一体、何分その体勢でいたのだろうか。騒音が鳴り響くのが終わったのを頭で理解しても、脳から体への指示が出せず、体を動かす気力が出なかった。
「………フッ………フッ………フッ……」
どうにか呼吸を始め、心を落ち着かせる。目から出る涙は滝のようで、呼吸が安定してからも少しの間流れ続けた。
「…水っ……」
ようやく涙も収まり、腫れぼったい目をぶら下げキッチンに向かった。
水も飲み終え、部屋の確認を始める。
電気のスイッチを押す。LEDライトはスンとも言わない。水道。トイレも一応流せた。ガスの確認。ガス漏れは無い、火もちゃんと点いた。
「見に行った方が…いいのか?……」
すでに軽い違和感はあり、消防のサイレンどころか、国道に面している我が家に車一つの音も流れてこない。今の爆発(?)の仕業としてもあまりにも静かだ。
「…一応確認してみるか」
まったくもって気分は乗らないが、倒壊音が聞こえた方角はベランダからも、入り口前の廊下からも見えないため、こっちへの被害が無いか確認のためドアノブに手をかける。
外に出ると、明かりは無く、ただ月明かりが照らすのみだった。
エレベーターのボタンを押してみたが、やはり反応がなかったので、階段を下りる。
「真っ暗だな」
足音のみ響く階段を降り、エントランスに出るも、やはり電灯の明かりは無い。
街灯の明かりもなく、目の前の国道に出る。
「うわ、まじかよ」
薄暗い景色の少し奥に見えたのは、車道にまで広がり、転がってる瓦礫の山だった。火の手も軽くだが上がっており、燃え広がりつつある。
明かりがある場所というのもあったからか、少しずつ近づいていく。周りに人影は見当たらない。心臓が高鳴り、手の先が冷えていく。
すると瓦礫の横で倒れこんでいる人を見つけた。一気に理性が体に降りてくる感覚。急いで走り、駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ひっ!!……あ、た、た、助けてくれ!!!」
どうやら意識はある、だが顔色は真っ青でやはりパニックになっているようだった。
「体、傷だらけじゃないですか!?早く手当しましょう!!」
傷だらけの体に、大惨事だと認識し、肩を貸そうと腕を引こうとする。
「ち、違う!!、違う!!、そうじゃないんだ!」
相当慌てた様子に戸惑いながらも男性はさらにまくしたてる。
「手当てとかはあとでいいから!!、早く!!逃げよう!!」
「わ、わかりました」
男性の気迫とパニック気味な高く大きめの声に力が少し抜けるが、恐怖感が募り、とりあえずその場から離れるため、肩を貸し、回れ右をした。瞬間。
「ぃぎゃぁぁああああああああ!!!!!!!」
真横から、悪魔の断末魔のような叫び声がに響き渡り、俺の脳にも響き渡る。
右肩の重みが増し、ショックで力が抜け、一緒にその場に倒れこむ。
右肩の生ぬるい感触と鉄のにおいに、気味の悪さで慌てて飛び退く。
「え、な、何が……⁉」
瞬きの間だった。
横たわる男性の頭部には両刃の剣が突き刺さり、男性はピクリとも動かなくなった。
傍らには月明かりに照らされた光沢麗しい赤い髪の男が剣に手をかけようとしていた。
「あー、あー!、あー!!!、いい声でわめいてくれたよ。」
高鳴る声に恍惚とした顔が月明かりに当てられ、美しささえ感じるが、すぐに圧倒的な恐怖に襲われる。間髪入れず、猛ダッシュをする。先程の叫び声で頭と体の反応は鈍い。
「やばい、やばい、やばい…殺される!」
しかし突然の強烈な背中の違和感により、思い切り体を放り出してしまう。
「おー、おー、ひっでーやつだなー、人の顔見てすぐ逃げるなんてよー」
背中が熱く、痛いのだが痛すぎて、痛くないような、おかしな感覚になる。
「な……あ……くそ……」
痛みと恐怖で舌が回らない。死の恐怖を明確に感じ取り、体に力が入らなくなる
「…おし、お前に1分だけ時間をやるよ。」
「は……は?」
突然の提案に思考が追い付かない。だがお構いなく男は話を続ける。
「逃げるも隠れるも自由にしていいからよ、俺は目―つぶっといてやる」
「いや、どういうこと…」
「はいよーいドン」
こちらの言葉には応じず勝手に男は事を進める。男は目をつぶり佇む。
背中のとてつもない痛みに涙が流れるが、必死に走る。
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どれ位こうしてたかもわからない。いろんな場所で隠れてはその場から離れるを繰り返していき、何とか学校に入ることができたため職員室で息をひそめる。体感では何十時間も流れたように思える。きつい。
「マジで何なんだよあいつ…くそっ…」
いざ少し冷静になるとさっき目の前で人が死んだという事実が恐怖をあおる。記憶に張り付いたあの顔が離れない。それによりさらに背中の痛みもあり恐怖が増す。
『…ったく、どこにいんだよ!!!出てこい!!!』
耳を手で覆う。先程から執拗に追い縋る赤髪男に背の壁さえ頼りなく感じる。赤髪男も苛ついてきたのか手当たり次第に物を壊している。
心臓の高鳴りをまた感じる。
耳から手を放し、無音が続く。途端、炸裂音が鳴り響く。
体がすくみ力が入らぬ間に、激しい揺れで机の上に積みあがってた書類がなぎ倒されていく。
「このままじゃやばい…そろそろ動かなきゃ」
急いで外に出るも心の古傷を何度もえぐられたことにより、パニックに陥っていたことに気付く。
大股一歩分。遅かった。グラウンドのマウンド上にいる月光できらめく赤い髪と目が合う。
「いいいいいぃぃぃぃぃぃぃいたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ‼」
まるで空腹な獣が4日ぶりに獲物を見つけたかのような。目は血走り、口からよだれを垂らしているかのような迫力に足の力が抜ける。何とか気力で保ちつつ全力でその場から離れる。
背中の痛みを忘れ全力で走っていく、火事場の馬鹿力か赤髪男をひきはなす。通学路にある公園に差し掛かるところで少し違和感を感じる。
「電信柱がない?」
いつも見えてたものがないことに戸惑う。公園を飛び出して目に入ったのは本来鉄骨の骨組みの場所に大きな岩の祠のような物になっていた。
体力も限界に近く、祠の中に身を潜めることにした。
「っつぁあ」
有刺鉄線に肌を切られながら金網を乗り越える。赤髪男の声が近づいてる。
重い扉を引き、中に入ると音が遮断される。
奥の壁には身の程に大きい三日月に囲まれた満月?が描かれており床には太陽系のような円の集まりが描かれている。
「なんだこれ…こんなんあったか……?」
もちろんない。
色合いは満月?が明るい黄色に対し、二つの三日月はどす黒い黄色と表すべきような暗さで描かれている。
禍々しくも透き通ったちぐはぐな感じがした。
鉄線に引っかかれた足を引きずり、絵に近づく。
「…俺は好きじゃねーな」
気が抜けていたんだろうと思う。気づけば太陽系の上に立っていた。
『『権利者承認。これよりデータ解析を行います。』』
描かれてた絵が発光し機械音声が流れる。
『『…解析完了。これ以降はアビリティを視覚的に確認可能です。』』
何を言う間もなくおわってしまう。突然左鎖骨部分に違和感を感じ、見ると壁の絵がそっくりそのまま刻まれていた。
「…は……は?」
理解が追い付かないまま話が進められていく
『『完了いたしましたご退出ください』』
「…はっ!?ちょっ…まっ!!……」
慈悲もなく、扉が開き、太陽系が大きく変化し、放り出される。
ちょうど金網越しに赤髪がいた。
反射的に思わず耳をふさぐが、わめかず、叫ばず、切らず。
「…ちっ……くそっ遅かったか」
その顔からは蹂躙者の表情は消え臨戦態勢に入る。
視界には浮かぶ画面の二つの文。赤髪。白く輝く満月。
腫れてた瞼はもうもう赤くない。