君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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妥協案の結果

 

 

 

 

 

 仕方無いので、本日は学校を休んだ。

 広くはないリビングに全員正座。更に狭苦しい空間になった。

「五十鈴。……深海棲艦とかいう連中の見張りを」

「はいはい……」

 七海が言うので、ため息をついて五十鈴は少し身構えておく。

 母は一応解決しておいてとやんわり言ってお仕事に向かった。

 なので、桜庭に連絡したが、どうも原因は由良とか言う艦娘らしく。

 入院中の数名が脱走したのち渋谷さん家に押し掛けたので、直ぐに回収しに行くとのこと。

 翻訳機の装備をしていない由良以外の全員は、互いに何を言っているか理解できない。

 七海には異国の言語に聞こえて、彼女たちは七海が宇宙人のような言葉を発しているように聞こえる。

 大体、人間の渋谷七海を知らない深海棲艦と村雨と春雨は、面影のある彼女を七海と分からなかった。

 なぜ通じないと混乱する皆に、由良は青ざめて震える声で聞いた。

「五十鈴……七海ちゃん、まさか」

「そのまさかよ。この娘、もう提督の素質はないの。轟沈したときに、命と引き換えに色々と無くしているから」

 五十鈴は極秘と言われた七海の一件を許可を得て全員に説明した。

 記憶がない。力もない。素質もない。単なる人間。それが、今の七海。

 皆の知る彼女ではないと。これが、現実。黙っていた最大の理由。

 互いに不幸しか呼ばず、思い出せる見込みもない。

 七海はかなり尖った視線で皆を見ている。警戒、そういう色。

 以前には絶対に見せなかった最初の頃の色を見て、由良は嘘ではないと悟った。

「五十鈴、深海棲艦って艦娘と人類の敵ですよね?」

「……ええ」

 訝しげに彼女たちを見る七海。

 五十鈴は分かった。記憶を失った彼女も、結局深海棲艦の思い出を忘れたまま。

 やっぱり、他の連中と同じで彼女たちをただの害悪にしか見ないだろうと。

 だって初期の七海はそんな気持ち微塵もないから。

 殺せばいいの時期だった七海からすれば、自分で和解した彼女たちも否定するだろう。

 そうすれば……信じている皆が強いショックを受けて悲しむのは目に見えている。

 悲劇は、回避できない……。

 

「こいつらどう見ても人間でしょ? 深海棲艦って言うのは何です、新手の人類だったんですか?」

 

「ちょっと何言っているか理解できないんだけど!?」

 

 あれ? 

「深海棲艦って言うから怪物を想像していたのに。こいつら単なる人ですけど?」

 七海は普通に人間と言っていた。

 理由を問えば、妖怪扱いすると襲われるので渋々人間と認めていく方向にしたらしい。

「いや、よく見なさい! 角があるけど!?」

「角? ああ、角……角ですね。それが?」

「人間には角ないでしょ!?」

「細かいですよ。言葉通じて全体のシルエットが人なら艦娘と同じ妖怪……じゃない、人間でしょう」

 角のあるリンゴを示して聞くが、角があるから何だと言わんばかりにけろっとしている。

 単純にしか見ていないようで、怖くないかと聞いたのだが。

「別に? 怖いと言えば、精々そこの見た目が完全に薄い本に出てきそうな奴でしょうね。五十鈴が言っていた例の淫乱メイドって彼女だと思いますが?」

 入院の服を着ている村雨は何やら、また七海が酷いことを言っていると分かって威嚇する。

「何言っているか分かりませんけど、記憶喪失だって言うのにまだ村雨を淫乱扱いしますか!!」

 七海も唸っている村雨が何を怒っているのか五十鈴に聞く。

 内容を翻訳され、驚いている。

「えっ!? 違うんですか!?」

「違うわァッ!!」

 経験で言っている言葉を分かった村雨が怒りで吠える。

 当然分からない七海は驚いて五十鈴に翻訳する。

「……五十鈴。こいつ、過去に如何わしいバイトとかしてませんよね? 凄い怒ってるし……。あたしのメイドだって言うのに、歯向かってますよ?」

「不本意なんですって。あと、この娘は村雨。あんたが殴りあいして拾ってきた野良メイド」

 名前を全員教えておくと、パクチー以外はそれっぽい名前になっていると納得していた。

 深海棲艦に名付けているのは自分だと聞いて流石と自画自賛。ウザい。

「記憶なくても何時もの提督じゃない!! 心配してたのに!!」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ村雨を始め、皆が一斉に騒ぎ出す。

 宥めて、代表して皆は心配していたのだ、と由良が言ったが。

「そう言えばこのポニーテールの女性は誰ですか? 五十鈴の姉妹?」

「そうよ。五十鈴とポジションは似たようなもんだけど、甘やかしてばっかのダメな艦娘」

「さらっと酷くない!?」

 七海は覚えていないまま、五十鈴に聞いて姉ポジと言われて首を傾げる。

「由良……? いえ、知らない人ですが……。でも、五十鈴以外にあたしを好む変な艦娘はいたんですね」

 全然覚えてないと彼女に言われて、改めて記憶がないのだと表情で分かってしまう。

 更に、三人のことも言われて再びドン引きの七海。

「そんな趣味はないんですけど」

 娘も妹も嫁もいないと断言して、雰囲気で伝わった三人が、泣きそうな顔で七海を見上げた。

 すると……。

 

「うっ!?」

 

 七海の知らない七海から、形を変えた猛烈な抗議が発生。

 激しい頭痛に途端に襲われる七海は、頭を左手で押さえて踞る。

 ズキズキとする強い偏頭痛。苦痛に顔を歪ませる。

 

 ……居ますよ? 全員、居ます。分かりましたか?

 

(分かりましたよ!! ちゃんと面倒見るんで頭痛は勘弁してくださいな!!)

 

 ……宜しい。

 

 また、幻聴が聞こえる。駆け寄る五十鈴と由良に、大丈夫と右手で制する。

 どうやら、自分の可愛い身内に貶す真似以外にも泣かせる真似はご法度のようだ。

 五十鈴にまた幻聴が聞こえ、世話をしろと言われたと言う。

「何してるのあの娘は……!?」

 五十鈴が、内面の七海にあまり過激なことはするなと叱っている。

 驚く周囲に、現在の七海は以前の七海からどうも自分の身体を度々奪われて攻撃されると言うことを教えておく。

 頭痛が治まり、これも七海の知らない七海からの攻撃のようだと言われ、由良も言葉を失った。

 まるで二重人格だ。表と裏で揉めている面倒な状態と言えばいいのか。

「と、取り敢えず……一度、正式な手続きをお願いします。あたしも、受け入れないとひどい目に遭うので、努力しますので……。逃げてきたり突然押し掛けるのは困ります。只でさえこっちは危ない目に……」

「七海、余計なことを言わないで」

 うっかり、吹雪のことを言いそうになった。

 五十鈴が制止したので語らないが、全員目付きが変わる。

 五十鈴の言葉は正確に理解できる皆は、五十鈴が止めたという事実は分かる。

 由良に翻訳しろと睨まれて、半泣きの由良に危ない目にあったと言ってしまった。

「由良、何してるのあんたは!?」

「い、良いじゃない別に! 由良だってね、寂しかったのよ!? 由良だって七海ちゃんの実家に居候したい! もうあんな雰囲気の悪い鎮守府に帰るのは嫌なの!! 五十鈴ばっかりズルいズルい!!」

「なんで駄々っ子になってんのあんたは……!?」

 五十鈴は留守にしているので鎮守府の変化を知らない。

 逆ギレの由良は駄々をこねている。

 だいぶストレスが溜まっているので帰りたくないのも本音であった。

 以前よりも殺伐した空気で居心地は悪いと深海棲艦は言って、入院している皆は戻りたくないと言い出した。

 余計に拗れる問題。疲れた顔で、七海は仕方なさそうに言い出す。

「分かりましたよ……。何とか方便考えて見ますから、我が儘言わないでください……。はぁ……」

 自分で蒔いた種とはいえ、苦労が増える七海はため息をついた。

 これで桜庭と七海の双方は、胃痛と頭痛と悩むことになっていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 順を追って語ろうか。

 先ず、病院脱走組。強制送還。再検査、異常なし。完全復活。

 医者が言うには、精神的な欠如を補った結果、元通りになったらしい。

 要するに原因は極度のストレスであり、改善されれば自然と回復するのは当然で。

 そのまま準備に入った。

 次、深海棲艦。強制送還。のちに交代制で護衛任務につく。

 街中に深海棲艦を入れ込む行為だが、武器もないしストッパーに艦娘もいる。

 大体七海の護衛という建前であるので、攻撃する場合もあり得るので已む無し。

 脱走の一件で大本営は、権力の無駄遣いで色々後始末と揉み消しを行った桜庭の助言ありで七海の言うことしか聞かないと判断して、彼女にあるバイトを持ちかけた。

 海軍の関係者ではなく、外部協力者……即ち、彼女の雇い主として。

 この危険生物、ちょいと面倒見てくれと。

 面倒見てくれたら提督しないでいいから。

 ある程度の発言力もあげるし、最悪深海棲艦たちの指揮を執っても構わない。

 ただ、機密は漏らさないで欲しいと。

 桜庭ですら、言うことを聞かないが失うには価値があるので妥協したらしい。

 深海棲艦のボスになったわけだ。民間人でありながら。

 で、彼女たちに命令する司令塔は七海なので普段は普通に暮らすので桜庭に従えと言われて、渋々了解。

 次、由良。お説教と厳罰。桜庭に絞られ、後日深海棲艦の見張りを命じられた。

 思惑通り七海の家に行けと言われて護衛兼用深海棲艦のストッパー。

 五十鈴と同じポジションに収まった。

 で、七海は今も平穏に暮らしている。

 一応は……。

「渋谷さん、今日もお迎え来たわよ。ほら、あのメイドさんたちとお姉さんたち来てるって」

 また知り合いに呼ばれる放課後。

 毎日お迎えに数人で来ては、学友に意外と七海は関係者に美人と美少女が多いと判明して、男子生徒に紹介してくれと言われる始末。

 七海自身は言われないが、彼女たちは見た目こそ少々奇抜だが、角があったり色白だったりするが、そんなもの美人ならば関係あるかという現金な言い分により無視。

 思春期男子には知ったことじゃないらしい。

(そんな阿呆な……)

 自分なりに男子は阿呆なのかと時々思う。

 外では七海と呼べと自分の過去の性癖を隠すために徹底した結果、以前と変わらぬイチャイチャと困惑の毎日に戻っていた。

 現在、深海棲艦たちは桜庭の所有する自家用車のワンボックスを根城にしており、渋谷の家の駐車場を借りて止め車中泊をしていた。

 家のなかでは人数が多すぎて入れないので、妥協した結論であった。

 生活費は基本的には母に先払いされており、風呂は銭湯、洗濯はコインランドリーと意外と生活は楽しいようだ。

 七海も慣れてきた今日この頃は車中泊に向かって楽しんではいた。

 深海棲艦と言えど見た目が同じで言葉が通じれば人間とやはり大差はないのだ。 

「お嬢様、お迎えにきた」

「て……じゃない。七海、お疲れ様」

「ご主人様、お帰りなさい!!」

「七海ちゃん、今日もよく頑張ったね、ね?」

「ハイハイ、帰るわよほら」

 小春、村雨、春雨、由良、五十鈴。

 見慣れた面子は校門で待っていた。

 合流してさっさと帰る。

 目立つ改造和服メイドの小春と、クラシックメイド服の姉妹。

 赤いスカートとブラウスとお揃いの姉妹と、美人に囲まれていた。

 皆で歩く帰り道。

「お嬢様、ひとつ提案が」

「何ですか?」

「この淫乱エロメイドをそろそろネオンの街に返したい」

 小春がまた学生にナンパされて迷惑だと村雨に因縁をつけていた。

 五十鈴が言っていたのはどうやら事実だと思う七海は、キレる村雨に聞く。

「本当に普通なんですよね?」

「普通以外にないですけど!? 村雨はごく一般的なメイドのような何かですが!?」 

 疑いの視線に証拠を見せろというので、七海はあるモノを鞄から取り出して手渡す。

 黒い紙袋に入った……如何わしいエロ本であった。因みにクラスの男子から無理を言って借りてきた。

 うちのメイドが題材になっていると言われて確認するために、今回借りてきたのだが……。

 取り出さずに中身を確認して顔を真っ赤にする村雨。内容は村雨メイド本である。

「著者はオータムクラウドなる最新の同人誌です。どう見てもこれ、貴方ですよね村雨。これでも言い訳しますか?」

 まさかの証拠持参に、とうとう半泣きで弁解する村雨。

「ち、違うんです……。村雨は本当に事実無根で……健全に生きてきたんです……。信じてください……」

 五十鈴も覗き、これは言い訳できないと首を振る。

 春雨と由良は見ないと真っ赤になって断り、小春が覗いてやはりと言った。

「これで確定した。お前は完全な淫乱エロメイド」

「うぅ……誤解なのに……」

 泣く泣く否定する村雨を軽蔑する小春。

 などとやっている道中。

 ……奴は来た。

 

「おぉ! やはりこの学校だったか!」

 

 野太い男の声がした。

 歩道を歩く皆に、近くでワンボックスが路肩に停車した。

 運転席から、ハゲの男が顔を出す。

 その顔を見て、ビックリする七海は駆け寄っていった。

「島村さん! お久しぶりです!」

 珍しい笑顔で対応する相手は国防の豪傑、島村その人であった。

 助手席に戦艦武蔵を乗せてわざわざ訪ねて来たらしい。

 その、用事とは……。

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