羽沢先輩目当てでバイトするのは不純に違いない 作:Washi
あのライブから既に1週間が経過した。当然と言うべきか、僕は『羽沢珈琲店』にバイトの希望の連絡を入れてはいなかった。姉さんから、店に貼り出されているらしい募集のチラシの写真が送られてきたので連絡先は知っている。でも、連絡する気はなかった。
いや、正確にはほんのちょっとはあった。砂漠の中の1粒の小石程度にはあった。スマホに店の番号を打ち込むところまで行ったこともある。でも結局、怖くなってそのまま消してしまうの繰り返しだった。
それに不満を抱いていたのは、他ならぬ写真の送信主である姉さんだったようだ。土曜の放課後、僕が自室で寛いでいると、姉さんはノックもせずに突然部屋に侵入して来たのであった。
「な、なに、いきなり……?」
「ちょっと。あんた、いつになったらバイトに応募するの?」
「いや、だから……しないって前に言ったじゃん……」
どうやら、姉さんは意地でも僕に『羽沢珈琲店』でバイトさせたいらしい。それが面白がってのことなのか、僕を気遣ってのことなのかは分からないけど。一応、後者だと願いたい。
「あんなに熱心に見つめてた癖に、そんな簡単に諦めちゃうの?」
「いや、だって……無理だよ……いきなり、その人の実家で働くなんて。第一、僕バイトの経験ないし……」
まあ、高校生になる以前からバイト経験があったらそれはそれで大問題だろうけど。
それはそうと、僕の回答をどう受け取ったのか、姉さんは分かりやすいくらいに盛大な溜息をついた。
「んなのやってみなきゃ分かんないっしょ。言っておくけど、このままなにもしなかったら絶対に後悔すると思うよ。あんただってそれくらいは分かってるんでしょ?」
「それは……まあ、ちょっとは、そんな気もするけど……」
でも、怖いものは怖いし、勇気が出ないのもれっきとした事実なのだ。変に拒絶される方が、きっと後々に響く気がしてならない。
「……もう1度だけ確認するよ。本当に応募する気はないの? 言っておくけど、これが自主的に応募する最後のチャンスだから」
姉さんも姉さんで怖いことを言う。でも、その程度で行動できるんだったらとっくにやっている。逡巡はあったものの、僕の答えは変わらなかった。もしかしたら、ボロクソに言われて意気地になっているのかもしれない。
「……ないったらないよ」
「ふーん……なら、こっちにも考えがあるから」
僕の返答を呆れた様子で受け止めた姉さんは、懐から自身のスマホを取り出した。そしてなにかを入力したあと、それを耳元に当てる。
普通に考えれば、どこかに電話しようとしている。そして会話の流れからすると……いやいや、まさか。いくらなんでもそこまで強引な手法を取る筈が……。
「あ、もしもし。実は私の弟が現在バイトを探してまして、偶々通りかかったときにチラシを見たんですけど、募集ってまだしてます?」
「ちょ、ちょっと……っ!」
平然と取ってきた。なんの躊躇すらなかった。僕が慌てて電話を止めようとすると、口元に手のひらを被せられ、しゃべれなくなってしまった。無理やり通話を切ることも考えたが、そこまでやるのは相手方に失礼だと思い、思い留まってしまう。僕は姉さんとは違うのだ。
「はい……はい……えっと、今日の16時ですか? はい、大丈夫だと思います。本人に伝えておきます。名前は……”木下勇樹”です」
募集が終了していることに一縷の望みをかけてみたが、どうやら駄目そうだ。無情にも、話はトントン拍子で進んでいく。姉さんの口から漏れた時刻は多分、面接の時間とかだと思う。本人の了承なしに、僕の外出が決定されてしまった。
「はい、それではよろしくお願いします。失礼します…………というわけで、16時に”羽沢珈琲店”ね。普通に入店して面接だって言えば伝わるらしいから」
「……最低」
嘘だと言って欲しかったが、どうやらそんなことはないらしい。意地の悪い笑みを浮かべる姉さんに対して、手のひらから解放された僕は精一杯の怨嗟を込めて睨みつけることしかできなかった。
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面接の時間の少し前、僕は『羽沢珈琲店』の最寄りの駅に到着した。今回の件で1つだけ幸いだと言えるのは、その駅が定期の範囲からそこまで外れていないことだろう。予定外の外出ではあるものの、追加の電車賃はそれほどかかってない。
スマホで地図アプリを開き、お店までのルートを検索する。どうやら、近くの商店街にあるみたいだ。歩けばすぐの距離だ。
正直、今でも気が重いことには変わりない。具体的には、高層ビルの下敷きになってしまったかのようだ。逃げてしまいたいが、正式に決まった面接を無視できるほど、僕の神経は図太くもない。大人しく向かうしかないのだ。
……いや、でも、僕なんてそもそも採用なんてされないか。料理とかほとんど未経験だし、話すのも得意じゃないし。動機が下心満載な分、相手に申し訳ないので落として欲しいという気持ちも少なからずある。
そんな自己評価に自己嫌悪を抱きつつも、少しは気が楽になった。
一方で、永遠に店に辿り着かなければいいと思っていたが、悲しいかな、駅からそう離れていないことは自身で確認済みだ。ほんの僅かな時間で商店街が見え、商店街に入ってからものの数分でいとも簡単に目的地を発見してしまった。
『羽沢珈琲店』
そう、看板に書いてある。何度読んでもそう書いてある。地図アプリもここが目的地だと主張している。間違いなく、ここが羽沢つぐみさんの実家である『羽沢珈琲店』だ。
アプリを閉じるついでに時間を確認する。面接の7分前。……いや、まだ入るのはちょっと早い……そう、5分前になったら入ろう。そうしよう。誰にしているかも分からない言い訳をしつつ、適当に周囲をうろつく。
もっとも、2分なんて時間はあっという間に過ぎてしまうわけで。ほんのちょっと歩いた所で、僕は来た道を戻って店の入り口に再び立つのであった。
……行って戻ってくるだけとか、絶対周りに変な人だと思われてる。穴があったら入りたい。
……しょうがない。入ろう。面接から逃げちゃうのだけは駄目だ。姉さんにバレたら後が怖いし。覚悟を決めた僕は、固唾を飲みながらゆっくりと入り口のドアを開けるのだった。入店を知らせるベルが店内に鳴り響いた。これ、注目されやすいから僕は苦手だ。
「いらっしゃいませ! お1人様ですか?」
「ッ!?」
雷に打たれたかのように肩が跳ね上がり、視界がグラリと揺れた。心臓が飛び出るかと思った……。全く予想していなかった人物…………今最も会いたくて、かつ最も会いたくなかった人が目の前に立っていた。
愛嬌のある笑顔、そして短めに切り揃えられた茶髪。忘れる筈もない。あの、羽沢つぐみさんが僕の前にいるのだった。しかも、喫茶店の制服らしき、白いシャツにベージュのエプロンを着けた姿で。制服の自己主張が控えめな分、本人の容姿と合わさって素朴で清純な感じが出ていて、その……とても可愛いかった。
まさか、家の手伝いまでしてるとは思わなかった。その上、都合よく僕が来たタイミングで対応に出てくるなんて。
入店してすぐに言おうとしていた言葉が頭の中から消し飛んでしまった。
「ぁ、その、僕……っ!」
「……?」
顔が沸騰する。相手に聞こえてしまうのではないかと心配になるくらい、バクバクと心臓が鳴る。体が石のように固まってしまい、急に声が出なくなる。呼吸の仕方を忘れてしまい、息苦しくなる。
「え、えっと……! ぼ……じゃなくて、じ、自分……? その、め、面接に来た……っ! き、木下です……!」
それでも、なんとか奇跡的に記憶を取り戻し、声を絞り出すことができた。よくよく考えたら”自分”という1人称もなんかおかしいけど、そんなの気にする余裕はなかった。
きっとこの時点で相当変な人に思われている筈だ。なんだかもう、帰りたい……。
「——あ、面接の予定の木下さんですね! お待ちしてました。ご案内しますね!」
接客だからなのか、それとも単に優しいからなのか、羽沢つぐみさんは嫌な顔を浮かべることなく満面の笑みで対応してくれた。その笑顔は、色んな意味で僕には強烈過ぎる……。
その後彼女に先導され、店の奥へと進む。客席は結構埋まっていて、お客の年齢層も結構マチマチに見えた。一応、学生服の人が多いようには見える。少なくとも、繁盛してそうだというのは分かった。バイトを募集しているだけはある。
「お父さん。面接の方がいらっしゃったよ」
コンロやらシンクやらが並んでいるキッチンスペースと思しき場所まで連れられると、彼女はそこでコーヒーを淹れていた男性に声をかける。どうやら、彼女の父親のようだ。
「ああ、ありがとう。……君が、木下勇樹君だね? それじゃあ、奥で話そうか。つぐみ、しばらくの間頼むよ。あ、それとこのコーヒーもよろしくね」
「はーい。行ってらっしゃい」
今度は彼女の父親……マスターとかでいいのかな? とにかく案内がマスターに変わり、更に店の奥へと連れられた。椅子がいくつかとテーブルが置いてあって、休憩所兼事務所のようなものなのかなと思った。
そこにお互い腰掛け、すぐに面接は始まった。
「店長の羽沢です、よろしくね」
「は、はい。き、木下です。よろしくお願いします」
緊張のせいで言葉がつっかえる。今の心境的には採用されたくないが9でされたいが1くらいだと思う。やっぱり、ちょっとくらいは期待するものはある。ただ、それ以上に恐怖心やら羞恥心が強いってだけで。
……一応、結論だけ先に言ってしまうと、僕は採用されることとなった。なんというか、相当人手不足だったのか、最初から採用する前提かのようにトントン拍子で話が進んでしまったのだ。というか、直接人手不足であることを告げられてしまった。流石に、やっぱり止めておきますなんて言える雰囲気じゃなかった。
ちなみに、動機は大学進学に備えてみたいな感じで適当に誤魔化した。
ま、まあ……採用されてしまった以上はやるしかないとは思う。僕だってそこまで無責任ではない。
1つ問題があるとすれば、それは……。
「それで、もしよければなんだけど、今からでも入れないかい? あまり忙しいときは教える暇もないだろうし、お試しってことで」
……採用が決まったその直後からシフトに入ることになってしまったということだろうか。もうちょっと、心の準備は欲しかったかな……。僕みたいな人間は、家族以外に”ノー”と言えない人種なのだ。
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支給された制服に着替え、手を洗う。これで店に出る準備はできた。しかし、入店してから今に至るまで、僕の心臓は早鐘を打つことを一向に止めようとしてくれなかった。
だって、同じ仕事場に羽沢つぐみさん……いや、一応同じ場所で働くことになったんだから羽沢先輩の方がいいかな。とにかく、羽沢先輩と同じ空間での仕事だ。しかも、バイト自体が初めて。あらゆる意味で、不安と緊張でいっぱいだった。
ひとまず、深呼吸をして少しでも心を落ち着けよう。吸ってー、吐いてー、吸ってー……
「木下くん? 準備はどうかな?」
「ッ!? ゴホッ! っ、だ、大丈夫です……!」
まるで見計らったかのように羽沢先輩がやってきた。不意を突かれた僕は、またもや挙動不審な所を見せてしまった。いい加減死にたい。
「ご、ごめんね! 驚かせちゃった?」
申し訳なさそうに謝る羽沢先輩を見た僕は慌てて首を横に振って否定する。タイミングこそ悪かったかもしれないけど、彼女のせいではない。
「いえ、そんなことないです……すいません……」
どもることはなかったものの、消え入るような小声で答えてしまう。耳まで熱くなってきたし……顔、赤くなってないかな……
お互い、黙ってしまう。なにかしゃべった方がいいのだろうけど、こういうときになにを話せばいいのか分からない。変なことを聞いたら、ますます空気を悪くしてしまうかも。
「えーっと……そうだ! まずは、自己紹介からだよね!」
幸いにも、妙な空気を打ち破るようにして羽沢先輩が声を張り上げてくれた。助かった。
「羽沢つぐみです。今は高校2年生で、こうして偶に家のお手伝いをしています。担当は、主にホールかな。よろしくね!」
「その……木下勇樹です。高校1年生です。それから……バイトは、初めてです。よ、よろしくお願いします……」
「そっか、バイト初めてなんだね。でも大丈夫! 最初は大変だと思うけど、きっとすぐに慣れるから!」
それを聞いて少しは安心する。それはそうと、羽沢先輩は家の手伝いに、バンドもやってて、姉さんの話によれば生徒会の副会長までやってるってことだよね。それに羽丘女子って進学校だし……完璧超人だ。好意云々を置いておいても、すごい人だと思う。
「今日はまだ初日だし、シフトも2時間だけだから、軽めのキッチン作業だけにしよっか。ケーキとか軽食とか、すぐに用意できるものを作ったり、お皿を洗ったりとか。それで大丈夫かな?」
「は、はい、大丈夫です……!」
いよいよだ。どこまでできるかは分からないけど、せめて仕事中くらいは集中するようにしないと……。羽沢先輩に、変な所見せたくないし。
こうして、羽沢先輩の指導のもと、僕の初めてのバイトが始まった。あれだけ嫌がっておいてなんだけど……やっぱり、こんな近くで羽沢先輩に一緒に居てもらって、しかも指導してもらえるなんて……なんだか幸せだ。直接は言わないけど、ありがとう姉さん。
——ところが、そんな邪な考えを徹底的に咎めるがごとく、仕事の出来そのものは悲惨の一言に尽きるのであった。
「うわ……」
「うーんと……ちょっと……ほんのちょっとだけ焦げちゃってるね。もう1回、やってみよっか……」
——ホットサンドを焦がしたり。
「あ、最初にバターだよ。そうしないと、野菜の水分がパンに染み込んじゃうから」
「す、すいません!」
——たかだかサンドイッチの手順を間違えたり。
「っ……」
「だ、大丈夫!? 指切ってない!?」
——洗おうとした食器を割ってしまったり。
多分、考えうるあらゆるミスを、たったの2時間で成し遂げてしまった。ほぼ常に隣に羽沢先輩が居たのにも関わらずだ。アピールとしても、戦力としても完全にやらかしたのだった。
そんな僕を責めることはせず、羽沢先輩は必死にフォローをしてくれた。それが逆に、惨めで、恥ずかしくて、申し訳なかった……
バイトが終了する頃には幸せな気分はすっかり消え失せ、魂は抜け殻のようになっていた。多分、傍から見たら絵画の『叫び』みたいな感じになってると思う。
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「……すいません。割った食器は弁償します……」
「えっ!? ううん、そんなことしなくても大丈夫だから!」
バイト終了後、待機所で死人のように項垂れている僕は、今日の責任を取ろうとしていた。それを、羽沢先輩はなぜか止めようとする。
……ああ、そっか。そうだよね。弁償とかその前に、クビに決まってるよね……
「……お世話になりました」
「……? あっ!? 違う、それも違うよ! そういうことでもないから落ち着いて!」
両手を振りながら、慌てた様子で羽沢先輩は僕の考えを否定する。じゃあ、一体なんなんだろうか。まさか、お咎めなしということもあるまい。
「……あのね、木下くん。私だってお皿を割っちゃったことはあるし、恥ずかしい失敗もたくさんしちゃったよ。木下くんが辞めちゃうんだったら、私なんてもう何回も辞めなくちゃだよ」
「え…………そう、なんですか?」
……どうやら、そのまさかのようだった。頬を指で掻きながら、羽沢先輩は仄かに顔を赤くしながらポツポツと己の失敗経験を語ってくれた。いかにもなんでもできそうに見えるのに、意外な事実だった。
「うん。でもね、その度に今度は失敗しないようにとか、もっと頑張らなくちゃって思うの。ほら、落ち込んだままだといつまでもなにも変わらないけど、頑張って上手くできるようになったら嬉しいでしょ?」
「それは……まあ……」
そう言われて、音ゲームを始めた頃を思い出す。今になって思い返せば、なぜクリアできなかったのかが不思議になるような曲はいっぱいあった。だけど、当時は全然クリアできる見込みがなくて、失敗ギリギリになりながらも成功させたときはすごく嬉しかった覚えがある。
「だから、次また頑張ればそれで大丈夫だよ! 木下くんよりずっとたくさんのお皿を割ってきた私が保証します!」
グッ、と両手を握って力強く頷いてくれた。僕を元気付けようとしてるのは明らかだった。
羽沢先輩が言うことが事実だとして、1日目の僕が割った皿の総数で勝ってたらそれこそ一大事なのに、そんな慰め方をしてくれるなんて……なんだかそれがおかしくて、思わず頬が緩んでしまう。
「その……ありがとうございます」
「えへへ、どういたしまして!」
うん……次、頑張ろう。とにかく、まずは皿を割らないようにしないと。そう、改めて決意するのであった。
「それじゃあ、お疲れ様…………あ、ごめんなさい! まだ1つ聞かないといけないことがあるんだった……」
「聞きたいこと、ですか……?」
僕は首を傾げる。すると、羽沢先輩は「ちょっと待っててね」と一旦席を外す。しばらく待っていると、すぐに戻ってきた。その手には、自身のものと思しきスマホが握られていた。
「なにかSNSってやってるかな? シフトの確認用に、連絡先の交換をお願いしてもいい? もちろん、メールとか電話とかでもいいんだけど」
「——っ!?」
核ミサイル級の爆弾発言に、僕の脳回路はショートし、しばらくは言われたことの意味を理解できないのであった。
……気づいたら帰りの電車に乗っていて、それまでの間の記憶はすっぽりと抜け落ちていた。我ながら、怖すぎる。
しかし、車内で確認したらちゃんと羽沢先輩とチャットアプリでの友達登録がされていたので、どうやら無事交換できたらしい。その日の夜、スマホを弄っている間、僕は隙あらばアプリを起動しては、友達に追加された羽沢先輩のアカウントを眺めているのであった。
翌日、そんな自分の行動を振り返って凄まじい罪悪感に苛まれたのはまた別の話。
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私は店の裏口から、今日お店の後輩になったばかりの木下くんを見送った。連絡先を交換した辺りから少しぼーっとしてたみたいだけど、疲れちゃったのかな?
最初、お父さんから同年代くらいの男の子が新しくバイトに入るかもしれないと聞いたときは、ちょっとびっくりしちゃった。
学校は中学から女子校だし、幼馴染はみんな女の子だし、この1年で交流が増えたバンド繋がりのお友達もやっぱりみんな女の子だ。お客さん以外で歳の近い男の子と話すこと自体、久しぶりだった。
ちゃんと話せるかな、と思っていたけど、そんな心配は実際に木下くんと会ったら吹き飛んでしまった。だって、私なんかよりもずっとずっと緊張してたんだもん。
バイトをするのは初めてみたいだったし、学年も1つ下の後輩。私がしっかりしなきゃ駄目だって思ったら、不思議と普通に話すことができた。
……まあ、お店の仲間として初めて話しかけたときはすごく驚かせちゃって申し訳なかったけど。
それに、木下くんはとても責任感のある子だった。些細なミスでもすごい落ち込んじゃって、なんと割ったお皿の弁償までしようとしてくれた。お皿を割っちゃうことなんて、私やイヴちゃんも未だにやっちゃうのに。もちろん、割らないのが一番なんだけど。
だからこそ、しっかりとサポートしてあげたい。私はホールがメインだし、コーヒーは練習中だからそんなに教えられることがあるわけじゃないけど、それでもできる限りのことはしてあげたいと思う。それで、最終的にこのお店のことが好きになってくれたら嬉しいな。
あ、そうだ。今度、お店のケーキとかを試食してもらわないと。お客さんに説明やおすすめをするとき、やっぱり実際に食べたことがあるかどうかで全く違うから。コーヒーの種類の説明とかも必要な筈だ。……ブラックが苦手な私が説明しても、説得力がないかもしれないけど。
……そろそろお手伝いに戻らないと。もうすぐ閉店だし、頑張らないと!
そういえばチャットで同年代の男の子と友達登録したのも初めてだなあ、と思いつつ、私はホールに戻るのであった。