羽沢先輩目当てでバイトするのは不純に違いない   作:Washi

6 / 16

前回からやむを得ず分割した分なので短めです。ごめんね。


第6話 雨の中の決意

 雷鳴轟く暗雲の中、僕たちはショッピングモールを出て『羽沢珈琲店』を目指して歩き始めた。降り出す気配は今の所ない。

 徒歩での距離としては決して遠いわけではないのだが、近いと言い切れるほどではない。大体、20分程度の距離だ。ただ、おそらくは通常より時間はかかるだろう。なぜなら、雷が鳴る度に羽沢先輩が足を止めてしまうからだ。

 

「ッ……!」

 

 山が崩れたかのような天の怒号に羽沢先輩が肩を震わせる。さっきよりも光ってから鳴るまでの間隔が短くなっている。おそらく、もうすぐ真上に来る。僕でも少し怖いのだ。羽沢先輩が足を止めてしまうのも無理はない。

 

 他の人も屋内に退避したのか、人の気配が感じられなくなりつつある道を僕たちは進む。風切り音が止め処なく吹き荒れる。電柱で結ばれたケーブルがブランコが如く揺れ、標識などの看板がガタガタとたわむ。これが映画だったら、間違いなく世界が滅ぶ前兆を仄めかすシーンだ。

 

 羽沢先輩は一言も発さず、僕の腕にしがみ付いたまま決して離れようとしない。見えない鎖で繋がれたみたいに、ちょっと揺すったくらいじゃびくともしない。

 

 ……服越しに伝わる体温、心臓の鼓動、呼吸に合わせて上下する胸、歩く度に形が微妙に変化する柔らかな感触。それら全ての感覚が同時に僕の腕に襲いかかってくる。チリチリと頭の中で散る火花が思考を鈍らせ、定期的に湧き上がる衝動が僕を苛む。

 なんというか……その……やっぱりこの密着状態は色々と危険だ。思わず、生唾を飲んでしまう。

 

 ……って、こんなときに、なに考えてるんだ……僕! ここはもっと羽沢先輩のことを心配すべき場面だろう。先輩が本気で怯えていることくらい、分かっているだろ?

 きっと、羞恥心なんてものを感じる余裕がないほどに、追い詰められている筈だ。そうでなければ、前言を撤回までして僕に家まで送ってほしいなんて言わないし、こんな密着してこないに違いない。

 いつも助けてもらってばかりなんだから、せめて今日くらい頑張らないと……!

 

 表面上は平静を装いつつ、羽沢先輩の様子を気にかける。うーん、このペースだと、いつまでも先輩を雷雲の下に晒してしまう。ちょっと、急いだ方がいいだろう。

 

「……羽沢先輩。もう少しペースを上げられますか? 速く歩けば、それだけ早く着きます」

 

 言葉が返ってくることはなかった。その代わり、羽沢先輩は肯定を示すかのようにコクリと小さく頷いた。すると、ほんの気持ち程度歩く速度が上がった。カタツムリから、カメくらいにはなったと思う。

 

 いつも笑顔でにこやかに接してくれる羽沢先輩が、こんなにも弱った表情を見せるなんて……。怖いものくらいあって当然なのに、こんな一面があるなんてこと、想像もしなかった。

 

「ひぅ……ッ!!」

 

 うわ……! ますます密着……って違う! そうじゃなくて! 落ち着くんだ、僕。とにかく、なるべく羽沢先輩の方を見ないようにしないと……!

 先輩の潤んだ瞳が視界に入るだけで、麻薬が如き甘い痺れが脳を侵食するのだ。あの状態が続いたら、なにをしでかすか分からない。あれは、危険過ぎる。

 

 遠くの景色を見ることで気を紛らわしながら、羽沢先輩を先導していくのであった。

 

 

***

 

 

 怖い。理性ではどうしようもないくらい怖くて、怖くて、怖くてしょうがない。視界が白で明滅する度に全身が硬直する。畳みかけてくる雷鳴に心が押し潰され、悲鳴すらも出せなくなってしまう。

 

 昔からずっとこうだった。雷が大の苦手で、高2になった今でも全く克服できない。普段だったら幼馴染の誰かが一緒に帰ってくれた。特に、私より身長の高い巴ちゃんはとっても頼りになった。だって、雷はより高い所に落ちるから。

 

 送ってほしいという私のお願いを、木下くんはほとんど間を置かずして引き受けてくれた。雷に気づく前、私はあんなに木下くんの申し出を断っていたのに。文句1つ言わずに、腕を貸し、歩調を私に合わせてくれる。

 歩きづらく、ないかな……こんなに引っ付いちゃって暑く、ないかな……現状が申し訳なくて、そんな心配ばかりしてしまう。

 

 ダメダメだなあ、私。前に助けてもらったお礼の為にお誘いしたのに、また助けてもらっちゃっている。私の方が先輩で、本当なら私の方がしっかりしてないといけないのに。

 この前だってそう。迷惑かけないようにって無理して、その結果火傷に気づかれて心配されて、助けてもらって。空回りしてばっかりだ。

 

 ……でも、木下くんは迷惑だと思ってるかもしれないけど、この腕にしがみ付いている体勢はちょっと安心する。

 木下くんは細身な方だと思ってたけど、こうして腕を掴んでいると、意外としっかりしているのだ。それに私よりはずっと背が高いし、お店で働いているときも私じゃ持てない量の荷物を軽々と持っていた。

 細身でも、年下でも、やっぱり男の子なんだなあ、ということを今まさに実感している。雷は怖いけど、完全には取り乱さずにいられるのは木下くんのおかげだ。男の子の側がこんなにも安心できる場所だなんて、知らなかった。

 

 また、お礼しないと。そう思いつつ、私は木下くんを頼りに歩き続けるのであった。

 

***

 

 

 非常に遅いペースながらも、僕たちは順調に商店街の方へと近づいていた。徒歩で10分くらいの距離までは近づいたと思う。商店街近くの、大きめの公園の端が見えてきた。

 風が強いおかげか、雷も真上は通り過ぎたようで、光ってから数秒後の間隔に戻っている。羽沢先輩は相変わらず無言だが、腕に込められている力が気持ち緩んだ気がする。ああそれと、腕にしがみ付かれているというこの状況にも、だいぶ慣れてきた。そのおかげで、羽沢先輩のことを気遣う余裕が出てきた。

 

「……羽沢先輩。公園が見えてきました。もうすぐ商店街です、頑張りましょう」

 

 少しでも羽沢先輩を落ち着かせる目的で現在地を告げる。先輩も認識しているかもしれないけど、念の為だ。

 

「……うん」

 

 思わず羽沢先輩の方を向いてしまった。今までずっと言葉を発さなかった羽沢先輩がようやくしゃべってくれたのだ。雷が遠ざかり始め、幾ばくかの平静を取り戻したのだろう。内心、ほっとする。

 

「……ありがとう、木下くん。また、助けられちゃった」

「いえ、羽沢先輩が大丈夫そうでよかった——」

 

 ”です”……まで言い切ろうとしたそのときだった。はっきりと目に映るくらい、上から下へと大粒のなにかが視界をよぎった。

 ……あ、これ、まずいかも。上を見る。直後、冷たいものが頬に当たった。水滴……つまりは、雨粒だ。

 

 どうしよう、と考える暇すらなかった。1粒、2粒と立て続けに落ちてきて……ほんの数秒後、雨に溜め込まれていた雨粒が一斉に落ちてきたかのような大雨となった。機関銃のように雨粒が地面を叩き、一瞬で僕らの服をびしょ濡れに変えた。

 ——目を合わせる。お互い、なにか驚きの声を漏らした筈だが、雨音にかき消されてしまった。

 

 や、やっぱりケチらずにモールで傘買っておけばよかった……! そう思っても後の祭り。とにかく臨時で雨風を凌げる場所はないかと、周囲を見渡す。

 ……あった。公園の入り口のすぐ近くに東屋がある。造りもしっかりしてそうで、この豪雨にも耐えられるだろう。

 

「羽沢先輩、一旦あそこに入りましょう!」

 

 返事は聞かない。聞く暇がない。走り出したことで結果的に腕の拘束を解いてしまった僕は、代わりに羽沢先輩の手首を掴んで先導する。先輩もこの雨の中にいつまでも居たくなかったのか、遅れながらも付いて来てくれたのが手の感触で分かった。

 

 顔に打ち付けられる雨粒が地味に痛い。早く屋根の下に入りたい。その一心で走り続け、公園に入った僕たちはようやく東屋へと到達した。

 ……うげ、気持ち悪い。靴下がぐちゅぐちゅ言ってる。全身も、大波に飲み込まれたあとみたいに濡れてしまった。

 

「羽沢先輩、だいじょう——ッ!?」

「……? 木下くん?」

 

 羽沢先輩の様子を確認しようと顔を向けて……次の瞬間には逸らしてしまう。雨で濡れたブラウスが張り付き、色々といけないものを浮かび上がらせていたのだ。例えば、本来は見えてはいけない淡い青の肩紐とか。背中に広がる肌色とか。

 せっかく落ち着いてきていたのに、どぎまぎが復活する。チラ見したい衝動を必死に抑える。

 

「…………っ!? ご、ごめんね、変なもの見せちゃって……!」

 

 しかし、努力の甲斐なく羽沢先輩に一連の行動の意味を悟られてしまったらしい。きっと、今は腕でなるべく透けている部分を隠しているのだろう。そしてなぜか、謝られてしまう。変なものではなく素晴らしいものなのだが、口には出さない。出したら引かれるのは分かりきっている。

 

 互いに顔を合わせぬまま、きまずい沈黙が続く。こういうときはえっと……あ、そうだ! 僕は着ていた上着を脱ぎ、軽く絞って水気を切る。幸い、今日着てきた上着は透けるような色ではない。その上着を、羽沢先輩の方に差し出す。もちろん、見ないようにしながら。

 

「あ、あの……もし嫌でなければですけど、これで……」

「え……? だ、駄目だよ! 木下くんだって濡れてるのに……冷えちゃうよ?」

「僕は別に、大丈夫です。むしろ、お互いを見れない今の方がきまずくて嫌です。あー、えっと……あれです、僕を助けると思って、みたいな」

 

 なるべく、羽沢先輩が断りにくそうな言葉を自分なりに選ぶ。これでもこの1ヶ月半、バイトを通して羽沢先輩のことを観察してきた身だ。少しずつだけど、羽沢先輩がどういう考え方をするのかは分かってきている。

 

 しばらくは逡巡していた様子の羽沢先輩だったが、やがて僕が上着を引っ込める気がないことを悟ったのか、「ごめんね。それじゃあ、お借りするね」と受け取ってくれた。これでようやく、羽沢先輩の方を向いて話ができる。

 ちなみに、羽沢先輩は上から羽織るような形で僕の上着を身に着けていた。

 

「雷も遠ざかってきましたし、しばらく様子を見ましょう。降り止まないようでしたら、僕が近くのコンビニで傘を買ってきます」

 

 雷鳴も、だいぶ控えめになってきた。鼓膜に圧力がかかることもないし、明確に遠くで鳴ってると分かる程度の音量だ。ひとまず、雷はやり過ごしたと言っていいだろう。

 商店街までもうそんな遠くないのだし、雨の勢いが収まったら歩いてしまった方がいいと思う。

 

「うん、ありがとう。でも、傘を買いに行くときは私も一緒に行っていい? その、1人になっちゃうのは、まだ、ちょっと……」

「あ……そ、そうですよね。 すいません、そこまで気が回らなくて……」

 

 そうだった、遠ざかったとはいえ、まだ雷は健在なんだった。それに、こんな濡れた格好で女子を1人きりにするというのも、よくよく考えれば危険な行為だ。なぜ気づかなかったのだろう。迂闊にも程がある。

 

「ううん、気にしないで。……私の方こそごめんね。いつもいつも助けてもらっちゃって」

「……え? いつもって……それこそ、そんなことないと思いますけど……」

 

 思いもよらぬ言葉に、僕は首を傾げる。助けたと言っても、前回の火傷のときと今日の雷くらいじゃないだろうか。羽沢先輩に助けてもらった回数と比べれば、大したことはない。

 

「でも、木下くんって備品の補充とかこまめにやってくれるでしょ? あと、時間があるときにキッチンの汚れがちな所の掃除をしてくれたり。あ、この前私がパフェを用意しようとしてたとき、必要なものをあらかじめ側に置いておいてくれたよね?」

「まあ、そうですけど。でも、それは仕事だから……」

「うん、それはそうなんだけどね。でも、それ以外にも色々と細かいことにも気づいて動いてくれるから、木下くんと一緒のときは動きやすいなって思ってたの。木下くんは当たり前って思ってるのかもしれないけど、それって本当はすごいことなんだよ?」

 

 なぜか、かなり褒められている。なんだかこそばゆい。羽沢先輩はやたらと相手のことを肯定、もしくは褒める傾向がある。ちゃんと見ていてくれていたことは嬉しいのだが、自分としては本当に大したことないと思っているのだ。

 ……それに、仮にその通りだったとしても、羽沢先輩と比べれば大したことはない。

 

「……でも、そんなこと言ったら羽沢先輩の方がすごいですよ」

「えっ?」

「羽丘に行ってる姉から聞きました。羽沢先輩、生徒会の副会長なんですよね? しかも進学校の羽丘の。それに、バンドだってやってますし、家の手伝いまでして……僕なんかより全然すごいですよ……」

 

 ……なんか言ってて悲しくなってきた。最後の方は自嘲気味になっちゃったし。口にすればするほど、自分との差を痛感してしまう。羽沢先輩と釣り合うだけのものを、持っていないと分かってしまう。

 というか、なにを言っちゃってるんだろ、僕。羽沢先輩に愚痴を漏らす場面じゃないのに。雨のせいで気持ちまで落ち込んでるのだろうか。

 我に返った僕は急いで前言を撤回しようとする。だが、もう遅かった。僕が口を開く頃には

羽沢先輩の声が聞こえていた。

 

「ふふっ、ありがとう。でも、私だって別に大したことはないんだよ?」

「いや、そんなこと言ったって実際色々やってるじゃないですか」

 

 僕の反論に、羽沢先輩は困ったように愛想笑いのようなものを浮かべる。しばらく返事に悩んでいたようだが、やがて考えが纏まったのか、ゆっくりと話を再開する。

 

「……うーんとね、確かに副会長をやらさせてもらってるけど、まだ先輩たちみたいに作業は速くなくて、練習の日なのに蘭ちゃんたちを待たせちゃうことがあるんだ。キーボードだって私より上手な人はいっぱいいるよ? それに、『Afterglow』のみんなも演奏がとっても上手だから焦っちゃうこともあるし」

 

 なんでも、昔やったライブの後に、SNS上で自分のことだけ話題に上ってないことに焦ってしまい、口では言えないような迷走を繰り返したこともあったらしい。一応詳細を伺ってみたが、頑なに語ろうとしなかった。

 

 それからも、ポツリポツリと自身がいかにすごくないのかを語り続ける羽沢先輩。ただ、僕のときと違うのは、それらの言葉からネガティブな感情はあまり感じられないことだ。ただ淡々と事実を述べている、そんな感じだ。

 

「だからね、前にもちょっとだけ言ったけど……頑張らなくちゃって思うんだ」

 

 明るい調子の声。それは、まるで自分を鼓舞するかのようにも聞こえた。

 

「私自身は全然大したことなくて、だからせめてみんなに迷惑をかけないように精一杯頑張ろうって思うの。頑張って頑張って少しでも前に進んで、置いていかれないようにって。頑張り過ぎてこの前みたいに迷惑かけちゃうこともあるし、頑張り方が間違ってたときもあったけど、それでも私には頑張ることしかできないから。……ね? 私も全然すごくないでしょ?」

 

 雨音が屋根を叩く中、羽沢先輩は苦笑いを浮かべてそう言った。羽沢先輩の言葉に、僕はすぐには返事をすることができなかった。羽沢先輩が秘める強さと弱さ。それを同時に見せてもらった気がする。

 前向きで思い切りがありながら、自信はない。自信がないから、努力する。自己評価が低いから、なんでもかんでもやろうとする。普通だと自覚しながらも、普通であるまいと足掻いている。……そして、雷のように頑張った所でどうにもならなかったものもあるのだろう。

 

 今までは、一目惚れというフィルターと多くの肩書によって塗り固められた、完璧超人なのではという僕の勝手なイメージがあった。高嶺の花なのではないかという思い込みが。

 一目惚れなわけだから、第一印象が悪い筈がない。そして、バンドという、いかにもかっこよさげな活動をしていて、進学校の副会長で、実家の手伝いまでしている。しかも、明るくて面倒見がよい。一見すると、完璧な人間に見えた。そういう部分ばかりが見えていたせいか、どこか萎縮していた所もあった。

 

 だからこそ、今日見せてもらった雷を怖がっている羽沢先輩の姿は割と衝撃だった。誰でも怯えうるものに羽沢先輩も怯えるという事実に、等身大の羽沢先輩というものを見た。そして、たった今聞かされた話が更なるダメ押しとなった。これまで抱いていたイメージは、泡のように消えてしまった。

 

 ……羽沢先輩は、積極的に動くという部分を除けば、割と僕と近い性質の人なんだと思う。主に自信がないという所が。ただ、それに対する解答が違っただけで。僕は自信がないあまり行動を起こすことを恐れるけど、先輩は自信のなさを行動によって克服しようとする。

 僕には無縁なライブという世界で、キーボードを演奏していた羽沢先輩の姿を思い出す。他の先輩方に聞いたことだが、元々バンドを始めようと言い出したのも羽沢先輩らしい。

 僕と似ている部分がありながらも真逆の道を進んだ羽沢先輩。それが、真の先輩の姿なのだと悟った。自身が普通であることを認めつつ、なにごとにも積極的に立ち向かっていくことを選んだ先輩を……僕は、この瞬間、心の底から……かっこいいなと思った。

 

「やっぱ、羽沢先輩はすごいです……」

「……? 今、なにか言った?」

「いえ、なにも」

 

 本当の意味で、羽沢先輩が魅力的な人に思えてきた。一目惚れがどうとか、容姿がどうとかではない。どこまでも普通な所が。それを努力でカバーしようとする所が。その内面に、僕は改めて惹かれている。今までより、ずっと強く。

 

 ……一目惚れした遠い存在の人に少しでも近づけたらいいな、とか奇跡が起こって恋人になれたらいいな、みたいな妄想に近いことばかり考えていた。だから、ショッピングモールでのミッションもグダグダに終わったんだと思う。まあ、デート自体は楽しかったけど。

 でも、今はそうじゃなくて……単純に、もっと羽沢先輩の力になりたいと思った。今日のように助けるのでもいいし、先輩の負担を少しでも減らす方向でもいい。火傷のときみたいなことを再度起こさないように、できる限り支えられる存在になりたい。そう思った。

 

 ……なんというか、不思議な感じだ。ドキドキするのではなくて、ポカポカと温かい気持ちだ。少し前までは、側に居られるだけで少なからず緊張したのに、今はそんなことはない。いや、ちょっとはあるけど。

 

 頑張ってみたい。羽沢先輩みたいになれるように。羽沢先輩をもっと助けられる存在になれるように。まずは、バイトをもっと頑張ってみよう。コーヒーのことも少し勉強してみよう。接客は苦手だけど、もっと頑張ろう。そう、思った。

 

「あ……」

 

 雨が、弱まってきた。これなら、そう遠くない内に小雨になるだろう。

 

「もう少ししたら、行きます?」

「うん、そうだね。あ、家に着いたら服が乾くまでは休憩していって。お礼にコーヒーくらいはお出しするから」

「ありがとうございます。今度は気をつけてくださいね」

「あはは……うん、火傷しないように頑張るね」

 

 その後、雨が完全に上がった所を見計らって再び出発した僕らは無事に『羽沢珈琲店』まで辿り着いた。それから羽沢先輩の淹れたコーヒーをごちそうになった僕は、しばらく休憩してから帰路に就くのであった。

 雨の中で得た、新たな決意を胸に抱いて。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。