君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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春雨の着任後

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その話は、瞬く間に広がっていった。

 バカが一名、姫クラスの深海棲艦と和解して、鎮守府に配属されたと。 

 命知らずの女子高生、渋谷七海。その人が、巷を騒がせる姫を配下に加えた。

 部分的にしか知られない噂は、七海の悪評を更に肥大化させた。

 とうとう、某提督よろしくの扱いで、裏切り者とすら言われる始末。

 周囲も評価に、困惑しているが……。

「言わせておけばいいんですよ。勝手な妄想です」

「……あんたって奴は……」

 そう。七海にこんなものは通じない。

 こいつは頭がおかしいので、他人の評価には無関心。

 正式に配属された春雨に何の文句があると、開き直っていた。

 秘書、五十鈴は呆れていた。作戦を立てていたのに、七海は何と和解して連れてきたのだ。

 本人が艦娘であるという証拠を提示した上で、翌朝混乱する彼女たちに当時、こう言った。

「し、深海棲艦!?」

「艦娘です」

 彼女の隣でビクビクしている春雨を一見して、皆は困惑した。

 七海がとうとう錯乱したか、とも思ったが。

 冷静に、書類と電子のデータを見せて、告げた。

「いや、どう見ても駆逐棲姫……」

「春雨です」

「……だから、姫」

「駆逐艦、春雨です」

 何度聞いても艦娘の春雨、としか言わない。

 五十鈴がふざけるなと怒っても、七海はずっと繰り返す。

 艦娘。つまり、人間。手を出したら怒る。そういう態度で。

「あ、あの……わたし……」

「……喋った!? 聞き取れる言葉で!?」

「……毎回そこなんですね……」

 で、春雨がしゃべりかけると驚いて飛び退く。

 途方に暮れる白い春雨。これは、すれ違う訳である。

 艦娘同士ですら、これだ。分かるわけがない。

 大半が忌避的な反応を見せるのに、こいつは違った。

「ふははははは!! ここで会ったが何とかだ!! 覚悟しろ、駆逐棲姫ィッ!!」

 リベンジを渇望していた川内だった。

 突如執務室に乱入して、指示を待っている春雨を襲撃。

「きゃああああ!?」

 悲鳴をあげて逃げ惑う春雨を追い回す忍者。

 怖がっているのに、調子に乗っている。

 尚、七海の前で仕出かしたのは大きな過ちだった。

 無言で立ち上がり、

「いやー!!」

 と叫んで割り込んで、手刀で川内を切り払う。

 追い回していた川内のうなじに直撃して、

「ぐわー!?」

 川内は断末魔の叫びをあげて倒れ、気絶した。

 一撃必殺。無情な七海さんの折檻により、哀れ川内さんは一発失神。

 某忍者漫画のように倒された。

「俳句は詠まなくて宜しい。介錯は済みました」

 慈悲はない。冷たい視線の七海が下す、審判の厳罰。

「司令官さん!? あの、骨が折れたような音が聞こえましたが!?」

 心配して助け起こす春雨。なんて優しい娘なのか。

 白い肌が血の気が失せて真っ青だった。

 まださん付けだった彼女に、この忍者は実は特殊な訓練を受けているので気にしないでいいと七海は適当に誤魔化す。

 五十鈴は呆然と眺めていたが、春雨という艦娘は手元の証拠も含めて間違いないと判断した。

 害意はない。無害な艦娘だと。

 大体、殺すつもりの七海が、何の保証もなく深海棲艦を連れ帰る訳がない。

 七海を信頼するなら、特に問題はないと納得した。

 フォローは、当事者の由良もしてくれたので、割と直ぐに混乱は落ち着いた。

 ……艦娘の方は。

 問題は憲兵が誤解して、七海を反逆罪で捕まえようとしたときは驚いたが。

 一度真面目に捕まったが、これが何と桜庭元帥に伝わってしまった。

「……そこの憲兵。階級と氏名、今すぐ言いなさい。私の決定に歯向かったわね?」

 キレたらしく、パニックを起こして捕まえた憲兵を呼び出して、クビにすると言い出した。

 七海が緩衝材になり、そこまでしなくていいと抑えたおかけで難を逃れたが、それ以降憲兵に礼を言われて、謝罪もされた。

 早とちりをしたのは向こうだ。

 正式な命令を無視したとして、以後目をつけられているようだが。

 で、大騒ぎにはなったが無事に解決。後日、改めて着任した春雨を七海は歓迎している。

 周囲に三名、侍らせて。

「えぇ……」

 春雨は何かよくわからない。

 着任した当日。執務室にて。

 待っていた七海は、微笑んでいるが。

 左腕には如月が嬉しそうに腕を組んで、右腕の裾を指先で摘まんでいる怖がっている弥生、後ろには隠れて此方を警戒する姉妹の山風がいる。

 どういう関係なのか、七海に聞くと。

「如月は司令官のお嫁さんよ」

「えっ!? この年でご結婚を!?」

 ツッコミはソコじゃない。

 春雨もなんだかんだずれていた。

「してません。ただの……そう言えば何でしたっけ? それに迂闊に言い触らすなっていってるのに、何してるんですか如月」

 曖昧な関係のまま、ここまで来ている。

 その事に気づいたが、今はそれじゃない。

 何が嫁か。嫁などいない。未婚である。

 大体女性同士で結婚などできるか。

「だって……司令官は春雨さんには優しいし……。如月だって、妬いちゃうわ」

 頬を膨らませてかわいらしい抗議をする如月。

 七海は苦笑して謝り、宥める。

 ……つまりは、そういう関係らしい。恋人的な。

 人の色恋には色々あると春雨は流すことにした。

 あと二名は……何だろうか。

「妹と娘です。弥生が妹、山風は娘」

「娘ェ!?」

 何を言っているのだこの司令官は。

 言うに事欠いて娘と来た。実際、

「ま、ママに近寄るな……深海棲艦!!」

 と、敵意剥き出しで唸る山風。隠れたままだが。

 春雨の姉妹に当たるのだが……随分と警戒されていた。

 弥生はある程度受け入れてくれたのか、何も言わないが……。

「あの、一応わたし……艦娘で……」

「…………」

「えぇ……?」

 ベーッと舌を出された。そして隠れる。

 酷い対応であった。子供か。

 春雨は困り果てるが、七海がそういうことをするなとたしなめて、改めて。

「周りが何を言おうが、あなたはうちの艦娘ですよ春雨。人間として、分け隔てなくあたしは接します。安心してください。ここは、あなたの帰る場所ですから」

 先にいた鎮守府では死亡扱いで除籍。

 戻る場所がない春雨は、せめて彼女ならばと思って桜庭に懇願した。

 結果、それは正解だったようだ。彼女はここに居ても良いといってくれる。

(わたしは……ここに居られる……)

 受け入れてくれる場所は少ないだろう。

 この身は深海棲艦と言われても否定できない身体。

 なのに七海は人間として扱うといってくれる。

 よい人であった。そう、春雨は思う。

 疑い無く信じてくれる、数少ない提督。

 姉の魂を宿すという彼女、七海と共に行こう。

 春雨は決めた。受け入れくれた彼女に報いる戦いをしよう。

 話を聞いて、春雨を信じてくれた彼女のために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、着任した春雨だったが。

 翌日、嫌な知らせが入る。ある提督の急な訪問だった。

 当日の朝。いきなり、訪ねたいと言い出して連絡を寄越した。

「ひぃ!?」

「嫌……死にたくない、いやぁ!!」

 聞いていた弥生と山風がパニックに陥った。流石の七海も顔をしかめる。

 だが、先方がどうしても言うのだ。邪険にあしらうのも感じが悪い。

 七海は娘と妹を自称嫁に託して、誰にも近づくなと言って、通すことにした。

「七海ちゃん、由良も一緒に居ようか?」

「頼めますか。五十鈴には、皆を任せたので」

 艦娘たちが異様に警戒している。

 当然だ。彼は、艦娘の天敵であり、嫌われるを通り越している。

 由良が同席すると言うので無礼をするなとだけ言いつけて通した。

 七海に、娘と妹を任せた提督。

 島村の急襲だった……。

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 厳つい筋骨隆々の巨漢が、白い軍服を纏い、来客のソファーに深く腰かける。

 手元には、桜庭が用意した正式な伝令の書類と、端末を見せている。

 此度の噂の真意を確かめるべく、彼は無理を言って来たらしい。

 先程から、単刀直入に聞いて資料を拝見している。

「渋谷提督。此度の一件、私は気がかりがあるのだ。疑いたくはないが、貴様に寄越された資料を見せては頂けないだろうか? 無論、元帥殿には話を通しておいた」

 桜庭が事前に秘密に連絡をくれた。

 怪しんでいる鬱陶しいハエがいるから、適当に相手して追い返していいと言われた。  

 桜庭は艦娘を擁護する派閥の筆頭。真逆の島村を快くは思わない。

 だから、話を合わせて最悪追い返して良いと。後始末はしておくといってくれたのだ。

 七海はその辺は全く興味がないので、嫌そうに見ている由良を尻目に、考え事をしながら待っていた。

 数分かけて、押し掛けてきた島村はゆっくりと顔をあげた。

「……ふむ。やはり、思っていた通りだ。渋谷提督は筋を通している。ありがとう、これで疑惑は晴れた」 

 何やら不愉快そうに、七海ではなく違う相手に対しての怒りを浮かべていた。

 何事か一応聞くと。

「此度の一件、周囲のバカ共が貴様を……いや、流石にこの呼び方は失礼だったな。貴女を疑っていたのだ。私はそれを確かめに来た。妙な事をして、深海棲艦を大本営に認めさせたのではないかと。裏があると言っている者が多くてな。私はその代表として来たのだが。……何と愚かな。元帥殿の厳命を受けての任務に、奴等は何を言い出すのかと思えば……渋谷提督を、人類の裏切り者だと!? 敵に国を売った売国奴だと!? ふざけるんじゃないッ!!」

 拳を作り、大声をあげて机を乱暴に殴った。初めて見る、島村の怒り。

 それは、七海ではなく。七海を疑った、多くの提督たちへだった。

「何という侮辱ッ!! 何という恥知らずッ!! 命を懸けて戦場に出る防人を奴等は後ろ指を指して陰で嘲笑ったのだ!! 許せぬ……私は、情けなさよりも怒りが沸いてくる! 渋谷提督に対して、言うに事欠いて売国奴!? ああ、心底腹が立つ!! 渋谷提督よ、この一件、当事者には動きにくかろう。頼む、私に任せてもらえぬか!? 貴女を侮辱した者を、野放しには出来ぬ!! 我慢ならん、全員裁きを下さねば筋が通らないッ!!」

 何やら完全にご立腹で、怒り狂っていた。

 ポカンとする由良に、七海はどうでもよさそうに何を怒っているのか理解できない。

「……何か、お気に障りましたか?」

 一応理由を尋ねておく。七海は周囲に関心がないから、自分が陰口を言われても気にならない。

 普通は、島村のような反応をするのが当たり前なのだ。

 落ち着くようにたしなめる。彼は、深呼吸をしてから、声を荒くした事を謝罪した。

 そして、異なることも詫びを入れた。

「私はな、渋谷提督。偉そうに言っておきながら、貴女を見くびっていたようだ。深く、お詫び申し上げる。型破りな者を忌避する風潮の国とはいえ、前代未聞の姫との和解という、偉業を達成した貴女を、微塵でも疑ったことを強く恥じている。自分に真似できない事を、妬んでいたのだろう。己が情けない」

 資料には、春雨が艦娘であることは余計な混乱を招くとして秘してある。

 島村の視点では、七海はその辺にいる駆逐棲姫と和解した様に見えていた。

 成る程、確かに島村も疑うわけだ。

 七海は客観的に考えて仕方無いと言うのだが。

「貴女も防人の一人であり、同胞であると言うのに……何故、嫉妬などという見苦しい感情を見せてしまったのか。私は、貴女に何度詫びを入れても許されない事をした。だから、償いをさせてほしい。奴等の始末は、私が引き受けたい」

「……お願いしても良いのですか?」

「ああ。任せてほしい。私の全力で、貴女への侮辱をしたものを、地獄に叩き落として後悔させて見せようぞ!!」

 何やら自分を許せないようで、面倒なことを片付けてくれると言うので頼んでおいた。

 彼は大船を乗ったつもりで待っていてくれと豪語する。

 そんな大事なのだろうか? 七海は興味すらないが。

「然し……渋谷提督。まさに、貴女は枠に囚われない自由な戦いをするのだな。素晴らしい才能だ」

 そして、うってかわって上機嫌、自分のことのように七海を誉めだした。

 何がしたいのか。何しに来たのかこのハゲ、と内心七海は思う。

 由良も聞きあきたような表情で見ていた。

 鬱陶しいので早く帰れと思うが、島村は聞いてもいない事まで喋り出す。

「貴女にも戦う理由はきっと、あるのだろう。私もそうだ。私はこの国が好きだ。この国の全てを愛していると言っていい」

 ……不意に。気になる事を言い出した。

 この国の全て? それは、どういう意味か。

 七海は少し掘り下げてみた。島村という男の価値観に興味が出たのだ。

 すると。

「……強いていうなら、感謝だ。私という男の人生は、この国……否。人々、文化、歴史。それらの積み重ねによって、育まれた物だと自負している。私の知らぬ先人が懸命に重ねてきた物が、今日の私という男の全てを司ると思うのだよ。感謝、その一言で言えば済むのだが……語れば止まらないゆえ、簡単に纏めるが。それらを蹂躙する破壊の化け物から、この国を守るのが、私の生きる意味であると断言できるとも」

 ……納得した。七海は、彼の流儀を何となく悟った。

 彼は、沢山のモノに対して恩義を感じているのか。

 けれど、その恩義には、艦娘は入らない。文化や歴史を愛すると言った。

 だが、艦娘は愛する文化でも無ければ、歴史でもない。

 人類が戦うべくして編み出した、歴史を模倣した武器に過ぎない。

 艦娘は所詮、彼の定義する護るものではない。国防の対象ではないらしい。

 艦娘は、彼の後ろにはない。彼の後ろにある物が、命を懸けて彼が守るもの。

 その前にある艦娘は、ただの消耗品という認識か。

(……至極真っ当な言い分ですね。理屈も通っている)

 国土を防衛するとは、その国の全てを守ること。

 彼の言いたいことは理解した。共感も同調もしないが。

 だが、七海の思っていた以上に彼はごく当たり前の倫理を持つ人間であった。

 七海から見れば、マトモな人間。異常なのは、七海の方だ。

 彼は七海のやったことを、否定はしなかった。

 それが、国のためになるなら受け入れるという柔軟な対応をした。

 それをしないで、先入観だけで陰口を叩く奴等を許せないと言うのだ。

(意外と……この人は、悪い人ではないですねやはり)

 七海も島村を軽蔑しないので、価値観は似ているのかもしれない。

 但し、島村は国防に命を懸けているが、七海は自分のもの以外は全くどうでもいい人間であったが。

 それを知らない島村は、真相を知って去っていった。由良は疲れていたが、七海は得るものがあった。

 島村提督。あの人も、七海よりはずっとマトモで、普通の人。 

 一種の基準にしようと、思うのだった……。

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