リニューアル第1話は、原作主人公メインというか主観。
これから各章1話だけ、リィン視点を挟みます。
ただ、Ⅶ組関係のイベントはメインに関わりない限りはダイジェストになります。
※まだ次の話は編集してないので、ここが最新話となります。
※編集が終わったら(NEW表記取ります)。
(NEW)閑話 隣人・リィンの困惑
七耀歴1204年、3月。
エレボニア帝国、近郊都市トリスタに建つ名門校、トールズ士官学院。
ライノの花が咲き誇るこの日、帝国内でも屈指の知名度を誇るその学校で、入学式が執り行われている。
多くの新入生が講堂に集い、期待と緊張感を胸に抱いて教官や政府高官の話を聞く中、新入生の1人──リィン・シュバルツァーは……困惑していた。
「…………」
ひどく困り果てていた。
……どうする?
彼の困惑の理由。それは、色々な出来事が重なったことによるものだ。
まず、リィンが着ている制服について。
トールズ士官学院の制服は、伝統的に白色と緑色の2色であると案内されている。
だが、彼が纏っている制服の色が、“赤色”であったことが、リィンの困惑の理由の1つ。尤も、その理由のみで見ると困惑度は低い。
しかしここに畳みかけるように寄こされた情報が、隣の少年の制服。その制服の色もリィンと同じく、“赤色”であること。
とはいえリィンにとって同じ赤色の制服の少年少女を見るのは初めてではない。初登校の道中で数名の生徒と会い、少ないが言葉も交わしていた。ゆえにまだ、そこまでだったならばここまで困り果てることもなかっただろう。
ならば何故、リィンは困惑を隠しきれていないのか。その理由はやはり隣の菫髪の少年の、そして、その他数名の同色の制服を着た少年少女にあった。
「……すぅ…………すぅ……」
……ね、寝ている。
先程までは頭を揺らしているだけだったが、今では完全に寝息を零していた。完全に顔が下を向いており、起きる気配は感じられない。
加えて。
加えて、だ。隣の菫髪の少年だけならまだしも、他にも複数名の生徒が睡魔に敗北、もしくはほとんど負けそうな状態に陥っている。そしてそのすべてが、“赤い制服”を身に纏った生徒だった。
勿論赤い制服の少年少女の中には、普通に式典に参加している人もいる。あくまで新入生の1部でしかない。しかし、今限界を迎えている生徒がほとんど全員赤色制服集団だということが、リィンの動揺を誘っている。
……もしかしてこの赤色の制服って、問題児に配られているものなのか?
その不安が、リィンの困惑の理由。
なまじリィンにも思い当たる節がある為、その可能性を払拭しきれなかった。
────
学院長──ヴァンダイクの話を最後に、入学式が終了する。
学園の長、そして元軍人ということもあり、彼の求心力、カリスマは確かなものだった。リィンが抱えていた困惑は決して晴れた訳ではなかったものの、一時とはいえそれを忘れさせ、聞き入らせたのは、見事と言わざるを得ない。
その後、式が終わったことで当然のように新入生たちは解放されるわけだが、教師からのアナウンスは、『事前に伝達したクラスへ移動する』こと。
しかしリィンには心当たりがない。自身の見落としを疑い、仕方なく教師へ尋ねようと、生徒たちの移動が終わるのを待つことにした。
……あれ?
しかし、いつまで待っても生徒がいなくならない。
それどころか、講堂のなかには赤い制服の少年少女だけが残っていた。
「どういうことだ?」
近くに居た生徒たちにも、困惑する様子が見られる。
リィンはまず、状況を確かめようと、その中でも一番近くに──正確には眠っていた人を除いてだが──居た赤毛の生徒に話しかける。
「なあ君、ちょっと良いか?」
「え? どうしたの?」
「クラスとかの通知って事前に受けてる?」
「ううん、受けてないけど……もしかしてキミも?」
「あ、ああ……気のせいじゃなかったんだな」
通知を確認し忘れたのではなく、元々届いていなかった可能性。自身の過失の可能性が下がり、リィンは少し落ち着いた。
「あ、僕はエリオット。エリオット・クレイグだよ。よろしくね」
「俺はリィン・シュバルツァー。よろしくな」
互いに右手を差し出し、握手を交わす。
しかし謂わば現状は、迷子2人が手を取り合ったようなもの。解決に至るには、解を知る者の手引きが必要だ。
今で言うのであれば、この場に赤い制服の生徒たちを集めた人間。つまりは、この学院でいう教官たちだろう。
「はぁーい、皆ちゅうもーく」
行き場のない彼らへ、ついに声が掛けられた。呼び掛けをしたのは若い女性。
今この講堂にいる生徒たちとは異なり、制服を身に纏っていない。若い女性とはいえ、生徒ではなく教官なのだろう。リィンはそう推測した。
「って、結構落ちてる子多いわね……まずは全員起こしなさい。必要なら引っぱたいて良いわ」
全員が唖然とした。リィンも、リィンの隣に居たエリオットも、乾いた笑いしか浮かべられない。
とはいえ寝ている生徒たちを放置することもできない。それぞれ身近な場所に居る睡眠中の生徒を起こしていく。リィンとエリオットの近くに居るのは、菫色の髪の男子だけだ。
「おーい、起きれる?」
エリオットの遠慮がちな呼び掛けには応じない。聴こえていないのだろう。元より教官の張った声や、式典中の大声を聞いても目を開けなかった生徒だ。ただの呼び掛けで意識を覚醒させることもない。
しかたなく、リィンは肩を揺することにした。
「君」
「……」
「君、大丈夫か?」
「…………ん」
ゆっくり、ゆっくりと少年の目が開かれる。
そして、リィンたちを最初に捉えた瞳は、次にふらふらと色々な方向へと渡っていく。その動きが止まったのは、彼の目が見開かれる直前。
「ハッ、寝てない! 寝てないぞ!」
椅子から飛び起きると同時に、彼は起きていたことを主張し始めた。
その光景を見ていたものは多く、流石に無駄である。
「あ、あはは……さすがにそれは無理があるんじゃ……」
おっとりとしていて優しそうな顔立ちのエリオットも、出会って数分のリィンにも分かるような愛想笑いをしていた。
「はーい、そろそろ起きたかしら?」
再び赤毛の女性が全体に声を掛ける。
その声にリィンが周囲を見渡すと、いすに座っていた生徒たちも一通り目を覚ましていた。
だが眠そうである。明らかに欠伸を隠していない者や、目を擦っている者。立っているのに船を漕いでいる者もいた。
「じゃあ事前に連絡していた通り、“前入り組”はここで解散。寮への案内を聞いたら今日は休みなさい。寮への案内はシザース教官、頼めますか?」
赤毛の女性が振り返る。
彼女の視線の先にあったのは、胸元を開け、袖を肘まで捲る形でジャケットを羽織る男性──シザース教官と呼ばれた人物の姿。
髭を生やした、威圧感のある男性だった。捲られた袖の下にある腕は太く、力強いことが遠目にも分かった。
「──」
「「「「ッ」」」」
瞬間、リィンの、否、リィンを含めた数人の身体が反射的動く。
反応したのは4名。
各々が重心を落としたり、何かを掴むように腰や肩に手を持って行った。
だが彼らも、そこに本来あったはずのもの──己の得物がないことに、手が空を掴んだことで思い出した。
そこで気づく。試されたのだと。
「……ふっ」
シザース教官が小さく笑ったことで、一瞬で張り巡らされた緊張は解けた。
急に弛緩した周囲の面々を見て、反応できなかった数人も違和感に気付く。
そんな“圧”や“試し”の結果を眺めていた赤毛の女性は、ジトっとした半目で男性教官を見やる。
「担任より先に試さないでもらえます?」
「しかしだな、俺はこれから寮への引率がある。ここを逃したら、初日のひな鳥たちの様子はもう見れないかもしれないんだぞ」
「授業があるでしょう。それまで我慢してください。ほら、連れて行った連れて行った」
しっしっと手を払うように邪魔者扱いされた男性教官は、やれやれ、と肩をすくめ、改めて眠そうな一部の生徒たちへと声を掛けた。
「……まったく。それじゃあ“前乗り組”は付いてこい。温かいベッドが待っているぞ」
「「「はい」」」「はーい!」
返事をしたのはたったの4人。しかし、動き出したのは10名。
ぞろぞろ、よろよろと彼らは講堂から出て行く。
すっかり見えなくなったところで、再び一人残された大人の女性が声を上げる。
「さて。それじゃあ気を取り直して、残った子たちも付いてきなさい。移動するわよ」
え? という数人の反応を置いて、彼女は1人悠々と歩き出す。
動揺を隠せない生徒たちだったが、顔を見合わせて付いて行くことに。
そうして辿り着いたのは、学校の敷地の裏側。正確には敷地内なのだろうが、校舎周辺と違い露骨に整備をされていない一帯の、古びた建物の前。
そこで先に着いた女性は、鍵を開けるような素振りを見せつつ、扉の前で生徒たちに背を向けている。
「ここは……」
「士官学院の旧校舎よ。……よし、開いたわね。ほら、入って入って」
振り向くことなく先に入る彼女の後ろ姿。生徒たちに付いて行かないという選択肢はなかった。
内部に入ると、旧校舎ということが分かるようにがらんどうな大部屋が広がっていた。物は大半が現在の校舎へ移されているのか、目に見えて残っているのは木箱や植木鉢くらいなものだった。
さて、先行していた女性は小さい階段を昇り、上から見渡す形で生徒たちの前に立つ。
「サラ・バレスタイン。今日から君たち、≪七組≫の担任を務めさせてもらうわ」
その唐突な挨拶を皮切りに、生徒たちへ向けて一方的な説明が開始された。
ここに集められた生徒たちが、≪七組≫であること。その枠組み。伝統的に5クラスしかなかったはずのトールズ士官学院に、そのクラスが今年から新設されることになったこと。
その中でふと、リィンは疑問を覚える。
「では、さっきの人たちも≪七組≫に?」
「さっき? ああ、彼らね。あっちは違うわ。さっき帰ったのは≪八組≫。別口よ」
「さ、さらに新しいクラスが……!?」
「待て。だいたい彼らは何なんだ? “前入り組”と言っていたが」
「言葉通りよ。前入りしたの。もっと言えば、昨日からろくに寝れていないんじゃないの。あの子たち」
全員に驚愕が走る。
昨日から寝てない。確かに先程居合わせた生徒たちの大半は眠そうにしていた。その態度も腑に落ちるだろう。
ならば、何故寝ていないのか。
数名がここで、嫌な予感を感じ取った。
「なんせ向こうはほぼ初対面で“サバイバル”。それも丸1日。結構大変だったんじゃないかしら。最初の“オリエンテーション”としては」
オリエンテーション。その言葉で、ほとんど全員の生徒が、何故こんな場所に呼び出されたのかを理解した。
これから自分たちも、そのオリエンテーションとやらをやらされるのだと。
全員の身に緊張が走る。
だが、それを理解していたのか、彼らを誘ったのは、想定外の不意打ちだった。
ガタン、と音が鳴り、床が突然急こう配に。
力の入っていた足では軽やかに抜け出すこともできず、ほとんど全員が転がり、もしくはすべり落ちていく。
ややあって1名はそのトラップを回避したものの、やはりサラによって穴へと落とされてしまう。
「ま、あっちとは違って丸1日とはいかないけれど、難易度はだいたい同じくらい。けっこう楽しめるんじゃないかしら。……ああそうそう、クラスのこととかは質問があるなら、踏破した先で聞いてあげる」
それじゃあ達者でね。とサラ・バレスタインは笑った。
次話以降は前書きあとがきに各話スキットを入れます。
リニューアル完了までしばしお付き合いください。