私は八雲紫、木の葉隠れの忍者ですわ   作:アナンちゃん

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皆さま

 長らく投稿できず誠に申し訳ございません。少し書かないでいたら数年間経っておりました。
 不定期となってしまいますが、時間ができれば少しでも書き進めたいと思いますので、引き続きどうぞよろしくお願いいたします。


其の八 中忍選抜第二試験-3

 死者が復活する術、穢土転生により現れた再不斬と白が動き出した。しかも、ただ動いただけでなく、意思を持って喋り出した。

 

「あぁ? なんでうちはのガキ……だけじゃねえか。カカシのところのガキ共がいやがるんだ。しかも白も……俺らは死んだんじゃねぇのかよ」

「どうやら僕達は生き返させられたみたいですね、後ろにいる者に」

 

 再不斬が後ろをちらりと見る。

 

「こいつは……確か三忍の大蛇丸だったか。気色悪りぃ面してやがる」

 

 蛇のような白い顔を見た再不斬は悪態を吐く。死後呼び起こされたことに苛立ちを覚えていた。

 

「クソ野郎が……何をさせようたってんだ」

「いやね……ちょっとそこの女と戦って欲しいのよ。私じゃ勝てそうになくってね……」

「あァ? 言いたかねぇがテメェほどの忍がこの女に勝てそうにねぇってどういう冗談言って――」

 

 疑いを含めた声色で非難していた再不斬だが、大蛇丸の姿を見て状況を察すると同時に目線を前へ向けた。

 

「チッ……自分の意思じゃ動けねぇみたいだし、コイツの言いなりになるしかねぇみてぇだなぁ、白」

「確かに少し癪ですが、悪いことばかりでもないです。こうして再不斬さんともう一度話すことができましたから」

「フンッ……」

 

 花が咲いたような白の笑顔に、照れ隠しで顔を背けた。確かに悪いことだけではない。生前死に際に自らの想いに気づけたからこそ、今できることがあると再不斬は頭を切り替える。

 

「これはまた……随分と興味深い……」

 

 藍は驚きと感嘆を込めた表情を浮かべる。

 魂を現世に召喚すること、それ自体は紫達の住む幻想郷でも考えられなくもない。現に紫の親友でもある亡霊や、ゾンビの妖怪が存在しているからだ。

 ただし、この術は藍たちが認識するそれよりも精度が高いように見受けられる。サスケが言うには数ヶ月前に死んだ者達であり、その頃から随分と時が経っているいるにも関わらず記憶や自我を失っていない。

 仮に藍が死者を使役できるかと聞かれれば、可能、と答えられようが、この穢土転生と同じ水準の再現は難しい。主人である紫にしても、親友の死後に亡霊として実現したものの大規模な術式が必要だったはずである。しかも、生前の記憶を残すことはできなかった。

 

 目の前にいる再不斬達は違う。

 明らかに記憶を有しているし、なにより思考が通常の人間と変わらない。幻想郷の常識では考えられない。

 そんな事象を、たったの少しの印を結ぶだけで可能にするこの術は藍だけでなく、遠くで見ている紫さえも興味を惹かせた。この世界にはまた違った理論がある、大変面白いと二人を思わせたのだ。

 

 そして再不斬も興味のこもった視線を藍に向ける。一見忍とは思えない身なりをしているが、三忍の大蛇丸に敵わないとまで言わせるその強さ。損な役回りを背負わされているが、再不斬自身も藍の力には多少なりとも興味はあった。せっかく生き返ったのだ。白と会話をするだけでなく、今一度強者と相対することも喜びになり得よう。

 背にある巨大な剣を前に構える。

 

「別にこいつのいうことを聞くわけじゃねぇが。やるしかねえみてぇだからな、楽しませてもらうぜ」

「大変申し訳ありませんが、お願いします」

「ああ、私も大変興味深く見させてもらってるよ。こちらこそよろしく頼む」

 

 命をかけた戦いには見えないやりとりである。蘇った二人を見るサスケは当然ながら驚きが隠せない様子ではあるが、先程の戦いを見ていたためこの二人がとても藍に勝ち目があるとは思えなかった。

 大蛇丸よりはるかに劣る二人が、大蛇丸よりはるかに強い藍に勝てる道理はない。

 

「フンッ!」

 

 大きく腕を振り回し大剣で藍に襲いかかった。追随するように、白は氷で作られた鏡に体を沈ませることで藍の背後へ瞬間的に移動し、そのまま千本で斬りつけようとする。 

 殆ど同時に二方向から攻撃を浴びせられるが、先ほどまで大蛇丸との戦いを見ていたサスケの目から見れば、到底藍に傷を負わせられるようには見えなかった。

 必然。藍には通じない。

 

「なっ!?」

「どこにっ!?」

 

 直撃する瞬間、藍は突然姿を消したように上空へと避けた。離れたところから見ていたサスケだから上に躱したと分かるが、目の前で先の動きをされれば自身でも目で追うことは不可能だろう。

 空中にいる藍は躱しざまに躰を回転させ、二本の足で再不斬と白を反対方向に蹴り飛ばす。

 

「ぐっ」

 

 あまりの蹴りの威力に二人は吹き飛ばされるだけでなく、体の一部が欠けてしまった。しかし、周囲に散らばった無数の紙切れのようなものが欠損部分に集まりだし、最後は元通りに修復された。

 

「さすが死者なだけあって不死身というわけか」

 

 ゾンビといえばそうと相場が決まっている。驚くことはないが、対処法無しに戦えばいつまで経っても終わらないと藍は考える。

 

「なるほどな、奴が血まみれになってるわけだ。化物だな」

「勝ち目はないですが……どうやら負けることもないようですね」

「俺たちにとっちゃありがたいが……気味が悪ィ術だ」

 

 穢土転生の性能の良さに、この場にいる全てのものが感嘆する。

 

「さて、どうしたものかなっ」

 

 不死身ということは分かったが、ではどのように対処をするのか藍は考えを張り巡らせながら再不斬へと駆け、爪で肉体を貫く。先程と同じように血などは出ず、無数の紙がその周囲に広がった。再不斬の顔を見ても痛みなどは感じていないらしく、顔を苦しく歪めることはない。

 

 体を貫かれた状態のまま再不斬は大剣を振るうが当たるはずもなく、再び藍は距離を取り呟くように声を発する。

 

「このままでは埒が明かないな。負けはしないが、勝ちもしな――うん?」

 

 妖怪である藍は体力も人間とは大きく異なる。普通の人間ではいずれ限界が来るのだろうが、最上位格である藍にとってはこの程度の動きであれば一厘の疲労さえ生じない。

 この場合、術者を叩くことが定石となりうるのだが、実はこの場から既に大蛇丸は逃亡している。というよりたった今逃亡を完了したところである。

 

(全く、紫様は何を考えているのやら……)

 

 大蛇丸が穢土転生を使用して再不斬と白を召喚した理由は二つ。

 一つ目はまず術の精度を見るためだと考えられる。口ぶりからしても、何らかの()()に向けた予行演習を行ったことは明らかだ。

 二つ目は単純に自身の逃亡するための時間を稼ぐためだろう。勝ち目のない戦いでは逃げることを第一に考えるはずであり、それは三忍と讃えられていた過去のある大蛇丸にとっても同様である。

 

 そういった企みを持っていることは藍も気づいており、再不斬達と戦闘を行っている間も大蛇丸から注意を外していなかった。実際大蛇丸が逃亡する素振りを見せたことを察知していたし、逃がしはしないと追おうとしたのだが、遠くで見ている主人の紫から制止が掛けられたのだ。

 紫は敢えて、大蛇丸をこの場から逃すという選択を取ったのである。

 

 そのことを紫と藍以外は認識しておらず、変わらず攻撃を仕掛けようと再不斬は接近と同時に上段に構えた大剣を振り下ろす。

 藍が迎撃しようとしたその時、満を持したかのように幻想郷の賢者がスキマから突如登場した。

 

「は~い、しゅーりょー!」

「!?」

 

 振り下ろされた刃がピタっと停止した。

 そして、動かない。

 

「こいつ……何者だ――!」

 

 誰が発した声だろう。いや、発していなくてもこの光景を見る()()は皆一様の反応をしているに違いない。

 豪奢なドレスを身に纏い、金糸を束ねたような髪を靡かせ現れた一人の女性。手に持った扇子で口元を隠しつつも、場違いなほどにこやかな笑みを顔に浮かべていることがわかる。その姿はただでさえ忍らしくない藍以上に浮いた存在感を醸し出していた。

 そんな到底忍には見えない華奢な女性が、一回りも二回りも大きい体躯を持つ再不斬の大剣を止めている。

 

――二本の指で挟むことで

――再不斬が力を込めてもピクリと動かせない

 

「このあと、何を考えられているのでしょうか?」

「特に。面白そうであればなんでもいいかな」

 

 彼女の名前は八雲紫。

 藍を仕える、幻想郷最強の妖怪である。

 

 何事もなく、なんてこともなかったかのように二人の会話は進む。

 

「奴……大蛇丸は気にしなくてもよろしいのでしょうか?」

「なんとなく悪い企みを持っているような気はしたけど、そこまで大きく干渉しようと決めたわけじゃないしね。何よりちょっと気持ち悪い奴だったし」

「殴った感じも普通の人間ではなさそうでしたね」

「とりあえず、この術について色々知りたいことが多いから調べましょ」

 

 現在も武器を取り返そうと躍起になっている再不斬、そして白に視線を移し、手に持った扇子をひらりと振る。

 その行為に意味があるようにはとても思えないが、結果は当人から早々に判明した。

 

「……ん? 奴の支配から逃れたのか?」

 

 紫に抑えられている武器への力を抜き、片方の手のひらを見詰めながら状況を把握する。

 

「ええ、私の力であなたたちを解放したの。感謝しなさいな」

「さっきまで戦っていたそこの女も、お前も、一体何者なんだってんだよ……」

「美少女忍者、ゆかりんでーすっ!」

 

 教える気がないことを理解した再不斬はあきれた表情を浮かべながらも、紫に対し底知れない何かを感じている。それこそ、自身を含め大蛇丸でさえ歯が立たなかった藍以上のものを。

 

「奴との繋がりを断ち切っても術が解ける感じはないわね。色々と安心したわ」

「恐らく大蛇丸は気づいていると思いますがどうなさいますか?」

「あ、それは大丈夫」

「?」

「ちょっと細工をしたのよ。五感まで共有しているわけじゃなさそうだったから、適当な石ころに使役対象を移し替えたの。多分それで解放したことは離れていれば分からないと思うわ。まあ、気づいたところで別に構わないんだけど、変に粘着してきたら嫌だったし」

「なるほど」

 

 さて、と改めて再不斬達のほうを向く。

 

「晴れて自由の身になったわけだけど、どうしたいかしら?」

「どうって言ったってな……」

 

 彼らからすれば、突然生き返って、突然戦って、突然完膚なきまでに叩きのめされたわけであり、自由になったと言われたところで何をすればいいか見当がつかないのは当然だろう。最初から最後まで、訳の分からない存在に振り回されっぱなしなわけであり。

 

「やることなんてないものね。じゃあ、私たちに協力するってことでいいわよね?」

 

 あたかも当然かのように言い放つその笑顔は、問いを投げかけるように見せかけ、否定を認めない遥か高みから向ける表情であった。いつもの再不斬であれば、このような態度を見せれば自らの得物で首を斬り飛ばしていただろうが、直接手合わせしていなくとも自身との格の違いを理解していることもあり、ただ何も言えず佇むしかなかった。それ即ち、首肯と同義であるということだ。

 

「まあ別に、私はあなた達が生き返ったその術を調べられれば十分だから、その後はどこへ行こうが自由にしてもらっても構わないわ。それとも? この美少女ゆかりんに従いたいっていうならこき使ってあげるけどね?」

「はぁ……お前たちがどんな奴らかよくわかんねェぜ」

「もう、さっきから言ってるでしょう? 美少女忍者ゆかりんよっ!」

 

 ポーズをとりながらキメ顔をするその姿に対し深いため息で返事をし、そして再不斬は考えることを諦めた。

 ふと、隣に立つ少年を見る。

 

「白、お前はどうしたい」

 

 生前想いを伝えることができなかった事を悔いこの世を去ったが、思わぬところで再会を果たすことができた。可能な限り、この小さな少年の意を汲もうと考えていたが、昔から変わらない嬉しげな笑みを湛え再不斬を見つめる。

 

「再不斬さんの側にいることができれば、それ以外は何も望みません。再不斬さんが決めた道を、僕はただ共に歩いていくだけです」

 

ーー変わらねェな……

 

 顔に巻いた包帯により表情は見えないが、隙間から覗くその目の奥には安堵が映る。一寸思考をまとめ、紫を見やる。

 

「俺たちはーー」

 

◇◆◇◆◇

 

 話を終えたその場には、既に再不斬たちはいない。残っているのは紫達とサスケ、意識を失っているナルトとサクラである。一部始終を見ていたサスケは、今でも現実に対し信じることができないような表情を浮かべている。先までの、藍が戦っているときから、その顔はいまでも形を変えていない。

 その表情を見て、クスリと扇子で口を隠しながら笑う紫は声を掛ける。

 

「もしもーし、大丈夫かしら?」

 

 初めて見た時から掴みどころがないと思っていたが、いよいよその得体の知れなさに恐怖さえ感じつつあった。若干怯え気味のサスケを見た紫は安心させるような口調で話す。

 

「そんな警戒しなくていいのよー? 取って食べたりなんかしないのにー」

「その話し方が逆に恐怖煽ってるの分かってますか?」

「えー」

 

 指摘をされてむくれる姿はとても千年を優に超えて生きている大妖怪には見えない。先ほどまでの戦いややり取りと、現在のギャップを脳内で処理しきれないサスケは言葉を発することができないでいる。

 

「あの二人もそろそろ目が覚めると思うわよ。じゃあ、私たちは行くから、この試験頑張ってねー」

「ま……」

 

 大蛇丸も去り、大きな障害がなくなった今彼らが試験を突破できない可能性は低くなった。当初言っていた過剰な手助けは不必要という考えに則り、あとは自らの実力のみで切り進んでいくことを期待し紫はその場を後にしようとする。

 

 意味がわからない、サスケはただ思う。

 

 大蛇丸が襲ってきたこと、紫たちが現れて自分たちを助けたこと、再不斬たちが生き返ってからのこれまでのやり取りのこと、そして何より理解できないその強さのこと。

 何一つとして理解できないその事実がサスケを襲い、堰き止めた空間が決壊するかのように声が発せられる。

 

「ばいば〜ぃ……」

「待てッ!!」

 

 やや後ろに体を傾けたまま、きょとんとしたような表情を貼り付け顔のみサスケに向ける。

 

「一体……一体何を企んでいるんだっ! 何をしようとしている!」

「やーねー、何も企みなんてないわよ。ただ同胞であるあなた達を助けただけじゃない」

「お前たちは最近この里に来た余所者だろ! 俺たちを助ける理由なんてないはずだ! あんなヤツが現れることさえおかしいのに、図ったようにお前たちが出てきたことを偶然で済ませられるかっ!」

「助けるのにそこまで深い理由なんていらないと思うんだけどねぇ……」

 

 そのあと小声で、「もっとも、偶然が重なりすぎてるのは確かね」と呟くがサスケには聞こえない。

 

「まあ、助かったんだからそれでいいじゃない。生きていることが何よりも大事なことよ」

()()()()たんだ! ただ助けられたのとは訳が違う、簡単に済ませられる訳ないだろう! お前たちは一体なんなんだ!」

 

 二人に向けるその視線は強い疑いを依然として込めている。サスケの理解を得るにはこれまでの問答では到底足りなかった。

 

 一方、紫からしたときこの少年に理解してもらおうとなんて毛頭考えていない。

 大妖怪は、自らの意志で動きたいように行動するだけである。

 

「この世には貴方の理解の及ばないものなんて無数にある。そもそも知れる段階にすら至ってないこともね……」

 

ーー生きている、今の貴方にとってはそれだけで十分なのよ

 

 僅かな笑みを浮かべながら、扇子を閉める小気味良い音が響く。そのあまりの余裕に、底知れない何かが内に隠されていることが嫌でも分かる。これ以上追及したらどうなってしまうのか、何を言っているわけでもないのに自らの末路が勝手に想起されてしまう。

 言葉を発する行為自体が恐ろしくなり、声の代わりにこの不規則な呼吸音しか返すことができなくなってしまった。

 

 今度こそ、紫たちは背を向けた。そして、ゆっくりと歩き出す。

 

「じゃあ、頑張ってね。ナルトくんたちと共に、試験を勝ち抜いてごらんなさい」

 

 遠くなっていく背中を見て、サスケは結局何一つ理解することができなかったと思い返す。

 いや、唯一理解できたことがあった。

 

 アレは、

 

ーー化け物だ

 

 虚空に掠れた音が霧散する。

 ナルトたちが目を覚ますまで、サスケは紫たちが去っていた方向から目を離すことができなかった。




※原作と変わらない展開の部分はカットしていこうかと考えております。
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