君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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交わりの鎮守府

 

 

 

 

 

 

 

 

 時間を少し遡る。

 任務のあと、一度鎮守府に戻った七海を待ち受けていたのは。

「理由。説明なさい。今すぐ」

 仁王立ちで腕を組む五十鈴だった。

 先に帰ってきた五十鈴は執務室で待っており、勝手に判断して居なくなった理由を問いただす。

 ニコニコ笑って素直に答える七海は、疲れた様子の村雨や朗らかにメイド服に着替える春雨には何も言わさず、自分で語った。

 ちゃんとした事情……要は、姫軍団を連れてきた時点で現場にいたので大体察してはいたが、事後報告でも良いので言わせないとうやむやにする癖がつく。

 教育も兼ねて七海を再び叱る五十鈴。

「言わなかった理由は分かる。島村がいたからね。無線も聞かれるかもしれないから、言えないのも。他人が知れば、あんたは裏切り者よ。殺されても文句は言えないわ」

 のちに、この言葉通りの事案になるのを知らない五十鈴は、よく七海に言い聞かせた。

 慣れているここの連中は、艦娘は良いとして。

 だが、全ての人間が自分と同じだと思うな、人間は決して深海棲艦を受け入れない。

 現状、あの二名を毛嫌いする憲兵だって既にいるのだ。

 これ以上、人間との対立を加速させない方がいいと、言うのだが……。

「?」

 七海は首を傾げていた。嗚呼、やっぱり。五十鈴は思った。

 他人に対する興味は、以前のまま。艦娘に対する姿勢は劇的に変わっている。

 けれども、七海の根本的な問題……他人への興味は改善の兆しすらないか。

 他人などどうでもいい七海は、外野が騒ごうが何をしようがきっと気にしない。

 そういうやつもいると納得はするが、止めないだろう。

 戻ってきたと聞いて、散々心配していた由良が遅れて現れて、七海の話に割って入り、抱き締めて怒る。

「もうっ! いきなり無茶しちゃダメでしょ!! 心配させて!!」

 五十鈴が説教中なのだが、心配性の由良はずっとおろおろしていたので、気持ちは分かる。

 何せ水鬼相手に三人でかかっていって、それっきり。

 話を聞いて心配しなかったのは、如月や山風、弥生ぐらいなものだ。

 さっきまでここにいた三人は笑っていた。歪んだ、ひび割れる笑顔で。

「司令官は帰ってくるもの」

「ママはもう居なくならないよ」

「七海姉は……置いていかないから」

 と、それぞれハイライトの消えた目でずっと待っていた。

 信じていると言うよりは、洗脳か。七海は帰る。それは必然。

 何があろうが、帰ってくる。死んでも帰ってくるとは、如月が言っていた。

 当たり前となった依存が、もっと酷くなっている。五十鈴は目を背けた。

(これが……七海の愛情なのよね……。母を自分なりに体現した……)

 分かるか、こんな汚泥みたいな愛情など。

 自分のなかに閉じ込めて、自分色に染め上げて、自分だけを見るようにして。

 三人の心が弱いのを知っていて、つけこみ愛のなかに引きずり込んで。

 これの何処が母親の愛だ。七海はこんな愛情を受けてきたのか?

(破綻した愛か……。五十鈴だって分かるわ。こんなのは、間違っている)

 間違っていると、指摘するのは誰でもできる。

 けど、これは七海が自分をぶっ壊してでも出した答えなのだ。

 これが間違いなら、真実の愛は示せるのか。七海にそれが実行できるのか。

 五十鈴はいい加減七海の気持ちだって分かる。否定しない、してはいけない。

 甘くなったと思うとも。優しすぎると思うとも。

 それでも、七海の出した答えで、三人が求めた愛がこれだ。

 楕円形の、一応の大団円だろう? 如何に他人におかしく見えても。

 当人の幸福には、他人は介入できない。それを知っている。

 由良の心配が、七海に分かるのか? 

 彼女の愛情は、自分が皆を愛するもの。

 自分は愛の外にいる。愛するだけ。愛されると思ってない。

 また、感情の一方通行。三人は相思相愛でいい。

 なのに、五十鈴や由良など、他の艦娘が自分に向ける感情が、分かってなかった。

 故に首を傾げていた。由良が言っても、言葉として理解する。理屈として理解する。

 それ以上に重要な理屈があれば優先して潰して忘れる。

 自分は度外視する行動理念の燃料に由良の言い分が燃やせない。

 燃えないものは取り込まない。そのまま外に置いておく。

 歪んだ形で改善して、ひび割れたまま突き進み、狂人となった結果がこれだ。

 その内、誰かに殺されてしまうのかもしれない。

 ……その五十鈴の懸念が、最悪の事態が、現実となってしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「七海、良かった……良かった……!」

 暗殺未遂のあと。

 心配した一部の知り合いが付き添いで翌日に一緒に戻ってきた。 

 ……例の連中を連れて。

 七海はボケッとしている。きょとんと。

 執務室で七海の帰還に、とうとう泣き出した五十鈴が抱き締めて、お帰りと優しく初めて言った。

「……五十鈴?」

 夜のことだった。皆は別室で待機しており、荷物を下ろしたりなどしている。

 仕事に戻ってきた七海は訳がわからず、目を丸くした。

「あんたが……他のやつに、殺されそうになったって……! 危うく、死にかけたって……聞いて、五十鈴がどれだけ心配したか……!!」 

 そう言えば桜庭が、一部には真実を伝えておくと言っていた。

 その一部が、五十鈴らしい。七海は心配をかけたと謝った。

 確かに心配はかけてしまった。申し訳ないとは思う。

 他にも、衣笠や古鷹、羽黒に鈴谷、由良もいる。扶桑や山城も。

「……いつか、こうなるんじゃないと、思ってはいたんです」

 泣いている五十鈴に代わり、古鷹が口を開いた。

 暗い表情、沈んだ声色で、七海を見ている。

「七海さんは、他人の機微に疎すぎる。わかってはいたので、鎮守府の内部では、バランスは取れていました。皆でフォローしようって言ってたこともあって、こっちは……問題、無かったんです」

 七海が如何に暴走しようが、ここの提督だし皆とは常に向き合っている。

 それを防ぐために、皆は協力していたのだ。なのに……。

「まさか、他の提督に狙われるなんて……。そんなの、わたしたちじゃ守れないじゃないですか。憲兵さんまで、画策していたと聞きました」

「ええ。そうですよ」

 相変わらず、微笑んでいる七海。

 どうして、笑える。どうして、気にしない。

 自分が死にかけたのに。自分が、殺されかけたのに。

 なぜ、笑う。

「みんなが巻き込まれないで良かったです。あたしなら、大丈夫ですから」

 七海は言った。言外に、答えを。

 自分よりも皆の心配。自分ならどうなってもいい。

 そういう状態だと、全員見てとれた。彼女は気付かない。あるいは、自覚がない。

 見ていて余計に辛い。死んでないなら別にいい。他人の都合など関係ない。

 死にそうになっても尚、徹底している己の度外視。

 七海は、ぶっ壊れている。改めて、分かった。修正不可能。フォローしかできない。

 彼女は、サイコパスだったのを思い出す。そして、七海の敵は……深海棲艦ではないことも。

「本当の悪意は……人間、ですか」

 羽黒が、誰に聞くでもなく呟く。

 七海の真の敵は……人間だった。

 理屈としては、理に適っている。

 考えてみれば、得体の知れない深海棲艦、しかも姫を連れ帰り、研究データや貴重な資料を作るのはそんなに悪いことか。

 大抵は研究が進まず、今でも相手に後手の人類が、精々残骸からしか想像のデータしかない状態なのだ。

 それを、今までになかった協力的で、敵意はなく、寧ろ味方となってくれることが悪いことか?

 襲ってこないとは言えないだろう。ならば、何のために桜庭がいるのだ。

 並大抵の姫なら簡単に血祭りにあげる上司が認め、そして大本営の研究が劇的に進む結果も出した。

 それ程の成果をあげた。なのに、七海は消されそうになった。

 正式な特務となった今ならもう、襲われることは無いだろう。恐らくは。

 だが、この一件でハッキリした。七海は、人間の敵でしかない。

 海軍にいながら、味方は少数。大半の人間は、敵である。

 憲兵も、提督も……下手すれば、守るべき民間の人々すら。

 四面楚歌に近い状況なのを、七海は自分から作ったのか。

 艦娘のために。人類を、敵にして。

 向こうの言い分だって分かるし、否定はしない。

 間違っているのは、七海かもしれない。

 分かっている。おかしいのは、誰でも受け入れる七海の方だ。

 だが、それを振りかざして七海を殺しに来るなら。

 その時は、人間に敵対してでも七海を守る。

 彼女は絶対の味方なのだ。多分、新しく来たであろう深海棲艦たちも言う。

 七海以外は、きっと誰も受け入れてくれない。唯一だから、排除される。

 艦娘たちは、決めた。七海によく言いつける。

 大本営に行くとき、外に出るとき、この二つの時は……深海棲艦か、艦娘を付き添いにすること。

 絶対に、離れないこと。何がなんでも。そして、知り合い以外の人間を信用しなくていい。

 全員、どうせ七海を殺しに来る。そう、決めてしまう。

 此度で人間に対する不信感が最大値にあがった一同は、それ以来憲兵すら信じなくなった。

 油断すれば、七海を殺そうとする。一度あれば次もある。

 神経質に憲兵に接するようになり、挙げ句には憲兵も深海棲艦のいる鎮守府など御免だと余程の奇特以外は全員、異動してしまった。

 彼女の存在は、本来の繋がりを破壊して、有り得ない繋がりを作ったのだ。

 そう、何時しかここは、こんな蔑称で呼ばれる事となる。

 

 ――深海鎮守府と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 で。

 それはともかく。新しい面々と皆は顔を合わせたのだが……。

「ヴェアアアアア!?」

「ヴェアアアアア!?」

 のっけから、廊下で鉢合わせした重巡棲姫と川内が雄叫びをあげ気絶した。互いに。

 川内は知らずに、見覚えのない姫がいて驚いて。

 重巡棲姫は、川内の絶叫に驚いて。それぞれ白目を剥いて倒れた。

 二名をソファーに横たえて、執務室に全員集合。

 現在、深海棲艦と艦娘の顔合わせをしているが……。

「提督……あの戦艦、何処かで見たことあるんだけどぉ……?」

 パクチーがビクビクしてる山城を指差して七海に言う。

 山城も、ビビっていた。

「は、泊地水鬼が……私を狙っている……。不幸だわ……」

 互いにビビっているパクチーと山城。

 おっかなびっくり、握手をすると。

 バキッ!!

「んぎゃ!?」

「ひぃ!?」

 山城の握力が強くて、パクチーの手からひどい音がした。

 潰されて涙目のパクチーに、顔面蒼白で姉の背に隠れる山城。

 面白い組み合わせであった。

 こっちは。

「どうも、空母翔鶴です!」

「……え? 翔鶴?」

 空母水鬼こと、翔鶴が挨拶しているが、明るい性格に戸惑う飛鷹が相手していた。

 見た目も随分と変わっているが、一応彼女は数少ない艦娘指定。正規空母なのだ。例外の。

「…………」

「ん? なんだい?」

 戦艦棲姫は、日本語を喋れるようになったヴェールヌイに握手を求めた。

 ヴェールヌイも応じる。無言な彼女にも動じない。

「我が主様……あ、いえ。お嬢様の従者。よろしく」

「変なのが増えた……」

 呼び方が仰々しいのでお嬢様に変更した駆逐古姫が、恭しく挨拶し、山風が微妙な目で見ていた。

「離島棲姫って、呼ばれているらしいわね。名前はないけど、よろしく。艦娘の皆さん」

「よ、宜しくお願いいたします……」

 羽黒に丁寧に頭を下げる離島棲姫に、彼女はおどおどしつつつられて頭を下げる。

 敵意はない深海棲艦。事情は聞いた。

 自分でも生まれた場所すら記憶にないと正式に大本営で判明した、こちらがわの深海棲艦の姫。

 七海の連れてきた、七海個人に救われた面子。

 故に、七海には感謝しており、敵対者は潰すと言ってくれた。

 実際、現場では全員が彼女のために戦ったと聞いている。信頼は、出来そうだった。

「で、名前ないと不便なんで、考えてきました」

 七海は意気揚々と名無しの数名に名前を考案した。

 離島棲姫は、略してリセ。

 戦艦棲姫は静かにしているので、静香。

 駆逐古姫は春が好きと言うので、小春。 

 気絶している重巡棲姫は希望がないので、さっき手始めに食っていたリンゴにする。

 で、ビビりのパクチーと、空母の翔鶴。

 以上の面々が、新しい仲間となる。

「リセ……。ふぅん。良いわ、ありがとう司令官様」

「……!」

「分かった。これからは、小春と名乗る」

 リセは嬉しそうに礼を言って、静香は無言でサムズアップ、小春は軽く頷いた。

「ヴェアアアアア!? 忍者!? 忍者なぜぇーーーー!?」

「ヴェアアアアア!? ココアが飲まれるーーーーー!?」

 うなされているのか、リンゴは寝言で絶叫していた。川内と一緒に。

 安直だというツッコミは兎も角。

 こうして、深海棲艦と艦娘と、半分人間の狂った司令官の、共同の日々が始まるのだった……。

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