私は八雲紫、木の葉隠れの忍者ですわ   作:アナンちゃん

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この作品は戦闘描写をメインに練習したいがために始めたんですが、中々入れませんね……


其の三 忍者の実態

 鬱蒼と生い茂る木々、日の入る余地もないこの森に――私はいた。

 藍を従え、この森に入り込んだ理由。今、私は超重大な任務を授かっているのだ。

 忍者としての初任務、やはり忍者というのだから隠行を完璧に熟(こな)し、忍ぶのである。

 

 現に、私と藍は木に身を隠し、姿を現す時機を伺っている。

 本部から普及されたトランシーバーで、疎通を諮る。

 ……ツッコミを入れてはいけない。トランシーバーなんてものが忍者の世界にあることは……ツッコんではならないのだ。

 

「こちら紫、紫。藍隊員、応答せよ」

 

 擦れた声が、トランシーバーから聞こえてきた。

 

『こちら藍、藍。標的を確認した。距離は約十メートル、奇襲の用意完了。

 ……なんですかこの茶番』

「まずは雰囲気からよ。忍者らしく! 忍者のように! 忍者の仕事を遂行するのよ!」

『忍者というより、これじゃ軍隊ですよ……。

 ってこの任務なんなんですか? あまりにも簡単過ぎじゃ……』

「トランシーバーがある時点で、とっくに普通の忍者の世界とは掛け離れてるのは分かってたでしょ?」

『それはまぁ……でも別に忍者じゃなくても出来るじゃないですか。なんで態々私達が?』

「忍者にしてもらってるんだから文句言わないの。まあ概ね同意だけどね。

 さあ! 早く終わらせるわよ! 藍、捕獲しなさい!」

『はいはい。紫様がスキマに落とせば一番早いのに……。じゃあ捕獲ジッコーしまーす』

 

 向こうの茂みがガサガサと音を立て、標的に飛び掛かった。

 あれくらいの距離なら直ぐ捕まえられるでしょ。たかが“普通の猫”だし。

 次に藍の声が聞こえたのは、私の背後からだった。

 

「任務完了。迷い猫のトラで間違いないですね。

 ふむ……まあまあ可愛いが、私の橙(ちぇん)ほどじゃないな」

 

 斜め背後にいる藍のほうへ振り返ると、猫の両脇を両手で支え、顔をまじまじと観察していた。そして、そのあとすぐに抱き直し、猫……トラが安定する体勢を作る。

 妙に藍に懐いているようだ。頭を優しく撫でられ、心地よさそうな表情をしているふうに感じる。

 何やら比較をしていたが、満足そうな表情で、その鑑定を終わらせた。

 

「橙は置いといて、早く帰りましょう。もう三十分も経ってるんだし、時間の掛かりすぎよ。

 でも、なんで逃げ出したのかしらね。見た感じは、ちゃんと可愛がられてるようだけど……」

 

 橙というのは藍の式神。藍の子供のような、又猫の式神だ。

 その愛くるしさ故に、藍は親バカをいつも発揮させている。溺愛もここまでくれば、もはやウンザリするくらいだ。

 二人のやり取りに、私は時々白い目で見ている。それほどに、藍の愛情の注ぎ具合は凄いのだ。

 もし橙に嫌われるのならば、確実に首吊って自殺するだろう。絶対そうだ。

 

 尤も、私も橙のことは可愛いと思ってる。だって家族だし。可愛くないわけがない。

 逆に可愛くないなんて言ったら藍に殺されちゃうわ。死ぬ気なんて毛頭ないけどね。

 

「飼い主が嫌なんですって。愛されてるのは分かるけど、寧ろそれが逆にキツイらしいですよ?」

「貴女はいつから猫語が分かるようになったのしら? そしてそれは藍にも言えることじゃ?」

「失敬な。私は節度を弁えてますよ。それと猫語は第二外国語みたいなものです」

「よく言うわよ。あんだけイチャイチャしてるのにねぇ? それに猫語が第二外国語ってのも意味分からないわよ。動物の言葉なんて習得できないわ〜」

「じゃあ今度、橙がリーダーでやる、猫の合唱に行きますか? 橙が輝いてますよ!」

「勝手に行ってなさい。誰が好き好んで、ニャーニャー鳴いてる猫の歌を聞かなくちゃならないのよ。そんなに猫語なんて覚えたくないわ」

「えー、面白いのにー……。まあいいです。

 それで、火影室に行って任務成功の旨を伝えるんですよね。行きましょうか」

「だるっ、スキマ使おっと」

「猫もそれで捕まえればよかったのに」

 

 無駄口を叩きながら、迷い猫のトラを抱え、スキマへと入っていく。

 藍も私の式だから、一応スキマ使えるんだけどねぇ? そういえば、あんまり使ってるとこ見たことないわね。

 慣れないと使いづらいから、しょうがないと言えばしょうがないけど。ま、どうだっていいわ。

 

 とにかく、初任務無事に完了ね。楽過ぎるわ。退屈しないかしら?

 

◇◆◇◆◇

 

「トラちゃぁぁ〜ん、探してたのよぉぉ! もう絶対に離さないわぁぁ〜!」

 

 無事、トラを火影室まで連れて来ると、即座にそのトラを掻っ攫って抱き着いたのが、今目の前にいるマダム的な婦人だ。

 その抱きしめる力が尋常じゃない。今なら私でも猫語が分かる気がするわ。

 こりゃ逃げたくなるわよ。むさ苦しいのなんのって。

 

 ほら、トラが断末魔の声あげてるじゃない。藍、助けてあげなさい。あの哀れな猫を救いなさい。

 見てるこっちが気分を害すわ。

 

「確かに愛されてるけど、これじゃあなぁー」

 

 と、藍に反応させるように、そっちの方向を見て呟いた。

 案の定、藍はカルチャーショックを受けていた。いや、カルチャーじゃないけども。

 

「……もしかして私こんな感じですか?」

「貴女は容姿が良いから絵になるけど、もし関係なかったら、大体こんな感じよ。少しは自重しなさい」

 

 この婦人の容姿はまあ物凄いので、非常に目に良くない。藍とかがやれば、一般的には眼福というものになるんだろう。同じ行動なのに不条理ね。

 トラも、藍のことを苦しみながらも見つめている。余程藍の世話の仕方が良かったらしい。

 戻りたそうに、ずっと藍へ助けを求めていた。本当に助けたくなりそうだわ。

 

「まったく……あの貴婦人は一番依頼が多いと言ってもいいかもしれないのぉ。それも毎回迷い猫の依頼じゃ」

 

 一人の幸せそうな婦人と、一匹の辛そうな猫が帰り、私と藍、それと火影だけが残った。

 結構な回数を依頼してたのね。ナルトくんあたりも、やったことがあるかもしれないわね。

 

「猫が可哀相ですわ。動物の逃げ込む施設でも作ってあげればいいのにと思うのですが」

「言いたいことは分かる。じゃが、今や動物は忍びの武器にも使われとる。大切にはするだろうが、そこまで厳しいものではないのじゃ。

 それに、猫を引きはがす理由もない。可哀相というだけじゃ、まだまだ弱い。マダムも悪意があるわけじゃないからのぉ……無理じゃな」

 

 確かに手入れはされていたし、トラの実際の感情はともかく、あの溺愛っぷりは相当なもの。あそこまでになると、尊敬の念も湧き出てくるわね。

 通じ合えない愛情……あらぁ、マダムも可哀想に思えてきたわ。

 

「それにしても早かったの。普通なら猫を見つけるだけで、それなりに時間が掛かるはずじゃ。三十分程度しか経っていないんじゃないか?」

「ここに愛猫家がいますから。匂いですぐに場所が分かるんですよ。

 でも三十分も掛かったのですよ。少し時間の掛かりすぎだと思いますが……」

「充分じゃ。今までの迷い猫依頼で一番早いくらいじゃよ。

 そうか……藍は猫が好きなのか。なら今度から、迷い猫系の依頼は全て藍に任せたほうがいいのかもしれんな」

「やめてください。それに、猫が好きというよりは、私は自分の猫が好きなんです。

 それに紫様、三十分で遅いとおっしゃられるのなら、貴女も参加すればよかったじゃないですか。十分も掛かることはなかったですよ」

「え〜、だってだるいじゃない。せっかく気を紛らわせて軍隊ごっこやってたのに〜」

「何がだるくて何がだるくないのか分かりませんけどね。ああ、トランシーバー返します」

 

 袖の中からトランシーバー一式を出し、火影の机の上に置いた。

 コードネームを設定したほうがよかったかしら。

 勿論、ゆかりんでね。藍は……特にないわね。もう……名前に取り柄がないと、あだ名に困るわ。

 

「ご苦労じゃ。役に立ったか?」

「役に立つうんぬんより、なんでそんなものがあるかのの疑問のほうが大きいですわ。

 無線機ですよね? それ。ここの里の技術はどのくらいまで発展してるのですか?」

「ん〜……まずガスコンロは一般家庭にある。あとテレビもあるか、液晶画面のな。あとは……特にめぼしいものはないかな」

 

 うん、忍者の世界なんて辞めればいいのに。

 忍術より絶対に科学兵器のほうが強いって。もう忍者じゃなくてもいいじゃない。

 どうしてこうも可笑しい世界なのよ。

 

「……まあいいわ。えーと、次の仕事はなんですか?」

「うーむ……草むしりや犬の散歩、あとは配達とか……そのあたりだろうな。ちなみに全部Dランク任務じゃ」

 

 任務にはランクがあり、下からD・C・B・Aとある。Aに近いほど難易度が高く、Dに近いほど難易度は低い。

 AやBランクの任務は、上忍が受けることが多いらしい。稀に下忍も高難易度の任務をすることがあるが、実質無いと言っても過言ではないようだ。

 

 そしてAランクの上に、Sランク任務というのがある。

 これは国家機密や、国の重大なことに関わる任務だ。上忍ですらも、このランクの任務は全くない。暗部という、影の存在が遂行することが殆どらしい。

 とにかく、私達には縁がないものよ。多分ね。

 

「さっきの迷い猫の件もそうですが、ちょっと簡単過ぎませんか? 下手したら一般の子供でも出来ますよ。忍者がやることではないと思うんですが……」

 

 藍の疑問も尤もだ。

 しかし、私達の価値観とは大分異なる時点で、忍者の認識というのは変えなくてはいけない。

 どんなに私達の常識に当て嵌めようとしても、それは無理なことなのだろう。先の、トランシーバーのように。

 

 幻想郷も人のことは言えないか。こっちのモットーは常識に捕われないだ。仮にここの忍者が幻想郷に入れば、確実に価値観は変わる。

 

 良くも悪くも、幻想郷は化物の巣窟だ。

 忍者だけの世界ではないのだ。こっちには、神もいる。

 平和には変わりないんけどね。でも、来たら来たで、それなりに力があれば楽しめるかもしれないわ。

 強者もざらにいる。私を含めて。もっとも、ガチバトルは禁止だけど。

 

 話が脱線したわ。こんな任務ばっかだったら、絶対に飽きちゃうわね。なにか面白いやつはないのかしら?

 私の三日坊主ぶりには定評があるのよ。

 

「下忍は小さなことから始め、いずれは大きなことへと発展していく。Dランク任務は、その階段のようなものじゃ。

 依頼主とのコミュニケーション能力を養うこと、班で動くチームワークを強化するといった理由もある。

 意外と、簡単な任務でも得るものは多い。Dランク任務をナメてはいけないの」

 

 まあ確かに、ってところかしら。

 ただ私としては雑用ばかりやっても面白くもないしなぁ。そんな悠長なことばかりやっても仕方ない気がするわ。時間の無駄ね。

 千を遥かに超える年月を生きてる私が言う言葉じゃないけど。

 

「でも草むしりって……本当に雑用じゃないですか」

「端的に言えば、そうかもしれないな。下忍には色々なことを経験してほしい。

 時には、その経験が役に立つことがあるやもしれぬ。やって損はないな」

「時間の無駄では? そんなことをしてる暇があったら、修業の時間に充てたほうがずっと有意義だと思いますが」

「なにも強さだけが、忍びに求められるわけじゃない。信用も重要なものだ。

 信用を得るには、任務を成功させなくてはならない。より多くの任務を達成したほうが、信用というのは付くものであろう?

 一般の里人には任務の達成率でしか判断が出来ない。実績のない者に任せるのは、些か不安が生まれるもの。信用を得るためにも、そういうことは大事なのじゃ。おぬしも従者なら、強さばかり求められているわけではないというのは分かるじゃろう」

「まあそれはそうですが……。しかし、従者とちがって国の武器である忍者なのだから、強さはなくてはならない、忍者が強くないなら本末転倒です。やはり、私には修業に時間を割いたほうが、幾分効果的だと感じます」

「勿論、強さを蔑ろにしては駄目じゃ。強さが忍びにとって、最も信用を得られるものだしの。

 だから、中忍試験なんてものがあるのだ。なんで他国の下忍と争わせる必要があると思う?」

「さあ……他国の忍びを見てより修行に励むとかでしょうか」

「それもある。他国のレベルの高い忍びを見て、自分も修業しなくてはいけないということを、本能的に分からせること。

 他にも大きな目的があるが、それは中忍試験の時に話そうかの」

「まあ、楽しみに待ってます。ただ、そんな状況にならなくちゃ修業しないなら、忍者なんてものはやめてしまえばいいと個人的には思いますがね」

「手厳しいのぉ、おぬし」

 

 藍は自分にそれなりに厳しいからね。

 ただ、忍びの世界と考えた場合、他人に影響されなきゃ修業をしないなら、確かに辞めた方がいいかもしれないわね。強くある必要があるわけだから。

 幻想郷は強くある理由がないから、あんまりその考え方はないけど、力が重要な世界と考えたとき、普通に考えたらたどり着くのはこの答えね。

 大した修業をしなくても目茶苦茶強い、本当の化物みたいな天才は例外として。

 

「……まあいいです。次の仕事はなんですか?」

「先程も言った通り、Dランクの任務じゃ。当分はそれくらいのものを熟(こな)してもらう」

 

 だるいわね〜……、キリがないわ。こんな調子だとわたしが飽きてしまうわよ。

 よし、聞いてみるか。

 

「ナルトくん達の班はどれぐらいの任務を受けてるのですか? ほら……Dランクをどれくらいやって、Cランクに移ったとかです。目安としてほしいところですわ」

「大体……20弱くらいだったかの、あの子達は。だがあれはCランクとは呼べないしの……Bランクとして扱ったほうがいいか? いや、だがしかし……うーむ……」

「何を迷っているのか、差し支えがなければ教えていただけません?」

 

 一人でウンウン唸ってても、何がなんだか分からない。一体何に迷ってるんだか。

 

「ナルト達の班は一度Cランク任務を受けたことがあるのじゃ。その時はナルトが駄々をこねたからなのだが……。

 それで、ランク的にはCだったんだが、実質Bランク……もしかするとAランク級の任務だった。依頼主が依頼内容を偽ったせいでな。

 だからあやつらは既に、Aランク任務をした経験があるということなのだ。記録ではCランクとなっているがの」

「なるほど……それはつまり――下忍でもBランクを達成すること自体は可能だと?」

「その任務は、桃地再不斬と言われる、超やり手の忍びとの交戦があったのじゃよ。上忍でも倒すには少々骨が折れる相手だ。

 しかし、ナルトの班の担当上忍も相当強い。上忍の中では恐らくトップであろう。それのおかげもあり、ナルトの班はその任務を達成出来た。

 決して、下忍が二人だけで成功出来るような任務ではないのじゃ」

 

 なんかナルトくんから聞いた覚えがあるわね、結構興奮しながら喋ってたわね。

 あとナルトくんの担当上忍って、確かカカシって人だったかしら? 見たことはないけど、それなりに強いのね。

 今度機会があったら話してみましょう。

 

「私達の力は下忍レベルじゃないという自信はありますがね。

 まあ、いいです。なら目安としてどれ程のDランク任務を受ければ、Cランク以上の任務をやらせていただけますか?」

「そうだのぉ……ざっと、五十くらいかな。それぐらいやったらCランクを考えよう」

「ちなみに、Cランクをどれくらいやったら、Bランクになりますか?」

 

「気が早いな……。大体、三十くらいか。

 おぬし達は生粋の木の葉ではないから、少し厳しめにしてある。まあ、妥当であろう?」

 

 Cランクに行くには、Dランクを五十回。

 Bランクに行くには、Cランクを三十回。

 めんどくさいには変わりない。

 だけど、Dランクの任務がさっきの迷い猫くらいの難易度だとしたら……よし。

 

「藍、役割分担よ。私は配達、物を運ぶ系統の仕事を担当するわ。貴女はそれ以外やりなさい」

「配達系終わったら私の手伝ってくださいよ。何日でやりますか?」

「極力早くよ」

「はぁ……御意」

「なんの話じゃ?」

 

 あとはここのお金も貯めなくちゃいけないわ。Dランクの任務だと額が不満だけど、数を多くやれば報酬が少なくても多少貯まるわ。

 手持ちに余裕が出来るくらいは集めないとね。家は用意してくれてるけど、殆ど使ってないし(幻想郷に帰って寝てるから)、浪費するのはここの食費だけ。

 時々家も使わないと怪しまれるから、そのうちはこっちに住まなくちゃ。だってこっちのほうが、幻想郷よりも便利なんですもの。ガスコンロとか。

 

 いずれにしろ、食費以外に、そのうち賃貸料も渡さないといけないから、お金は多いに越したことはないわね。ここの世界の便利な品物を集めるためにも。

 

「火影様、今溜まってるDランク任務をたくさん私達に回してください」

「どういうことじゃ?」

「そのままですよ。私達二人でDランク任務を消化します。そちらとしても有り難いでしょう?」

「ちょ、ちょっと待て。Dランク任務なんて馬鹿みたいにあるんだぞ? さっきの会話からすると、それをたった二人で数日の間で行うということか? 無理にも程があるぞ!」

「私の速さを舐めないでください。

 配達なら、物品と場所さえ分かっていれば二十秒で終わる。

 見たところ、配達の仕事は多いですし、かなりの数をこなせるでしょう。あとは藍の要領次第ですが」

「まあ適当に……痛い痛い! 叩かないでください、分かりましたよ! 頑張りますから!」

「そう、さすが藍。

 ということで火影様、早く依頼の品をください。リストはここにあるので」

 

 私の手には何枚かの紙がある。Dランクの依頼内容の詳細が載っている紙よ。これがあれば、仕事はスムーズに進むわ。

 

「な! いつの間に!?」

「掠め取りは紫様の専売特許ですからね。こんなのに一々驚いていたら、身がとても持ちません。理由を追求するより、慣れたほうが気が楽です」

 

 理由もなにも、スキマで取っただけじゃない。それに私は基本盗まないわよ。

 一回取った手裏剣も、あのあと通り過ぎた忍者のポーチに戻したもの。大妖怪たるもの、盗み行為は恥になるのよ。

 この紙も盗んだんじゃなく、借りたの。どっちみち渡されるんだから、さっさと貰ったほうが時間の短縮になるわ。

 掠め取りなんて人聞きの悪いこと言って……物は言いようなのよ。

 

「じゃあ行ってきますわ」

「ま、待て! そんな数の依頼を数日中に終わらせるなんて常識的に考えて不可能だ! どうするつもりなのじゃ!」

 

 扉から出ていこうする私と藍の背に、火影の疑問視する声が呼びかけられる。

 別に急いでいるわけでもないけど、早くしないと私の熱が冷めてしまうわ。たまにしか仕事しないのだから。

 それに……

 

 振り返りながら扇子を開き、口元を隠しながら火影を見据える。

 今の私の顔は、どうしようもなく笑みを浮かべているだろう。

 だって、可笑しいんだもの。火影の顔が実に、ね。

 

「私達に常識は通用しませんわ――」

 

 最後に見たのは、火影の凄く困惑した顔だった。

 キセルが口から落ちそうになってたのは笑えたわ。

 

 

 

 

 

「めっちゃキメ顔でしたね紫様。とても笑えまし痛たたたた――!」

 

 最近藍が私に対してひどい。今度毛でも毟ってあげようかしら。

 

◇◆◇◆◇

 

 ここ数日で、紫達は見事多数の任務を終えてみせた。

 それを聞いた皆が驚愕したほかに、下忍班の仕事が減ったのは余談だ。

 

 何人かは、紫達を警戒し始めるのだった。

 




あと少しでストックがなくなってしまう……

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