メトロイドvsプレデター ―サムス クロニクル― 作:ぷるぷるゼラチン気質
そいつは創生の巨人の
落下の衝撃で、眠るそいつら…
「GGGGGGGG!」
短時間で成体にまでなったエイリアン達が唸り、そして一気に船外へと拡散する。次から次に惑星SR388の生物を食い荒らし、産み付け、増える。その連鎖の中でエイリアン達は対等な敵とも言える性質を持った強生物と出会い、そして争ったのは自然の摂理の必然だったのだろう。
X、メトロイド、エイリアン。
メトロイドはXの能力を封殺し捕食してしまう天敵だ。だがエイリアンの速度と、体内に寄生し遺伝情報を取り入れた上で宿主と半同化し成長してから一気に体内を食い破るエイリアンは、メトロイドの天敵足り得た。
Xはアメーバ体で捕食対象に覆いかぶさり溶け込んで同化する。故に口からだけでなく体中のゼラチン質からもエネルギーを吸収し敵を枯渇させるメトロイドには敵わない。だが、エイリアンに対しては捕食とコピーが可能であるのでエイリアンの天敵足り得た。
三すくみとなってSR388の生態系も安定するか…と思いきやそうはならなかった。エイリアンは、メトロイドとXと比べ、一つ…圧倒的に優れている能力があった。言わずもがな〝繁殖力〟だ。SR388に在住する他の動物に片っ端から寄生し爆発増加したエイリアンは数の暴力でメトロイドを圧倒。Xに対しても、最下級の働きアリに相当するエイリアン・ウォリアー達がまるで自身を生贄に捧げるが如く積極的に被捕食を繰り返し、Xに対しての知識と抗体を短期間で獲得していったのだ。それは最初の宿主としたエンジニアから得た知性がさせた事かもしれない。サムス達の乗った宇宙船へ
エイリアンは創生の巨人スペースジョッキーが手ずから創造した、あらゆる環境・状況に適合する生物兵器にして『完全生物』。
今、地獄の惑星SR388にはエンジニアとメトロイドとX…それらの特性を獲得した女王エイリアンが、新世代のエイリアン達を次々に産み出している…その真っ最中だ。今ここで狩人達がミッションを成功させねば、宇宙は完全生物達によって未曾有の被害を被るだろう…。
狩人達が無数のブラスター光を撒き散らして、寄る化け物を抹殺している。砲身と化している右腕が光り、目無しの黒い生物が「Giiiiiii!」と気色悪く甲高い泣き声を上げながら、緑色の酸性体液を溢して四散した。
「――っ!…ふぅ。これで何匹めだろう。きりがないってのは、まさにこういう事ね」
バラバラになったエイリアンの黒い肉片が、うねうねとのたうち回るのをサムスは嫌悪の表情で見つめる。Xやメトロイドと半融合を果たしたエイリアンは、肉片の状態から再生しようと足掻いているのだ。
「…」
そして、その肉片へもう一人の狩人…プレデターの青年が寡黙なままに、低出力に設定したプラズマキャスターを的確に連射して消滅させていった。
破片を見逃せばXの如く再生し、メトロイドのようにエネルギー吸収を繰り返して瞬く間に再生・復元されてしまう。現に、少し前に退治した個体は肉片から僅か数分で無傷の個体にまで再生して再襲撃してきたのだ。驚異であった。ハンターの少女と青年はまた一段階、警戒心を強めねばならなかった。
「タフで、素早くて、爪と牙は鋭い。血も浴びてはならない。2秒以上触れられても、
つくづく厄介過ぎる。サムスがバイザーの内で溜息を吐いた。今、少女は敢えて口には出さなかったが、このバケモノにはオマケに再生力と繁殖力、そしてひょっとしたら知性までが備わった個体もいるかもしれないのだ。殲滅兵器として見たら満点を出してもお釣りがくる。
サムスがうんざりしていると、プレデターが彼女をジッと見ていた。
「
言いつつ、ガントレットCOMPを起動し、退治してきたエイリアンから得たサンプルデータを開示。データグラフィックスの隅には、プレデター文字でタイマーが時を刻んでいる。
「クイーンが産んだ新世代の卵…それが孵化するまでの時間、か」
少女は唸った。必ずしもこうであるというわけではないが、プレデターの技術力が解析し、予想したそのデータは予言以上に確かな未来予測だ。100%ではないものの極めて100%に近い確度で将来の予測図を提示してくれた。
ネイが、ガントレットCOMPからサムスのパワードスーツのCOMPへと必要なデータとアプリケーションを送信してくれる。これらがあればサムスもミューテーション達の生体反応を知覚出来るはずだ。
通常、プレデターが他者の為にここまでする事はない。世話をする、される、というのは彼らの種にとっては不名誉な事だからだ。1人で狩りも出来ぬ半端者…。世話をされるとはそういう事だ。プレデターにとってそれは死よりも辛い、魂の拷問である。だから彼らの種は同胞が死に瀕しても助力せず見守る。同胞が死ぬことで大切なハンティングが失敗に終わるかもしれぬとも、プレデターは己の誇りを何よりも尊び、肉体の死を軽視する者達であった。そういう価値観を持っているというのにネイマンデはサムスに助力を惜しまない。これはやはり特異な事だった。
そんな特異なプレデターから齎されたデータによると、エイリアンは既に女王を頂き、そして女王は繁殖準備に入っていると予感できた。今、SR388上を闊歩している即席ハイブリッドのエイリアン達とは一線を画する、三種族の特性をクイーンの胎内で高次元でミックスした新世代エイリアン。そいつらが一斉に誕生するまでのタイムリミット。
「そうだね。愚痴なんて、言ってられない…離脱したグレイの分も、私達がやらないと!」
大事な戦いの直前に、トラブルで本戦を離脱せざるを得なかった若きチョウゾ・グレイヴォイスの無念を思い、そして迫る危機を思う。サムスは、自分が銀河の守り手として期待されている立場を再度思い出すのだった。
「グレイがスターシップの修理をしてくれれば、通信を受け取ったマザーやおじいちゃんがきっと増援を寄越してくれる。うん…私、頑張るよ、ネイ。…それにあなたが横にいるんだから」
プロテクターの音を響かせ、二人は嵐の大地を駆ける。ザァザァと酸性の強い雨が降り、大量の磁気を含む風の乱流が地表付近を吹き荒れた。10を超える竜巻が一斉に沸き立って荒野を削り、暗い空を切り裂いていく。優れたバイザーでなければ激しい雨で目の前は何も見えなくなっていただろう。それどころか、生半可な装備では強酸性の雨であっという間に融けてしまう嵐の中を二人の若いハンターは走り続けた。
∴
―Pipi,pipipipi…
サムスのアームカノンと一体化しているコンピューターが、持ち主へ危険を知らせた。同時にネイマンデのガントレットも同じ警告音を発した。
「ネイ、大量の反応だわ」
「Rrrrr…」
(あの岩肌にチョウゾがつけたゲートがある…あそこから――)
サムスは素早く周囲を探査し、模範的な正答を高速で導き出した。しかし、プレデターの相棒はそんなまどろっこしい選択肢を選ぶ気は無いようだ。
ガントレットから迫り出した金属がネイマンデの手の甲を覆うと、青白い光が薄っすらとプレデターの拳を包む。ネイマンデが無造作にその拳を振り上げた。
「え?」
サムスが少し素っ頓狂な声をだし、そしてプレデターは拳を地面へ叩きつける。轟音と共に大地が抉れ、割れ、そして脆くなりかけていた地層が雪崩れるように砕けて即席の通り道を造ってしまった。
当然、二人は落下した。
サムスは一瞬「きゃっ!」と少女らしい声を出したものの、すぐにそんな自分を諌めて落下中に体勢を整えて、そして落下しつつもネイマンデへ抗議を寄越す。
「せめて事前に一言欲しいところよね。今度から頼める?ネイ」
「…」
プレデターは首を少しかしげるように傾けてサムスへ視線を寄越す。どうやらそれが答えらしい。
(了承してくれたのか、諦めろって言ってるのか…。もぅ…ネイったら)
サムスの感情は憤慨というよりは〝仕方ない〟と思いつつの苦笑だ。プレデターの…というよりもネイマンデのそういう性格はもう分かっていて、そしてサムスはそんな彼の個性を好ましいと思う。
瓦礫と共に数十mを軽く落下し、二人は見事に受け身をとって着地。素早くキャノンを構える。
「なんなのこれは…」
地下には自然の洞穴を上手く利用したチョウゾの施設がある筈だった。少なくとも事前にマザーから教えられたマップデータにはそう記載されている。しかし、二人の目に飛び込んできた地下は、まるで地下全体が生物の腹の中になったようだった。うねうねと、ぎとぎとと、脈動し滑っている。地下の壁も天井も床も、全ては有機的な細胞壁に覆われていた。
「まるでエイリアンの皮膚のよう」
サムスのスーツのCOMPの解析が、その感想が極めて正解に近い事を教えてくれる。
「
ネイマンデは知識と経験からそれを知っていた。
これらの有機体はエイリアンの分泌液から造られる。そしてその成分はエイリアンを構成する体組織と近しく、組成成分としても形状としても模様としてもエイリアンを擬態させる。つまり、この
「SSSSSSSSSK…」
天井から、壁から、蛇の威嚇音を何倍も悍ましくしたような唸り声をあげながらエイリアン達がうぞうぞと這い出てくる。
「あ、あはは…熱烈な歓迎ね。これは」
未だ若過ぎるくらいの少女である戦士サムスには、生理的嫌悪を催す黒い生物が大挙して押し寄せるこの光景は強烈だった。その一方で、彼女よりも経験も年も積んだ青年の狩人は唸り、そして大声を上げる。
「RROARR!」
マスクの照準装置が赤い光点をエイリアンどもに向ける。プラズマキャスターが青白い火を拭き上げた。負けじとサムスもアームカノンのエネルギーを次々に撃ち出す。
「Gaaaaaaa!!?」
「SKREEEEE!」
「Giiiiiiiiiii!!」
下層カーストの尖兵のバグの群れが蹴散らされていく。二人の若きハンターは猛者だった。このゼノモーフ達とて、メトロイドとXの性質を獲得した恐るべき生体兵器なのだが、如何せんメトロイドとXのDNAマトリクスは複雑に過ぎる。さすがのゼノモーフでもこの性質を完全に自種族のものにするにはもう一世代を経て馴染ませる必要があった。その、馴染んだ第2世代…つまりクイーンの産んだ卵から孵る世代ならば、勝機はあったろう。それか、このハンター達が或いは1人だったなら現段階でも充分勝機はあった筈だが、残念ながらサムスにはネイマンデがいたし、ネイマンデにはサムスがいる。両者は互いの欠点と死角を上手く補い合って、間断なくプラズマの弾幕を張り巡らせた。
二人の連携は抜群で、種族の垣根を越えて息はピッタリなのだ。
「接近戦では脅威でも、ようは近寄らせなければ良いって事でしょう!」
ビームによって消し炭にされたりバラバラにされたりのエイリアン達。しかし、その化け物達の残骸は、やはりうねうねと悶ながら元の形へと戻ろうとする。
「再生はさせない!」
サムスの右腕から、瞬間的にビームから切り替えられてミサイルが飛び出す。チョウゾの技術が詰まったミサイルだ。ゼノモーフの皮膚と肉も吹き飛ばすそれが、質量保存の法則を無視して大量にばら撒かれて辺りを火の海にかえた。超熱の炎に焼かれて肉片達が消失していく。
押し寄せる黒い波を必死に破壊していくサムスの背後で、ネイマンデは溢れ出る悦びを全身で表現しながらエイリアンを狩っていた。
プレデターのステップは確実にエイリアン達の包囲をすり抜けて、触れさせる事なくリストブレイドで首を掻き切る。右手にはスマートディスクを携え、寄るエイリアンを切り裂き、そして隙を見ては群れへと投擲する。
「SKREEEEEEEE!?」
空気を切り裂く鋭い機械音がエイリアンの肉体を容易に切断し、次々に切り裂いても切れ味も勢いも些かも衰える事はなく、エイリアンを肉塊へと変えていった。
「Rrrr…
そして無造作かつ隙の無い動作で、大きな手を異種生物の荒い皮製のポーチに突っ込むと、掌で弄ぶように転がしながら5つの小玉を肉塊共へプレゼントしてやるのだ。炸裂し、凝縮したプラズマの爆発が指定範囲内を分子まで焼き尽くす。きちんと肉塊を焼却処分し、そして人間の笑い声まで真似してエイリアン達を挑発するのも忘れない。
(ネイ…すごく嬉しそう)
ネイマンデがあそこまで嬉しそうに戦っているのは、サムスは初めて見る。プレデターにとって、エイリアンを狩るのはやはり特別な意味があるらしい。そんな事はこの若きプレデターがこの銀河系に単身やってきた事からも分かるし、今までの付き合いでも分かっていた事だ。しかしそれでもサムスは、ネイマンデを悦ばせているこの黒い虫共に嫉妬にも似た感情を抱く。
「…
「!?」
ネイマンデが、突然己の母国語を発したヒューマンの少女を見てギョッとする。サムスはムッとした感情のままに言葉を吐き出し、エイリアンを吹き飛ばしている。超人的能力を持つサムスは優れた聞き取り能力と高いIQにより、完璧ではないものの既に幾つかのプレデター言語を習得している。
そして次の瞬間には嬉しそうにサムスの声真似をし始めた。
「ハッ・ハッ・ハッ!Tarei'hasan!全部・駆除・シテヤル!」
二人のハンターは、軽口を叩きあうような空気をまといながらもどんどんと黒いバグ共を駆除していくのだった。
∴
二人が下層に降りていく度、幾つものチョウゾの施設が見受けられる。転送装置やエレベーター。メトロイドの培養ポッド。警備システム群。
警備システムの中でも特筆すべきは鳥人像だろう。読んで字の如くチョウゾを模した像だが、鳥人族の技術で造られただけあってただの像ではない。実は生物である。
その鳥人像が、両膝を立てた姿で二人の目の前に鎮座していた。
ネイマンデがゆっくりと鳥人像の腕を指差す。
「…ここには鳥人族の強化ユニットがあったはず。私にも使えるって、出撃前にマザーは言っていたけど。…今は無いみたいね。誰か盗っていった?」
鳥人像の手の上には水晶のように美しい球体があった筈だ。それはサムスの言うようにチョウゾだけが使いこなせるブーステッド・スフィアだが、今は鳥人像の掌はただ空虚であった。
「rrrr」
ネイマンデは鳥人像の肩に飛び乗り屈むと、ゆっくりと掌に指を這わせる。マスクのビジョンを次々に切り替えていく。生物を発見する為の、熱量を見る赤の視界。チョウゾのXスコープと似た、無機物を見る為に有機体を透過する青の視界。音を視覚化する音紋の白の波が踊る視界。そしてフェロモンを検知する緑の視界。
「
「ゼノモーフの臭い…?じゃあそこにあったスフィアを、あの
プレデターは肯定も否定もせず、ゆっくりと立ち上がる。視界を変えつつ周囲を見渡し、そしてゆったりとした動作ながらも爪先の筋力だけで大きな跳躍をし、鳥人像の肩から飛び降りた。
「行ク・ゾ」
「うん」
走り出したプレデターの背を見ながら、サムスは少しも離される事なく走り出す。適度な速度。ゆっくり過ぎもせず、急ぎすぎもしない。サムスの歩調を考えてくれているだろう、常時戦闘可能な警戒できる早足。
散発的にエイリアンが襲ってくるものの、それ以外の襲撃はない。
SR388の原生生物は、やはりXとメトロイドとゼノモーフの三つ巴の争いに巻き込まれ壊滅状態らしい。死体すらないのは、Xに食われ同化した後にメトロイドに駆逐され、そしてエイリアンにやられた可能性が高い。メトロイドの、内部からゼラチン質を破裂させた死体が幾つか転がっている事からもそう思えた。
「ここにもメトロイドの死体…ゼノモーフにやられた痕ね…これは」
天然を利用したチョウゾの地下施設を順当に降りていく。と、そこでエレベーターのチョウゾのDNAロックを解除し動かす必要にも迫られる。サムスの体内にはグレイヴォイスの遺伝子があるから問題はないのだが…。
ネイマンデが黙ったままサムスがロックを解除してくれるのを待っている。
「何か言うことあるんじゃない?」
年相応の、少々イタズラ者染みた笑顔をバイザーの中で浮かべたサムス。ネイマンデは首をやや傾けた。「Rrr」と小さく喉を鳴らし、サムスへゆっくり近づく。そしてコツンとサムスのおでこの辺りをヘルメット越しに小突いた。
「…うーん、まぁそれでもいいけど」
プレデターが相手の額 ――眉付近―― を小突くのは無条件の受諾や了承、信頼の証。信頼しているから早くエレベーターを動かしてくれ、と言っているらしい。サムスはそれを知っているから、ネイマンデのその返答はギリギリの及第点だ。しかし本当に欲しいのはもっと熱のある感情の籠もった言葉だ。
「あのね、ネイ。女の子は言葉が欲しい時もあるのよ?」
「Gr?」
ネイマンデがまた首を少しだけひねる。
「マザーも言っていたのよ。言葉っていうのは大事な心の交流だって。プレデターだって男と女がいるんでしょう?もっと相手の心をくんでさぁ…女の子を喜ばせるように頑張らないとネイだって故郷で女の子にもてないよ?」
「Rrrr…」
若きプレデターは心外だ、とでも言いたげに顎を少し持ち上げて胸を張った。実際にそう思っているかは定かでないが、サムスの経験上、興味がない話題にはネイマンデはそういうボディランゲージをする。きっと、ほんの少し胸を張り背を反るのは拒否とか無関心の現れだ。プレデター種がそうなのか、それともネイマンデ個人がそういう癖を持っているのかは不明だ。だが、色恋話に興味が薄いのをサムスは喜び、同時に寂しい。小声でぼそりと一人呟く。
「むぅ…まぁ、ネイは私にだけモテてれば良いから、それでイイんだけどね」
ネイマンデ本人が色恋沙汰に…つまり繁殖欲求に乏しいとサムスとしても困る。なんでそこまで困るのかは、サムス自身まだ深く理解はしていないが…それでも最近は、サムスはネイマンデが好きという感情を強く感じるのを自覚し始めている。その好意は、オールドバードやグレイヴォイス、マザーブレインに向ける家族への愛情とは少し毛色が違うとも自覚出来ていた。
「まっ、冗談はここまで。行こう、ネイ」
一時の戯れを終え、思考を切り替えて狩人の顔つきとなる。エレベーターの操作盤の穴に、サムスはアームカノンを突っ込めば機器に接続され、マシーンが接続者のDNAを読み取って駆動を始めた。
静かな音が響くエレベーター内。大柄なネイマンデ1人でいっぱいになってしまうスペースしかない個人用エレベーターだから、サムスはネイマンデの腹に密着するように顔を埋めるしかない。
「…」
今まではそこまで感じなかった感情がサムスの中に湧き上がっている。
(うぅ~…少し…恥ずかしい。けど…えへへ。すっごい嬉しい。グレイに怒られちゃうかな?デート気分でいるんじゃないぞ!って…)
半ば無意識にサムスは彼の腹にヘルメットで頬ずりした。ネイマンデの薄い網目状の防護着衣から、逞しい腹筋が覗く。人間の腹とも違う。チョウゾの柔らかな羽毛の腹とも違う。少し滑ったような感触の腹だ。そして普通の人間が嗅げばツンとした生臭さを感じるかもしれないプレデター種の体臭もする。
その体臭は種族特有のフェロモンというよりも、彼らの種が肉体を頻繁に洗わないからだ。素の肉体が非常に丈夫で堅牢であるプレデター種は、肉体を清潔に保たなくても疾病とは無縁。だから臭いが溜まりやすい。
ネイマンデは、ゼーベスに留まるようになってからはある程度、文化的歩み寄りを見せて、どこぞの川等で体を洗っているらしいが、それでもこうしてゼロ距離で顔を寄せれば臭いを感じる。そしてサムスはこの臭いがたまらなく好きだった。ネイマンデの臭いだから好きだった。
自分の鼻でその臭いを嗅ぎたいから、少女はヘルメットを脱ぎ去って長い金髪を露わにしてしまう。
「…?」
ネイマンデが不思議そうに腹に顔を埋める少女を見る。彼はジェスチャーでヘルメットをかぶれと示している。ネイマンデからしたら、その行為は無防備そのもの。何があるか分からない狩猟場で、頭を守り、また視覚や聴覚、嗅覚を補ってデータを提供してくれるヘルメットを脱ぐというのは、プレデターにとっては最後の決闘にのみ行う事だ。こんな場面でする事ではなかった。
「今はいーの。これは決闘とか関係ないんだって」
「Rrr」
イマイチ分からない。ネイマンデは短い顫動音でそう言っているらしかった。