君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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待て、こうでもない

 

 

 

 

 

 

 

 作戦を実行するため、突撃艦隊は先んじて抜錨していった。

 島村が言うには、先ず進路の邪魔な深海棲艦を撃滅。

 それから、貨物船は護衛をつけて出港するという。

 作戦時間も詳細に記され、敵の規模も記されていた。

 どうやら、上位のモノは居ないようだが、種類が違う。

 エリート、フラグシップと呼ばれるより強い個体が徒党を組んで待ち構えているようだ。

 幸い、孤島には手出しをしないようで、あくまで海上に群がっている。 

 戦艦と空母がメインで、あとは駆逐と重巡、軽巡が多数ぐらい。 

 性能も数値化された予想が書かれ、複数のパターンを想定しているらしい。

 七海は見たことのない個体が居るわけだが、島村いわく侮れない。

 これだけ集まると、下手な姫よりも厄介で、手数で攻めてくるので面倒臭い。

 故に、大火力で短期戦を仕掛けると言った。長引けば島民も辛くなる。

 只でさえ時間とも戦うのだ。短期決戦を仕掛けるしかない。

 潜水艦は敵の艦隊には確認はされないが、護衛する貨物船を狙うかもしれない。

 護衛の人数も、失敗できないと過剰にいた。

 しかも、貨物船その物も装甲で覆われているため、早々に沈むことはない。

 島村が無理を言って借りてきたと他の艦娘が意外そうに言っていた。

(……本気で、島の人々を守ろうって言うんですね)

 七海は信頼はできると改めて思う。

 民間人のために自ら船を操る覚悟。

 失敗しないために何重も敷いた予防線。

 島村は使命に燃えている。

 敵を叩く主力艦隊は、旗艦の武蔵を筆頭に、戦艦霧島、空母は葛城、天城に飛龍、重巡には那智や足柄、軽巡にも阿賀野に球磨、駆逐にも島風や雪風、潜水艦も多分かなり珍しい海外の艦娘まで連れてきている。

 彼女だけは名前は読めないが。イタリア語か?

 装備も一通り拝見した。最新の主砲から機銃、魚雷に高性能を突き詰めた電探、ソナー。

 挙げ句には砲弾すらいくつも用意して、用途によって撃ち分ける予定だそうで。

 で、恐ろしいのはその練度。七海もそこそこ高いと思っていたが……。

(……平均値、約85? 最大で、武蔵さんは……最大値? どう言うことですかこれ!? 何を島村提督は想定しているんですか!?) 

 目を疑った。島村はこの海域から深海棲艦を根絶やしにする気か。

 輸送任務の筈だ。なんで決戦のような想定で準備をしているんだ。

 いや、だが。そこで思い出す七海。この判断はあながち、間違いではないのかもしれない。

 ここは以前、姫よりも上位……水鬼と呼ばれる存在が嘗て支配していた海である。

 泊地水鬼とかいう、強い深海棲艦が前にはいた。

 何年か前に追い払われて以来は、戻ってきていないと書かれているが。

(万が一、ですか。居るかもしれない泊地水鬼を警戒して、襲われても迎撃できるように……)

 追い払っただけ。撃破には至っていない。

 それを懸念して、島村はこの重装備で進めているのか。

 姫を超える悪夢が戻ってきても、人々が安らかに眠れる日々を作るために。

 石橋を叩いて渡る。慎重な男であった。

 あらゆる状況を予想する島村。楽観視しない彼の采配に文句はない。

 用意周到にしておいて損はない。成功率の上昇は喜ばしい。

 彼女も彼の心配は賛同する。

 先に出ていった皆を見送り、着々と準備を進める一行。

 一時間後、鎮守府の提督に見送られて、島村操る貨物船は、周囲を守られながら、出港していった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予定では、五時間後には到着する。

 昼下がりの内海のど真ん中。七海は、船の周囲を隈無く警戒している。

 貨物船を囲む艦娘たちにより、超広範囲の対空、水上、水中を全員で見張っている。

 貨物船の内部にも軍用なので電探を搭載し、共有しているからより範囲が広い。

 無線を聞いている七海。貨物船の速度は速くはないが、遅くもない。

 島村は操舵しながら指示を出している。

 敵の戦力も此方にも教えるが、想定よりも少ないようだ。

 油断をするなと言いながら、逐一指示を出し続ける。

 細かい戦況の確認と変化する状況への最適な答えを直ぐに出す。

 更にはこちらの状況にも目を配り、的確に動かし、尚且つ自分は操船を続ける。

 並行作業がとてつもない集中力を要するのに、島村は完璧にこなしていた。

(あたしよりも指揮の能力は間違いなく上……流石ですね)

 七海のような平和な海域にはもて余す才能だろう。

 激戦区に相応しい島村の能力は、聞いていて勉強になる。

 とは言うが、最近では現場の指揮が多い七海に通じるかは不明だが。

 思っていた以上に、護衛は気を張っている。

 七海は皆よりも一回り上物の電探を使うので、死角をカバーしないといけない。

 更には、唯一の従来型の艦娘に加えて、春雨と村雨の事もある。

 同じ護衛の艦娘に、嫌そうにされたのを出る前に見た。敵意。それを、あの二人に向けていた。

(戦いの最中に裏切ったりしたら、殺しましょう)

 あの二名に万が一手を出したら、七海は島村が止めても手を出すつもりだ。

 島村も事前に言っていた。あの二名は味方だ。誤射をしたら、覚悟しておけと。

 誤射を故意と受け取り、理由を無視して厳罰を与える。

 最悪、解体も已む無しと脅したのだ。他の鎮守府の艦娘だろうが、裏切りは死刑だと言う意味で。

 七海の敵は、深海棲艦だけではない。

 事情を知らない、無関係の艦娘も入っている。

 七海が人だと、艦娘だと言えど他人は一切関係ない。

 深海棲艦だと決め、どさくさ紛れに殺しに来るかもしれない。

 島村は兎も角、他は一切信じない。七海は義務があるから。皆を守ると言う。

 故に、連中の動向にも気を使う。

 叩いている主力艦隊。現在絶賛戦闘中で、状況は有利だそうで。

 現在、敵を全力で潰して、念のため倒し終えたら合流する前に、周囲の哨戒をしておくと言った。

 此方は、まだ余裕があるようだった。護衛も、全員に今のところ異常はない。

 このまま、彼女たちが倒して何事もなく到着して終わってくれれば、大袈裟になることもない。

 油断する気はないが、平穏であってほしいと思う。

 ……けれど。

 世の中、そんなに甘くはない。

 必ず、海には敵がいる。

 

 そう。一番の想定外とは、例えば。

 

 前線で叩いた本来の深海棲艦とは別の。

 

 護衛の方に近い、不意打ちの出会いとか。

 

 警報が鳴った。前方に二つ、反応を発見。

 

 ……それは、最悪の邂逅。

 

 七海も、島村すら考えなかった予想外。

 

 本来の居場所から随分と離れていた場所で、交わった。

 

 姫との、出会いであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。不味い」

 前方、かなりの距離があるが、人影を二人確認。

 人の形をするものが、何やら突っ立ち、待ち構えているらしい。

 島村はぼやいた。主力艦隊はまだ戦っている。

 護衛の戦力を大幅に超える相手がいた。

 貨物船は、停止した。そして、皆に告げる。

 まだ、攻撃はされないが、深海棲艦が前方に居座っている。

 その種類は……。

「……例の泊地水鬼、そして……空母水鬼」 

 ……なんと。最上位である水鬼二名がお出迎えという最悪の事態に陥った。

 護衛の想定はあくまで普通の深海棲艦。いや、主力艦隊とて水鬼二名など考えていない。

 予定の海路の真ん前に待ち構えて、全く動かない。

 進路を変えれば、進めはする。だが、背後から襲ってくる可能性しかない。

 なぜこの距離で仕掛けてこないのかは不思議だが、立ち往生を食らっていた。

「ぬぅ……」

 唸る島村。

 主力艦隊は戻れない。護衛の戦力では倒せない。

 一度引き返して航路を変えるか。それも可能だが、果たして無事に逃がしてくれるか?

 明らかに此方を捉えているが、仕掛けない謎の行動。

 待っているのか。ここから先は、通さないとでも言いたいのか。

 進めば沈められるか? 力ずくは無理だろう。

 勝てる相手ではない。数秒、迷う。

 すると。

「あ、島村提督」

 一人から通信。七海であった。

 島村は、同じ提督なら打開策をあるのかと思い、何事か問う。

 すると、確かに打開策は、出た。但し、それは島村提督の十八番のやり方で。

 七海にはするまいと、密かに誓っていた方法であった。

 

「あたしが奴等を足止めします。今のうちに迂回を」

 

 七海は水上打撃力を減らす代わりに、時間を稼ぐと自分で言い出した。

 五十鈴たちがバカを言うなとすぐに割り込むが。

「五十鈴、黙りなさい。これは提督同士の話です」

 七海が初めて、牽制する言い方で黙らせた。

 邪魔をするなと言われて思わず黙る五十鈴。

 島村すらも困惑した。彼女は自分から……志願している。

 死線に、行くというのか。

「渋谷提督、正気か!? 待つんだ、貴女とて水鬼は対処できない!!」

「立ち往生よりは余程良いかと。なに、春雨と村雨も連れていきます。これなら、大丈夫でしょう?」

 七海は笑っている。笑って、姫である春雨と村雨を連れて時間を稼ぐと言うのだ。

 能力的には負けてはいない最強の三名が、水鬼に立ち向かう。

 そうすれば、確かに打……時間を稼ぎ、航路を変えて迂回できる時間ができる。

 だが、それは……七海の死を、意味するのではないか?

「渋谷提督、貴女は……」

 愕然とする島村。彼女は、犠牲になる気なのか?

 島村に、任務を成功させるために、最善策として、自分を躊躇わずに賭けに出せるとは。

 思った。彼女への底知れぬ恐怖に似た感情を。笑って、死にに行く少女を。

「……島村提督。この任務は失敗できないんです。だったら、手段を選ばないでください。あたしが躯になっても、越えていってください。今一度問います。島村提督、あなたの守るものは、何ですか?」

 理屈で説き伏せる。いつも通りのやり方なのだ。七海が相手でも躊躇うな。

 犠牲にするならしろと言ったはずだ。使えるなら七海でも使えと。

 そのつもりで、七海も受け入れている。迷うなと、背中を押すように。

 良いから、行け。時間がないなら稼ぐ。早くと急かす七海。

 グッと、島村は帽子を強く握った。

 歯軋りをしてから、舵を掴んだ。

 ……覚悟は、決めているのだ。迷う理由などない。

 選択肢を誤る気もない。行けと七海は提督として言った。

 だったら、同じ防人の誇りに誓って。

「全員に通達する。駆逐艦夕立、春雨、村雨の三名を残し、我らはこれより航路を変更する」

 わざと艦娘として扱い、思い切り舵輪を回した。

 迂回するために、ゆっくりと動き出す貨物船。

「七海!? 何考えているのよ!? ねぇ!?」

 五十鈴が混乱しているのか叫ぶが、駆け寄った二人に何やら耳打ちしている七海は、笑ったままだ。

 由良も必死に説得するも、ダメと言って切り捨てた。

「如月? ちゃんと、お仕事続けるんですよ?」

「はーい! 司令官、いってらっしゃい!」

 唯一、笑顔で送り出すのは自称嫁の如月だけであった。

 手を振って、引き続き任務を遂行するように命じた。

 引き返す貨物船を追いかける五十鈴たちは、何も理解できずに困惑したまま、戻っていった。

 その背を見送る三人。特に、村雨は呆れていた。

「提督……。せめて言いましょうよ……」

「言う暇ないですよ。だってほら、時間ないし言っても無視されますし。攻撃してこないパターンは春雨で知ってますから」

 彼女は独断で判断していた。これは、また春雨と同じ場合ではないかと。

 空母水鬼。一部では、聞いたことのある艦娘と姿が似ていると言われる。

 既に一種の定常を知る七海は、勝手に決めた。

「さ、ちょいっとお話に行きましょう。ダメなら逃げ回っておけば良いでしょう」

「えぇ……村雨自信ないのに……」

「わたし、頑張ります!!」

 七海は村雨、春雨の二名の深海棲艦を連れて移動を開始する。

 同類なら攻撃されないんじゃ、という短絡的な思考だったが、果たして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、飛べないのよ……分かる? 私、もう飛べないのよ……!?」

「すみません。出会い頭に何ですかあなたは」

 マジでまた話が通じた。村雨は言葉を失った。

 しっかりと言葉が通じていた。何やってんのか能天気に声をかけると。

「あぁ、良かった!! 漸く話を聞いてくれる艦娘がいたわ!」 

 空母水鬼の方は、仏を見たように助けを求めた。

 変な奴に絡まれて動けないから何とかしてと言われるが。

「あの、わたくしこれでも艦娘なんですよ。一応! 見た目、深海棲艦ですけど!! 空母、翔鶴なんです!」

「……はぁ。でこっちは?」

「私は元々艦娘じゃないわよぅ……! 自分でもさっぱりなんだから無理言わないでェ……!!」

 案の定だった。なんか、立ち往生しているから変だと思ったら。

 此方が立ち往生していたらしい。

 ホッとする空母水鬼は翔鶴と名乗り、泣きべそをかく泊地水鬼はよくわからない。

 また、得体の知れない深海棲艦が居たものだが。

「邪魔なので退いてください」

 と言って、無理矢理七海は二名をやっぱり連れ帰ってきた。

「流石司令!!」

「……どういうことよ全く……」

 春雨は褒めるが、村雨は疲れる。

 何だか分からないが、とりあえず……深海棲艦二名、無事に捕獲するのだった……。

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