前書きの追加。
軌跡シリーズの、所謂、お決まりのやつ。
Beginning of a battle
────七耀歴 1204年
────10月
────エレボニア帝国、近郊都市トリスタ、“トールズ士官学院”。
『慌てずに出入り口を固めろ! 生徒に遭遇した際は最悪、ケガを負わせても構わん! 1人も逃がすな!』
拡声器を通した大声が、校内全域に響き渡る。
脅しを含めて、わざと聴こえるようにしているのだろう。
目に見える戦力として、人型の機械人間を用意しつつ、戦車も2台配置。その上で、多くの隊服を着た大人が校舎正門に陣取っていた。
隊長格の男の言う通り、彼らの第一目標は生徒を逃がさないこと。
故に、出入口を閉鎖し、校舎を制圧してしまえば、彼らの目標は完遂に近い。
こうして、出入口は閉鎖した。
ならばあとは、攻め入るだけ。
なのだが、やはりそううまくは行かない。
「ヒャヒャヒャ、いるじゃねえか! うじゃうじゃと!」
「領邦軍……!」
領邦軍の目の前に出てきたのは、剣を携えた4人組。
「あんたらの仕事は、学生を閉じ込めておくことじゃねえと思うが? 帝都の現状、知らねえわけじゃあねえよな?」
「分かりきってること言うんじゃねえよユーリ。帝都の平和より領土の平和。宰相の様子なんてどうでもよく、領主の顔色を伺うこと以外に能のない下っ端軍人どもによ」
「いや、スパーダ、それは流石に言い過ぎじゃないか……?」
「はぁ~アスベルくんはこんな時まで優等生でちゅねえ。逆に尊敬するわ。リオンはどう思う?」
「黙って剣を抜け」
「リオンは言葉に鞘を付けた方がいいと思うぞ」
「そりゃァいい、確かにずっと抜き身だしな」
「貴様ら……」
「ま、言葉の刃は良いが、現物で仲間を斬るなよ?」
「仲間ではないと何度……まあいい、それより、誰に物を言っている」
そこに居たのは、緊張感と無縁の会話をする4人だった。
それでいて、滲み出る闘気を隠さない青年たちだった。
気分が高揚して、無駄に話していただけ、という訳ではない。
ただ通常運転なだけだ。
気負わず、背負わず、ただ前だけを見ている。
いつもと同じ男子生徒たちの姿がそこにあった。
「そんで、作戦はあんのか指揮官サマ」
「従わない駒に出す作戦などあるものか」
「つまり?」
「目の前の敵をひたすらに斬れ。何人たりとも抜かせるな」
「了解っと」
彼らの足元に、不可思議な線が描かれる。
人と人を結ぶその線は、温かい色をしていた。
「僕の足を引っ張るなよ」
「俺の前に出たら容赦なく斬るぜ」
「共闘なんて、柄にもねえが」
「守りきるんだ、皆を。この場所を!」
ユーリが長剣を。
スパーダが双剣を。
リオンが長剣と短剣をそれぞれ抜刀。
アスベルは帯刀のまま、いつでも抜けるよう手を添える。
負けられない理由を背負い、彼らはその一歩を共に踏み出す。
────
「お、おい、≪八組≫、本当にやるのか」
所変わって、校舎の反対側。
先頭を陣取り、身を隠しながら前方の様子を探る“紅い制服の少年少女たち”に、緑の制服を着た男子が話しかける。
「今更怖気づいた声を上げない!」
「けどよぉ、向こうのバリケードだっていつ破られるか分からねえし、こっちにだって敵がいんだろ?」
「あっちは問題ないわ。バカみたいに頑丈な楯を、4枚も残して来たんだから!」
そう言いつつ、栗色の髪の少女は、聞こえ始めた戦闘の音が心なしか大きくなった気がして、闘っている少年たちの身を一瞬案ずる。
──ううん、大丈夫。信じるって決めたでしょ、
運命を託した仲間の安全を疑ったことを恥じつつ、自身に喝を入れるマルタ。
そうして、彼女は己の更に前方へ意識を集中させる。前進する上での障害を探すと、厄介な存在を視認した。
「……居た。敵は3人。……私がなんとかするから、貴方たちは──」
「ああ、それなら気にしないで大丈夫よ」
「え、アンジュ?」
水色の髪の少女から思いもよらない返答が来て、振り返ったその時、ドサッと何かが倒れる音がした。
音につられて視線を戻すと、今しがたまで存在していた敵影が、それぞれ2人の男子に倒されている。
マルタと同じ紅い制服を着た、黒髪の少年と灰髪に黒メッシュを入れた少年にだ。
「ルドガー……ジュードも……ほんっと、心強いわね。うちの男子たちは」
「あら、女子も働きでは負けてないわよ? ほら」
アンジュが後方を指差す。
マルタが顔を向けるとそこには、紅い制服の茶髪の女子を筆頭とした、多くの緑色の生徒や白色の生徒たちが。
「まさか、そんなに大人数を連れてこられるなんて……」
「ええ、流石レイアね。彼女の日頃の行いと、人徳の賜物だわ」
「……ホント、この学校に来て良かった」
「わたしもマルタが居てくれて良かったと思ってるわ。もちろん、みんなもね。この出会いをくれた天の女神様に感謝しないと」
「この作戦が無事に終わったら、いつか礼拝に行くわ。付き合ってくれる?」
「ええ。……ふふっ、みんないっぱい成長したけど、一番成長したのは、マルタよね」
「なにか言った?」
「ええ。リーダーが頼りになると嬉しいなって言ったのよ」
「あ、アリガト……うん。そうだよね、私、リーダーだもんね」
マルタの顔に緊張が走る。
「……クラスのみんなの努力を、無駄になんてできない」
「そうね、例え何があろうとも。だから、方針を今、決めましょう。それで伝えてあげて。私たち、≪八組≫の委員長の言葉を」
「うん」
マルタは自身の懐から、アークスを取り出す。
すっ、と息を吸い込んだ。
「聴いてる人も、聴いてないバカ達も、少しだけ時間を頂戴」
────
周囲を警戒しながら、ジュードとルドガーは通信を聴く。
『これは“圧倒的に不利な撤退戦”よ。拠点を犠牲にし、仲間を囮にし、お先真っ暗な現状よりも、まだ見えない希望を掴むために組織へ反逆する。逃亡……逃げの一手』
身振り手振りで人を誘導しながら、レイアは耳を傾ける。
『けれど為さなければならないの。やらなきゃいけないの。口火は“帝都”で切られた。先陣は≪七組≫が切った。ならその後を継ぎ、途切らせないのが私たち、≪八組≫の仕事』
1人、また1人と斬り続けている4人の剣士は聴いていないが、それでも届けとマルタは話を続ける。
『誰も捕まっちゃダメ。捕まれば≪七組≫の剣を鈍らせちゃうから。誰も負けちゃダメ。1人が負ければ“若獅子の角”は折れちゃうから』
隣で、アンジュが祈るように手を合わせて聞いている。
「だから」
言いたいことはいっぱいあるけれど、言うべきことは結構少ない。
「だからね」
だから少し、言葉を選ぶなら。
「特科クラス、≪八組≫、総員──」
大好きになった友の顔を思い出し、震えそうになる声に
「──戦うわよ! 誰でもない、私たちの未来の為に!!」
応。と、クラス全員の返事が、マルタの耳に届いた。
届いた気がした。
軽くなった気分で、前を向いて、号令を出す。
「作戦、開始!!」