君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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前回より書いていた三つは、ルートの方向性が異なり、エンディングが意味不明なことになってしまったので、改めて書き直しを行いました。
此方が正式な深海棲艦ルートのエンディングBとなります。
折角読んで頂いたのに、申し訳ございませんでした。


エンディングB 多くを失った果てに 
彼女の消失


 

 

 

 

 

 

 

 時は少し遡る。

 これは、新たな姫を見つけて舞い上がっていた彼女に起きた分岐点。

 これは、彼女が失う物語。

 これは、彼女が甦る物語。

 新たなページを開こう。

 誰かも知らない、見たことがない世界。

 彼女だけが到達した、答えの結末……。

 

 

 

 

 

 

 彼女は疾走していた。

 海の上を、新たな姫を捕まえるために。

 敵を片っ端から薙ぎ倒し、欲望のままにシリアスも置いてきぼりにして走る。

 だが、コメディは唐突に終わりの時を迎えた。

 彼女は気付く。艦載機の数が増えている。

 深海棲艦の艦載機が交ざり出す。

 道中進みすぎて、どうやら敵地のど真ん中に来ているらしい。

 電探の反応は全方位真っ赤だった。四面楚歌。七海は冷静になった。

(……勝てない相手でもないですかね)

 自分の戦力ならば問題なく突破は可能。

 突き進むと決め戦闘開始。

 だが、七海は知らず知らずのうちに、増長していたことを誰かは気付いただろうか?

 慢心していたことを果たして、彼女含めて一人でも分かっただろうか?

 彼女は確かに強い。それは、間違いない。

 深海棲艦の力を有し、オーバーフローを起こす艦娘のパワー。

 自他共に認める強者である。否定はしない。

 が、生憎と七海も生き物であった。

 七海にも勝てない相手がいくつかある。

 筆頭、桜庭。本人いわく二度と戦いたくない、物理的な戦力の違い。

 彼女は大和という最早艦娘なのか国という存在の具象化なのか分からない相手。

 要するに次元が違う。

 二つ目は、潜水艦。七海は水上打撃に特化している故に潜水艦に攻撃できない。

 機動性をもってすれば雷撃は意味をなさないが、本来は所詮駆逐艦。

 潜水艦は、一方的に手を出せる相手になる。

 片方は戦わない。片方はさっさと任せる。

 こういう状況だったからこそ、彼女は敗けを知らなかった。

 それが、最大の敗因だろう。

 彼女は、なまじ強かったせいで敗北を知らなかった。

 そして、自分は負ける要因を排除しているから負けないという自負がある。

 それが、最近より恐ろしく強くなったある艦娘の言葉を借りるなら。

 慢心してはダメという教えを、無為にしている行為で。

 彼女が自覚なくやっていた、増長であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来は、個人で敵地のど真ん中に突っ込むのは自殺行為。

 言うまでもないが、七海はそれを常用していたからか周囲も大丈夫だろうという悪い信頼があった。

 七海ならば大丈夫。どうせいつも通り生きて帰ってくる。

 そう言う周りの慣れもあって、異常を異常と認識できていなかった。

 七海は異常者だと分かっているのに。七海は、言動全てが異常なのだ。

 それに適応してしまった周囲は、七海の異常を異常と分からなくなっていた。

 故に、これは本来当たり前の結果なのだった。

(……敵が、減らない)

 七海は焦っていた。

 ここは敵地のど真ん中。絶え間無く増援は湧いてくる。

 対して此方は支援は来ない。一人で突っ走っている特務のせいで。

 孤立無援は慣れている筈なのに。あらゆる方向から攻撃が止まない。

 殺しても殺しても無限のごとく、続いてくる。

 目に入る深海棲艦は片っ端から仕留めているのに、仕留めた数の倍が現れる。

(速度をあげましょう)

 もっと効率良く殺せば、もっと手早く殺せば勝てると、いつも通りの判断で続ける。

 周囲は姫ですらない、雑魚の群れ。蹴散らせば容易に倒せると。

 その判断が間違いであると誰かが教えれば良かったのだろう。

 倒せると思って、退かなかった。

 この時に退けばあるいは、助かったかもしれない。

 然し、七海は続行を選んだ。問題ない、毎度のことだと。

 倒しても倒しても減らない数と、消耗する自分の体力。

 一時間も続ければ、無傷でも引き際は見える。

 七海も無理だと思って退こうとはした。

 然し、時はその頃には手遅れだったのだ。

 彼女の三つ目の弱点。孤立しやすく、自滅型の性格。

 瞬間的な突破力は桜庭すら超えるが、反面他人を頼ろうとしない元来の中身もあって、七海は孤独で戦う方が楽だった。

 自分に合わせられない周りとの性能の違い。

 だったら、自分だけ手早く倒して戻れば問題ないという思考回路。

 で、自分の価値など大したものじゃないという軽んじた基準により直ぐに無理をする。

 様々な要因が重なり、七海は窮地に陥っていた。

「きゃあっ!?」

 空爆を回避したのはいい。

 だが、そこに運悪く潜水艦が到着していた。

 見えない相手からの不意討ち。反応が遅れて、脚部に直撃。

(しまった……!?)

 利き足を潰された。黒煙と激痛が襲う。

 魚雷による一撃が追撃で襲ってきた。

 咄嗟にソナーで察知して、不格好に回避するも、アンバランスな加速により着水に失敗して横転。派手に転んだ。

 背中の機関部を破損。此方も黒煙をあげる。

 不味いと七海も感じる。離脱するための足を潰された。

 仕方なく無線で、応援を呼ぶ。

 有象無象はまだ大量にいるし、追いかけていた艦載機も健在。

 切り落としていたが、結構残っている。

 離れていた艦隊は直ぐに向かうと言うが……。

(少しでも逃げないと……!!)

 それまで、自分が持つのか。

 全くの油断だと恥じる。この物量は、七海でも覆せないとは。

 逃げ回る。だが、自慢の……そして最大の武器を失い、何度も直撃を受ける。

 深海棲艦になっていたせいで頑丈になっていたから、多少は堪えられた。

 それも、仇になった一因である。

 だが、それも融合が解けて艦娘に戻る。傷を受けすぎたせいか。

(……油断、しましたね……)

 頭は生きているが、身体が持たない。

 助けに来た艦隊が見える頃には、ギリギリ離脱していたものの、七海は大破し、轟沈寸前だった。

 旗艦が見える。追いかけてきた相手を倒して、助けに入ってくれる。

 まさか、出向先でこんな無様を晒すとは、己が情けない七海。

 血を流しすぎたのか、視界が霞んでボヤけている。

 物量に勝てない屈辱よりも、他者に敗北を見せる方が嫌だった。

 皆ならまだしも、出先の艦隊に救われる。

 そんなの、人間嫌いの七海には痛みでしかなかった。

(最悪ですね……。こんななら、いっそ死にたい気分ですよ……)

 内心、自分に悪態をつく。

 実際死にかけているのに、死にたいという気持ち。

 反射的なものだったが。

 

 それは、現実となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七海は轟沈寸前。

 最早生きているのが不思議なほど負傷している。

 そこに、助けに入った艦隊たちが来たのはいい。

 然し、その時だった。

 

「……!? 直上を!? 危ない、逃げるんだッ!!」

 

 旗艦が叫んだ。

 七海はノロノロ進んでいる。その直上。

 破壊された艦載機が幾つか、特攻するかの様に七海に向かって突っ込んできていた。

 慌てて艦隊が撃ち落とす。突っ込んできていた艦載機は無事に撃墜。

 七海は全く気付かず、進んでいる。ホッとする旗艦。

 鬱陶しい連中が群がっているが、これならば離脱できる。

 ……けれども。

 

 ドンッ!! 

 

 という、聞きなれた砲撃の音だった。

 至近距離で、此方に向かって反撃していたイ級が、七海に向かって砲撃した。

 背を向けて、いきなり格好の的を見つけて、放つ。

「?」

 音に緩慢に反応する七海は、顔をあげた。

 頭から血を流す七海が見たのは、自分に向かって放たれた砲弾。

 

 そして。

 

 在り来たりな、当然の結末が、訪れる。

 

 爆ぜた。綺麗に、爆発した。

 七海の頭に、イ級の一撃が急所に入るように。

 七海は、回避も出来ずにイ級の一発を貰った。

 結果、機関部に衝撃が伝わり、臨界を超えて。

 そのまま爆発して、七海が消えた。シグナルが、ロスト。

 視界からも、画面からも、消えてなくなった。

「えっ……」

 唖然とする艦隊の艦娘たち。

 イ級が、イ級ごときが、あの七海を……殺した? 沈めた?

 あの桁違いの化け物が? その辺の駆逐艦に、負けた?

 彼女たちの提督が叫んでいる。何があったのか説明しろと。

 言った。七海が、イ級に殺された。今、そのイ級も死んだ。

 救助が間に合わずに、七海はくたばった。端的に言えば、そういう事だった。

 呆然と彼女たちは見ていた。呆気なく死ぬ怪物と、その結果と言うものを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渋谷七海の死亡は、確定であった。

 戦闘の記録を残骸が浮かぶうちに素早く旗艦が回収して持ち帰った。

 本人は沈んでしまっている。確実に死んでいた。

 原因解明など言うまでもない、七海の個人行動のせいだ。

 出先の艦隊には責任などない。傍から見れば、彼女の暴走がきっかけになったのだから。

 無論、出先の提督には監督不行き届きが言われた。

 然し、特務という建前がある以上は深くは追求できない。

 内容を知らないのだから。そして、同行をしていない。

 七海に拒絶されている以上は無理がある。

 彼女は特務中の殉職、という処理をされた。

 当たり前の悲劇であったが、出先の提督も責任を感じているようだった。

 それ以上に……。

「あいつが七海を見殺しにしたのよッ!! よくも……よくも七海をッ! 五十鈴がぶっ殺してやるッ!!」

「お、落ち着いて五十鈴ッ!! 落ち着くのよ!!」

 一番激怒する艦娘が、七海の二の舞を演じようとしていた。

 あまりの剣幕に、出先から由良が自主的に退去して連れ戻した。

 あのまま居れば本当に五十鈴は人殺しをしていた。

 姫園鎮守府に戻され、事実を聞かされた艦娘たちは……。

「司令官……? 司令官が……死んだ……?」

 依存していた如月の精神が、壊れた。

 一番溺愛し、溺愛されていた如月は、ショックで現実を受け入れられずに、翌日から幻覚を見始めていた。

「ねぇ、司令官? 皆が嘘を言うのよ? 司令官が死んだって……そんなの、有り得ないのにね」

 虚空に向かって話しかけ、恰もそこに七海が居るような振る舞いを行うので即、隔離された。

「……ママが、死んじゃった……。あたしを、置いてった……」

「弥生も……生きてる意味、無いよ……」

 山風と弥生は、後追いを求めるように自傷行為に発展した。

 首吊りによる自殺未遂が一度発覚したため、彼女たちは強制入院に逆戻りした。

「人間が七海を追い詰めて殺した……。そうよ、そうに決まってるわ……! だったら、お姉ちゃんが敵討ちしないと……!!」

 五十鈴は人間に対する敵対行動により、一時拘束状態になっていた。

 出先の提督を殺しに行こうとして止めた憲兵を数名血祭りにしてしまい、独房に監禁されている。

 まるで七海のような振る舞いに、解体を望む憲兵も居るようだった。

「…………由良が、由良がしっかりしなくちゃ……」

 由良は比較的無理をしているが現実を受け入れて、客観的に皆をフォローする役目を果たしている。

 ちゃんと誤解ないように説明をして、悲しいけれど受け入れるように諭していた。

 これは、悲しい事だけど、誰のせいでもないと。

 そう、根気よくやったおかけで、過激な行動をする艦娘は一部のみだった。

「ご主人様が……亡くなられた……」

「提督……どうして、村雨たちを置いて逝ったの……?」

 春雨、村雨は戦えなくなった。

 ショックが大きすぎて、自分を保てないように毎日引きこもっている。

「お嬢様の使命は、私が継ぐ」

 小春は自分が代わりになると気丈にも、七海のように振る舞う。

 ここは自分達の居場所。

 七海が遺した場所を守ると、深海棲艦たちのリーダーになるように行動している。

 七海は死んだ。死んでしまった。

 壊れた彼女たちは、それぞれ相応の結果になった。

 壊れて、憎んで、立ち尽くして、受け入れて、前に進んで。

 そんな痛々しい姫園鎮守府。主のいない、哀しい居場所となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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