君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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違う、そうじゃない

 

 

 

 

 

 

 一行は、ある港町に向かっていた。

 朝早くから、工厰の珍獣に働かせて、装備を整える。

 素早く皆で点検だけして、早朝に迎えが向こうから来たので乗り込む。

 どうやら、島村提督の鎮守府の憲兵らしい。

「……今回は、ご協力……本当に有り難うございます。差し出がましいのですが、一つお願いがありまして。どうか、あの人を、死なせないで下さい。島村提督は、この国に必要な人。国防に魂を捧げた豪傑を失うにはあまりにも惜しい。お願いします、渋谷提督。彼とともに、帰港して下さい」

 運転をする若い憲兵は、彼女の評判は知っているだろうに、然し必死に七海に頼み込んだ。

 艦娘からの評判は最悪だが、人徳はあるらしい。

 意外そうに見ている皆に代わって、七海は朗らかに答える。

「元より、そのつもりです。死なれたら困るのは、あたしも同じなので」

「……はい?」

 七海は、簡単にこの作戦に手を貸した理由を言った。

 みるみる、憲兵は驚愕の表情になる。

「以前に助けられたから、助け返す……? あなたは、それだけの為に命を懸けるんですか!?」

「ええ。生憎と、あたしは愛国主義ではありません。強いていうなら、島村提督個人に対する恩の為に来ました」

「……渋谷提督。あなたは、どれだけ義理堅いのですか……」

 受けた恩は絶対に返す。それだけの理由で馳せ参じた。

 唖然とする憲兵。筋を通すのに、己が命を前に出す。

 普通の高校生にできる所業ではない。

「島村提督は、ご友人に恵まれたようだ。まさか、同じ提督で、彼のために参じてくれる人がいるなんて……」

 憲兵は七海の心意気に感動しているようだが、それを見る五十鈴は思った。

 絶対に思っている事とは違う。七海は、言った通りの理由だろう。然し。

(憲兵さん……うちの提督はね、自分の価値を擲つ自己犠牲の異常者なだけ。戦う理由を理屈でしかまだ、判断できないから……。けど、この娘なりの道理を通す。だから、必ず連れて帰ると約束するわ)

 島村は基本的には周囲からその考えゆえに、孤立する。

 味方はいるが、本人が来ることはまずない。

 大体、考えに賛同するのであって、個人の為でもない。

 七海は逆だ。考えなどどうでもいい。彼のために訪れた。

 彼個人に返すべき物がある。ただ、それだけに命を懸ける。

 極端な思考だろう。だが、七海はそれ以外に助ける理由も義理もない。

 逆を言えば、彼が以前にやってくれなければ、適当に言い分を探してあっさりと無視していた。

 つまり、今回七海を動かしたのは、島村の行いその物であり、それが七海の戦う理由。

 彼の人徳と言えば、人徳であった。

 憲兵は代わりに何度も礼を言った。半分感動でむせび泣いていた。

 よくわかってない七海だが、こんなサイコパスでも人助けは、出来るのだ。

 進む自動車。目的地までは、あと数時間……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 内海の孤島に続く港町。

 そこの鎮守府の設備を一部お借りして、荷物を運搬している頃、皆は到着した。

 ここの提督は島村の知り合いで、然し戦力的に対岸の深海棲艦を叩ける戦力はない。

 故に、支援をしてくれる。せっせと艦娘が、件の船にコンテナを運んでいる。

「……規模が大きいですね」

 港に泊まっていたのは、海軍所有の貨物船だった。

 随分と大きい、七海の想定していた物よりも大型の船であった。

 外観には装甲を纏っているようで、そこは流石は海軍か。

 民間の船が沈んだから、詫びも兼ねて自前で調達したらしい。

 七海はそれを見上げて、感嘆していた。

 五十鈴たちにも、運搬を手伝えと命ずる頃、誰かが彼女の後ろから気づいてこちらに来た。

「……あなたが、渋谷提督か?」

 それは、かの大戦艦……武蔵だった。

 きっちり制服を着こなし、眼鏡を光らせた七海よりも大柄な褐色の肌の女性。

 振り返る七海は、何事かと彼女を見上げた。

 ……視線が交差する。武蔵は値踏みするような視線。

 七海は、何も浮かべないどこか威圧的で無機質な視線。

 一瞬で、武蔵は驚く。

「……ほぉ。駆逐艦の艦娘と聞いていたが、この武蔵を目力で怯ませるか。成る程、出来るな……」

「?」

 静かな気配を気付いていた。七海が無意識で放つ、警戒の色を殺気として。

 小声で、頼もしいように呟いた。

 握手を求める武蔵に、七海も丁寧に挨拶して、応じる。

「この度は、あなたの応援を島村に代わって、感謝する。うちの相棒は、あなたを枠に囚われない自由な方と称していたが……自分の目で見て、納得したよ。あなたは、強いな。無謀な作戦だというのに、もう肝が据わっているように見える」

「お褒めに預り、光栄ですが……そんな大層なものでもありません」

 そう、七海からすれば大袈裟モノでもない。

 死ぬ気がないから、動揺しないし、緊張もしない。

 異常者特有の平坦さが、武蔵には冷静に見えるようであった。

「護衛の方は、これを見てくれれば分かるだろう。現場の指揮は、うちに一任して欲しい」

「お任せします。あたしは、護衛は初ですので、要領が分かりません。ですので、島村提督の采配に一任します。何なら、あたしも遠慮なくお使いください」

 適材適所を言い出す七海は、自分も使える時は使えと、作戦内容を書かれた書類を受け取り、言った。

 こちらも、持参した装備を纏めたリストを手渡す。

 武蔵はそんな七海に苦笑する。

「……本当に、あなたは豪胆だな。相棒に使われるのが怖くないのか?」

 暗に、必要ならば、遠慮なく彼は自分以外の鎮守府の艦娘すら犠牲にすると言っている。

 七海は、それに対してこう返した。

「島村提督の流儀は資料で拝見致しました。どうも、特化させた方が運用に関して効率がよいとのことで。故に、こちらは全員が特化しています。それ以外の運用を、島村提督がすると思いますか?」

「……歩幅を合わせてくれたのか。彼奴のために」

 無理な運用をさせない予防として、皆が特化した装備を持ってきた。

 如月、由良は対空、五十鈴は対潜水艦、村雨、春雨、七海は水上打撃力。

 他の艦娘の装備も事前に聞いていたので、全体との擦り合わせも完璧にしておいたつもりだ。

 護衛に関しては何分初挑戦。

 経験者がしやすいように、徹底的に七海は気遣っている。

 全体の指揮を務める島村のやり方に合わせたのだが、何か不都合でもあったのだろうか。

 それもこれも、ただ自分のところの艦娘に無茶をさせないよう、言う前に最適化をしただけ。

 島村がそういう人物だと知る以上、対策はする。それでもするなら、牙を向くだけだ。

 皆を守る以外はどうでもいい。最善を選んだ結果が、たまたまこうなっただけの話。

 武蔵はそれを知らない。七海はわざわざ、島村に合わせたと思っている。

「フッ……渋谷提督。私は、感謝の言葉をあなたに言い尽くせない。未だ嘗て、ここまであいつの覚悟と矜持を理解してくれた提督は居ただろうか。私は長いこと、奴の理想と同じ夢を見ていたが、ここまで共に来てくれる人を、初めて見た……」 

 目頭が熱くなったのか、眼鏡をはずして武蔵は軽く腕で拭った。

 勘違いである。七海はそんなもの微塵も興味がないし、理解はしたかもしれないが、共感はしていない。

 全て、結果論であった。

 だが、七海は何を言っているのかまたも分からず、訝しげに見上げているのみ。

 どんどん、良いのか悪いのか分からない誤解は広まっていく。

 運悪く、丁度本人も登場して、挨拶をしてから武蔵が喜び、言ったのだ。

「見ろ、相棒。渋谷提督は、貴様の覚悟を受け止めてくれているぞ」

 そう言いながら、書類を見せた。

 彼は直ぐに目を通し、軈て。

「……渋谷提督。私は、貴女にどれだけ恩返しをすればいいのだろうな?」

 こいつまで、拳を握って、感動していた。

 何故だろう。話せば話すだけ、何やら見えない会話が続く。

(どこぞの芸人ですか……?)

 これ以上の放置は不味いので一応、ここに来た理由を率直に話した。

 彼の言葉には、説得力はあると思う。だから、来た。島村を死なせないため。

 七海は、個人の為にここにいる。

 彼に受けた恩を此度返すべく参上していると。

「……そうか。たったそれだけの為に……」

 おかしい。誤解を招かないように正直に言ったのに、今度は人前で号泣し始めたこのハゲ。

 なんで? と首を傾げる七海。

 理解できないを通し越して、意味不明だった。

「渋谷提督。貴女は、人が良すぎる……。あれは、私の謝罪の行為だったのだ。恩を感じる必要などない。なのに……貴女は、あれを……たった数時間の行為を、命懸けで返すと言うのか……。私はつくづく、貴女を甘く見ていたようだな……」

 何の話だ。

 大体、島村の言い分など言われなくても筋が通っているし、その言葉が嘘ではないと行動で示したではないか。

 魂を懸けた行為を、他は兎も角七海はマトモな動機だと思う。

 で、その行為で彼に死なれたら、七海は永遠に借りを返せなくなる。

 七海は、皆を死なせないために最善を選んだ結果に過ぎない。

 全ては、自分の鎮守府の艦娘のため。

 島村の矜持は二の次。と言うか、興味なかった。

「……そうか。こいつの矜持をやはり理解してくれるか」

 待て。だから、何でお前ら泣いているんだ。

 感動している理由が分からない。

 そんなに島村はおかしな事を言っているのか?

 七海はあれとしても、軍人としては真っ当だろうに。

 七海の言葉に、二人は何故か礼を言った。

「なぁ、相棒よ……。彼女は、貴様に死ぬなと言ったぞ? つまり、貴様の命は貴様だけのモノではないようだ」

「あぁ、私も未熟だな。痛感した。私は生きる。生きて、国を護らねばならぬことを思い出した。死を覚悟するなど、戯けのすることだったな。甘かった。そうだとも、生きることこそ国防だった。私は誇りある防人として、提督として、役目に従事せねばならない。私の命は、私のモノではない。日本と言う、国に捧げるべきだったのだ……!!」

 ヤバい。見えない世界に二人で入っている。

 豪快に泣きながら、武蔵と島村は互いの甘さを指摘していた。

 要は、死ぬ覚悟で行く前に、生きて帰ることが真の誉れであり、役目であると。

 生きる限りが防衛の使命で、死を覚悟するのは甘えと言うのか……?

(ちょっとなに言っているか分かりません……)

 どこまで国を愛しているのか、この二名。

 七海にはちんぷんかんぷんの事をくそ真面目に語っている。

「武蔵。我が主力艦隊に、通達せよ。……深海棲艦は、殺せ。そして、貴様らは生きて戻れと。貴様らの役目は、死を弾き飛ばし生き、終わりなく戦うこと。役目を果たすなら、敵を殺して戻れと。いいな?」

「応、任せろ。良いだろう、共に沈み礎になるのも悪くはないが……それは、まだ先の話だったな」

 七海の知らぬ世界で、重要な変化があったことを、自覚していない。

 島村は気付いた。彼の主力艦隊には、死力を尽くして殺せと命じた。

 最悪、諸とも沈んででも、だ。

 だが、七海の行動で気付いたのだ。それは、甘いと。

 真に目指すべきは、生きて次の戦いに出向くこと。

 自分の命を自分のモノだと思うなという、七海の痛烈な指摘であった。

 国防を言うのならば、命を尽くせ。それは戦いではなく、国に。

 国に命を捧げるのだ。死ぬべき時は、国が決めるまで、死ぬな。

 そういう意味だとまたもや勘違いしていた。

「……えっ?」

 七海、呆然。颯爽と去っていく武蔵と、気づかせてくれて有難うと言う島村。

 何を言っているのか処理できない七海はなにも言えない。

 困り果てる彼女と共に、咽び泣いたハゲは、生きるために戦う。

 運命の護衛の、始まりであった……。

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