魔法少女リリカルなのは外伝 リトルウイング 作:紅乃 晴@小説アカ
ファーン・コラード。
彼女は三等空佐という階級を持ちながら、管理局の上層部などには一切の興味を示さず、時空管理局、訓練校学長として職務に就いている歴戦の魔導師だ。
後の新暦72年で、スバル、ティアが在籍することになる陸士訓練校でも校長として彼女達の行く先を示すことになるファーンは、過去に本局の戦技教導隊に所属していた。
ファーンと出会ったのは、10年前だ。
当時は、なのは、フェイトたちの指導という名目で出会い、そして二人を鍛えた。ファーンの魔導師としてのランクはAAだが、卓越した状況分析能力と、培われた技術と経験を最大限に引き出すことを得意とする彼女を、十年前の段階でAAAランクだったなのはとフェイトが、二人がかりでも倒すことができなかった。
二人が出会った最初の大きな壁。そして目標ともなったファーン。その関係は今でも続き、そしてはやてもファーンと出会っている。
また、後になのはがスバルに出すことになる問題、「強さの意味」を、なのはとフェイトに出題した人物でもある。
しかし、それはまだ未来の話。
今でも、なのはとフェイトは、強さの意味の答えを見出せていなかった。
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訓練教導隊プロジェクトは、正式になのはたちへ伝えられることになった。
三人が受け持っている仕事は、順調に後任であるヴィータとレティ提督、そしてクロノへ引き継がれ、なのはたちは訓練教導隊の一員として以前、自分たちが通っていた「訓練学校」へと訪れていた。
「なんだか、改めて魔法を学ぶって変な気分だよね」
いつもの青と白の管理局制服ではなく、訓練生用の士官服を着ているなのはは、同じ服を着るフェイトに困ったように笑った。
「私も、リニスに魔法を教えてもらった事しかないから少し不安だけど。ミッドチルダの魔法と管理局としての魔導師の考え方とか学ぶにはいい機会だと思ってるよ」
フェイトの言葉に、なのはも同意だった。
自分達の培ってきたものが、どこまで通用するのか、管理局の魔導師として、どう映っているのか、そういう自己採点もできるのではないかという期待も確かにあった。
「けれど、こういうことはもう少しはよー言ってもらいたかったわ…」
なのはとフェイトの後ろ。
覚束無い気だるげな足取りで、二人と同じく士官服を着こなしているはやてが、そう愚痴めいたように肩を落とした。
「はやても、引き継ぎ作業お疲れ様」
大丈夫?と声をかける二人に、はやては軽くてを挙げて答えた。
「ほんまに疲れたわ、こっちは引継ぎというより〝やり終い〟やったからね」
はやてが所属していたのは人事部。いわゆる実動部隊の裏方の人間として仕事をしている。
確かに、なのはやフェイトと同じように現場で働くという選択肢も勿論あった。
しかし、はやては裏方を選んだ。
推薦してくれた多くの知り合いも、理由もいろいろあったが、いちばんてっとり早く「上」に登れるという事が、はやてがその仕事を選んだ理由のひとつだ。
昨日のオペレーター役を引き受けた理由もそこにある。
はやて自身、現場に出て先陣を切って戦うよりも、後方から全体を管理し、統制や指示を出すことのほうが、自分の能力を最大限引き出すことができると実感していたからだ。
夜天の主人としての能力は、前衛に出て戦うには不向き。守護騎士や護衛してくれる存在がいて、初めて成り立つ能力に偏っている。ならば、いっそのことと思い、彼女は現場よりも陰謀渦巻く後方に自分の活路を見出したのだ。
「けど、引継ぎできないっていうのも大変だね。はやてのお仕事も」
「そーやねん、引継ぎしようにも他の人に知られたらまずいことばっかでなぁ。あ、どんなことやってるか聞く?」
「遠慮します」
意地の悪い笑みを浮かべるはやてに、二人は乾いた笑いを返した。
この数年ではやてはかなり肝が座ったような気がする。夜天の主、もとから器は大きいと思っていたが、裏方に回ったことにより更に磨きがかかったようにも見てた。
「けど、今更ながらって感じがあるのも確かやなぁ。このプロジェクト」
訓練学校の校門をくぐってから、はやてが考え込むようにそう言った。
基礎の勉強や、いい機会だと言っても、「今更」というものが否めなかった。
なのはたちは、今や誰から見ても一人前の魔導師だ。実力も、実績も、能力も申し分ない。
それこそ、「実力のある者」と言うならば、クロノや、もっと上級魔導師に適任者がいるはずだ。
それが何故、自分達なのか。
なのはもフェイトも、そしてはやても心のどこかで納得がいってなかった。
「それは、私があなた達をこのプロジェクトに推薦したからですよ。高町さん」
校門から少し歩いた場所。
正面玄関の前で、彼女たちの到着を待っていたのは、ファーン・コラードだった。なのはたちは、待っていた彼女へ敬礼を返す。ファーンも敬礼に応じた。
「推薦したとは、どういうことなのですか?」
三年前に現場から訓練学校長として勤務するファーンは、教導員として教鞭を振るっている魔導師。
その実力はリンディやレティに並ぶほど高く、そして思慮も深い。そんな彼女がなぜ自分達を目にかけ、そして訓練教導隊へ推薦したのか?
「あなた方は、確かに魔導師としてのポテンシャルが非常に高く、行動力も、それを実行する勇気も兼ね備えている立派な魔導師です」
真っ直ぐとした目で見据えるファーンに、三人は思わず恐縮してしまう。けれど、それはあくまで彼女が三人を評価した意味。選んだ理由は別にあった。
「あなたたちには、魔導師として決定的に足りていないものがあります」
その言葉になのはたちはお互いの顔を見合わせた。
決定的に足りていないもの。
幾ばくか頭のなかで考えてみるものの、それに当てはまる明確な答えは、三人の中には思い浮かばなかった。
「この訓練は、それを再認識、または自覚することがいちばん大切なのだと思い、私はあなたたちをプロジェクトに推薦しました」
足りないもの。
それは今は許されるのかもしれない。
若さゆえの無謀さ、力強さ、そして勇敢な心。
けれど、その綻びはいつか自分の中へと突き刺さり、大きなキズの原因にもなりかねない。
自分を過信し、限界を知らずに身を削り、そして振り返った時には、大切なものを取り零していた現実に打ちのめされる。過去の自分のように。
「私たちに足りないもの、ですか」
フェイトとはやては僅かに首を傾けた。
そしてその正体は、なのはにもおぼろげにしか見えない。
思い出すのは、寒い冬の日に堕ちた時。
きびしいリハビリを乗り越えてここまで戻ってくることができた事。
それと同じように、あの日からなのはの心の中には、冷たく這い寄る何かがじっとこちらを見ているようだった。
ファーンの言葉に、なのはは冷たく這い寄る存在を痛烈に感じた。
「あなた方には、その〝足りない部分〟を、ここで学んで貰います。魔導師として、そして人として前に進むために」
ファーンは穏やかにそう言って、三人へ手を差しのべた。
「ようこそ、訓練教導隊へ」
彼女なら、この這い寄る冷たい何かの正体を教えてくれるかもしれない。
三人はファーンの手を取った。
それは後に、高町なのはたちが「エースオブエース」と呼ばれる大きな起因となる瞬間だった。