メトロイドvsプレデター ―サムス クロニクル―   作:ぷるぷるゼラチン気質

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チャプター02 邂逅

「君の肉体が完全に調整できていたようで何よりだったな。でなければ死んでいたぞ!まったく無事だったから良かったものの!ゼーベスの屋外で一夜を過ごすなんて我々鳥人族だってそうそうするもんじゃないのに…大体君はまだゼーベスに来てそれ程経っていないというのにゼーベスの危険レベルを甘く見過ぎだな。しかも地球人種の3歳なんて無断外泊して良い成熟度なのか?私の知識では地球人種の成体は15歳から20歳以上だったと記憶しているが…?無謀というのもおこがましい行為で―――」

 

 帰ってきてすぐにグレイヴォイスの表情を押し殺したお説教が、かれこれ30分は続いている。グレイヴォイスはお冠のようだ。

 外でうっかり寝てしまったという言い訳だけでこの怒り様だ。見知らぬ異星人を介抱していた等と言ったらどれ程怒るだろう。サムスは内心で、服に付着した蛍光緑の血液を洗ってから帰って正解だったと確信していた。

 機嫌が悪い時の鳥人族の顔は怖い。表情というものが出にくい鳥類特有の無表情顔が更に真顔になるので銅像のようだ。ゼーベス居住区画や祭殿各所に安置されている鳥人像のようで不気味だなとサムスは思った。しかもそれだけではない。

 

「サムス。グレイヴォイスの目を見るのです。人の話を聞くときは目を見る…基本です。明らかな非を指摘されているのに素知らぬ顔でやり過ごそうなどという行為は、貴方の成長の為にもならないのですよ。グレイヴォイスの指摘した貴方の欠点をその都度是正すれば、それは必ず将来貴方の利となって―――」

 

マザーブレインまでも当然のようにお説教チームに属していた…。

 サムスはずっと俯いて、ピョンチーを抱きして嵐が過ぎ去るのを耐えるのみだ。

 

「まぁまぁ、グレイもマザーも…その辺にしておいてあげたらどうかな?」

 

助け舟だ。オールドバードが好々爺然とした柔らかさで若きチョウゾにタンマをかけるがしかし…、

 

「だがサムスよ…グレイヴォイス達の言うことは正しいのだよ。ゼーベスの夜は、まだまだ君には危険過ぎるのだ。グレイとマザーがここまで厳しく言うのも君を思ってのこと…。無茶をしないでおくれ、サムス。それにな…」

 

オールドバードからもややお叱りの言葉が来てしまった。だが言葉を一旦区切ってククク…とオールドバードは含み笑い。

 

「グレイヴォイスも、マザーも昨晩はそれはもう必死に君の探索をしていたんだよ。いやぁ二人共、わしが思った以上に心配性だったようでな」

 

「ちょ、ちょっとお止め下さいオールドバード…!私は別に…」

 

「そうですオールドバード。心配等という知的生命体特有の揺らぎではありません。あくまで理知に基づく当然の対処を実行しようとしただけです!それに私にはサムスを保護・育成するよう貴方から指令が――」

 

グレイヴォイスが厳しい顔を少し崩した。マザーもまた、感情のない有機マシーンの筈が照れ隠しともとれるような、捲し立てる口調で抗弁する。

 

「ほうほう、これは興味深い兆候が見られるな。マザーの反応は検分に値する。感情ともとれる反応が発生しているのかな?ふぅむ、ふむ、ふむ…マザーブレインも成長しておるのか……思えばその可能性も充分あったではないか。見落としていたな…マザーはただの機械(コンピューター)ではないのだから」

 

 巨大な脳髄が浮かぶ培養ポッドを見てう~むと髭をさする老鳥人。

 

(もうわたしは行っていいかな…?)

 

そう思ってサムス少女はそろりそろりと抜き足差し足。場を脱出しようとするも、

 

「サムス。どこに行こうというのだね?マザーとオールドバードは少し話があるそうだ。良かったな…叱ってくる相手は私一人になったぞ。さぁ続きと行こう。ピョンチー、君も同罪なのだから…逃げるなよ」

 

グレイヴォイスがサムスを見逃すはずもなくピシャリと釘を刺す。そしてウサギリスの相棒も知性を認められているが故の悲劇に見舞われた。ピョンチーもまたグレイヴォイスのお叱り対象だったのだ。サムスの腕の中でウサギリスが悲劇的な表情で俯いた…。

 

 

 

 

 

∴∴∴

 

 

 

 

 

そんな事があったが、その日からサムスは良く行方不明になった。と言っても最初の時のように大事になることは無い。すぐに彼女は帰ってくる。

 

「ただの散歩だよー」

 

そう言って、ただの散歩の割に大きめなカバンを持って、そしてそのカバンに食料や飲料水を詰め込んで短時間行方不明になるのだ。

 訝しんだグレイヴォイスとマザーが問い詰めてもサムスははぐらかすだけで、ある日とうとう2人(1人と1体)はサムスを追跡した。だが、サムスの生体調整における遺伝子提供者であり鳥人族最後の戦士タイプであるグレイと…惑星ゼーベスと半一体化し一惑星のほぼ全てを掌握、かつチョウゾの文化と知識を詰め込まれ、銀河連邦の中央データバンクとリンクし常時高度演算処理を行えるマザーブレインがあっさりとターゲット(サムス)を見失ってしまった。謎は深まるばかりである。

 

「じゃあいってきま~す」

 

 そして今日も少女はにこにこ笑顔で散歩へ出かけて行くのだった。

 

「…オールドバード、どうしますか?」

 

「ふむ…まぁ毎日無事帰ってくるしマザーの偵察でも地表部(クレテリア)に変わりはない…何よりサムスに笑顔が戻ってきた。今はまだ様子を見ようではないか。それに…話したくなる時が来たら、あの子から話してくれるじゃろうて」

 

帰宅する度に行われるマザーのスキャンでもサムスの健康状態に異常はない。

 チョウゾは高度な機械文明を有してはいるが科学を盲信してはいない。自然と一体となって調和・融和を旨として時には自然の成すがままに身を委ねる。オールドバードは、今はサムスの笑顔を信じて事の成り行きを見守ることにしたようだった。

 地球人種の幼子を見守る老チョウゾの瞳は、己の本当の孫を見守るように暖かい。

 

 

 

 

 

「おじさーん。いますかー…?」

 

 サムスは()()()()花畑へと顔を出すと、小さく「あっ」と叫んで目当ての人物を見つけて駆け出した。

 破損した銀の宇宙船から何らかの機器を引きずり出して、ウェアラブルコンピュータから小型のレーザーメスを引き出して赤い光線を照射し機器の修復をしている人物こそサムスの目的。チョウゾ族ではない。地球人種でもない。正体不明の異星人だ。

 

「…」

 

一切喋らない為、サムスも未だに彼の正体は知らない。今も黙々と機器の配線をレーザー照射している。顔さえ知らない。

 『彼』とは言ったが性別さえも実のところ不詳だ。だがサムスの知識では-少なくとも地球人種の一般的な性差知識から判断すると-彼は男だろう。

 

「…それでね、私言ったの。私まだ3歳なんだよ!って。だってグレイったら戦士のとっくんだー、なんて言ってさ――」

 

ここに来てサムスは彼との会話を楽しむ。それが最近の彼女の日課であり、とても大切な一時となっている。もっとも…会話と言っても彼は終始無言なのでサムスが一方的に喋り続けるだけだけだが…。

 彼は膝に抱えていた機器を放り投げると立ち上がり、宇宙船の銀装甲を引っ剥がすと中から更に別のパーツを配線ごと引きずり出し無造作に花畑の上に放り投げた。そしてそれをまた抱えて赤い光線を照射する…をずっと繰り返している。

 その間、サムスはちょこちょこ動く彼の後ろにくっついて離れず、親に宿題の読書を読み聞かせる子供のように話してくるのだ。

 

 当初こそ彼はそうして付いて回ろうとする少女を威嚇した。少女の目の前でいきなり歩みを止めて振り返り大きな唸り声を上げたり、右腕のリストブレイドをわざとサムスの首元で伸縮させたり、少女のか細い首も掴んで持ち上げ低音で唸りつつマスク越しに睨みつけたりと色々したが、それでもサムスはめげずに

 

「こ、怖くないよ…ぜんぜん大丈夫……だ、だって見た目は違っても……お…お、お友達に…なれるって鳥のおじいちゃんも言ってたもん……リドリーみたいなひとばかりじゃないって、わ、わたし…わかってるから…!」

 

震える声でそう答えた。

 あの日…リドリーと初めて出会った悪夢の日のように、震える体をピョンチーを強く胸に抱いて誤魔化して必死に己を奮い立たせている。彼女なりに悪夢(トラウマ)に立ち向かおうという心理なのかもしれなかった。

 もしこの時、リドリーの時のように〝お友達〟になるのを再び拒否されればサムスは他者を信じる心を失っていたかもしれない。内に秘めた母性や優しさを完全に喪失し、冷酷なバウンティハンターとなってチョウゾの期待には応えられない銀河戦士となっていたかもしれなかったが、彼は違ったのだ。

 戦意を持たない地球人種の幼体に牙を剥くような者ではなく、ある時点からサムスをあしらうのを止めて好きにさせるようになったのだ。友好的な態度も言葉も無いが、自分の周りをウロチョロするのを許した時点で彼の種にとっては充分な慈悲心の発露だろう。

 サムスはその時からずっと彼の後ろを付いて回っている。サムスの粘り勝ちだ。

 

「――ってことだったの。ネ!おじさん、ひどいと思わない?

 …………ところで、そろそろきゅうけいにしよう?もうお昼の時間だよ。わたしお腹へっちゃった!えへへ、今日のゴハンはこれだよ!じゃーん!ソイレント・グリーンとオートミールのグラタンと…天然タンパクのハンバーグに…デザートはナッツのミルクセーキかけ!」

 

 サムスは大きな肩掛けカバンからどっさりと食事プレートを取り出し(大人用のを5枚程)もったいぶった手付きで蓋を開けると何とも良い香りが辺りに漂う。

 厳しい環境のゼーベスではあるが、自然との調和を是とするチョウゾの思想を体現してか彼らの食糧事情は、宇宙航海時代で合成素材に溢れた現代とは思えない程天然素材揃いで質が良い。同盟関係にある銀河連邦の軍人がゼーベスに立ち寄ると、まず驚かれるのはチョウゾの高度文明ではなくこの羨望の的たる食糧事情だとか何とか…もっぱらの噂である。

 

「…Krrrr」

 

一声唸ってちらりと視線をサムスに寄越すが、彼はすぐに宇宙船へと視線を戻し再度作業に没頭する。これが毎日の反応だ。サムスは彼の作業する背中を眺めつつ1人で、

 

「いただきまーす」

 

笑顔で元気いっぱいに食事を開始する。

 一緒に食事をとりたいな、とは思うサムスだがこうして彼の作業風景を眺めながらの食事も最近はお気に入りなのだ。それに、自分がこうして持ってきた食事は後日、きちんと空になって帰ってくる。宇宙船の側に空のプレートが重ねられて置いてあるので少女は帰り際にいつもそれを回収するわけだ。

 もぐもぐ食べ始めかれこれ30分…時間を掛けて食事を楽しんだら、名残惜しいが帰る時間だ。先日の空プレートをカバンに詰め込んでサムスはくるっと作業中の彼へ向き直る。

 

「じゃあ、また明日くるね」

 

返事がないのを承知でサムスはブンブンと手を振って花畑を後にする。

 明日も()()()と食事ができたらいい。そしていつか、もっと仲良くなれれば良いな、と幼い少女は思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに?備品が足りない?」

 

「はい。クレテリア・チョウゾディア区画のB保管庫内の備品の数が合わないのです」

 

 その頃、ゼーベス地下中枢・行政区画(ツーリアン)にてグレイとマザーが額に皺寄せて頭を捻っていた。備品の貯蓄数をマザーブレインが数え損ねる等有り得ない故に悩んでいる両者なのだ。

 

「ということは、何者かが忍び込んで盗難したと?」

 

「…そうは言いませんが、私が『記憶違い』をするわけは無く…そして侵入者を見逃す可能性も小数点以下0が3つは必要な数値です。そしてチョウゾ内から盗人が発生する可能性も、やはり小数点以下に0が8つは必要になるでしょう。

 貯蓄数にズレが生じるようになった日付は、サムスが()()に行くようになってからなのです」

 

「…つまり何が言いたい?サムスが持ち出したとでも?」

 

「その可能性は低いですが有り得ます。地球人種の犯罪者排出率は高いですが、とは言ってもサムスの年齢で非行に走るには育成環境が多分に物を言います。しかし彼女の育成環境は現状、最高です。非行化は有り得ませんが…サムスが何らかの勘違い等から持ち出してしまった…等の可能性は考慮に値するでしょう」

 

 マザーの言葉の裏には、自分という最高の先生の元で養育しているのだから、という自信と…サムスは未だ完成には程遠いという悲哀が滲んでいる。

 

「…他にも我らの内の誰かが、下らぬ用事で置き場所を変えてうっかりそのまま…とかそういう可能性もある」

 

古老の1人・プラチナチェストの爺様ならそんなうっかりミスもしそうだな、とちょっと失礼な事を考えるグレイヴォイス。しかしそれは違うとマザーは言う。

 

「失礼かとは考えましたが、念の為アナタ方全員の活動ログを1週間前まで遡り全て見せて頂きました。その結果、チョウゾディア区画B倉庫に近づいた者は皆無…………そして、肝心のB倉庫内備蓄物紛失時間の監視カメラは酷く映像が乱れ、とても確認できるものでは無かったのです」

 

「…なるほど。サムスが悪意無くやったにせよ、ECMの類まで使ったのだとしたら問題だな。…オールドバードにも知らせておくべきだろう。メトロイドの件もある…あまりあの御方に余計な心労は掛けたく無いのだが…仕方ない。マザー、頼めるか?」

 

「それは勿論…ですがアナタはどうするのです、グレイ」

 

「…私は、今度は装備を整えてサムスを追う。彼女の行き先に何らかの答えがあるだろう」

 

そう言うと、グレイヴォイスは異次元に格納されていた彼専用のパワードスーツを起動・召喚し身にまとった。

 

「この姿も随分と久しぶりだ……ふむ、問題は無さそうだな」

 

「交戦の可能性があるのですか?しかし、そのような状況になってもアナタ方には心理プロテクトが…」

 

 マザーの指摘した『心理プロテクト』とは、平和を渇望し闘争を捨て去ったチョウゾの〝他者を傷つけたくない〟という強固な意思のことだ。それは精神的に崇高なまでに進化したチョウゾだからこそのもので、他者を傷つける度に…チョウゾ自身がまるで傷つくように心身が擦り切れていく体質的障害なのだ。

 チョウゾにとって闘争は己が死に至る病であった。

 

「ゼーベスに闘争相手はいない。君の監視をすり抜けるスペースパイレーツがいるとも思えないからな。これはサムスを見失わない為にXレイ・スコープを使いたいからだよ。先日は、きっと隠し通路のような抜け道を、サムスは使ったのだと思う」

 

 遺伝子提供者であるグレイヴォイスにとってサムスは娘同然だ。

 明日はじゃじゃ馬娘の秘密基地を暴いて、そしてきっとそこにある盗難品を返させて少しキツめに叱ってやる…。グレイヴォイスはその時はまだ気楽にそう考えていた。

 

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