私は八雲紫、木の葉隠れの忍者ですわ   作:アナンちゃん

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其の九 中忍選抜試験予選-1

 サスケたちと別れた二人は早々に目標地点へと向かう。忍者体験という名目で始めたこの試験ではあるが、最初のハプニング発生により十分楽しむことはできたし、一定程度目的が達成できた今、好き好んで長居したいと思えるほどこの森の魅力度は高くなかった。いくら紫でも無数の虫が生息する環境にいたくないのだ。また、向かうといっても歩いていくなんて選択肢は初めからなく、ゴール地点にただスキマを繋げてそこを通るだけである。

 あまりに味気ないが、この森の中で行われる忍者体験への想いはその程度であるということだ。

 

「はい、到着っと。……あら?」

 

 ゴールと設定された森の中心部にある塔の近くにスキマを繋げ、地に足を下ろす。目の前には塔が聳え立ち、ここが目的地であることが容易にわかる。

 ふと、視界の端に別の者たちが映った。

 

 先客だ。

 

「ついこの間見た顔ですね」

「あ〜、あの子たちね」

 

 中忍試験の開催前、ナルトたちとちょっとしたいざこざを起こしていた集団であり、紫たちが仲裁を行うことで短い間だが面識ができた。

 

「やっほー。もう試験突破しちゃうの? 優秀ね〜」

『!?』

 

 いきなり声をかけたことで三人は臨戦体制を取った。そんな姿を見た紫はけらけら笑いながら手を横に振る。

 

「別に襲ったりなんかしないわよ、私たちだって巻物揃ってるんだから」

 

 思いもよらない者の出現から未だに構えを完全には解いていないが、そんなことを一切気にせず紫たちは一歩ずつ呑気に距離を縮めていく。

 

「えーと、我愛羅くんだったかしら? 試験は余裕だったみたいね」

「八雲……紫」

「おお、よく覚えていてくれたわね、嬉しいわ」

 

 先に塔へ着いていたのは砂隠れの忍びである我愛羅たちだった。紫自身もかなり早く到着したつもりでいたが、道中大蛇丸の襲撃などのハプニングがあったことから、存外時間が経っていたのだなと思い返す。

 理由はどうであれ、この速さは素晴らしい。紫たちはスキマを使って移動したにもかかわらず、それよりも一歩早く試験を突破したわけだ。同期の忍びの中では飛び抜けて優秀であることがわかる。

 

「おい、何しに来たんだ」

「声を掛けただけよ、いけない?」

 

 警戒を解かずにカンクロウは声を発する。近くのテマリもいつでも攻撃できるように身構えているようだ。

 

「他国の忍びにただ声をかけるほど怪しい行為はないな。私たちの巻物を狙っている、それが普通の発想だ。たとえお前たちが巻物を揃えていようとな」

「なるほど、確かにそうね」

 

 巻物を一つ余分に手に入れれば、それだけ次の試験に進む班を減らせるのだから、戦略としては至極真っ当なものだろう。

 

「であれば不意打ちしてるわよ、忍者ってそういうものでしょ?」

「だから意味わからねぇ怪しい行為って言ってんだよ。こんな目的地直前で、わざわざ声をかけてくるなんて何かを企んでるようにしか思えないだろ」

「行動全てに意味がないとおかしいって思うものなのねぇ。忍者って難儀な職業だわ」

「忍者じゃなくても紫様はめちゃくちゃ怪しいと思いますけどね」

 

 パシっと藍の額に扇子があたり、悲鳴を孕むくぐもった声が漏れる。

 

「いずれにしろ、戦いを挑もうなんて考えてないわ。一番乗りは譲ってあげるから、早く中に入りなさいな」

 

 それとも、私たちと戦いたい?

 

 くつくつと笑いながら、冗談めいた声色を紡ぐ。明らかに下に見ていることは分かるが、これまで出会った者たちと比べあまりにも雰囲気が異なるため、どう対応するのが正解か見当がつかない。

 強さも、いまのカンクロウたちには読み取ることはできない。

 ただ、ほんの少しだけ矜持が残ってたのか、カンクロウはどうにか言い返す。

 

「けっ……馬鹿にしやがって。おい我愛羅! どうするんだっ!」

「お、おい、戦わないって言ってるんだから無益な戦闘は避けるべきだろう! 我愛羅と違って、私たちにそこまで余裕があるわけじゃないって、お前もさっき言ってただろう!」

「他里の連中に舐められっぱなしでいいわけないじゃんよ! それにここでこいつらをやれば、次の試験では楽になるだろうが。我愛羅もそれでいいだろ!」

 

 カンクロウはけしかけるように我愛羅を呼ぶ。普段の弟なら嬉々として戦いを選び、そして相手を亡き者にする、そんな光景を何度も見てきた。

 しかし、いつも暴力的に振りまいている殺気がこの時は感じられず、本人の表情も塔に来るまで見せていた表情とは大きく違っていた。

 

「……いい、いくぞ」

 

 紫たちから視線を外し歩き出す。

 その姿にカンクロウは勿論、戦う意志を持っていないテマリでさえ驚愕する。

 

「なっ……普段のお前らしくねェじゃん……!」

「テマリの言ったとおり、無益な戦闘は避ける……それだけだ」

「が、我愛羅……」

 

 「ありえない」と、血の繋がった兄弟である二人は信じられない表情で我愛羅を見る。そんな二人を他所に、一人塔へと向かっていく。

 

「頑張ってね〜」

 

 紫の軽い言葉に我愛羅はピクリと動きを止め、顔だけを紫に向ける。

 

「お前た……あなたたちもな」

 

 以前、紫から思わぬ指摘を受けたことを思い出し、途中で訂正した。その様子を微笑ましく思った紫は満足げに頷き、それを確認した我愛羅は再び歩き出す。

 その光景に兄弟は驚愕していたが、遅れないように弟の後をかけていく。その際、未知の生物を見るかのように紫たちに目を向けるが、それに気づいた紫は無邪気に「ばいばーい」と手を振る。それも特別な意味など込められていないことに今では分かるが、不気味な存在であることには変わりなく、逃げるように紫たちから去っていった。

 

 我愛羅たちが塔の中へと入ったことを見届け、別の扉から入るため二人は歩き出す。

 

「流石、()()を手懐けるのはお手のものですね」

「なに? 自分のことを言ってるのかしら?」

「さあ、どうでしょうね」

 

 藍は心の内で思う。

 この世界には自分たちの知らない存在がいる。自分にしたようなことを、きっとここでもするんじゃないか。でも、何もしないのかもしれない。

 何を考えているのかは分からない、主人は気まぐれだから。

 

「……ふふっ」

「なによ気味悪いわね」

「いえ……じゃあ、行きましょうか」

 

 一緒にいて、やはり面白い。藍は改めてそう思った。今後起こることに期待しながら、主人の斜め後ろからついていく。

 

「さて、次はどんな試験なのかしらね」

 

 幻想郷の賢者は次の試験へと駒を進めた。

 

◇◆◇◆◇

 

 到着後少々のやり取りはあったものの、無事合格であると告げられた紫たちは第二試験のタイムリミットまで幻想郷に帰っていた。五日間も塔でじっと過ごせるほど我慢強い性格ではないのだ。

 その間行方不明になっていたわけであり、試験官の間で騒ついていたのはまた別の話である。

 

 さて、現在は二次試験が終了し、試験を突破した忍びたちが一堂に会し、次の試験である中忍試験本戦に向けた予選の説明を受けていた。

 この場には紫たちは勿論のこと、同時に試験を突破した砂隠れの我愛羅たち、大蛇丸に襲われたサスケやナルトたち、その他木の葉の忍びが割合多く占めている。

 それぞれが忍装束を着こなす中、紫たちの出立ちはあまりにもこの場に似つかわしくないが、それ自体は何名かは慣れてきている。ただし、紫たちの特異性を見てきた一部の者たちは、一層注意深く視線を向けていた。

 最も厳しい目を向けていたのは、やはりサスケだった。遠くで見ている担当上忍でさえ気付いてしまうほどの警戒ぶりは、最も近くにいる仲間にも疑問を抱かせてしまうのは必然だった。

 

「な〜に怖ェ顔してんだってばよ。誰のこと見てんだ?」

「……なんでもねぇ」

「サスケくん……」

 

 ナルトたちに言ったところでどうにもならないため、大蛇丸との騒動の後ですら特に紫たちのことは話していなかった。大蛇丸だけでも大きな問題であったのに、それよりも明らかに爆弾となりうる紫たちのことを話せば試験を突破するのに支障が生じると考えたためだ。

 

 気付けば予選の説明が終わっており、サスケが初戦であると告げられていた。サスケ以外の忍びたちがそれぞれ観戦席へ向かっていく中、担当上忍であるカカシは様子のおかしいサスケの元へ近寄る。

 

「どうした、さっきから怖い顔しちゃって。あの女性たちのこと気になっちゃってるの?」

「……」

「まっ! ちょっとこの試験に変なやつが紛れているみたいだが、お前に何かあったわけじゃないみたいでよかったよ」

 

 声をかけても厳しい表情が変わらないのを見て、試験中に何かあったのだと想像が付いた。ただカカシとしては事前に聞いていた情報の張本人が、サスケのいる第七班に危害を及ぼしていなさそうと知り安堵していた。

 しかしサスケにとって、恐らくカカシの言っている人物に対して今は微塵も興味を抱いていない。それを遥かに上回る鮮烈な光景がそのとき脳裏を埋め尽くしてしまったためだ。

 

「……ふん、大蛇丸のこと言ってんのか?」

「……!? 接触ーーしたのか……? であれば、何故なにも……!?」

 

 「なにもなかったのか」と続けようとした瞬間、先ほど来からのサスケの表情と、その視線を向けていた先、そして最近耳にしていた噂が突如頭の中を駆け巡り、パズルのピースか嵌っていくように限りなく確信めいた仮説がカカシの中で出来上がった。

 

「まさか……そんなーー」

「カカシさん、試合を始めますので席のほうへお願いします……」

 

 予選の審判を担うものーー月光ハヤテーーから催促がなされた。動転してしまっていたとカカシは反省しこの場から離れようとするが、つい視線を紫たちへと向けてしまった。

 

 サスケと会話をしているからだろう。こちらを見て薄く笑みを浮かべている、ただそれだけ。

 それだけなのだが、その瞳の奥底に何かを感じる。

 

違和感……?

何か違う気がする……

人間……か?

 

「いや……何を……」

(……何を考えているんだ、俺は)

 

 無意識に、浮かんできた謎の思考は、カカシ本人も理解できないうちに霧散する。朝に見ていた夢がなんだったか思い出せないように、いま何を考えていたのか、何が浮かんできていたのか、カカシはもう思い出すことができなくなっていた。

 ただ残ったのは、強烈な違和感だけである。

 

「……この試験で、あいつらも戦うんだ。その時、嫌でも分かるだろうよ……何があったのか」

「……そうだな、遅かれ早かれ分かることだ。まあ……まずはお前自身の試合、気を抜かずにしっかりやれ」

 

 激励の言葉を後に、カカシはその場を去る。相手を見たが、現状ハンデを背負ってないサスケの敵ではないと内心考えており、それ自体はなんら心配はしていない。

 ただ先ほど感じた瞳の違和感が、先ほどからずっと拭えずいた。目を見ることにどこか恐怖を感じ、担当する第七班のメンバーが待つ場所に着くまで紫のほうへ視線を向けることができなかった。

 

 カカシにしこりを残したまま予選が開始される。

 

◇◆◇◆◇

 

「こうやって見てると、結構興味深い戦い方をしてるわね」

 

 予選が始まり下忍たちが各々の戦いを見せ、その姿に半ば感心するように呟く。既に予選は折り返し地点を過ぎており、半数以上は戦いを終えている。

 初戦のサスケは火遁の術を織り交ぜながら、体術で翻弄しセンスのある戦い方で危なげなく勝利を収めた。これがもし何らかが理由で忍術が使えなかったならば苦戦していただろう。

 ナルトも意外に機転のきく戦いをするものだった。最初はキバの速さについていけていなかったが、要所で発想を活かした対応をしていたし、スタミナを必要とする影分身を中心とした戦法はナルトならではのものだろう。

 他にも影を操る特異な術、内臓にダメージを与える柔拳と呼ばれる体術など、あまり見ることのない技術を用いた戦闘は紫でさえ存外飽きずに見ることができた。

 

「さてさて……そろそろ私たちも来るかしらね?」

 

 徐々に人数が減ってきたのを見て、次のカードはどうなるのか電光掲示板を見る。誰と当たっても負けることはないと考えているが、ここまでの予選での戦いを見て単純な勝ち負けとは違う、面白い戦いができるのでは紫は期待しているのだ。

 

 目まぐるしく変化する電光掲示板の表示が止まり、次の対戦を伝える。

 

『八雲藍 対 ロック・リー』

 

 おっ、と紫の呟きが会場の隅で漏れた。




中忍試験の予選って三代目火影っていましたっけ? 手元に本がなくうろ覚えです……。
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