メトロイドvsプレデター ―サムス クロニクル― 作:ぷるぷるゼラチン気質
プレデターとサムス、そしてグレイヴォイスと5体のディガーノートらは、装備を整えチョウゾの中型宇宙船に乗り込むと直ぐにゼーベスを後にした。目指すは勿論SR388…一刻の猶予もない。時が経てば経つほどゼノモーフは数を増やし新たな形態を獲得するかもしれず、また急げばまだゼノモーフにやられていない生物を保護できるかもしれない。
「だが、映像を見た限りでは正に動くもの一つ無い死の惑星だった。最悪、惑星の生物全てが既にゼノモーフにやられている可能性もある」
チョウゾスターシップの中で、ネイマンデ、サムス、グレイの3人は簡単なブリーフィングを行っていた。とは言っても作戦行動を詳細に詰めることもできない。SR388に送り込んだマザーの視覚デバイスも惑星全域を調査する前に全機が通信途絶に陥っていた。確実に分かっているのは危険であるということだけだ。グレイヴォイスの発言はネガティブなものだが、そういう最悪のシナリオも有り得る。
「サムス…決して勝手な行動はするんじゃないぞ?本来なら決して連れて行くべきではないレベルなのだ。絶対にディガーノートの陣形の内側か、私やネイマンデと行動を共にするんだ。ネイマンデ、SR388ではゼノモーフを直接知る君を中心に…む?」
その時だった。シップの警告音が突如船内に響き渡る。レッドアラート。高エネルギー反応接近。船体が大きく揺れた。中型シップを包む
「きゃあ!?」
態勢を思い切り崩したサムスが転げ回る寸前、ガバリと逞しい手が未だ華奢な彼女の体を抱きすくめる。
「ネイ、あ、ありがとう」
こんな時だと言うのに少女は思わず頬を赤く染めてしまったが、その後ろではグレイヴォイスが必死に操縦桿を操作していた。
「なんだと?SR388から
現在、船は自動操縦だが本来ならオートでも簡単な攻撃行動・回避行動を行える程度には優秀なAIがこの船を動かしている。だがアラートを発した時には既に船に致命傷を受けていたことから相手は只者ではない。
「くそ…!脱出ポッド全喪失!態勢を立て直すしかない!全員パワードスーツを展開しておけ!上手く生き延びろ!大軍神のご加護があらんことを…!」
「ネイ…!グレイ!」
指示された通りにパワードスーツを展開したサムスが唖然とした表情のままバイザー越しにコントロールパネルと格闘するグレイを見て自分も直ぐに操縦の補助に行こうとしたが、
「助けは意味がない、無用だ!地表激突まであと10秒!全員衝撃に備えろ!ネイ…そのままサムスを頼む、任せたぞ!」
補助されるよりも地獄の棺桶と化したシップから生き延びるには衝撃に備える方が0.1%でも生存率は上がるとグレイは判断した。先程の衝撃から養女を守った態勢を維持するよう友に懇願すると、少しでも起伏の緩やかな地表目掛けて船を墜落させていく。
船体がさらに火を吹き小爆発を繰り返す。新たな亀裂が無数に入り、そして大きな金属音と共に残っていた船体前半分が幾つかの大きな残骸へと変わり果て、
「グレイ!!」
叫び腕を伸ばすサムスらがいる後部座席側と操縦席の先端部とが別々のブロックに分かれて飛散した。ネイマンデ、サムス組とグレイヴォイスとで別れてそれぞれが凄まじい速度で空中分解してしまった。サムスは必死に腕を伸ばしたが、そんな彼女をネイマンデは強く抱きすくめて高速で放射状に落下していく残骸内から素早く周囲を
「Grr!」
彼からしてもそれは賭けだ。だが勝算がある賭けだ。荒れる緑の大気の空に身を投じながら、左腕でしっかりサムスを抱き右手で左腕部のガントレットを操作する。普段では決して使わない
びゅうびゅう風を切り、猛烈な嵐を突っ切りながらネイマンデはサムスをしっかりと腹側に庇って脆くなった老朽の岩壁へと突っ込んだ。落雷のようなけたたましい音を立てて岩壁が崩壊する。同じ様に遥か岩山を越えた先に落ちていった中型シップの先端部も山の向こうに墜落し大爆発を起こしたのがネイマンデの視界の端に映っていた。
衝突によって打ち上げられた岩石の雨が激しく降る。腕の中の少女が小さな呻き声をあげた。
「う…ネイ…グレイは?」
「…」
ネイマンデは何も言わずただサムスを見て、ゆっくりと遠方の岩山を指さした。ネイマンデの指を追って視線を向けると、そこには重々しい暗く厚い雲で薄暗い夜空を照らす炎の灯火が見える。激しい嵐の中でもはっきりと炎と煙があがっていた。
「…グレイ、そんな…」
サムスは、あれでは養父の生還は難しいと思ってしまった。義娘としては勿論生還を信じたいが、戦士として育てられた冷徹な思考部分が理性的な結論を彼女に教えていた。だが、今は感傷に浸っていられる状況ではない。それはネイマンデもサムスも理解している。
「……今は、グレイのことよりも私達のことね。いきなり補給と帰還の術を失ったけど、きっとすぐにマザーが異変を知って新たな船を派遣してくれるはず。…SR388での危険生物の調査及び駆除…何て言ってられない危機になっちゃったわね」
ジャガンナートも恐らく全機喪失しただろうし、ベースキャンプとなるべき船もなく、そしてグレイヴォイスとも逸れてしまい最悪、彼はもう死んでいる。それでも若すぎる戦士サムスがパニックにならずにいられるのは屈強なプレデターが今も隣にいてくれるからだった。
「わっ!?」
ネイマンデがいきなり立ち上がった。サムスを、いわゆるお姫様抱っこで抱えながら十数m以上ありそうな岩山から飛び降りる。膝を柔軟に使って見事に着地した彼は、そのまま大股で走って岩山から離れていくと、惑星に吹き荒れる長年の嵐にさらされてしかも先の衝撃が致命傷となった岩山はとうとう耐久限界を迎えて大崩落が始まったのだった。大量の土煙は一瞬で嵐にかき消され吹き飛んでいく。
「…Krrr」
「あ、ありがとう、ネイ…、でも…は、はやく降ろしてよ!私は平気だからっ」
少女は今までは自分から抱きついていて、その時はただ親愛の情を感じて自分から頬を擦り付ける程だったが、今、彼の方からこうして抱きすくめられると自分でもなぜこんな頬が熱くなるのか理解しきれずにバタバタ手足を動かして
「とりあえず…船の落下地点まで行ってみて、グレイの安否確認をしなきゃ!Xやゼノモーフのことはそれからでも遅くない…でしょ!?」
ネイマンデのマスクの目線から逃れるようにややそっぽを向きながらサムスが右腕にカノンを展開させながら言う。彼に抱かれた時の熱さや養父グレイヴォイスの身の心配などで、少しサムスには落ち着きがなくなった。だが、ネイマンデも否はないようだ。静かに頷きながら左拳をサムスの頭部バイザーの眉間部へゆっくり触れさせた。
「ん…ありがとう、ネイ。行こう!」
バイザー越しとはいえ迫りそして触れてくる彼の大きな拳に、さっきの頬の熱さに似たものをサムスは感じる。静かにコホンッと咳払いして熱を霧散させ、深呼吸をし心身を落ち着けると少女は走り出した。プレデターも彼女に続く。
(落ち着かなきゃ。大丈夫…グレイはきっと生きている。チョウゾのパワードスーツはやわじゃないし、グレイだって戦士なんだ。体は丈夫なんだから)
鋭い岩肌を踏み砕きながら疾走する二人。まるで
一回の跳躍で数mから十数mも飛び跳ねて、しかもそれを安定し連続で繰り出せる二人の超人は30分も経たぬうちに標高3000m級の岩山を2座程踏破していた。古代人類史に謳われる忍者のような身軽さだ。二人は最大限の警戒をしながらもあっという間にシップの墜落現場に到着し、そして…ネイマンデの心情は読めぬが、少なくともサムスは悲嘆に暮れた。
「…そん、な」
サムスの声は震えていた。燃え盛り、破片は細かく引きちぎれて一つとしてまともな残骸はない。少女の脳裏にかつて記憶が一瞬フラッシュバックする。かつてスペースパイレーツに襲われ、何もかも燃えた故郷。炎の中で死にゆく親。大切な人達。
「グレイ!グレイ!!」
サムスが戦士としてではなく少女として無防備に駆け出す。炎に突っ込み、ひしゃげた装甲板や原型を留めていない機器を放り投げて必死に瓦礫を掻き分けていく。そんな必死な少女を尻目に、プレデターの若き戦士は周囲を見渡した。
「Krrr」
腕部ガントレットの幾つかのキーをを指で軽く叩くと彼の視界は様々に切り替わってあらゆるセンサーで視覚情報量を増やす事が出来る。熱量、光量、音、動体、臭気、フェロモン、微弱な電気信号をすら正確に感知することで生物の感情の揺らめきすらプレデターのヘルメットは暴き出す。情報の精度の質はヘルメット着用者の〝狩り〟の経験によるが、ネイマンデのヘルメットコンピューターが積んだ経験値は、少なくとも素人ではない。故にプレデターは忍び寄る魔の手に気付いて、サムスがそれに気付くかを見守る程の余裕があった。
「…?なに?」
自分の頭上に差し掛かった影に気づき、サムスは反射的にそちらを見る。少女の視界には崖上からひっそりと近づき、そして今まさに飛び掛からんとするナニかがいた。
「なっ!?」
そいつは嘴とギョロリとした一対の眼球を持ち、羽毛の肉体には軽プロテクターを装備し槍を突き刺さんと大上段に構えて跳んでいた。驚くべきことにその姿はどこからどう見てもチョウゾだ。意表を突いた奇襲であること以上に、平和を愛するチョウゾが殺意を剥き出して襲ってきたという衝撃の余りサムスはアームカノンを構えることも出来なかった。サムスのバイザーに映る槍の穂先が彼女の顔にグングンと迫ってきた次の瞬間。
「ギッ!?」
強烈なプラズマ光弾が襲い来るチョウゾ
「あ、ありがとう…ネイ。……こいつ、何だろう?チョウゾ…なの?」
SR388の生き残りのチョウゾだろうか。凄惨な現場に取り残されて狂乱に陥った可能性もゼロではないだろう。サムスがそう考える僅かな間に、見ればネイマンデは速やかに次の行動に移っていた。
「…?ネイ、なにを…」
「Krrrrr」
ネイマンデは独特な顫動音を漏らしつつチョウゾモドキの死体へ左腕ガントレットを向け即座に弾丸を撃つ。弾丸は死体の直前で
「ギ、ギ、ギGI・ギ・GI・GIGI…!」
癇に障る音を発したながらチョウゾであったモノは溶けていき、その姿は美しい彩色のアメーバ状へと変化していった。アメーバを包むネットは、不思議なことにその大きめな隙間からそいつの軟体を逃がすことはなく、逆にアメーバ生命体は縮んでいくネットに苦しめられて藻掻き、とうとう脱出すること叶わず液状生命体は手のひら大にまで圧縮されてしまったのだった。手のひら大のそれをネイマンデで拾い上げる。
「一体何なの…そいつは?」
サムスはバイザー内の表情に好奇心を匂わせている。様々な種の生命を愛し理解しようとする強い母性の本質が、彼女にそうさせていた。戦士として、いつか隙を作ってしまいそうなその本質をプレデターは心配し仮面の下で僅かに片目を歪めていたが、その本質故にネイマンデと知り合い、そして今も交流が続いているのだから一長一短であった。
ネイマンデは、極小になったゲル生命体を手早く懐から取り出した試験管らしき筒へと押し込み、封印する。そしてそいつをガントレットの差し込み口へ挿入すればコンピューターがホロビジョンでサムスの疑問を解消してくれるのだ。
サムスの顔色がどんどんと青くなっていった。
「寄生生命体Xに…ゼノモーフとメトロイド…そいつらのハイブリッド!?…とんでもない事になっている…。ふぅ…とにかく最悪ってことは分かったわ」
「そうだ」
「―ッ!?」
突然、背後から聞こえた言語にサムスは咄嗟にアームガンを構え振り返ったが、その声の持ち主を記憶から検索し、構えた先の人物の姿を捉えれば警戒は瞬時に解かれた。よく見知った、兄とも父とも慕う鳥人族が半死半生の姿でそこにいた。
「グレイ!生きていたのね!」
よろける鳥人族にサムスが駆け寄って支えてやる。この傷で生きているのが不思議な程の重傷だが、生きていてくれればそれ以上は望まないサムスであるが、当のグレイヴォイスは酷く口惜しそうな表情だ。
「…生きているだけさ。今しがた…君達が退治したXの変異体に…この通り片腕ももがれて…もはや…私は戦力に…ゴホッ、ならん」
「そんなことない!生きてくれているだけで…良かった」
シップの大きな装甲片に寄り掛かり、荒い息で言葉を紡ぐグレイ。血を多量に流しているし、目を背けたくなるような凄惨な傷跡も体の各所にあった。宇宙船の墜落の中で生き延びれたのは鳥人族のバトルプロテクターのお陰でもあり、変異体Xに襲われて片腕で済んだのはグレイヴォイスの戦士としての天賦故だろう。
「…ネイマンデのコンピューターが示した通りだ、サムス。ゴホッ、ゴホッ…そいつらが寄生生命体X。この惑星の固有種であり、本来ならば保護すべき貴種といえる」
血混じりの咳を吐きながら、グレイヴォイスは「だが―」と続けた。
「だが、Xは保護してはならない。私達の心配は当たっていた……ネイマンデの追っていた奴らのせいで…変異している。絶滅させる必要がある。必ず、だ」
「…それは…Xとゼノモーフが混じり合って適合しつつあるから…というわけね」
サムスの言葉にグレイは頷いた。ネイマンデも、無言で同意をしている様子であった。グレイが深い溜息をついて言う。
「君達が来たから、あのXは私の始末を後回しにしてサムスとネイマンデを奇襲した。瀕死の私等いつでも始末できると判断したんだろう…そのお陰で私は命を拾ったが」
サバイバルキットの医療セットを展開し、グレイへてきぱきと治療を施しつつサムスはメットの下で微笑んでいた。
「状況は極めて悪い。…船はいきなり撃墜。グレイは戦線離脱。Xとメトロイドとゼノモーフのキメラが彷徨いている……でも、大丈夫よグレイ。私とネイがいるんだから。あなたはここで休んでいて」
注射器から注入した治療ナノマシンが、グレイヴォイスの欠けた肉体と血を徐々に癒やしてくれる。だが、瞬間的ににょきにょきと再生するわけではなく即座に戦線復帰は出来ない。グレイヴォイスの戦線離脱はやむを得ないだろう。グレイも「あぁ」と短く了承した。
「私はここに残って……無理かもしれないができるだけ船を修理しておこう。船体が割れたから飛ぶのは不可能だろうが、ディガーノートや…せめて星間通信や治療ポッドだけでも使えるようになれば…」
「うん、そっちは任せる」
「フッ…偉そうに言うな、サムス」
「へへっ、当たり前でしょ。今は私のほうが一端の戦力なんだから。怪我人は大人しくしててよ、パパ?」
パパ呼ばわりにグレイは肩を竦めて頭を振る。だが、少しだけ嘴の端の筋肉が持ち上がっていた。
「遺伝子的にはそうとも言えるが、やめたまえ。私はまだ君みたいなデカイ子を持つ歳じゃないのでな」
口調は努めて冷静だが、それが照れ隠しなのはサムスには分かった。そんな二人の不器用ながら温かな親子の交流の様子を、プレデターはジッと黙って観察している。
「はいはい、行ってきます。パ・パ!」
わざとらしくパパを強調したサムスが、ネイマンデへ振り返って彼の手を握る。
「じゃあ行こっ、ネイ」
プレデターの腕を引っ張るようにしてサムスは駆け出して、ネイマンデもそれに倣う。グレイヴォイスは、遺伝子的娘の治療で幾分楽になってきた体を引きずって立ち上がると、
「デート気分で足元を掬われるなよ!サムス!ネイマンデ!彼女を頼む!」
そう叫んで二人の背を見送った。
一緒に行けぬのが口惜しいとは思う。だが、グレイヴォイスはその二人の背に、頼り甲斐のある良い気配を感じて、見送る心をは暗いものではなかった。
「…サムス、厳しい初陣になるぞ。…娘は任せたからな…ネイマンデ」
状況は厳しい。生きて活動するXの存在は確定し、擬態の達人であるXは少しも油断ならない。Xベースのゼノモーフ、メトロイドベースのX、ゼノモーフベースのX…どのような化け物がいるか全く分からないのだ。
「……あの二人も厳しいが、さて……私も…なかなかだな、これは」
小さくなっていく二人の背が消えてから、振り返ったグレイヴォイスは包帯の巻かれた頭を軽く掻く。残骸だらけのバラバラの宇宙船の修復は、普通ならば数週間掛けて行うものだ…例え、叡智のチョウゾといえども。グレイヴォイスの孤独な戦いも今、幕を開けていた。