メトロイドvsプレデター ―サムス クロニクル― 作:ぷるぷるゼラチン気質
宇宙は広い。
今現在判明している大銀河の範囲で巨大星間国家群を築いている銀河連邦だが、当然宇宙の全てを支配しているわけでも、ましてや把握しきっているわけでもない。
様々な宇宙的種族で形成されている銀河連邦。
人間もその中の一種族であり、数の多さから銀河連邦の主要種族となっていた。今、宇宙で最も繁栄している
『チョウゾ』。
そう名乗る、人間の神話に登場する鳥面人身の怪物のようなヒューマノイドが、
この無限とも思える広く遠い宇宙を支配していた。だが支配者というよりは管理と観察を主として宇宙の調停を担い、宇宙全体のバランスと調和を護る守護者だった。銀河連邦の認識では、この鳥人族こそが宇宙の叡智の頂点を極めた唯一族だったが、チョウゾ自身が蓄える歴史と知識はそれとは大きく違っていたのは人間には余り知られていない。
かつて宇宙の行く末を巡ってチョウゾと対等に意見を交わす種がいくらかいた。チョウゾと思想を同じくし盟を交わしてチョウゾを盟主と仰いだ文明、ルミナス、ブリオニアン、イーラ達。その高度文明同盟群と、単一種族でありながら同等以上の勢力を誇った危険な好戦的狩猟民族ヤウジャ。
そして、全ての頂点に立ち、生命…宇宙そのものの創造に関わっているとさえチョウゾに伝わる神が如くの伝説的巨人族スペースジョッキー。
しかしチョウゾが台頭する頃になると〝神〟スペースジョッキーは忽然とこの宇宙から姿を消し、スペースジョッキーが遺していった奉仕種族エンジニアもある日を堺に歴史の表舞台から消え、そしてヤウジャもまたスペースジョッキーを追うかのように歴史から姿を消していた…。
悠久の年月が流れ、そして今、宇宙の覇者・スペースジョッキーの後継と謳われたチョウゾも衰え始め、今やかつての英主チョウゾは惑星ゼーベスに僅かを残すのみとなり、チョウゾの同盟文明達も衰え、或いは滅びて歴史の一部となって…現在、銀河を我が物顔で跋扈するは人間達であり宇宙の盟主は人類となりつつある。『人間の時代』の夜明けは近い、そんな時代。
∴∴∴
コスモ歴200x年。
資源採掘コロニーK-2L。
銀河の片隅での資源採掘は楽な仕事ではないが、それでもこのK-2Lは銀河連邦の庇護の元、平和で活気ある空気に満ちていた。採れる資源は恒星間航行時代では宇宙船のイグニッションモジュールとして最適なアフローラルタイトが主で、銀河連邦の厳重な管理の元、採掘団主任ロッド・アラン率いるチームが日夜せっせと掘り出していた。
K-2Lが宇宙船による銀河ネットワークを支えていると言ったら些か過大かもしれないが、それでもロッド・アランは自負を持って日夜この業務にあたっていた。
美しい妻、バージニア・アランと…そして可愛い一人娘、サムス・アランの為にも激務を熟す日々を送っている。アラン一家は平和で、そして充実した日常を過ごしていた。だがそんなささやかな幸福の日々は、ある時突然終りを迎える。
メトロイド創造に不可欠な物質アフローラルタイトを求め降り立ったチョウゾ2名。それを密かに追跡していたスペースパイレーツがK-2Lに接近し、そこがアフローラルタイトの一大産地だと見抜かれて襲撃されてしまったのだ。
チョウゾの追跡とコロニー襲撃を指揮したのはスペースパイレーツの戦闘指揮官リドリー。骨と皮だけの巨大な翼竜に細く長い手足を生やしたような、見るからに凶悪な生物がリドリーと呼ばれる怪物の容姿であることは銀河連邦軍にも連邦警察にも知られている。
銀河連邦はスペースパイレーツを「宇宙のドブネズミの掃き溜め所帯」程度にしか見ていないが、それでも首魁のリドリーの悪名だけは宇宙に広く恐れられていた。リドリー個人は凶悪無比で恐ろしいが、スペースパイレーツという組織として見れば超巨大星間国家である銀河連邦の足元にも及ばない…それが連邦中央に住む者達の共通認識であった。
それがまさか、こそ泥が徒党を組んだ程度の宇宙海賊が銀河連邦の主要施設を正面切って襲ってくるとはこの時点で誰も予想していなかった。認識の甘さが招いた結果は無残なもので、資源採掘コロニーは壊滅した。コロニーに移住していた何万もの作業員とその家族は全滅し、施設も採掘鉱山も消し飛んだこの事件は、多くの銀河の運命の分岐点でもあった。
銀河連邦の一大資源施設を手も無く捻った事で連邦のメンツを叩き潰した狡猾の死神・リドリーの悪名が大銀河に遍く轟くことになる。一躍銀河随一の悪のカリスマとなったリドリーの元に大量の宇宙犯罪者が集いだし…しかも反銀河連邦の思想を持つ連邦の『脱落者』までがリドリーの元へ合流するようになった。
スペースパイレーツが銀河連邦の宿敵となりだしたその出発点と言え、歴史的に見れば銀河連邦とスペースパイレーツの血で血を洗う銀河戦争が始まった時であり…そしてこの事件があったからこそK-2L唯一の生き残りであるサムス・アランがチョウゾに拾われ、チョウゾの後継者・銀河の守り手サムス・アランが生まれた。リドリーがいなければ銀河最強の守護者サムスは誕生しなかったのは何とも皮肉であった。
∴∴∴
K-2L壊滅事件の前後…銀河連邦やスペースパイレーツ、そしてチョウゾですら未だ知りえない
曲がった円形チューブ状の、欠けた黒いドーナツのような馬蹄形大型船が流線型の鈍い銀色をした小型船に執拗な追撃を受けている。小回りの効く銀色の追跡艇は断中間子粒子ビーム砲を船首から間断なく連射し、黒ドーナツの船は見る見る間に薄緑に輝く半透明のシールドバリアを失っていよいよ船体そのものから火を吹き出した。ぐらつきながらも黒いシップは銀色の追跡者から逃れようと必死なようで、
「Rrrrrrr…」
銀色の追跡艇…その中で標準的なサイズのヒューマノイド型パイロットチェアに深く腰掛けながら空間に浮かび上がらせた赤黒のコンソールを操作する者が独特の顫動音を船内に鳴り響かせる。
その者は無貌の白いマスクで顔を覆っており表情は伺えないが、顫動音と仕草からは自船のダメージに対する焦燥は感じさせない。ダメージチェックなどする素振りも見せず逃亡者のワープ先の解析を優先。逃亡船が、時空が乱れる程の激しいジャミングを残していってくれたお陰で大体の
彼らの行く先はかつて彼らが住んでいた懐かしき宇宙。彼らは奇しくも帰ってきたのだ。
サムス・アランの故郷が滅びた悲しきその日は、様々な運命が動き出した日でもあった。
∴∴∴
その日、3歳のサムス・アランは惑星ゼーベスの厳しい環境に適応するための生体調整を終え…2名のチョウゾ、オールドバードとグレイヴォイスらと共にサムスの肉体の様子見とゼーベス観光も兼ねて散歩に繰り出していた。
少女と呼ぶにも少々幼すぎるサムス。
彼女はつい数週間前までは、屈託のない…まさに天使のような爛漫な笑顔を輝かせていたのに今やその表情は死人のように鬱屈としていた。チョウゾの長老オールドバードに手を引かれなければろくに歩けもしない。
「…生体調整は失敗でしょうか?」
老いて消えゆく鳥人族の中でも比較的若く、そして戦士としての心も持つ稀有なチョウゾ・グレイヴォイスがやや戸惑いながら言った。
「…お言葉ですがグレイヴォイス。私の生体調整は完璧です。サムスがこのように覚束ない足取りであるのは、理論的にはありえないことです」
3人の周りをふよふよと漂うサムスの頭程の球体…マザーブレインの視覚デバイスが女性的な機械音声で反論を試みる。
「いやいや、マザー…お前の仕事には満足しておるよ。…これは、心の傷だ。いかなチョウゾの科学力でもこれは一朝一夕で癒せるものではない」
「ココロの傷…?」
優しさと悲しさを同居させた眼差しで人間の少女を見るオールドバードが、やはり悲しげな声色で答えた。マザーブレインはキョトンとしてオールドバードの答えを復唱する。
「…彼女には時間が必要だ。のんびり構えるわけにもゆかぬが、焦る必要もない。じっくりとサムスを育てようではないか」
次の日も次の日も、その次の日もオールドバード達は根気よくサムス少女に寄り添い彼女を支え続けた。
チョウゾ達には「この少女には老いた鳥人族に変わって銀河の守り手になって貰わねば」という思惑があったにせよ、情や親切心…それに自分達チョウゾが資源コロニーK-2L襲撃の遠因となってしまった負い目もあって誠に親身になって接していたし、人工知能マザーブレインも創造主チョウゾの命とはいえ、口喧しく融通の効かない所はあるもののサムスを甲斐甲斐しく世話していた。
だがサムスと同世代の者もおらず(寧ろ世代については下手をすればサムスの数百歳とか数千歳の差があったりする。チョウゾはとんでもなく長い個体寿命を持っている。同世代トークなど土台ムリな話だ)地球人種もいないゼーベスではサムスは孤独だった。オールドバードが言った通り、サムスが惑星ゼーベスを故郷と思えるようになるまではまだまだ時間が必要なのだ。
最初の生体調整から数日後…ある時、サムスはK-2Lの現住生物にして生き残り同士の友人であるウサギリスのピョンチーを伴ってゼーベス地表部・クレテリアの岸壁の上で風を味わっていた。マザーブレインらの目を盗んで居住区画を抜け出したのだ。既にマザーやオールドバード、グレイヴォイスらの監視をすり抜け厳しい環境のゼーベスの夜風に吹かれている辺り…最低でもサムスの肉体は順調に仕上がりつつある。
「ピョンチー…鳥のおじいちゃんも、みんなもよくしてくれるけど…私さみしいよ…ママに会いたい。パパに会いたい。K-2Lのみんなに会いたい…」
だが心は弱い。ただの少女のままなのだ。少女の瞳から耐えても耐えきれぬという風に涙がポロポロと溢れる。
ウサギリスは獣然とした容姿に反して高い知能を有する。ウサギリスのピョンチーも同族全てを失い悲しみを抱えてはいたが、それでも獣の本能が彼-彼女?-を支えていてメランコリックな感情に沈むことはなかった。ピョンチーは少女の涙を舐め取ってサムスの乱れる感情を慰め、サムスはギュッと彼女を抱きしめた。
そんな時だ。サムスの耳にノイズが聞こえた。
「…?何…何か聞こえる」
超人的な身体能力を獲得したサムスだからこそ聞こえた…或いは感知できたノイズ。ノイズというよりは一定の規則性を持った信号のような何かだ。チョウゾの機器が発するものではないだろう。リズムが違い、とても独特だ。
「…何だろう…SOSかもしれない…」
スペースパイレーツに襲撃され、何もかもを失ったばかりの少女は思わず走り出していた。マザーやグレイヴォイスらに知らせるという発想すら出ずに足は動き出していた。超人化されたサムスの走行速度は4歳にもなっていない地球人種とはとても思えぬ程で、乱雑な岩山も飛び跳ねて砂地をピョンチーを抱えたまま蹴って走ることができた。
信号のノイズの幅は狭まり、そして大きく脳細胞にチリチリと響いてくる。発信元は近い。そしてそれはクレテリアの谷間にあった。しかもゼーベスでは見かけない-少なくともこの短い滞在期間では居住区画でも見たことがない-美しい天然の花畑のど真ん中にそれは墜ちていた。銀河連邦でもゼーベスでも見かけない形状で、流れるような曲線で構成された槍の穂先のような銀色の船。
「わぁ…きれい……あ…!そ、そうじゃない!大変…助けなきゃ!」
一瞬、桜色の花々に囲まれる銀色のそれ、という幻想的な風景に心に奪われたが、一目見てそれは墜落した宇宙船なのだとこの時代に生きる者なら理解できた。肩で息をしながら一目散に墜落した小型艇へと駆け寄る。
サムスの腕の中でピョンチーは可愛い声で警告していたが今のサムスには届かない。冷静に考えれば地球人種の少女とてチョウゾに気付かれずチョウゾの住む星に墜落している宇宙船など怪しすぎると気付く…それぐらいチョウゾの科学力の高さはこの銀河に知れ渡っていて、もはや一般常識なのだがそれも今のサムスはスッポリと頭から抜け落ちていた。
「あの!大丈夫ですか!!」
船に駆け寄ったサムスは、花々に覆い隠され倒れていた人物を見つけた。
その人は無表情な白いマスク型ヘルメットで顔を覆い、どこか儀式的で蛮族らしさを感じさせる造形の衣服で身を覆っていた。
現代のパイロットスーツやパワードスーツとは根本から違う網状の軽装な装束。申し訳程度のプロテクターを左肩、左胸部、腕、腰、脛に付けた程度で、言っては悪いが宇宙船を動かせる
「な、なんだろう…キラキラした緑色の水がついてる。あっ、血なんだ、これ!大変…ど、どうしよ…そうだ!これを…」
微かに胸が上下に動いている。マスクの人物は死んではいない。サムスはグレイヴォイスから渡されていたポシェットを漁るとチョウゾ印の医療道具を取り出して、マザーの説明を思い出しながらそれらを倒れ伏す異星人へと使用する。
絆創膏の親玉のような物を傷口にペタペタ貼っつけていくと薬剤と治療ナノマシンが傷口から浸透して即座に止血される。その上から包帯を巻いてやるのだが、倒れている人物は筋骨隆々としていて身長は悠に2mを超えていそうだ。そんな人物の二の腕は丸太のようで幼いサムスには包帯を巻くだけで一苦労だ。
サムスの胴体より太そうな逞しい太ももにも巻いてやり、残すはプロテクターに覆われていない右胸の裂傷。だが分厚く広い胸板を包帯で巻くには今のサムスには一苦労所の話ではなく、それはもう重労働だ。身体能力は強化されていても包帯巻きにはテクニックと経験がいる。
サムスが治療を終える頃には彼女はヘトヘトだった。服も蛍光黄緑の血液でベタベタに汚れてしまっていたが、しかしサムスはそんなことは気にしなかった。先程よりもいくらか緩やかになった患者の呼吸を見て心底安堵し、そしてサムスはゼーベスへ来てから初めて柔らかな顔で微笑んだ。
(誰かを助けることができた)
少女の心はそんな思いで一杯で、空っぽだった心があの事件以来初めて、ほんの少しだが満たされたのだ。
目を閉じれば聞こえてくる、炎に包まれる人々の声。目の前で爆炎に飲まれて瞬時に炭化していく美しい母の姿。
あの時にサムスの心に刻まれたのはとてつもない恐怖と悲しみと、怒り…そして何よりも「救い、守りたい」という強烈な願望。
今、サムスの目の前に倒れている異星人は、サムスのそんな願望を満たしてくれるのに最適な人物だった。そしてサムスの方こそがその者に縋り付くようにして、助けになろうと必死になった。
「大丈夫だよ…私がいるからね…」
怪我をしたり、風邪を引いたりした時は母がいつも側にいてくれた。眠る時には添い寝をして頭を撫でて胸や背中をトントンと優しく叩いてくれていた。
そんなことを思い出しながら実行しているうち、サムスは謎の異星人に密着しながら寝息を立てていた。初めて出会った異星人に全く無防備を晒して寝息を立てるサムスは、やはり今、異常な精神状態だったのだろう。
ピョンチーは寝入ってしまった友人を起こそうとしばらく努力していたが、起きないことを悟ると、少しの間倒れた異星人を警戒した目つきでジッと睨んでいたが、すぐに自分も睡魔に襲われて三人仲良く花畑の中で眠りこけた。
ピョンチーの精神状態は異常というよりも唯図太いだけのようだった。
∴∴∴
彼が眠りから覚めた時、彼は自分の置かれた状況がイマイチ理解しきれなかった。
激しいチェイスの中で自分のスターシップが損傷し、ダメージを押して次元跳躍を敢行したのだが結果は芳しくなかった。敵からの妨害もあって次元座標がズレてしまい彼の船はとある惑星の地表スレスレにワープしてしまったのだ。
惑星の大気圏内にワープアウトするのは中々に危険な行為だ。もし惑星の大地内部に出現してしまったらそのまま土に埋もれて、下手をすれば大地の成分と混ざって半融合する可能性だってある。それに宇宙船の超光速が大気を振動させて惑星を破壊する事例だって過去にはあった。
故に彼は、ワープ航行中に座標が狂っているのを発見しそれが修正できないと理解した時点で船のエンジンのリミッターを外し、船体を覆うパワーフィールドを最大にまで高めた。彼らの文化圏で使用するスターシップは、船体バリアを最大出力にするとあらゆる物質非物質問わずあらゆる干渉を跳ね除ける万能の究極防壁となって身を守ってくれるし、周囲への干渉も軽減するで惑星へのダメージも安心だが、同時にそれは酷くエンジンに負担を強いる。
ダメージを追った状態で次元跳躍を行った時点で既に船体に負担を強いていたが、そこにリミッター解除でのパワーフィールド使用が響いてエンジンがついにイカれた。おまけにチェーンリアクションが起き船内各所が爆発したり漏電したりで彼は船外へ投げ出されて、そして打ち所が悪かったようで彼は意識を失っていた。
というのが顛末だったが、その彼は目覚めると横に寝ていた地球人種の幼体の存在に戸惑っているようだった。
「Rrrrr…」
彼の種が好んで発する顫動音が花畑に微かに響く。少女を見、そして自分の腕や脚、胸板に巻かれた治療痕を見、最後にウサギリスも見て、首を傾げる。
「わたしがいるからね…」
少女がむにゃむにゃと寝言を言った。先程も言っていたその言葉は彼女の母バージニアが娘に対して良く言っていた言葉。娘の不安を拭い去ってくれる魔法の言葉だ。
白い無貌のヘルメットが少女を見つめた。
少女の瞑られた瞳からは涙が一筋、頬を伝っていた。
「Rrrrrr……Wa・Ta・Shi……ワタシ……イルカラネ…イルカラネ」
地球人種の幼体の発した鳴き声の意味を理解しているのかいないのか。機械的に無造作に彼女の声を模倣する。そしてソッと尖った爪を持つ指でサムスの涙を拭うと、
「ワタシ・ガ・イル………krrrrrr…」
もう一度声を模倣して、彼はその姿を蜃気楼のように消してしまった。