君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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報告会にて

 

 

 

 

 

 

 

 既に、七海は提督としては素人を卒業しつつある。

 自分の鎮守府の艦娘の特性は全て頭に叩き込んである。

 海域に出る深海棲艦の種類も記録のあるものは全部覚えた。

 と、なれば。

 次は、艦娘たちとどうやって、接していくかであった……。

 

 

 

 

 

 

 ある日、提督たちを召集しての会議があった。

 基本的には一種の報告会みたいなものだが、今回は荒れに荒れている。

 大体、階級は同じで七海は一つ上の中佐。数名中佐も集まっている。

 知り合いの皆は大半が少佐であった。

 が、ある中佐が顔を出していた例の島村提督に噛みついたのだ。

 会議が終わる間際、質問をする時間が毎回あるのだが……とうとう、そこで怒鳴りあげた若い男性中佐。

「島村貴様ァッ!!」

 それまで態度が悪くも黙って聞いていた中佐だが、質問の時間に入るや、机を両手で叩いて怒鳴った。

 驚く周囲に、憲兵が慌てて制止にはいる。が、彼は止まらない。

 二人がかりで無理矢理着席させるが、掴みかかろうともがいている。

「島村ッ!! この間の列島の奪還作戦、貴様何人犠牲にした!? 答えろォ!!」

 怒鳴り散らす彼だが、一応質問ではあるらしい。

 憲兵が宥めるが、怒り狂っていて聞いていない。

 渦中の男……割れた顎の厳つい筋骨隆々とした逞しいハゲの巨漢、島村は帽子を脱いで答える。

「ふむ……? 何を怒ってらっしゃるのかな厳島提督。それは先ほど報告したはずだが?」

「嘘を言うんじゃねえ!! 貴様と言う男は、解体しただろう、作戦終了後に!! 以前いた漣、涼風、高波の三名がリストから消えている!! 異動の記録も残ってねえ……つまり、貴様は殺したッ!! 命がけで戦った艦娘を、その手で!! なぜ平然としているんだ貴様という男はッ!?」

 ……艦娘の解体。

 各自の鎮守府では、不要となった、判断された艦娘は自由に解体できる。

 その権限を提督は自由に行使できるし、抵抗すれば無理にでも連れていける。

 憲兵は嫌がる艦娘を無力化も出来る装備もある。

 然し、それは彼女たちの死を意味する。七海ですら、安易には使わない。

 ……死ぬ、という意味だから。

「厳島提督。貴様は、他の鎮守府のやり方に口出しするのかね?」

 島村は呆れたように、厳島という中佐を見ている。

 バカを見ている目であった。明確に見下していた。

「聞けば、貴様はろくに戦果もあげていないではないか。そのくせ、気に食わなければ他者の流儀に口を出す……。フッ、三流だな」

「何をっ!?」

 嘲笑されて、憤る厳島提督。

 七海は喧しいのを我慢して、出されたお茶を飲みながら外を眺めていた。

 この喧騒などどうでもいいので、早く帰りたい。

 聞いていなどいなかった。

「なんだこの采配は? 戦うときに戦わずに撤退を繰り返し、深海棲艦の活動範囲を食い止める事すら満足に出来ていないが?」

「当たり前だ!! 俺達は侵略をしてるんじゃねえ!! 国防をしているんだ! 傷があれば撤退するのもおかしくはないだろう!?」 

 ぎゃあぎゃあ喧しい。七海は鬱陶しいものを見るように二名を見る。

 厳島提督には、赤松提督含め数名が加勢して、更に騒ぎ立てる。

 喧騒の度合いが増した。

 近くにいた憲兵に帰っていいかと小声で聞くが、同じく嫌そうな顔の女性は待ってて、と首を振った。

 島村は怯まずに的確に言い返す。理論的で、七海も色々と参考になる言い分だ。

 やはり、島村提督は間違っていない。時には、あるいはそれを求められているなら、応えるべきだ。 

 七海は幸い、狭い範囲の維持を任されている小規模鎮守府。そんなものは気にしないでいい。

 島村は大きな鎮守府の提督だ。しかも時に姫なども相手すると聞く。

 それを納得せずに食いかかる連中に、島村は。

「話にならんな。貴様たちの采配はあまりにも情にほだされている。これで国防を謳うとは、少しばかり恥を知ったほうが良かろう」

「何だと、島村ァ!!」

 最近中佐になった赤松も凄まじい剣幕で唸っている。

 今すぐにでも殺しに行きそうな雰囲気だ。

 初めて見る、赤松の剣幕。七海が知るのは気のよい兄貴的な感じ。

 随分とお冠のようだ。七海は一切加勢しない。気にしない。どうでもいい。

 他人の流儀にケチをつけるほど、感情的ではないし、幼くもない。

 それは、阿呆か子供のすることだ。七海は子供だが、この程度の分別はつけている。

「愚かしい、そして嘆かわしい。見たまえ、渋谷提督。候補生時代は独房入り最高記録の貴様ですら、真面目に取り組んでいると言うのに、彼らときたらこの有り様を国防というのだ。渋谷提督の意見を聞かせてくれないか? 艦娘にして司令官という稀な存在の貴様の意見を伺いたい」

 こいつ、七海を巻き込みやがった。

 しかも艦娘になっていることを知っているのか。 

 書類を寄越したハゲの言い分を聞くべく、一応真面目に書類に目を通す。

 数秒で言葉を失った。

「…………」

 なんだこの無様極まる報告。

 戦艦で駆逐艦を撃破? 軽巡が戦艦に攻撃?

 何を血迷っているんだこれは。素人よりもひどい気がする。

 過剰な火力によるオーバーキルを始めとして、明らかに勝てない艦娘が挑んでいったり、海域の詳細な情報を知らずに遠征に行って案の定失敗したり。

 目も当てられない惨状が記されている。七海は、大きな溜め息しか出てこない。

「はぁ……」

 候補生情報からなにを学んできたのか。

 全く活かされていない。寧ろ独断が入って悪化している。

 七海は独学に近いながら、それなりにやっている。皆も教えてくれる。

 だが、なんだこいつらの結果は。

「率直で宜しいでしょうか?」

「構わん。渋谷提督の言葉で言って欲しい」

 一応確認を取ると、何故か島村が答えたが、まあいいだろう。

 感じたことを素直でいいか? と本人もふんぞり返ってよいというので辛辣に行く。

「厳島提督。遊んでいるんですか、国民の血税で」

 凄まじいトゲのある言葉が飛び出した。

 七海は目を丸くする相手に、従来通りで指摘する。

「島村提督に文句を言うまえに、ご自身のこの有り様を改善してください。ふざけているんですか?」

「……何が言いたい、渋谷提督」

 腕を組んで不愉快を表す。

 かなりご立腹のようだが、それはこの指示を見てから言えと七海は思う。

 ならば、いつも通り理屈で徹底的に否定してやろう。ダメ出しもして、反撃できないようにしてやる。

 それから、数分に渡って七海の一切の容赦のない指摘と文句が飛んでいく。

 最初は不貞腐れている厳島提督だが、七海の言い分には非がないので言い返せずに、数分の屈辱を堪えていた。

 最後に、七海はこう締めくくる。

「あなたもいつか、誰かを殺しますよこの状態では。現場を知る唯一の提督のあたしが言うんです。この戦法は、あまりにも甘すぎる。何より、目の前に迫る艦隊に不用意に背中を向けるなど……正気の沙汰とも思えません。担当する海域の規模に対しての出現する深海棲艦の種類と割合の計算は最低限です。よくわかりますよ、この結果は。あたし以上に候補生情報を無駄にしている証拠です。行き当たりばったりでやっているようでは税金で遊んでるも同然。ご自重頂きたいのですが」

 痛すぎる指摘にぐうの音も出ないまま、論破されて厳島提督は黙った。

 赤松が塞き止めるように間に入って、緩衝材になる。

 七海は失言を申し訳ないと謝罪はするが、撤回はしない。

 それほど実際、この人物は口先だけだった。

「見るがいい。最年少の渋谷提督すら、厳島提督。貴様の手腕を疑っているぞ。まだ、私になにか言うかね?」

 島村提督は、そらみろと言わんばかりに胸を張っていた。

 やることをやらない奴に言われる筋合いはないと、そう言いたいようだ。

 で、七海に彼は言い出した。

「渋谷提督。先の事故では、ご迷惑をお掛けして申し訳ない。私の監督不行き届きが原因で、誠に迷惑をかけてしまった。遅れてしまったのだが、お詫びをさせていただけないだろうか? 私の鎮守府の装備の一部を譲渡したいのだが、どうかね?」

「それは大変有難い申し出です。喜んでお受けいたします」

 そういう話なら大歓迎だ。誰であろうが貰えるものは貰う。

 島村が切り出した話に乗る七海に、周囲は嫌悪感を見せている。

 艦娘殺しの提督が悪びれずに島村提督とつるんでいる。そう、見ているんだろう。

「然し、笑わせてくれるな厳島提督よ。いや、ここの大半の提督たちは、どうも艦娘という存在を過大評価している節があるな。全く、嘆かわしい限りだ」

 と、全体を呆れるような素振りで、一瞥する島村提督。

 哀れむように見られて、今度は別の提督が逆上して食って掛かった。

 またもや口論に発展する。一応、中立の提督もいるが迷惑そうだった。

 七海も中立で居たいのだが、島村提督に味方する優秀に入る提督たちも参戦して本格的に喧しくなる。

 議題は、艦娘は人間として扱うのか? 

 島村提督一派は道具として扱い、必要なときは殺してでも勝利を勝ち取る。 

 赤松提督や厳島提督は、艦娘は人間であり犠牲ありの勝利などあり得ない。

 平行線の議論は何時しか罵りあっていた。

(何とかは踊る、とはよく言いますが……全然進みませんねぇ)

 飽きた。この手の終わらない討論会は詰まらないし、時間の無駄だ。

 早く帰りたいのに、時間だけ延びていく。

 軈て、島村提督は再び七海に振った。

「ならば、双方の立場を兼用する渋谷提督の意見を聞こうではないか諸君。艦娘、提督、その立場を行き来する彼女の意見こそが尤も公平だとは思わないかね?」

 周囲の目線が一気に集中する。

 話を聞いてなかった七海はポカンとして、周りを見ている。

(なんでイチイチあたしに振るんですかこのハゲは!?)

 突然の振りに困る七海に、近くにいた別の中立派の提督が教えてくれた。

 七海の立場からして、この議題はどう見えるか、らしい。

「……は? 何を当たり前のことで言い争っているんです?」

 意味のわからない事を聞かれた気がした。

 なんて下らないことで言い争っているのか、実際七海には理解できない。

「……というと?」

 島村提督が促すので、ストレートに意見を吐き出した。

「そんなもの、個人で決めればいいでしょう。逆に聞きますが、一つでも重なる事案があるんですか? 海域や鎮守府の規模、所属する艦娘の数、それぞれの資材事情、個人の主義主張。そう言うものは違うのは当たり前です。なら、それによって左右される艦娘に対しての接し方、扱い方などどうであろうが、問題などない。統一など無理な話です。大本営の軍規に明確な規定はありません。どう扱おうが、ケースバイケース。それで良いでしょう。違いますか?」

 客観的な意見だった。

 成る程、と島村提督一派は納得する。

 七海の指摘通り、一つとして重なる事案などない。

 各自の鎮守府による事情は違う。なら、付属する艦娘の扱いに差があってもおかしくはない。

 イチイチそんな決まってもない事で言い争う暇があるなら、自分の行いの反省でもしていろ。

 意訳するとそう言うことを七海は皆に言った。やることをやれ、という理屈で。

「……納得いかんぞ。俺は渋谷提督の言い分は無慈悲すぎると思うが」

 一部の提督が反論するが、七海は想定していた。

 直ぐ様、聞き返す。

「納得いかない? それは要するに、ご自分の感情論をお認めになると? 単に気に入らないから因縁をつけた、とあたしには聞こえるのですが」

 七海はその言葉を真っ向から否定する。

 提督個人の感情的な話など聞いていない。

 提督ならまず、己の義務と責任ぐらい果たせといい放つ。

 任務を果たして、義務と責任を全うしている人間にいう前に自分を律せよと。

 七海は七海なりに、彼らは彼らなりの方法でそれを行っている。

 対して、文句を言う連中はどうか? 

 半端な同情で戦うときに逃げる、偉そうに言う割には結果を出さない。

 口だけの七海以下の惨状を見て国防と宣う。

「生憎と、あたしは他の誰がどう扱って居ようとも、関係ありません。自分の事で手一杯なので、自分の任務に集中します。他の方々も、ご自分のお手元に集中した方が宜しいかと。口を動かす前に、結果を出していただきたいものです」

 つまり、文句をいう前に自分のやっている事を何とかしろ。

 七海は、そう言った。七海はある程度の結果は出しているし、皆もそれに文句はない。

 他人にどうでもいい七海からすれば、心底下らないことで喚いている。

 そんなもの、個人の好き勝手でいい。いちいち口出ししているなら自らを改めろ。

 本当にそう思う。彼らは一様に黙り、渋い顔で七海を見ている。

 同時に、島村提督一派は七海の客観的意見に拍手すら送っていた。

「素晴らしい。お若いながら、見事なご意見でしたぞ」

「冷静な分析だな。うむ、良い判断だと思う」

 艦娘擁護をする提督よりも、軽視する提督の方が七海の意見に賛同する。

 七海は基本的に他人はどうでもいい。ゆえに、噛みつく理由もわからない。

 自覚しても、この場合は別にいいと思う。なにせ、真面目にわからない。

 多分、理解しなくてもよい連中だろう。

「ふむ……妥当で、理屈的にも分かりやすい意見だったな。流石、艦娘と提督の双方を担う渋谷提督だ」

 島村提督に褒められても、正直嬉しくない。

 荒れたせいか、一部がこれ以上揉める前に議論を打ち切って、報告会は強制終了。

 三々五々、互いに文句を小言で言いながら撤収するなか。

「渋谷提督」

 帰り支度をしていた七海に厳ついハゲが近寄ってきた。

 見上げる巨漢。白い軍服が窮屈そうな体躯は最早ゴリラか。

 声をかける島村提督は、七海に折り入って相談があると言う。 

 一応伺うと、先日吹雪が異動した事を報告で聞いて、島村提督はこう、切り出した。

「今、丁度我が鎮守府に役に立たずの腐っている駆逐艦が二隻あるのだが、此方では戦力にならぬゆえ、引き取っては貰えないだろうか? 戦力不足では大変だと心中、お察しする。国民の血税を無駄にするわけにもいかぬ。役に立つかは分からぬが、是非そちらの戦力の足しにして頂ければ幸いだ」

 手薄な戦力の補充に、腐っている駆逐艦を寄越してくれると言うのだ。

 非常に魅力的な提案に、七海は受けた。速攻だった。

 解体されるよりも戦力になるなら、受けとりたい。

 七海の好意的な反応に、島村提督は厳つい表情を初めて崩して笑った。

「そうか。こんなのがお詫びになるか分からないが、何かあれば私は助力しよう」

 と、適当に約束をしてから去っていった。

 七海もお土産が出来たと、皆に報告をするのが楽しみであった。

 戻っていく七海が聞いた、駆逐艦の名前は。

 

  ……山風と、弥生という駆逐艦であった。

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