メトロイドvsプレデター ―サムス クロニクル― 作:ぷるぷるゼラチン気質
SR388の地下は実に広大な範囲がチョウゾ達の手によって整備された。だがチョウゾの基本理念として自然との調和・融合・共存がある。この地下空間とて天然の大洞穴を補強したものだし、7つに大別される
若い二人のハンターが今降り立った場所は第7区画。自然が多くあった今までエリアとは一線を画し、本格的なチョウゾの施設が建設されたエリアだ。当然、ここもエイリアンに汚染されている。寧ろ、今までのエリアよりもその侵食は酷く、いよいよハイブの最奥が近いと予感させる。そういう雰囲気であった。
「っ!こ、ここにも…鳥人族のおじいちゃん達の…死体…!」
そしてこのチョウゾ研究施設エリアには、今までのエリアと違いチョウゾの死体がごろごろしていた。無惨なものであった。エイリアンにやられ、内側から破裂した死体。Xにやられ、半身がどろどろに溶かされ食われた死体。メトロイドによって生命エネルギーを吸いつくされ干からびた死体。どれもこれも状況からの推測に過ぎない。しかしどの死体も、恐らく苦しんで死んだ老チョウゾ達だ。Xとメトロイドとエイリアン…それらの、生存闘争という名の血みどろの地獄の渦中で彼らは死んだに違いない。その恐怖と苦痛は想像を絶する。
ギリッとサムスの歯が鳴った。
「…チョウゾは…種族として衰えている。若い鳥人族はグレイヴォイスしか、もういないんだって
こんな状況では埋葬する事もままならない。サムスは心で彼らの死の安らかな事を祈り、その魂が翼と共に安息の地へと飛び去る事を願って右手の親指と小指を翼に見立て、その手をやや持ち上げてから胸へと抱く。それはチョウゾの風習と信仰 ――ある種の
「…rr」
そんなサムスを見守る一方で、プレデターは冷徹にチョウゾの死体を観察し、そしてマスクの内で静かに唸った。幾つかのチョウゾの死因に不審な点が見られるのだ。もちろん圧倒的大半の死体はサムスの見た通り、三種の超生命体による攻撃だろう。しかしそれらの死体に隠れて、極少数の死体の損壊は、高度な殺傷兵器によるものだった。損壊は激しくとも、プレデターのサーチにかかれば死体鑑定などお手の物だ。
彼の見た所、この老チョウゾの死因は、高密度のプラズマ収束砲。その後、エイリアンにでも食われたのだろう。プラズマ砲と一口に言っても多種多様で、彼…プレデターが使うプラズマキャスターと、サムスが使うアームキャノンでは異なる性質を持つ。この傷は、高確率でサムスの武器と同質のものが使われている。つまりは、チョウゾの兵器だ。
それはつまり、大きな可能性の一つとしてチョウゾ同士の争いがあったという事を示唆しているが、しかし、何よりも今この惑星にはあのXがいる。擬態能力においては宇宙一であり、チョウゾの能力を得て襲った可能性もある。内紛があったとは、一概に言えないのだった。
ネイマンデは、チョウゾ同士の争いの可能性を、己の内に留めておくことにしたらしい。サムスには何も言わず、彼女が他所を見ているうちにその老チョウゾの死体に〝青い液体〟を数滴掛ければ、見る見るうちに老チョウゾは溶けて消滅してしまう。
「ネイ?どうしたの?」
「Grrr」
なんでもない、とジェスチャーで彼女の言葉を遮り、そしてネイマンデは警戒レベルを、さらに少し上げた。もしも襲ってくるチョウゾがいるならば、それはプレデターの狩りに、一振りのスパイスが加わる。それは善き事だ。サムスが知れば勿論止めようとするだろうが、この無垢な少女戦士には何も知らないままでいてくれた方が、狩人にとっては都合が良かった。ネイマンデは、グレイヴォイスと同様にサムスに甘いが、優しいだけの男ではない所もグレイヴォイスに似ていた。もっとも…ネイマンデは自分勝手な面が少々強い点が、グレイヴォイスとはかなり違うが。
背中を合わせるようにして、二人は奥へ、下へと歩みを進めていく。不気味は程に静かで、そして異様な空気がより濃く、満ちていく。
階層を降りる度に、サムスとネイマンデのバイザー機能に徐々に電子的な霞がかかり始めたのが、いよいよ〝そこ〟が近い事を物語る。
「…いかにも、なとこに来たわね」
いかにも、な所とは迷宮のように入り組んでいたハイブが収束し、ぽっかり大口を開けた出入り口に繋がっている空間だ。スモークのように靄がかかり奥まで見通せないが、その大口の先は開けた場所であるのはXスコープで何とか精査出来た。
「モニターが霞む。ただのガスじゃない…」
「Rrr」
ネイマンデは
「バグ達の分泌液が、固形化する前に多量の熱で蒸気化したもの…?しかもそこに、チョウゾのマシーンから電磁波を流し、強力に帯電させている…なんて悪知恵が回るのかしら」
サムスのバイザーにも、そしてネイマンデのヘルメット・ビジョンにも時折さっきよりも強いノイズが走る。チョウゾ・マシーンを利用しているだけあってただの電磁波ではないのは明らかだ。そこにエイリアン・フェロモンまでが濃密に付与されて何らかの〝悪さ〟を機器に齎しているから、例えば銀河連邦軍の通常装備兵では視界はおろか、その他の装備まで使用不可になるレベルだ。
ネイマンデがガントレットを操作して装備のチェックをし、同時に人間の少女にもチェックを怠らぬよう無言で促す。
「分かってる。…うん、大丈夫。ビーム、ミサイル、スーパーミサイル…問題なし。ついでに…――えいっ」
少女が気合の声をあげると、彼女はみるみるうちに〝変形〟していく。あっという間にまん丸ボールの出来上がりだ。パワードスーツと同じオレンジ系統のカラーに、エネルギーラインのグリーンの発光が美しく、まるでその球体は鳥人像が持つブーステッド・スフィアの水晶球のように綺麗だ。一つの装飾品として完成されていると言っても良い。
「モーフボールもバッチリよ。綺麗に丸いわよね?」
ボールがころころと自発的に転がってネイマンデの胸に飛び込んでくる。反射的にプレデターはそのボールをキャッチしてしまう。ネイに抱えられながら、ボールはどこか嬉しそうに2、3度左右に揺れてみせる。
ネイマンデはいつものように黙ったまま頷く。
「よーし…ネイ、しっかり持っててね」
「…?」
不思議そうに抱えるボールを見た直後、ボールは薄い発光をしつつ再度〝変形〟。ネイマンデの腕の中でそいつは元の人型へと戻っていった。
「解除も問題なし。確認終わり!」
ネイに抱っこされた形となったまま、笑顔のサムスは点検の終了を宣言した。そしてどさくさ紛れてまた彼の胸板に顔を埋める。
未来、伝説のバウンティハンターとして、クールでアダルティで謎めいた美女に成長する(予定の)サムス・アランだが、今はまだあどけない少女としての顔が色濃い。それもそのはずだ。サムスは幼少の折、故郷にあたる惑星コロニーK-2Lをスペースパイレーツに襲撃され、サムス以外の住人が皆殺しに遭うという災難に見舞われた。その後、鳥人族によって救助され、、そこでも銀河の守り手になる為とはいえ、幼い少女にとっては過酷な訓練の日々を過ごしたサムスは、普通の少女のように天真爛漫というわけにはいかない。大人びた雰囲気と時折影を差すようなミステリアスさを既に身に着けていたが、しかし、サムスにはまだ〝家族〟がいる。長老オールドバード、グレイヴォイス、マザーブレイン…それにプラチナチェスト等の、ソウハ族の鳥人族の老爺達。メトロイド開発の為に
そこに更に大きなエッセンスとして伝説の種族、
「えへへ…」
ヘルメット越しに、しつこくプレデターの胸板に己の頬をぶにぶに擦り付ける。まるでマーキングをする雌子猫だ。
銀河規模の大グローバル社会である今の時代、他種族同士の婚姻もそう珍しい事ではなく、不妊治療の一環として他種族夫妻が子を成す為の技術もある。だから、サムスの恋心もそこまでおかしい事ではない…と思われるが、やはりプレデターのマスクの下の素顔を見れば、サムスは大変な物好きと言わざるを得ない。蓼食う虫も好き好き…アバタもエクボ…と言った所。少なくとも、銀河連邦に住む人々は、皆そのようにサムスを評するだろう。
ネイマンデが、子猫のようにすり寄るサムスを両手で優しく、しかししっかりと引き剥がす。
「Rrr…サムス、
「っ!」
――ズシャっ
ハイブの開口部の向こう…酷く濃い霧の中から、粘液の中に着地する重厚な足音を聞いた。
「Ggggg…グ、グググ…SSSSSSSSSSSSSSSK…!」
既に二人のハンターはやや腰を落とし臨戦態勢。プレデターはプラズマキャスターを、サムスはアームカノンを構え〝影〟へ狙いをつける。
「SKREEEEEEEEEEE!!!」
「ウォリアーを呼び寄せた…あいつ、プレトリアン!?」
サムスはネイマンデから貰ったエイリアンの基礎情報を一通り頭に叩き込んでいる。
プレトリアンとは、クイーンエイリアンの親衛隊とも言うべき個体であり、また女王のバックアップでもある。現女王に万が一あればプレトリアンの中からクイーンに変異する者が現れて群れを維持する。現段階では産卵能力は無いものの、群れのカーストではクイーンに次ぎ、戦闘能力もウォリアーとは一線を画する。
「来る!」
靄の中から一斉に
黒く滑った異形のトカゲ虫共が、様々に叫びながら一目散にハンター達へと襲いかかる。サムスとネイマンデは、走り飛び掛かって来るエイリアン達をキャノンで迎撃するが、エイリアン達はそんな事もお構いなしに数に物を言わせて飛びかかり続けた。
「く…狙いが…!ロックオンの精度が落ちてる!」
サムスのビームがターゲットの右腕を肩から吹き飛ばすが、本来の狙いは心臓だった。電磁を纏う靄のせいだ。ビジョンにノイズを走らせる程の電磁波がパワードスーツのロックオン機能を阻害する。隣を見れば、やはりネイマンデも同様に苦慮している様にサムスには見える。
「Grrr!」
忌々しげに喉を鳴らしたネイマンデが放つプラズマ弾は、致命弾が少なくなり、偶に空を切る事も多くなっている。プレデターの
「このぉ!!」
半ばイラついてアームカノンを連射するサムス。群れが襲ってきているこの状況では、その選択はあながち間違ってはいない。とにかく今必要なのは弾幕だ。プレデターも同じ選択をし、今はひたすらに撃ちまくって数を減らす必要がある。
だが巣への侵入者がそういう選択をとる事はプレトリアンも理解していたらしい。
「HSSSSSSSS!!」
ウォリアー達を盾に、肉壁を縫って巨体をハンターの近くへ滑り込ませていた。
「…!!」
靄の中から完全に姿を表した巨体。ネイマンデが声も無くそいつに魅入る。プレデターの青年よりも、更に一回り大きな黒い肉体。
そいつはエイリアン特有の長い後頭部に鋭い羽毛のような表皮を生やしていた。そいつの手足の指は、鳥の手足のように鋭く節くれ立ち鋭い爪を持つ。背には退化した翼の痕のような、3本目4本目の腕のようなモノが生えている。目があった。機能しているのかは分からないが、まるで鳥人像のような目が頭部にはある。
「鳥人族!?―――こいつッ!」
サムスが吠えた。
このような場面で鳥人族の身体的特徴を模した者が、エイリアンを引き連れて現れれば自ずと答えは導き出せる。
鳥人族を宿主とし、チョウゾDNAを取り込んだゼノモーフ。それが、このプレトリアンだ。
サムスがアームキャノンを猛烈に撃ちまくる。
「G、GGGGGGッ!!」
不気味に唸り、巨体に見合わぬ速さで弾幕を掻い潜り、幾つかのプラズマ弾を、硬い腕で弾く。チョウゾ・プレトリアンは、あっという間にサムスの懐に潜り込んだ。
「っ、速い…!」
サムスの目に映るのは、急速に迫る黒く大きな手。掴まれれば、そのまま引き裂かれるか、それとも押し潰されるか。サムスの鎧ならば幾らかは耐えられるが、それでもこれ程逞しいプレトリアン相手では大ダメージは覚悟せねばならない。
だが、
「Grrrrr!
Yautjaの言葉でフランクな挨拶を飛ばしながら、荒々しく、横合いからプレトリアンを蹴飛ばして狩人が割って入った。
喚き、軽く数mは蹴り飛ばされ、そして更に転がって壁に激突。このプレデターの膂力は、パワードスーツを着こんだサムスにも劣っていない。
プレデターの三点レーダサイトが、地に伏せるプレトリアンを捉え、そして躊躇わずにネイはキャノンを撃つ。
だが、やはりロック精度が甘いし、それにこいつは速い。プラズマ弾は、チョウゾ・プレトリアンの顔を掠めて壁面を消し飛ばし、その隙にプレトリアンは跳躍。雑兵の群れの中へと姿を隠す。
「あ、ありがとう…ネイ。あいつの姿見て、カッとなっちゃって…。でも、それとは別にしてもアイツの速さと判断力…油断できないわね」
態勢を立て直したのはプレトリアンだけではない。サムスも素早く立て直って、礼を述べつつも、ウォリアー相手に的確に攻撃を叩き込んでいく。
光り輝く光弾が、プレデターの肩から、そしてサムスの腕から次々に放たれては黒い群れへと吸い込まれていく。
エイリアンにとっては、これ以上有効な攻撃方法はないだろう。プラズマが肉を焼き、止血効果を生むから、ゼノモーフ特有の酸性血液が溢れる事がない。しかも距離をとって戦える事は、基本的に近接攻撃しか手段のないゼノモーフ達には一際有効だった。
「このまま撃ち減らす!」
巧みに互いの隙を埋めて、双方を庇い合い素早くプラズマを乱射する。精度が落ちたなら、手数で勝負。そういう安易な発想が、この場合は良かった。四方八方から襲ってくるエイリアンを釣瓶撃ちにし、サムスの目論見通りにエイリアンは数を減らしていく。
だが気になるのはプレトリアンだ。
「奴はどこに行ったの…?」
サムスの意識が、薄い刃のように研ぎ澄まされる。
その時、彼女の足元の大地がボコリと波打ったのを、サムスの超人的感覚が知覚。
「っ、ネイ!下!!」
相棒へと叫ぶ。
「!!」
言われた瞬間、プレデターは流れるような操作で、ガントレットコンピューターから、ナックルガードを引き出す。
ネイマンデの拳が、青いプラズマで光る。眼前に迫ったエイリアンを、ノールックのキャノンで吹き飛ばしつつ、プレデターは拳を振りかざし、一気に振り下ろし…同時にサムスは大きく跳び、グラップリングビームで天井へと張り付く。その直後…。
――轟音
地面が割れ、土中から迫ろうとしていたプレトリアンの右肩を抉り砕いてやれば、そいつは大きな奇声を上げて翻筋斗打って苦悶し、崩れる瓦礫に足を取られて暴れた。
崩れた足場によろけながら、プレトリアンの二の舞はゴメンだと、プレデターは上を見る。正確には上に陣取る少女をだ。ヒューマンの少女は、プレデターの青年の意志をとっくのとうに理解していた。
「ネイ!手を!」
腕を伸ばす。鞭状のビームがプレデターの腕に巻き付いて、グンッと彼を持ち上げた。
「Rrrrr…!」
上へと引き上げられながら、プレデターは体の各所に括り付けてある、異星の獣の革を鞣して造った革袋からコロコロとした幾つかの球体を取り出し、掌で弄んでから無造作に下へバラ撒いた。
――またも轟く激しい音。炸裂音。爆発音。そして閃光。
爆破規模の設定が自在の、小型爆弾達。今回はかなり大きめに設定されたようで、全ての閃光と炎が消え去った時、辺り一帯のエイリアン達の姿は肉片になり、或いは消し炭になり、或いは尻尾を巻いて逃げたらしい。
指揮官級であったプレトリアンが死んだのも撤退理由だろう。
「ふぅ…やることが派手ね、ネイってば」
バイザーの中で微笑んだ少女と目が合って、プレデターは小さく喉を鳴らして笑い返していた。