君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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戦艦の悩み

 

 

 

 

 

 

 

 ある日、司令官は聞いてしまった。

「私、何時もドックにいますよね……。やっぱり欠陥戦艦なのかしら……?」

 とても沈んだ声だった。司令官は大変驚いた。

 彼女が何だか大変そうになっている。どうにかしないと。

(何事か知りませんが解決しなければ)

 司令官七海、始動。速やかに解決を目指して動き出す。

 はい、という訳で次回の提督の暴走の始まり、始まり……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「由良。あたしも頑張るので由良も頑張って改二になり、瑞雲使ってください」

「無茶を言わないでっ!! 由良にも限度があるの!! ハードな練度上げは無理です!!」

 彼女の悩みは、負担が大きいからかと思った。

 なので由良に相談した。

 彼女は軽巡だが、改二になると水上攻撃機と水上爆撃機が使えるんだそうだ。

 頑張って如月と同じくハードコースに突っ込むと言うと全力で嫌がってくる。

 執務室で計画書を見せると、部屋のすみまで逃げた。

「エロJKもこれ以上は無理って逃げました。扶桑はこれ以上負担を増やすのは性能的に無理です。二人しかいない戦艦ですので、ここは代わりに由良を地獄に落とします」

「止めて!? 由良にだって事情はあるのよ!?」

 出た、七海のハードコース。

 如月の時に行った、無理はないが毎日死ぬような特訓と実戦に駆り出される地獄の日々。

 今は七海も艦娘だ。なので演習で手っ取り早く、『本気を出した七海』に、追い回されるのだそうで。

 どうせ死なない。殺す勢いで戦う。で、練度あげる。

 短絡的な指示で、確かに効率は良いし体力的にも余裕はある。

 ……精神的な余裕は考慮されない。スパルタ式のようだ。

 ここの鎮守府もそろそろ改二になる艦娘も増えてきた。

 未改造なだけの五十鈴を筆頭に、川内も近いし睦月も近い。

 衣笠に至っては練度は既に超えている。ただ、古鷹に合わせたいのでまだやってないだけ。

 羽黒も良い感じで上がってきているし、由良も何だかんだそろそろ60にも近い。

 唯一の潜水空母ももういるし、暁ですらいい加減頑張れば行けそう。

 事情あって、響のみ例外。人には色々理由があるのだ。

 低いのは現在トラウマ克服中の山風と弥生ぐらい。

 遠征には頑張って出ているので、二人も仕事はしていた。

 如月は言うまでもない。既に75以上の高い練度だ。

 イムヤも70近くまで上昇している。

 問題は、戦艦姉妹だ。山城、53。扶桑、56。 

 頼りの戦艦は、他の艦娘よりも低いのだ。

 理由として、山城はネガティブが強いせいで、ミスると落ち込み、更に連鎖する。

 扶桑がいれば頑張るのだが、扶桑は山城の巻き添えを受けて毎回大破して帰ってくる。

 七海は一切文句を言わないのが逆にプレッシャーになっているのか、扶桑も申し訳ないように萎縮している。

 確かにお魚退治が多い海域だ。戦艦である姉妹にはやりにくい。

 だが、七海はそれをカバーするためにあれこれ工夫もしていた。

 何処から持ってきたのか、例の計画の恩恵だろう、試製晴嵐を幾つか配備してくれた。

 更にはソナーも装備しているし、お魚退治が出来ないわけはない。

 だが、戦艦の花形は砲撃による殴りあい。

 それも任せているせいか、どっち付かずの状態が続いており、そのせいもあると七海は言う。

 つまり。

「山城は悪くないんです。あたしの采配のせいですので」

 一切の責任はないと断言して、七海は自分の責任だと言い切る。

 だから、二人が専念できるように、由良にも代わりにお魚退治を押し付ける。

 因みに七海は知っての通り、全然お魚退治は出来ないので、戦艦殺しをメインとしているが、彼女もしょっちゅう大ケガしているのは言うまでもない。

 暴走して撲殺したりしていればこうもなる。

 彼女も負担は大きいのである。

「いや……でも……」

 お魚退治は五十鈴の専門じゃ、と由良は言い訳を懸命に探す。

 本音は、暴走している七海は恐ろしく強いのに加えて異様に怖いので相手にしたくない。

 砲撃を全部回避して、暴力で襲ってくる女子高生など誰が喜ぶ。

 殴る蹴る、踏みつける投げ飛ばすどつく噛みつく締め上げる叩きつける。

 挙げ句にはギブをしても聞いてないのか、大破判定が出るまで容赦なく追撃する。

 踏み倒して、至近距離からの連装速射砲による顔面を狙った攻撃は泣きそうになった。

 というか、マジで泣き叫んでいた由良。

 二度と嫌だあんな地獄は。彼女とのタイマンの演習だけは避けたい。

「…………そうですか」

 七海は何時も通り微妙に微笑みつつ、必死に嫌がる由良に免じて許してくれたようだ。

 ホッと胸を撫で下ろす由良。

 ……だが。

 

「じゃあ五十鈴と一緒に地獄行きです」

 

「!?」

 

 五十鈴を巻き込んで共倒れしただけであった。

 強制連行。言い訳して逃げたので更にお仕置き追加。

(い、いやああああああああーーーーー!?)

 内心血相を変えて悲鳴をあげる由良。

 ダメだった。話を聞いて尚、却下。

 由良は物理で逃げようとしたが結局捕まる。

 そして、綿密に立てられた地獄の一週間を、なにも知らない五十鈴と共に過ごしていく……。

 

 

 

 

 

 

 

「由良殺す」

「……何度も謝ってるでしょ。もう、許してよ五十鈴……」

 一週間後。

 朗らかな彼女にしては珍しい本気で悄気ている由良と、殺気立った五十鈴が腕を組んでキレながら廊下を歩く。

 改造を受けて二人とも見事に改二に至った。思い出したくもない一週間だった。

 狂犬に毎日追い回され、何度もあの世に送られかけた。

 五十鈴は怒って反撃して、まさかの二度勝利していたが、由良は全敗だ。

 服装も改二にするべく、七海が何を血迷ったのか夜なべして用意していた。手縫いだそうで。

 サイズは五十鈴に聞いていたと言うが、五十鈴はなんの話かも分からずに答えていたそうだ。

「なんで七海に主導権奪われてるのよ!? あの娘は言えば聞くとは言ったけど、理屈で言えって言ったじゃない! 言い訳なんかすれば当然こうなるわよね!?」

 勢いに負けて流れされた由良の敗北。五十鈴もとばっちり。

 必要なことかもしれないが、本質は山城が元気ないから代わりの仕事を頼まれること。

 適当に言えば痛い目にも遭わずに済んだのに。由良は本当に七海の扱いが未だに下手だ。

「うぅ……ゴメン」

 説教される情けない妹、由良。

 落ち込んでも仕方ない。おかげで改二になれただけ、良しとしよう。

 お祝いとお詫びに、七海が何やらお忍びで買ってきた物を奢ってくれるらしいし。

 で、今その呼び出しを受けて執務室に来たのだが。

「あ、来ました? どうぞ、これ」

 七海は何かの支度をしていた。

 ドンッ! と机に巨大なケーキが置かれていた。

 労いの限定ホールケーキ。ちゃんと二人の好きな味だった。

 これは、知っている。

 いつぞや食べに行き損ねた一日20個限定の老舗洋菓子専門店のケーキ。予約をしてくれたらしい。

 ただ、デカイ。……直径25cmは下らない巨大なショートケーキとチョコケーキ。

 最悪皆で分けて、と死んだオッドアイで七海は告げ、自分はさっさと仕事に向かっていった。

 ……唖然としていた二名は、辛うじてお礼は言ったが、七海は気にせず行ってしまった。

「……食べろと? 五十鈴一人で、このサイズを?」

「疲労回復には甘味って、絶対知識だけで選んだよねこれ」

 一応皆にもと言うぐらいにはおかしいとは思っていたんだろう。

 しかもオマケなのか、コーヒーも一緒になっていた。

 普段二人がコーヒーを飲むのを観察していたか。

 ……それはいい。問題は。

 200gも入っていないドリップで、お値段6500円とか書いてあるんですが。

「……あの娘、自腹?」

「多分……」

 高いものは美味しいとでも思っているんだろうか。二人は呆然としていた。 

 お言葉通り、皆さんで食べることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……提督が、私を?」

 急遽開かれた執務室のお茶会。

 最高級限定ケーキをただで食えると聞いて、暇なやつは喜んで駆けつけた。

 無論、そこには件の山城もいた。彼女は強引に誘ってきた。

 由良が事情を説明すると、ため息をついて山城はぼやく。

「原因を聞きもしないで早とちりして……。いやまあ、私が苦手意識あるから気遣っているのだろうけど」

 負担軽減を由良に押し付けたと言われて、山城は困惑しながら謝った。

 甘いもの大好きの空母や駆逐艦たちがはしゃいで食べているなか。

 一画の重巡と軽巡と山城はシリアスになっていた。

「じゃあ、原因違うの?」

「違います。ただの自己嫌悪ですよ」

 五十鈴が聞けば、山城は彼女が居ないので、コーヒーを飲みながら白状する。

「私、問題起こして飛ばされたんで……正直、姉様よりも先に解体とかあり得るんじゃないかと思ってたの。今考えれば、渋谷提督が解体なんかするわけないんですけど」

 そこは一応、信用しているようで。

 扶桑は黙って、妹の話を聞いている。

 山城は大きくもう一度、ため息をついた。

「いえ、ぶっちゃけ皆さんだから言うけど、申し訳ないと思ってるの。仮にも姉様共々唯一の戦艦なのに、この体たらくで。提督が代わりに日々の殴りあいをしているのは知ってるし、そのせいで毎回大ケガしているのも分かってる。だけど……何でか、自信がない。出ないのよ。焦るとミスる。それを取り返そうとして更に繰り返す……毎度こうで。よくもまあ、あの娘は文句を言わないわ。負担を増やしているのに」

 悩み事だったのだ。情けない自分に対する嫌悪を、七海は何処かで聞いたのだろう。

 それを勝手に解決するべく、由良と五十鈴の姉担当二名を贄にした。

 また話を聞いていない。いや、相談は由良にはしたが本人には聞いてない。

 多分、聞いてもはぐらかすと思ったのだろうと由良は思う。

 俯く山城の表情を、湯気を立てるコーヒーの水面が映す。

 色通りの、暗い表情であった。

「どうすれば良いのかしら。私、戦艦としての自信が無くなってきてて。姉様は巻き込むし、被害は拡大するし、本当にここに居て良いのかなって……」

 山城なりの悩みは、七海には分かるまい。

 自信のなさ。そんなもの、異常者の七海に在るわけがない。

 彼女は自信などの感情を持っていないだろうし、ネガティブにもならない。

 機械は決して、浮き沈みはしないのだ。常に平坦。上下はしない。

 今回は気遣っているおかげで、不用意に刺激することは無く、被害は軽微だった。

 精々二名が地獄を見て改二になった程度。必要経費と見れば、被害はないに等しい。

 こういう励ましは、七海にはきっとできやしない。

「んー……五十鈴は所詮軽巡だから、戦艦の悩みは少ししか分からないけど」

 五十鈴にもそういう悩みはない。何せ常に自信のあるのが五十鈴。

 こういうのに共感できるのは……。

「……少し、分かります。わたしも、自信はないし……」

 羽黒とか。

「私も時々、七海さんの負担になってないか、不安にはなるよ。……重巡の中じゃ、あまり強くはないって自覚はあるから」

 古鷹とか。

 やはり、比べられるのを好きではない艦娘ぐらいなものか。

 低性能を言われると古鷹も気にするし、羽黒は弱気な性格だし、指摘されれば悩むだろう。

 けれど、七海はそんなことはしないだろうと二人は言うのだ。

「大丈夫だと思います。そういう意味じゃ文句は言わないと思うので」

「うん。七海さんは最近じゃ怒ることも減ったし、多分気にしてないと思う」

 山城はポカンとしていた。

 性能を気にしない。何故かと言えば。

「あ、多分それは山城さん、頼ってるからじゃない? 戦果を出せないのは自分の采配だって、七海ちゃん言ってたわ」

 山城には責はない。あるのは自分の問題だと、七海は言っていると由良は告げる。

 益々言葉を失う山城。てっきり、悪態の一つでも飛んでくるかと思っていたようだ。

「悪態ねえ……。言ったが最後、五十鈴が七海をボコボコにするけどね。ま、理屈的な娘だから、余程じゃない限りは言わないわよ。そこまで七海はバカじゃない。……バカをするのは、こういうケーキの一件とかだけ」

 相変わらず一つ抜けている七海は、真剣な部分は間違えない。

 暴走もするし、後始末はこちらになる。

 然し、決して艦娘を貶すような真似は今はしない。

「あの娘は山城さんの気持ちはわかんないだろうけど、解決しようとしてはいた。まあ、この様だけどさ。だから、あんまり嫌わないであげて。それなりに、おかしいかもしれないけど、頑張ってるから」

 苦笑いして五十鈴は言った。七海は山城を見捨てないし、悪くも思わない。

 思うような頭がない。そういう意味でも彼女はおかしいから。

 山城は軈て、呆れているような表情で皆に言った。

「……そうですね。努力します。そこまで言うなら、受け入れるぐらいには」

 山城も、七海の事は少しは認めようと思う、といってくれた。

 そこには心底呆れていたが。

 五十鈴はホッとする。七海の暴走が今回は、あくまで今回は不発に終わったことを。

 自分の被害は今回は目を瞑ろう。改善されたので、それに免じて。

 七海が知らぬ間に一つ、和解の事案ができていた。

 戦艦山城。一応、七海を信じてみることにしたのだった……。

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