君と結ばれる、物語の作り方   作:らむだぜろ

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市街戦

 

 

 

 

 

 

 

 五十鈴がハゲに詳しい事情を話している頃。

 陸軍の軍用の車に乗る皆は、現場に向かっている。

 逃げ惑う市民たちを、他の隊員たちが必死に誘導している。

 邪魔な乗用車を器用に回避しながら、突き進む。

 血塗れの人間たち。沢山の怪我人。怯え、竦み上がる人々。

 前を見れば、黒煙をあげ燃え盛り、破壊される街が遠くに広がり、軍人たちが手持ちの火器で懸命に抗っていると運転手の無線に入った。

 火薬、硝煙、焦げた肉のような悪臭……。そんなものの中を進んでいく。

 皆が知らない、海の上でしか戦わない彼女たちが初めて目にする世界。

 暴力に対抗できずに蹂躙される、無力な人間たちの世界だった。

「よく見ておくと良いです。これが、あたしたちが負けたら広がる地獄と言うことを知っておいてください」

 七海は大して動揺していないようだった。

 彼女だって早々見たことのない光景だが、想像の範囲である。

 艦娘が負けるとはそういう意味で、本土を焼かれるとはこういう意味だ。

 戦争とは、明確な終わりはない。

 特に深海棲艦など加減も知らないはず。

 大半が焦土になるなら人間は逃げるしかない。

 人間に出来ることは、皆無。特に民間人など、一方的に殺されるだけだ。

 これを、虐殺と言うのだが七海は虐殺程度じゃ動じない。

 皆は青ざめて流れる風景を凝視していた。

 鎮守府に居るときは想像することすらなかった、戦争の真実。

 敗北の光景が、目の前にあり、自分達の役目を思い出す機会になっただろう。 

 七海は興味などない。他人がいくら傷つこうが無関係であるし、今回も邪魔だから取っ払うだけ。

 障害にならないなら無視していたし。そんな価値しかこの残酷な現実にはない。

 運転手が速度をあげる。爆撃が通り過ぎた区域に侵入したと言った。

 アスファルトは派手に捲れて、大穴がそこらじゅうに目立つ悪路を進む。

 窓の外から見える世界は、黒と山吹色の色に染まる。

 燃えている建物を消火する軍人。誘導を終えて、救助をしている軍人。

 現代の都市部が破壊されると、大半は機能がそのまま死ぬ。

 下水道が破裂して汚い噴水を作り、道路を汚物で汚している。

 悪臭を堪えながら向かっていく。海は、まだ都市部を抜けないと出てこない。

「……おいでなすったか!! 来たぞ、飛行機だ!!」

 陸軍では艦載機を飛行機と呼ぶのか、そう叫ばれる。

 運転手の見ている眼前は、無数の小さな影が飛び交って、下から火花が散っている。

 ここが最前線。後方に停車すると、皆は武器を準備しておく。

 時折爆発して煙が此方に流れてくる。一度見えなくなる視界。

「なんであんなラジコンみたいなもんでこんな被害が出せるんだよおい!!」

 突撃銃を用意して悪態をつく運転手の言う通り、深海棲艦のサイズは大体小春が良い例で、良くて成人女性と同じぐらい。

 本来の飛行機をそのままラジコンにして、戦力を維持したモノと想像すると分かりやすい。

 要するに陸軍は人を殺せる自分達の火器が通用しないラジコンと戦っているのだ。

 その癖、機動性は本物と大差なく目まぐるしく移動する。

 殺傷能力も変わらない。逆を言えば、艦娘はそれだけ頑丈と言うことにもなるが。

(……成る程。艦上爆撃機、艦上戦闘機ですか。道理で、こんな被害を出せるわけですね)

 七海は一見して分かった。連中が相手にしているのは爆撃機と戦闘機。

 爆弾を落としたあとに機銃で艦載機は応戦しているらしい。持続的に出来るわけだ。

 艦娘には効果の薄い機銃でも、人間には十分致命的。

 更には乗ってきた戦車の装甲程度なら、機銃でも事足りる。

 この甚大な被害のうち、破壊された戦車の爆発も交じっている。

 だから二次被害が出ているようだった。

 ドアを蹴り開けて七海は飛び出す。

 ……蹴り飛ばしたら、ドアが諸とも吹っ飛んだ。

「おわっ!? 何!?」

「すいません。あたし、特殊な訓練を受けているので加減間違えてしまいました」

 驚く運転手に、豪快に吹き飛ばしたドアを見て、謝った。

 唖然とする運転手。怪しまれないように口八丁で言いくるめる。

 提督とは選ばれた人を示し、有事には自らが戦うと吹き込み、自分の異常性を正当化する。

 嘘は言っていない。ハゲは自分でヘリコプターの操縦士として往くし、桜庭は言うまでもない。

 詰まりは嘘じゃない。事実を言っただけ。極論だが。

「提督って……すげえ……」

 司令官の立場は伊達じゃないと言っておくと呆然と呟く運転手。

 皆も車を素早く降りて銃を構えた。

 七海も降りて指示を出す。隣の浮遊要塞と一緒に浮かびながら。

「って、何か浮かんでる!?」

「海軍驚異のメカニズム。そういうことです」

 プカプカ浮いているのも、海軍驚異のメカニズムで済ませる。

 艦娘関係の技術は驚異のメカニズムと言えるのでこれも嘘じゃない。

 最早怒濤の展開についていけない運転手は、小声で言った。

「海軍は……宇宙の民だった……?」

 絶対違う。

 取り敢えず、皆の装備を確認する。

 主砲は火力が高すぎて、周囲の建物を破壊する恐れもあった。 

 逃げ遅れた市民を巻き込んで死なせると面倒なので車中で一度全員交換しておいた。 

 如月は単独で動けと命じた。

 彼女は特に対空射撃は上手である。

 故に、威力の高い10cm連装高角砲を持たせておいた。

 村雨と春雨は多少状況に動揺して手振れを起こしている。

 なので、少し小さめの8cm高角砲を任せておく。

 こっちは反動も小さいし、使いやすい。

 弥生と山風は、小春と行動する。

 ただ、小春は少々手癖が悪く、撃ちまくっても当たらない。

 妹と娘も、主砲はまだまだ七海から見れば甘い。

 なのでこの際、多少の周囲の被害は目をつむる。

 25mm単装機銃を渡した。弾幕で撃ち落とせと命じた。

 浮遊要塞が溜め込んでいた艤装だ。間違いなく陸上でも通じる。

 走り回って撃ち落とすだけであり、普段と内容は変わらない。

 緊張しないでやれと、皆に落ち着くように再三言いつける。

「市民の避難は、他の方々にお任せしましょう。あたしたちは、兎に角片っ端から叩き落とせばいいんです。役割は分担しますので、そちらも宜しくお願いします」 

 運転手を通じて、部隊長に伝令して、皆はそれぞれ……作戦を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 七海は全体の把握と指示を担当する。

 ついでに言えば、唯一空戦を生身でこなせる貴重な存在である。 

 浮遊要塞を引き連れ、飛翔する。

 加速して、眼下で人間が空を飛んでると叫ぶ隊員を見下ろした。

 どこぞの漫画みたいなもんだが、まあ気にしないでおこう。

 取り敢えず、両手の掌を合わせる。武器を取り出す動作だ。

 生憎と、七海こと浮遊棲姫は、口から取り出すなんて芸当はできない。

 出来るのは、浮遊要塞と共通の艤装を並行して取り出して使用するぐらいか。

 但し、人である以上は艦娘の装備だって普通に使える。

 機銃だろうが主砲だろうが何でもござれだ。

 まあ、七海が知識のみで振り回すので……。

(えっ? 追尾しないんですかこれは!?)

 相当な数を見て面倒くさいと、先程の自分の考えを忘れて、バカみたいなものを持ち出した。

 12cm30連装噴進砲。両手で持ち上げて、飛行しながら上空で弾幕を張った。

 が、この装備……要はミサイルをぶちまける火力が高過ぎる装備で、てっきり追尾すると思っていたが、見た目こそド派手な音と煙をあげて射出するが、全然見当違いな方向にすっ飛んでいった。

 半分は大空へと舞い上がって行ってしまう。

 言葉を失う七海。当たると思ったんだが……。

「あれぇ……?」 

 この装備、艦娘が艤装で使うとちゃんとある程度は追尾するのに、七海が使うとただ直進するだけ。

 なぜ? と首を傾げる。然し、ド派手が幸いとなったのか、艦載機の一部が逃げていった。

 見た目だけのハリボテだったが、一応役立った。多分。

 下では、走り回る春雨と村雨が、必死に上に向かって撃ちまくる。

 陸での反応は海とは違う。同じ感覚でやっていると当たらない。

 周囲のビルの外壁に巨大な弾痕を残してしまう。

「あ、当たらない……!!」

「なんで……!? なんで何時もなら当たるのに!?」

 焦る村雨、混乱する春雨。

 あらゆる状況が未知だった。

 助けを求める市民の声、応援を感謝する人間の声、焦げる肉の生臭さ、硝煙の嗅いだことのない空気に、鈍る感覚。

 初めての陸戦は、彼女たちが一番対応が出来ていなかった。

 小春、山風、弥生は。

「弾がある限り、撃ちまくるッ!!」

「弾幕、弾幕しなきゃ!」

「どうせ当たらないから、下手な鉄砲も数撃てば当てられる……!」

 三人揃って瓦礫の街を駆け回り、姉妹の分まで数にものを言わせて撃墜する。

 そこに、装備が類似しているからと救助を終えた陸軍も加勢する。

「良いぞォ、艦娘さん!! リロードの間は任せろ! ぼさっとするんじゃねえ! 俺達も続くぞ! 化け物の飛行機なんぞに、人間が負けてたまるかよぉ!!」

 階級が偉そうな男性が部下たちに命じる。

 突撃銃と艤装の機銃が合わさって、凄まじい銃声を奏でながら皆で一斉射撃を開始。

 弾丸の嵐となった下方からの突き上げに、低空飛行で応戦する艦載機が主に落ちる。

 爆弾を落とされても、人数と弾数という分かりやすい壁によって落ちる前に空中で爆発。

 爆風を受けるが怯まない彼女たちと共に、軍人たちの折れそうになった心に火を灯した。

 深海棲艦、元艦娘、人間による稀な共同戦線が出来ていた。

(……ふぅん? 意外と、差別しないのね……陸軍って)

 一人、屋根を伝って進む如月はその様子を眺めていた。

 彼女は冷静に、一発を確実に当てていた。

 使った弾がイコールで、撃墜した数だ。

 淡々と、狙った相手を撃破して進む。

 市民は助けない。一切無視して、戦いに集中する。

 この地獄のなかでも、如月はいち早く適応している。

 怖くなどない。心配などない。

 同じ戦場に七海がいるのに何を恐れ、強ばる理由がある?

 必要なのは冷静な判断と、冷酷な心。

 市民を全て構わない冷たい心と、ぶれない意思が勝利の鍵。

 だから、如月は余裕がある。慌てない、惑わされない。だから強い。

(救助は任せればいい。如月は落とすだけ。あんな爆撃、怖くなんてないもの)

 慢心しない。油断なんて以ての外。七海の命令通りなら、死ぬことなどない。

 右往左往する姉妹に、如月は珍しく怒鳴った。

「もう!! 村雨ちゃんと春雨ちゃんは少し落ち着いて!! 焦っても当たらないわ! もう少し互いをカバーしないとダメ!!」

 余裕がないから、二人は余計に焦ってミスする。

 意識しろと、如月に叱られて、然しその程度で直せるほど二人の動揺は小さくない。

 七海に通達。メイド姉妹が足を引っ張っている。

 迎撃には不向きと進言。実際、反撃の銃撃を受けて瓦礫の陰に隠れている始末。

 これでは、役に立たない。

「了解。作戦を変更します」

 七海も応戦しながら進言を受けて、作戦を切り替える。

 都市部での戦いは、まだ終わらない……。

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