「私はここを支配なんてしたことないわよぅ……。気づいたら海に突っ立ってて、なにもしないのに皆に襲われるのぅ……。深海棲艦だって襲ってくるのよぉ!? なんでなのよぉ!?」
移動中、話を詳しく聞いた。
とりあえず、島村の目指す島には近付けない。
そこでは人間が暮らしているし、現在戦っている最中である。
死ににいくようなものだ。
一応、知られないように通信は切ってある。
無線で聞かれることはない。なので、ちゃんと話を聞く。
泊地水鬼が言うには、自分が何故生まれたのか、何故知識があるのかは不明。
自覚もないし、理解もできない。ただ、道中において何故か泊地水鬼まで雑魚が襲ってくるのを確認した。
少なくともそれは嘘じゃない。あとこいつ、戦う力がない。
艤装を使わず浮ける代わりに、武器を持ってないそうで。
あと、イ級の砲撃で悲鳴あげているので、相当脆い。
七海のデコピンで泣きっ面になったほどだ。こんな弱いのが、海域支配を出来るものか。
なので実質無害。見た目だけだった。
「然し、名前がないのは不便ですね……」
当然、生みの親が居ないので名前もない。
泊地水鬼という名称も初めて聞いたらしい。
なので、七海はあだ名をつけた。
「泊地水鬼……泊地……。ああ、もう。面倒なのでパクチーで良いです」
「パクチー!?」
食い物の名前であった。適当で、最低な名前だった。
村雨が思わずツッコミを入れる。
「待てそこぉ!! 無害だからってパクチーはないでしょ!? パクチーって野菜じゃない!!」
「……村雨。あなたの妹も食べ物の名前ですが?」
「春雨を一緒にするなァッ!!」
グーで殴った。この女、妹の名前を食える方の春雨と抜かしやがった。
キレて殴る村雨に、泊地水鬼こと、パクチーは。
「パクチー……? あらぁ、良いわよぉその名前……」
「いいの!? 食べ物よ!?」
意外と気に入っていた。
恍惚として、白い頬を赤して七海に礼を言う。
全身、見たことのある白いドレスに似た格好のパクチー。
名前を贈られて、なんというか……幸せそうだった。
「だってぇ……あなたの妹も食べ物でしょぉ?」
「潰すよ?」
村雨が怒りマークを浮かべた笑顔で軽く脅すと怯えて止めてと懇願する。
こいつ、一応水鬼だろうに……。形無しである。
渦中の春雨は、気にしないと朗らかに笑っている。
この異常空間に早くも対応していた。
「楽しそうな艦隊ですね……わたくしも、是非七海さまの鎮守府に参りたいです」
「その方向ですよ翔鶴。大丈夫、水鬼だろうがあたしは艦娘として、人間として扱います」
空母水鬼こと、翔鶴は羨望の眼差しで春雨と村雨を見ていた。
七海の言葉が嘘じゃないと目の前に証人がいる。
こんな風変わりな提督を兼ねた艦娘が居たことにまず驚いた。
何故か彼女は黒い春物の長袖と黒いダメージジーンズにロングブーツという格好だった。
見た目も長い白髪に、深紅の瞳と、随分と様変わりしている。
彼女いわく、艤装は使える。なんか動いている生物的なものが居るらしい。
試しに出してくれた。
腰かけられそうな、大きな白い球体に前歯が剥き出しの大口のついた艤装だった。
海から突然出てきて、ハッハッと呼吸している。目玉も鼻もない、口だけの謎の球体だった。
「……翔鶴。これ、浮遊要塞……」
「浮遊要塞?」
七海は驚いていた。
彼女が艤装という物体は、深海棲艦浮遊要塞。
武器と言うよりは、深海棲艦その物だ。
ドン引きの二名と、パクチー。
「パクチーも引くの!?」
「だって……怖いじゃないのよぉ……」
村雨、唖然。パクチーが言うか。
お前とて仮にも最上位の深海棲艦だろうに。
という内心のツッコミを控える。これ以上いじめたら流石に良心が痛む。
「え? そうなんですか? 沢山居ますよ? ほら」
パチンと指を鳴らすと、次々出てくる浮遊要塞。
ニヤニヤしている奴等を見て、七海は急に嬉しそうに言った。
「乗っかって水上バイクみたいにすっ飛ばしたりできませんか!?」
「出来ますよ。結構速度出るんで」
翔鶴は笑顔で可能というので、皆乗っかる。
翔鶴は足を組んでどこかセクシーに。
パクチーはしがみついて落ちないように。
村雨は恐々腰掛け、春雨は興味深そうに座った。
七海はノリノリの立ったまま乗った。何してるんだこいつは。
で、加速して移動開始。すっ飛ばす浮遊要塞。凄い速さだった。
「んぎゃああああああああ!?」
凄い絶叫をパクチーが真っ青になって上げていた。
彼女、結構面白い娘かもしれない。
「いいいいいやっほぉおおおおおおお!!」
七海さん楽しそうである。
こんなことしている間に、事情を知らない姉達が心配しているというのに。
大喜びのサーファーのようだった。
で、一通り遊んでから。
目的地をどうするか決める。
浮遊要塞に乗っていると、勝手に口から砲身が伸びて勝手に迎撃してくれるようであった。
護衛を任せて、話し合うと、パクチーがこう言い出した。
「実は……私、知り合いが近くの島にいるのよぉ。同じような境遇だから、大人しく隠れているんだけどぉ、保護してくれない……?」
因みに状況は同じで、右も左も分からない記憶喪失状態。
だから助けてほしいと。当然了承の七海。二つ返事でオッケーだった。
(まだ増えるのこの珍道中……)
村雨は内心諦めた。疲れる。五十鈴が苦労するわけだ。
この好き勝手な自由奔放の阿呆を野放しにすると、何処で深海棲艦を拾ってくるか分かったものじゃない。
お前もその一部だという虚空のツッコミは無視する。
翔鶴も仲間が増えると嬉しそうに喜ぶ。春雨も然り。
ツッコミは、村雨だけであった。頑張れ、村雨。
無人島と思われる小島に到着。
この時点で好き勝手に行動していて任務を放り投げているのであるが、なにも言わない。
どうせ、この二名と死闘を繰り広げていると思われているんだろう。
実際は和気藹々と、島に上陸してるんだが……。
パクチーが、ちょっと連れてくると言って一度消える。
七海は暇なのか、浮遊要塞と取っ組み合いの喧嘩を始めた。
「にゃー!」
「にゃー!?」
まさかの猫のような声で怒る浮遊要塞が、七海に豪快に噛みついて、七海も笑顔で噛みつき返す。
村雨が慌ててじゃれあいを止めに入る。
「平和ですねえ……」
「ですねえ……」
お前らだけだバカ野郎。早くシリアスに帰れ。
という、誰かのツッコミは聞こえない。
のほほんと春雨と翔鶴は喧嘩を眺めている。
「翔鶴。こいつの顔は赤く塗らないんですか?」
七海は上に乗って浮遊要塞を両手で殴打しながら聞いた。
意味が分からないが、翔鶴は聞き返す。
「塗りたいのですか?」
「いいえ、冗談ですよ」
塗るなら違う場所を塗れと言いたそうな村雨がじとっと睨んでいた。
彼女も少し毒されているようであった。
丁度その頃、数名の女性がパクチーに誘われて出てきた。
「何よ、もう……騒がしいわね……」
黒っぽいゴスロリドレスのフリルのたっぷりあしらわれた、訝しげな顔の少女。
「…………!?」
漆黒のネグリジェのような薄着の、長身の角の生えた女性が、大袈裟にぎょっとしていた。
「何事?」
淡々とパクチーに続く、長い黒髪を真っ直ぐ下ろした深夜のような色の和装に袴の古めかしい少女。
「ヴェアアアア!?」
現れて早々、遠方の喫茶店の店員みたいな声をあげてビックリする銀髪で金色の目をした、額に非対称の角が生えた女性。
なんか沢山いる。
「オールプリンセスー!?」
村雨、あまりに強烈な面子に雄叫びを上げていた。
それぞれ、離島棲姫、戦艦棲姫、駆逐古姫、重巡棲姫。
凄まじい面々であった。何てものがここに隠れているのか。
七海ですら絶対に勝てない相手方であった。
「悪かったわね、隠れてて。あなたも似たようなもんじゃない」
離島棲姫が、村雨が言いたいことを察して腕を組んで反論した。
不満そうに、文句をぐちぐちと言い出した。
「あたしだってね、平穏に暮らしたいのよ……。っていうか、人間らしくしたいのにみんな襲うし、追い払ってくるし。ねえ、そこのオッドアイ。あなた、本当に受け入れてくれるの? 嘘ついたらあたし泣くわよ」
「泣くの!? 襲うんじゃなくて!?」
離島棲姫は思いっきり情けない脅しで七海に聞く。
村雨がバカなと言うが、彼女は実際戦えないという。武器ないので。
七海は無論であると、即座に肯定。仮にも提督であると、胸を張った。
……浮遊要塞に腕を噛まれながら。
「ファッ!? マジで!? うちら、美味しいご飯食えるの!? 木の実生活も終わりってそれマジ!?」
重巡棲姫も、乗り気で七海に詰め寄る。一緒に来れば可能と言うと、飛んで喜んだ。
角が生えているが……。これ、人間とは絶対に言えない。どう見ても深海棲艦。
「そう。なら、従う。我が主様」
駆逐古姫が、幸せを保証してくれるなら、従者として仕えると七海にかしずいて言った。
主として認めると、早速言う。
「私も行ってもいいわよねぇ……?」
「パクチーも大歓迎です!」
パクチーも抱擁を受けて、赤面しながら涙を浮かべていた。
七海の対応に、感動しているようだった。
「……」
戦艦棲姫は、なにも言わずに握手を求めた。
七海は笑顔で応じて、ガッチリ交わす。
両者の間で謎のやり取りがあったようで。
「宜しい。全員纏めてうちに来なさい! あたしが面倒見ます!!」
堂々と我に従え者共、と笑顔で叫ぶ七海に一同大喜び。
それぞれ、人間らしく生きたい、マトモな飯が食いたい、幸せになりたい、よく分からない、戦うの嫌、楽しそうなので行きたいという皆の利害が一致した瞬間であった。
なんというカリスマ。いや、偶然かもしれないが、深海棲艦だっていうのにこいつ全く怯まない。
寧ろウェルカムプリンセス、と自分から手招きしている。
「司令は優しくて、寛大な人です! 変態ですけど」
「……うん、もう変態のレッテル間違いないね……」
春雨も誇らしいと言うが、実際は単なる変態であり、村雨もツッコミの機能が停止した。
もうダメ。これ以上はなにも言えない。
七海も歩けば姫を寄せる。そんな感じで、皆さん仲間になるのだった……。
で、浮遊要塞を飛ばして全員で例の島の近くに移動して、島村に連絡する。
どうやら、無事に作戦は終了して、成功しているようだ。
遠いが、無事の貨物船が見えた。
「――渋谷提督ッ!? 無事だったか!?」
焦ったように直ぐ様出た島村に、問題なく解決してきたと伝える。
そう、問題なく。
「ぎゃあああああああああーーーーーー!?」
と、思っているのは七海だけだが。
電探の反応を見て、とうとうあの豪傑すら悲鳴をあげた。
そりゃそうだ。七海は自慢するように言った。
「と言うことで、島村提督。完全完璧に、無血勝利いたしました!! 隠れていた姫も含めて、全員あたしと契約しています!」
「そんなバカなぁああああああ!?」
ハゲが大絶叫していた。村雨も同情する。
七海の異常空間に慣れていると適当な反応になるが。
普通はひっくり返るような状況であった。
「なんだと!? あの数を無血勝利!? どんな魔法を使ったのだ!?」
「秘密です!」
余計なことを言うとややこしいことになるので黙っているとして。
事実、沖合いに待っている皆は大人しいもので、七海が試しに証拠として命じてみる。
言うことを聞くという証を見せるべく。
「あたしを殴りなさいパクチー」
「わ、分かったわよぅ……」
なぜか突然殴れ言い出して、パクチーが殴った。
当然弱いので無傷。だが、それを見た島村が再び絶叫。
水鬼の攻撃を受けたのに無傷で七海は立っている。
「どうしたあいぼ……ぎゃああああああ!? 姫があんな沢山いるぞ!! 何故だ相棒!?」
武蔵も近くに来たのか、此方を確認して雄叫びをあげた。
事情を聞くと、武蔵は勝手に戦慄していた。
「な、成る程……。道理で初対面でこの私を怯ませるわけだ……。水鬼の攻撃を無傷で済ませ、無血勝利するほどの実力者だったとは……。相棒、貴様が自慢する理由を私はよく分かった。貴様、なんという方を友としているんだ……」
「私自身も驚いているぞ……。渋谷提督、無血勝利の秘訣を一つ、ご伝授させて頂けないか。私は、貴女を師として、尊敬したいぐらいだ」
理由すら分からない島村は、せめて一つでいいから教えてくれと頼んできた。
あれだけの深海棲艦を従えるなど前代未聞。
取り乱さず、受け入れるだけ島村は冷静沈着であった。
「秘訣……? そうですね、強いことです。精神も、肉体も。そして、人の基本を忘れないこと。人間が、どういう生き物なのかを考えれば、多分分かります」
適当な事を言っておいたが、春雨は感じた。
それ、出来るの多分七海だけ。正解言っても、他人が実行出来るとは言ってない。
「ぬぅ……? て、哲学か……?」
「……強い心身? 基本を忘れない? ううん?」
案の定理解できない二名は唸って考える。
字面通りと思うわけがない彼らには逆に難しい。
満面の笑みで大勝利の七海は、通信を切ってから、振り返り待っている皆に告げた。
「――では、帰りましょう。皆様の新しい居場所、姫園鎮守府へ」
七海の暴走が、とうとう種族すらも超えてしまった。
彼女は止まらない。ブレーキがない。スピードも下げない。
さあ、もう彼女を遮ればどうなるかは分かるだろう。
名の通り、姫の園となった鎮守府を舞台に繰り広げられる、ヤンデレとなったサイコパスの女しか居ないラブストーリー。
ここから始まる、しょっちゅうシリアル時々シリアス。
あなたは予想できるだろうか。
この暴走百合ヤンデレの終着駅。
誰と結ばれるか、あるいはどんな物語になるか。
君と結ばれる、物語の作り方。
ここから、始めよう。七海のお送りする、イビツで壊れた、愛のお話を。