魔法少女リリカルなのは外伝 リトルウイング 作:紅乃 晴@小説アカ
訓練部隊という物は、総じて模擬訓練や魔法を用いた航空戦闘のシュミレーションや、座学を中心とする。事実、なのはたちが過去に受けた訓練も同じような流れだった。
久々の訓練学校の門をくぐった今日は、なのはたちにとっての入隊日になる。
「さっそくですが、あなた達には模擬戦をしてもらいます」
なのはたちの前を歩くファーンから告げられた突然の言葉。通路を歩む彼女の歩幅は揺らがずに、三人へ唐突に出された言葉も、なんてことない事を言うようなものだった。
「戦闘二回。初手は高町さん、そして次手にハラオウンさん。八神さんには先日と同じように二人へのバックアップオペレーターを務めてもらいます」
互いに顔を見合わせるなのはたち。
訓練部隊はあくまで名目。仲良く共に訓練するといった甘い部隊ではない。この部隊の設立は「効率的で現実的な魔導師育成法の模索」が根底にある。それに、ファーンには確かめたいことがあった。
「私が教導を行ってから、どれだけの力を身につけたのか。まぁ、テストのようなものです」
「けど、ファーンさんと模擬戦だなんて…」
「ちなみに、今回の相手は私ではありません」
恐る恐る言ったフェイトの言葉に、ファーンは三人が顔を合わせた理由に内心で納得がいった。彼女たちは、模擬戦の相手が自分だと思ったのだろう。なのはたちが幼い頃、ファーン・コラードという魔導師相手に手痛い敗北を喫したこと。そんな相手をその日すぐ様、相手をすると言うことに僅かながら動揺したのだろう。
しかし、手痛い敗北は過去の話だ。
ファーン自身も、昔ならいざ知らず、第一線の空から引退し、教導官として、訓練学校の校長としての「第二の人生」をすでに歩んでいる。実力を更につけたなのはたちを相手にして、勝てる自信など無かった。
だからこそ、とファーンは立ち止まった。目の前には模擬訓練用の施設につながる扉がある。
「あの頃と違って、私は本格的に教導する身になりました。そして、私が送り出した生徒は貴方達だけではありません」
教導官、そして校長として、彼女は既に自分の教え子を輩出している。隣にいる友と、市民を守る誇り高き魔導師たちを。そして、その中で見つけた「ダイヤの原石」があった。
「それに、私が見込んだ生徒も、貴方達だけではありませんからね」
施設への扉を開くと、簡易的なブリーフィングルームがある。扉を入って真正面を見ると、模擬戦や訓練を行うための円状のアリーナが広がり、アリーナを挟んで、こちらとは反対側に位置する場所に二人の人影が見えた。
ファーンが呼び出した「ダイヤの原石」。
振り返ると、さっきまでの幼さや、あどけなさを感じていた表情は消え、緊張感と真剣さを帯びた目をしたなのはたちがいる。
「現、私の直轄で教導を行っている生徒。この二人と模擬戦をしてもらいます。一筋縄ではいけませんよ?頑張りなさい」
そんな三人へ、ファーンは小さな激励の言葉と、余裕とも伺える笑みを送るのだった。
////
「メリー・ダグマイア。この人が、なのはちゃんが相手をする訓練生やね」
ファーンが観戦用ルームへ移動した後、なのはたちは早速ブリーフィングをはじめる。オペレーターを務めるはやての手元にあるものは、ファーンから渡された相手の情報だ。
「使用デバイスは、アームドデバイス。得意とするのは近中距離での近接戦闘、と。ファーンさんから提示された資料はこれだけやね」
名前、性別、使用デバイスと戦闘傾向。
ファーンから渡された資料に記載された情報はそれだけだった。反対側で待つ二人の姿が見える。
一人は、ショートヘアをした少女。そしてもう一人は青色の長い髪を後ろでくくりあげている少年だ。ショートヘアの少女が、なのはの対戦相手となる。
「実際に模擬戦をしてみないと、わからないことだらけだね」
考え込むようにあご先に手を添えながら、なのはは資料とにらめっこしている。なのはは、実戦で相手を知り、その傾向を見て、イメージを修正していく戦術を得意としている。
隣にいるフェイトや、はやての守護騎士であるヴィータと相対した時も、敗北から相手を学び、そして学んだ事を生かした戦闘を確立させ、二人と接戦を繰り広げたのだ。
相手がどうあれ、模擬戦が始まればしばらくなのはは相手の様子見に徹することになる。
ふと、はやてはこの模擬戦についてある疑問が浮かんだ。
「けど、砲撃型のなのはちゃんに近接戦を得意とする相手をぶつけるなんて。距離を取れば、なのはちゃんが有利なのは目に見えてるのに」
近接、中距離を好むと言うなら、遠距離からの砲撃を得意とするなのはより、接近戦を主体としたオールラウンダーなフェイトと対戦させたほうが良いだろうに。
そんなはやての疑問に、フェイトは首を振った。
「油断はできないよ。なんて言ったって、ファーンさんの教え子だし」
フェイトの言葉に、なのはも頷く。
二人の敗北経験は、思いのほか根深く残っているようで、普段では見せない慎重ぶりに、はやては肩をすくめた。
「もー、なのはちゃんも、フェイトちゃんも!ファーンさんに苦渋を飲まされた気持ちはわかるけど、それを引きずってたら出せる力も出されへんようになるで?」
そんなはやてに、二人は乾いた笑いでごまかして、あえて言葉にしなかった。けれど、これは自分の成長を試すチャンスでもある。
あの手痛い敗北から、自分はどれだけ前に進めたのか。
あの冬の墜落から、自分はどれだけ成長したのか。
パンっと、なのはは気合を入れるように両手のひらで頬を叩いた。抑鬱的に考えるのは、模擬戦を終えたあとだ。
「うん!いつも通り、全力全開!」
「だね!」
「うん!」
今は自分の全力に集中する。なのはは、ただそれだけを胸に、アリーナへ歩み出て行く。
////
「コラード校長。よろしいのでしょうか?ダグマイアを彼女達と組ませるのは」
観戦ルームで、ファーンにそう言ったのは、ファーンの側近であり、彼女が来る前に、教え子二人のブリーフィングを担当していた女性だ。
その表情は、事の行く末を心配するかのような焦りと戸惑いがあった。
「あら?そうかしら?」
そんな側近に、ファーンはあっけらかんと答える。
「良いテコ入れになると、わたしは思ってるわ」
ファーンが教える二人は「ダイヤの原石」。
しかし、魔導師として、なのはたちに劣るところを持っている。そして同時に、彼女たちに勝るものも持っている。まだまだ発展途上な教え子をぶつけることで、互いに良い何かを見つけることができるかもしれない。
そんな期待感が、ファーンの胸にあった。
「それに、それを必要としてるのは何よりも彼女なのだから」
ファーンが見つめる先には、自信と未知との戦いに真剣みを出すなのはとは正反対に、退屈さや気だるさ、諦めに似た表情をする、ひとりの少女「メリー・ダグマイア」が写っていた。