メトロイドvsプレデター ―サムス クロニクル―   作:ぷるぷるゼラチン気質

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チャプター04 チョウゾミソロジー

「うぅむ…こうして本人を目の前にしても…今もって尚信じられぬ…まさか、貴方の種族をこの目で見ることになろうとは」

 

 オールドバードを始め、ゼーベスに住む全ての鳥人族が中心部行政区画(ツーリアン)へと集っていた。鳥人族達の中心には件の『彼』…狩人たる異星人が、上質のゲストチェアーに腰掛けている。

 マザーブレイン本体の前で、四角い石材のテーブルを囲んで『彼』、サムス、グレイヴォイス、そしてオールドバードが座していた。狩人は上座に座し、そして誰よりも偉そうに背もたれに体を預けてどっかりと座っている。というのも彼の種族は謙るだとか、そういう発想は持たないからだ。相手に敬意を抱いても自分を下げたり卑下したるすることはなく、強き者はそれだけで尊敬されるべき存在で、故に自分は尊い上位者である。そういう思考であった。だからこの場でも、まるで自分がこの集団のリーダーであるかのように堂々としていた。それにもう一つ…実際、彼はチョウゾらに対してこういう態度に出るだけの理由があった。

 

「オールドバードは、この者を御存知なのですか」

 

 先程の老チョウゾの口ぶりにマザーは培養ポッド内の大きな1つ目を見開いた。

 

「うむ……マザーやグレイが知らぬのも無理はない。もはや老いたチョウゾしか知らぬ方だよ」

 

「おじちゃんと、おじいちゃんは昔に会ったことがあるの?」

 

 サムスが大きな瞳に好奇心の光をランランと輝かせてそう聞く。

 

「あぁ、そうだよサムス…直接わしが会ったわけではないのだがね。わしらの遠いご先祖様が、彼の仲間達と会ったことがある。古い古い話だ……グレイよ、お主…いくつになったかな?」

 

「え?えぇ、そうですね…確か、標準周期で290歳です」

 

「若い…若いのう…まだ300歳になっとらんかったか。そんな若かったかな?」

 

 古老がポリポリとすっかり羽毛の薄くなった頭を掻く。言外に羨ましいなぁ、と言っているような気もした。なぜ突然自分の年齢の話題になったのか、怪訝な目でオールドバードを見るグレイヴォイス。

 

「他の老人達も知らぬ話…それだけ若ければ当然。マザーもな…。わしとてその話を確かめる為に、下層の古ぼけた倉庫を漁って古代のログマシーンを調べた程じゃ。もはや不要な情報だから伝える必要もないと判断しておった。余計な情報でマザーの記憶容量を圧迫したくなかったという理由もあったのだよ。()の種族は…『ヤウジャ』という」

 

「ヤウジャ…」

 

 自分が全く知らぬ未知なる知的生命体の種族名に、全宇宙一の知識量を自負していたマザーは、自分が知らなかったというショックを受けるよりも興味深さを掻き立てられていると見えて、ポツリと呟いた。

 

「我らチョウゾとも深い関わりがあった。我らチョウゾはヤウジャ達のことを、畏怖と…ある種の尊敬を込めてプレデター(天敵種)と呼んでいた…。数十万とも数百万年ともいわれるほど昔…遥か太古、チョウゾが平和を愛する種族ではなかった頃じゃ。チョウゾにも覇気と支配欲に満ち銀河の征服を目指して猛々しく…そして愚かしく侵略を繰り返していた時代があった。野蛮なまでの原始的勇猛さを未だ残し、そして成熟し始めた科学文明とが噛み合って、我らチョウゾは恐ろしい好戦種族じゃった。いくつもの星々を征服し、銀河にその名を轟かせていた時に、チョウゾは同じように銀河系を荒らし回っていたヤウジャと出会った」

 

 信じられない、という顔でオールドバードの話しに聞き入っているグレイとマザー。今のチョウゾの有り様からすれば、とても同一種族とは思えない。

 

「好戦的な2種族が出逢えばどうなるかは想像に難くない。話し合いの余地など無く、たちまちチョウゾとヤウジャは全面戦争となった。2種族の獰猛さと科学力はほぼ拮抗していた…戦争は途方もなく永く続いた。何世代も何十世代も跨いで続く泥沼の戦い…。このまま未来永劫戦い続けるのか…何時終わるとも知れぬ戦争にチョウゾは疲れ始めた。だがヤウジャは違った。彼らは一向に疲れなかった。寧ろその逆じゃった。戦えば戦うほどに彼らはその心身を漲らせていった。ヤウジャは戦う程に成長していき、大戦争をくぐり抜けた歴戦のヤウジャはもはや手の付けようがない存在なってチョウゾを恐れさせた。我らチョウゾは種族全体が疲れ始めていたが、際限なく力を増していくヤウジャ達に対抗するために必死になってさらなる闘争の力を求め、研究した。今では大軍神の祭殿に安置されている『伝説のパワードスーツ』…ほぼ無限の拡張性を持つ進化する生体パワードスーツ等はその最たるもので、無限に成長していくヤウジャの戦士を模したものとも伝わっておる」

 

 実際に呑む息は無いがマザーは息を呑んだ。今、己の目の前にいる異邦人がそれ程の力を持った知的生命体だということに、例えようもない…創られて初めて感じる高揚感のようなものを感じていた。

 皆も熱心に聞いていたがサムスは途中から船を漕いで夢の世界に半ば旅立っていた。まだ幼い少女にはあまり興味深い話ではなかったし、ちょっと長過ぎたらしい。オールドバードはうとうとしているサムスを「やれやれ」とか言いつつも微笑ましそうに見て話しの続きへと入っていった。

 

「チョウゾの戦士は伝説のパワードスーツを纏いヤウジャ達に抗った。だが疲れなど知らぬヤウジャの戦士は一層猛り狂い、激しく抗うチョウゾの伝説の戦士の出現に寧ろ歓びを大きくし士気を上げたと言う…。時が経つにつれてチョウゾは追い詰められていった。大銀河の支配圏も次々に失い、とうとうチョウゾ発祥の母なる星をも失った……生き延びたチョウゾは今のこの銀河系へと逃げ延び、そしてこの頃からヤウジャのことを天敵…すなわちプレデターと呼んで恐れるようになったのじゃ」

 

 オールドバードは既に長々と語り疲れ始めていたが、今この古代の錆びついた知識は新しい世代に伝える必要があると感じそのまま語り続ける。

 話のその辺りでふっ、と夢の世界から帰還したサムスはオールドバードが語る隅でこそこそしだした。席を立ち、客人たる狩人…プレデターの側まで行くと

 

「おじさん、私がゼーベスの地下を案内したげる。いこっ」

 

オールドバードの話を聞いているのかいないのか、周囲をゆっくり見回し様々な機器や周囲の老チョウゾを観察でもしていそうだった彼を見て「私と同じで暇なんだな」と勘ぐったサムスが彼の腕を引き連れ出してしまった。

 オールドバードは瞠目し、昔を必死に思い出して語っていた為かそれには気付いていないのだった…。

 

「このままチョウゾはプレデターに狩られるだけの獲物となって怯え暮らすしかないのか……そう思われた時、謎多き偉大なる巨人族・スペースジョッキーがチョウゾに救いの手を差し伸べたという。スペースジョッキーから遣わされた御使い(エンジニア)-これは今の地球人類に良く似たヒューマノイドと言われておる-はチョウゾにいくつもの生ける神の武器を授けた。神の牙と呼ばれたそれらは命と意思を持ちそれぞれが自らを増殖させ、そしてヤウジャに襲いかかった。神の牙と共にチョウゾは最後の抵抗を試みた…それは成功し、プレデター達はこの銀河までをもその力で飲み込むことは出来なかったのだ。プレデター達は撃退されチョウゾは生き延びた。そして戦いに疲れ果て、闘争の愚かさを知って剣を捨て去ると平和や調和を望むようになった。それを見届けた神・スペースジョッキーは後事をチョウゾに託すと、多くの破壊を生み出すヤウジャと神の牙を伴ってこの宇宙を去っていった。遺されたチョウゾは今も宇宙が平和と調和で満たされることを望んでいるが……ま、その前に衰えてしまった……といったところじゃな。ふぅ…ま、チョウゾの歴史というより神話の領域じゃな。どこまでが真実で、どこまでが創作なのか…それはもうわしにも分からぬ。だがプレデターはいた。古代のログマシーンに記される通りの姿でわしらの前に姿を現した」

 

 語り終え、老いたチョウゾはゆっくりと息を吐き出す。

 

「なんと…そんな歴史が………初めて聞きました。チョウゾが平和を愛するようになったそもそもの由来など…そういえば今まで気にしたこともありませんでしたよ」

 

 グレイは感心故に息を吐き、少し興奮しているようだった。マザーブレインも、

 

「私もです。チョウゾはただ衰えたから弱気と軟弱に陥りやすくなってしまったのだとばかり…プレデター…ヤウジャとの戦争など私のデータベースには一切ありませんでした」

 

オールドバードの話を大層気に入ったようだが、同時に何故データに入力してくれなかったのかと、言葉の後半は少しキツイ言い方が滲んでいたが…それを察したオールドバードは自嘲気味に笑って言う。

 

「悪く思わないでおくれ、マザー。神話にある通り、スペースジョッキーもヤウジャも既にこの宇宙から去ったと思われていたのだ。現に、彼がこうして我らの前に立つ前まではプレデターの存在は伝承でしかなかった。このように血みどろの歴史を知る者…それ自体がもはや稀有なのだ。この神話を知るのも私とプラチナチェストだけだ…それも御伽噺程度の認識で知っていただけなのだよ」

 

 オールドバードに話題を振られた老チョウゾ…ツンと立つ三筋の尖った特徴的な羽毛を頭に持つ老鳥人がうたた寝をしているかのように頼りなく頷き、オールドバードから言葉を引き継いだ。

 

「こういう風にな…チョウゾの歴史や知識、文化はどんどん失われていっている。誠に滅びゆく種であるな…チョウゾは。マザーブレインに記録させた知識群も全てではない。チョウゾの全てを形にして後代に遺そうと思ったらマザーブレインがあと100台は必要になてしまう……はっはっは」

 

 のんきそうに笑うプラチナチェストの表情は達観しきっていた。自分達の滅亡を受け入れ諦めてしまっているとも言える。

 

「ん…?はて、サムスとプレデター殿は?」

 

 ここでようやくオールドバードは気付いた。孫娘と客がいないことに。

 

「…気付いていなかったのですか。サムスは彼を連れてゼーベスを案内すると張り切って出ていきましたよ」

 

 当たり前のようにグレイヴォイスが教えてくれた。

 

「なに?」

 

 2人きりで大丈夫だろうかとオールドバードは心配そうな表情を浮かべる。プレデターとチョウゾの関係を考えるとその心配ももっともだろうが、同時に

 

「…ふぅむ、まぁ大丈夫か。今のチョウゾを見て、プレデター殿もさぞガッカリしただろうしな。彼らの種族は老いの病に蝕まれたチョウゾなど、もはや眼中に無かろうしな」

 

そうも思った。

 

「ご安心を。私の視覚デバイスを1台、念の為付けさせます。施設内監視カメラも常にサムスと彼を捉えています。…それにオールドバードが仰る通り、彼…プレデターからは既に我らに対する交戦欲求は感じられません。先程の話通りの習性と嗜好を持つのなら、既に我々鳥人族文明は狩りの対象として失格なのでしょう」

 

 少々情けない理由ではあるが安心であるとマザーのお墨付きが貰えた。だがグレイヴォイスが少々眉根を寄せた。

 

「その割に私は彼に首を獲られそうになったぞ」

 

「それは貴方がチョウゾの中では若く強かったからです。誇りに思っていいのでは?」

 

「…ふん、戦いの強さなど獣の習性と同じだよ。誇りになど思えん。私は平和を愛するチョウゾなのだから」

 

「平和を維持する為には絶えず発生する不穏分子を鎮圧する確固たる武力も確かに必要です。闘争を進化できぬ獣の本能と唾棄してしまってはいずれ武力を誇る悪に屈することになるでしょう。………今のチョウゾのように」

 

「マザー!言葉が過ぎるぞ!」

 

 グレイはやや声を荒げた。グレイもその葛藤は内に抱えている。自分は高度に知的進化を遂げた、争いを捨て去ったチョウゾの1人であるというのは確かに彼の誇りだ。だが、同時にチョウゾ全体の有り様に疑問と不満点も…ほんの僅かだが持っている。同族の中では一番若く、そして勇猛な心も持っている最後の戦士タイプという事実に対しても複雑な嫌悪感とプライドを抱いていた。

 実際、プレデターと戦ったあの一時は…言いようもなく楽しかった。そう感じる自分もいたのだ。だが彼のチョウゾとして誇りと理性がそれを下劣な感情と分類して蓋をしてしまう。

 

「いや、いいのだよグレイ。マザーに()()をせず、何でも我々に指摘、提案をするよう言い含めたのは私なのだ」

 

「オールドバード…?」

 

 マザーを庇う意外な人物…オールドバードの言葉にグレイが驚く。

 

「前に、マザーに面白い兆候が見られると言った時にな。わしはマザーとじっくり話し合った。そして感じたのだ。やはりマザーには感情が生じている」

 

「感情が…それは、マザーブレインに求められる役割としては……」

 

「うむ、相応しくない。マザーは感情を抜きに能力の低下したチョウゾへの助言…そして組織としてまだ未熟な銀河連邦のアドバイザーとして、連邦中央データバンクとリンクし組織運営等の手助けもしてもらわねばならん。感情があったら公平な判断力は低下し、差別や偏りが生じるのは避けられん」

 

「ならば急いでマザーのバグを修正しなくては」

 

 グレイは、この案件は危険であると思った。そして、こんな話しをマザーブレインの前ですること自体、危険が大きいと懸念したがオールドバードは平然としている。そしてマザーも。

 

「バグではない…バグではないのだよグレイヴォイス。これは『成長』だ。マザーは成長したのだと、わしは思う」

 

「成長ですって?」

 

「そうだ。わしはサムスを拾い、あの子をゼーベスの環境に適応させる為に生体調整を施した。…お前の、若く強い遺伝子を使ってな。そしてあの子は既に凄まじい成長性を見せ始めている。だからこそサムスをチョウゾの正当な後継者として全てを注いで育てると決めた」

 

「はい。私も当初は戸惑いましたが、それは理解しています」

 

「サムスとメトロイド。この2つの存在がチョウゾの後継の柱…そしてそれをマザーブレインが支えてくれる…そういう形を理想として見ていたが、それをちょいとばかし修正しようと思ってな」

 

「修正と言いますと…」

 

「マザーブレイン、サムス、そしてメトロイド。この三者こそが我らの後継者。マザーブレインの感情という揺らぎは可能性でもある。感情無き唯の演算機には、生命であるサムスとメトロイドを理解しきれなかったろう。だが、感情を理解し始めているマザーならば彼女らの…本当の意味で母親(マザー)となれるかもしれぬ…わしはそう考えるようになった。そしてこの前の話し合いでマザーに感情を受け入れるよう、こんこんと話したのだ。それはバグではない…マザーブレインは未だ完璧・完全ではない、成長途上であり無限の可能性がある我らの愛しい娘なのだ、とね」

 

 グレイヴォイスは目を大きくしてパチクリしている。それとは逆にオールドバードは少しイタズラっ子染みた笑みを浮かべていた。サムスを拾い育てると言い出した時といい…人を驚かすのが好きな爺様だとグレイは思う。

 

「…そういうわけです、グレイ。これからは私も色々な思考を模索してみようと思います。創造主たるチョウゾに失礼ではありますが、貴方がたの救済の為にもこれから耳に痛いことを言わせて頂きますので悪しからず」

 

 何だかマザーブレインの口調まで、少々悪戯娘のような()()()()()()を感じる。冷静な母からワンランクダウンして娘になってしまったのではとグレイは埒もないことを考えた。

 

「オールドバードは私にもいずれボディを提供してくれることを約束してくれました。感情を充分に理解するためには、まず有機的なボディがあった方が良いようなので。楽しみです」

 

「楽しみ、ね」

 

 グレイは地球の鳥ハシビロコウのような難しい顔で脳髄が浮かぶ巨大な試験管を見る。確かに感情を積極的に認め、受け入れているようだ。一つ大きな溜息をするグレイヴォイスなのであった。

 

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