろ、このだらしない緩みきった顔を。完全にメスの表情じゃないか。

 恋人に甘える彼女か。などと思っても、ぬいぐるみ扱いの七海は黙ってなすがままにさせておく。

 辛うじて公私混同は避けているが、睦月と同室の筈なのに許可する前に勝手にお引っ越ししてきた。

 で、住み着いている。服のサイズも大差無いので、勝手に着ているし。

 たまに怒ると、泣きそうになるので、怒る気力も奪われ放置していたら増長してこの様だ。

 現在、七海は如月のぬいぐるみ。後ろから抱き締められて、うなじの匂いを嗅がれている。

 デフォで目が死んでいる最近の七海は、抗う気力すら湧かずに放っておいた。

(如月は何処を間違えたんですかね……?)

 お仕事はしっかりと毎日こなしている。練度一位は伊達じゃない。

 でも、プライベートの室内では常に七海にベッタリで、一緒のベッドで寝ている始末。

 七海もすっかり慣れてしまって、別に如月が居ても気にならない。

 元より週末はいつもこれがデフォルトだったので、それが毎日になっていただけ。

「如月……もう寝ましょうよ……」

「もうちょっと、もうちょっと時間を頂戴司令官」

「だったらベッドのなかで嗅げばいいでしょ……」

「もー……しょうがない司令官なんだから」

 呆れているのは此方なのだが。

 ようやく動いて、ベッドに連れ込む。

 如月はとても嬉しそうに、布団に潜っていく。

 今晩も一緒に眠る。直ぐ様寄ってきて匂いを嗅ぐ如月。

「如月はもう、司令官のお嫁さんが良いわ。一生匂いを嗅いでいたい」

「あたしにそんな趣味はございませんが?」

 もうこの子は色々ダメかもしれない。百合に目覚めている節がある。

 そんな変態的趣味はない。断じてない。

「そう? でも、あんなことあっても、如月は好きよ司令官のこと」

「……よくもまあ、女相手に臆面もなく言えますね。流石エロサキュバス」

 現状、好意的に見てくれるのは如月だけ。

 大抵、ほかの皆はすれ違いだ喧嘩だを繰り返している。

 思い返せば如月は初期から好意的に接してくれた。

 こんな七海でも、仲良くなりたいと。結果、悪化してここまで来たが。

 好きとストレートに言えるぐらいには、好いているみたいだった。

 あの事故も一緒に乗り越えた……というか、吹雪と揉めたのは七海だ。

 あの時も如月は迷わず味方してくれた。

(……信用、って言えばいいんですかね。これで発情してなければ相談できたのに……)

 プライベートでのエロさえ無ければ今すぐにでも頼っていると思う。

 今更気づく。七海は如月にはそれなりに信用、というか信頼的なモノはあるようだ。

 相談できた、と考えている時点で、少しは頼ろうと思っている。

 だからこそ、如月の言動は残念すぎる。

「エロサキュバスじゃないわ。如月は司令官のにおいも性格も好きなだけ」

「いや、性格が好きってあなた趣味大丈夫ですか?」

 なんと。如月は内面も好きだというのだ。

 こんなサイコパスを? なんで? 

 七海は大変驚いた。如月は逆に聞く。

「響ちゃんとか、司令官はおかしいって言うけど……おかしいの? 如月はそうは思わないわ。ずっと見てきたけど、確かに言い方はキツいし短気だし理屈屋だし素直じゃないけど。如月は見てたもの。向き合おうとしてくれたし、死なせないように努力してくれたし、人間として見てくれる。……知らない、司令官? 本当の意味で艦娘を人間として見てくれる人は……少ないのよ」

 真剣な顔で、如月は言う。憲兵は、所詮は違う管轄の人間。

 どんなに表面的には優しくしてくれても、やはり壁を感じるのだそうだ。

 一歩引いた場所から、極薄の見えない壁を挟んで接している。

 その言葉も、笑顔も、態度も。あくまで、艦娘としてしか見ない。

 半端な命として、扱っているだけ。戦う代理の兵器よりも多少マシな兵士ぐらい。

 どう見ても、人間には程遠い。

「散々揉めたわ。たくさん司令官は、皆と敵対してきた。けど、ずっとそれは同じ目線……人間として、対等に過ごしてきている気がする。司令官の言動は最悪だったと如月も思うわ。けど、その最悪は……他の、人間相手でもきっと同じよね? って言うことは、裏を返せば如月たちを言った通り、人間として見てくれている証拠。艦娘だから見下したり、同情したりしない。自然に、最悪なまま人間としてふれあってくれた。そして、最悪を改める今の司令官なら……後は上がるだけ」

 言動の最悪な部分は否定しない。

 けど、七海の接し方は、他者にも同じで、特別艦娘にたいしての区別も差別もなかった。 

 如月は、そう言った。

 七海の努力の方向音痴も、見ている如月には、ちゃんと届いていた。

 言うならば、七海の努力を寄ってきて傍で見ているのは、如月だった。

「如月は知ってるわ。言葉だけじゃない。行動だけでもない。司令官は、両方やってくれてる。艦娘に尽くそうとしてくれるじゃない。ピンチの時にも迷わず庇ってくれて、嬉しくない訳がない。……気がついたら、仲良しを越えていて……。そんなの、女の子でもホレちゃうでしょ?」

「……えっ? まさか、ライクじゃなくてマジもののラブ!?」

 まさかの展開。如月の好きは、愛情の好きだった!!

 親愛かと思っていたら、恋愛の方らしい。

 突発的ラブユー。驚愕の七海は思わず聞き直した。

 百合に目覚めている節があるじゃない、目覚めていた。

 頬を赤くして、如月は告白を続ける。

「大丈夫。司令官がおかしい前に、如月の方が断然おかしいから。でもいいの、自分の気持ちに嘘はつけない。だから、言っちゃう。司令官、如月は司令官を愛しているわ。大好きよ」

「あたしにそんな趣味はないって言ってるでしょう!?」

「無いならこれから目覚めればいいと思うけど? 案外、悪くないわよ?」

 ……嗚呼、これが類は友を呼ぶと言うのか。

 如月は、七海という少女に、艦娘にして司令官に、恋をしたそうだ。

 これ、サイコパスにホレていると見ていいのか。

 挙げ句には。

「そうね。仮に司令官が頭がおかしくても、如月は愛せると思う。自信あるもの。どんなに狂っている司令官でも、根本は如月の好きな司令官だって」

「……」

 一番驚いたのは、同性愛のはずなのに、理解者がいてよかったと言う謎の安堵。

 如月の気持ちには驚いたが、別に嫌な気分でもない。軽蔑もしない。

 自分も頭がおかしいからか。

 照れているのに、必死に言葉を紡ぐ如月が、可愛いと思ってしまう。

 七海はやはり狂っているのか。いや、同性愛でも気にしないのは多分ある。

 彼女に告白されても、可愛いとは思っても、いとおしい感情にはならない。

「…………そうですか。じゃあ、あたしも一つ秘密を明かしましょう」

 如月の告白に、返事は出来ないが信頼の証を見せると七海は言った。

 首を傾げる如月に、誰にも言うなと約束をさせてから。

 ……七海は、口を開いた。

 艦娘に初めて打ち明ける。

 いや、他人に初めて、弱点を曝け出す。如月を、信じようと思ったから。

 

 

 

「――あたしは、俗に言うサイコパスの症状があるそうです。精神異常者一歩手前、そんな女ですよ。本当に、貴方は……あたしを、愛せますか。如月?」

 

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