閲覧ありがとうございます。
ペルソナ5アニメ最終回記念!
クロスオーバーの大前提として、
・世界観ごとのクロスとして、キャラのみの参加はしない。参加するキャラがいるということは、そのキャラが登場する原作は表であり裏であり確実に動くものとする。
・各原作に突入する時期は未定(原作開始10年前を描いたり、原作アフターストーリーを書いたりすることがあります)。その関係で当作は一部作品のネタバレが含まれることがあります。
2019年3月25日の活動報告にその他コンセプト的なものを載せておきましたので、興味のある方はどうぞ。
I am thou, thou art I 【Ⅰ】
──3月14日。
暗殺教室。正式名称、椚ヶ丘高等学校中等部3年E組は、一般的に見ればごくごく普通に、卒業という形での終わりを迎えた。
名残惜しくとも、時は流れる。
涙を流し、声を枯らし、それでも各々前を向こうと決めた時から、過ぎゆくこと数十日。
怒涛の1年間。そこに所属していた人間であれば誰であれそう称するであろう、長くも短い暗殺期間が終わってから、早1月。
少年たちは、高校生になった。
中学生から高校生になって、一番変わるモノとは何だろうか。
言うまでもなく、その答えは人によって違う。立場と答える人がいれば、居場所と答える人もいる。何も変わらないと答える者もいるだろう。
そんな中で、少年──潮田 渚が感じていたのは、己の変化だった。
蛍雪高校の入学式、体育館で代表挨拶等を眺める彼は、短めに切り揃えた髪を触りながら回想する。
……中学に入学した時は、高校生の自分がまさかこんなことになるなんて思わなかったなぁ。
中性的な容姿。
親の束縛。
母方の苗字。
何もできないという無力感。
数多くのコンプレックスを抱いていた中等部入学式と比べ、渚の瞳にはその一欠片の濁りもない。寧ろやる気と希望に満ちている、と表現した方が妥当だろう。
彼の劣等感はすべて、中学時代に
自己の容認。
親と和解。
両親同士の復縁。
1つのことを成し遂げて得た達成感。
それらすべてを中学の教室で培った彼が、暗い顔をする必要なんてない。
──良い目をしているね。
それが最後、卒業証書を受け取る際に、理事長──浅野元理事長からもらった言葉だった。
──担任の先生の教育の賜物かな。
その胸に染み付いた教育は彼らにとって誇りであり、夢と新たな目標である。
とはいえ、外見が中性的な容姿であるという現実に変わりはなく、身長もあれから殆ど伸びていない。あれだけ激しい訓練を1年続けたものの華奢な体付きは変わらず、もし髪が長くて女子制服でも纏っていようものなら、彼の性別に気付ける人物は、同学年に5人もいなかっただろう。
そういう意味で、心境の変化というのは、恐ろしいものだ。
体育館のステージの上で、新しい学校の校長先生が歓迎の言葉を述べている。流石に浅野元理事長のような
とはいえ、渚が描く将来の夢は、彼らに近い教師なのだが。
拍手に送られ、校長が壇上を降りていく。張り出された進行表通りなら、入学式もそろそろ終わりだ。
つまり、新たな学校で、新たなクラスでの物語が始まる。
今の──希望を抱いた状態の彼は、まだ未来にある困難を正確に予想できてはいなかった。
1年A組。張り出されたクラス分け表を見て、それでも大した感動を渚は持たなかった。
蛍雪高校のクラス分けは学力順である。先週受けたクラス分けテストの結果が反映されているらしい。つまり渚は成績上位者に分類されているのだが、それでも周囲に比べて反応は薄い。
だが、その結果を当然として受け止めている訳ではなかった。そんな
……あった、良かった。
それだけである。
同じく学力順にクラス分けしていた椚ヶ丘時代は、確かに成績上位クラスに憧れたこともあっただろう。成績が落ち、クラスを下げられた時も非常に悲しんだ。悲しんだ理由は幾つかあるが。
しかしそれも初期の話だ。大事なのはクラスの格でないことに、今の渚は気付いている。
大事なのは、何を為すか。何を得られるか。
故に彼は胸を張って──当然だが胸に膨らみはない──教室へと入った。
普通の光景だった。
ある程度はグループが出来上がっていて、集まって話している者たち、孤立して何もしていない者たち、混ざりたくてもどうすればいいか困惑している者たち。多種多様な姿が、教室内には溢れている。
数分と経たず、渚も1つの輪に入った。男女が居るグループだ。
「やっべえ、女子かと思ったら男子じゃん!」
そんな失礼なことを開口一番で言われもしたが、まあ良いきっかけとなったのだろう。傍目以上に渚の心が傷付いたものの、それに気付けた人は誰も居ない。
最初は特に何事もなかった、と渚は今でも思う。それなりに大人数のグループだ、注目を集めたとしても仕方のないこと。視線に敏感なのも考え物かな、なんてどうでもいいことを考えていたくらいだ。
だが、その視線を妙に意識している自分に気付くまで、そう時間は掛からなかった。
……なんだろう?
視線は感じるものの、悪意は感じない。つまりは見られているだけだと、渚は推測している。
だが、肝心の理由に心当たりがない。
気付かれないように一瞬だけ目を向けると、視線の主は1人の男子生徒だった。
少なくとも渚に見覚えはない。椚ヶ丘に居た生徒でもないはずだ。だとしたらもう少し視線に悪意が乗っているだろう。
そんな自虐的推理をしつつ、時は過ぎていく。不明で少しだけ不快な視線は、担任教師が来てホームルームを開始するまで続いた。
最初に教員の自己紹介が行われる。
社会の教師、男性、30代。清潔感のある大人だ。間違ってもタコ型ではないし、自衛隊出身の強面だったり、無駄に色気を振り撒いてる女性だったりはしない。
クラスの一部も小さく騒いでいる。良さそうな先生で良かった。当たりじゃない? などと。
渚の目にも、そう映った。不思議な所はない。自己紹介等に嘘は感じられず、話しているときもまっすぐで真剣な表情だった。
話は担任の自己紹介から、クラスメイト達の自己紹介へ。名前と、得意科目、苦手科目、好きな事、目標を出席番号が早い順に答えていく。
一応各自に質問時間が取られていて、容姿の整った人に対しては、交際相手の有無を問う質問などが飛び交っていた。
そして、その時がやってくる。
「はい、ありがとう。何か質問は……無さそうですね。さて、次は潮田くん」
「はい」
渚が立ち上がった。
誰かが『小さっ』と笑う。
渚の肩が落ちた。
誰かが『小動物みたいで可愛い』と呟く。
渚の目に涙が溜まった。
「えっと、潮田 渚です。得意な科目は英語、苦手科目は……理科かな。好きなことは、いろいろなものを調べること、だと思います」
流石に特技は暗殺です、とは言えない。
暗殺が得意だとしても、自身への好感度や教室の空気は殺したくなかった。
「目標は、中学の恩師のような先生になることです!」
はっきりと、抱いた──抱けた夢を語る。
万能とはいかずとも、誰かを助け、大切なことを教えられる、立派な教師。それが、潮田 渚が暗殺教室を通じて得た
周囲の反応はというと、悪くない。どちらかといえば称賛の声が多いくらいか。
今現在の目標を聞かれて、ここまではっきりと将来の夢を断言できる人も居ないだろう。
自分の名前について周囲と雑談する人、自分の容姿について周囲と雑談する人、自分の夢について周囲と雑談する人、反応は十人十色だ。
「良い目標ですね。はい、何か質問は……じゃあ、一番後ろの女子」
「えっと、性別は?」
「男だよ!!」
教室に笑いが満ちる。
悪くない雰囲気だった。教師は苦笑いだったが。
「さて、次は……そこの君、そう、君」
「身長何センチ!?」
「ひゃくろ──159センチだよ」
『小さーい!』『可愛ーい!』『誤魔化そうとした……』の3種類が至る所で木霊した。
前2つは主に女子。最期のは男子からのもの。男子の反応には同情と憐憫を込められている。
彼自身は慣れたつもりだったが、渚自身が前を向き始めていた分の反動と、初対面の人から言われるダメージは計り知れなかった。
そして、最後の質問に移る。
「じゃあ……君で最後にしよう、一番後ろの、そう、君」
「はい」
指された男子は、あくまで興味本位だったのだろう。
本当に、悪意も何も感じなかった。だから渚自身まったく警戒していなかったし、周囲も違和感などを感じ取っていなかった。
「君、出身中学校ってどこ?」
──それは、今まで順当に応えていた渚の返答を、僅かに躊躇わせる質問。
だが、嘘をついても仕方がない。誤魔化すのだって無理がある。
正直に答えるしか、取れる選択肢はなかった。
「椚ヶ丘中学校、だよ」
「……あ」
「やっぱり!」
驚いたような表情の質問者。それに被せるように異常な反応をした男子と、その周辺のグループ。
「ってことはアレだろ? 例の化物教師の教え子ってことだろ!?」
その発言に、渚が、教師が、教室の空気が、固まる。
「いやぁ、VTRに出たやつらの特定画像がネットに広まっててさ! けっこうそっくりだったからそうだと思ったんだよね!」
あとで調べておこう、と渚は心に閉まった。場合によっては一部クラスメイトや恩師たちにも協力してもらう必要が出てくる。
教室の空気は依然凍ったまま。さて、どうしよう。と少年は思考を加速させた。
──特に有効打は見付からない。こういう時に上手く動ける親友の顔を思い出す。彼だったらどうしただろう、と。
「先生、これで終わりでも良いですか?」
「え、ええ。大丈夫ですよ」
「ちょ、待てよ!」
「残念だけど、それに関して僕が答えられることはほとんどないんだ。肯定も否定もできない。ごめんね」
暗殺教室については、緘口令が敷かれている。
当然だろう。大っぴらにするわけにいかない事情が多すぎるからだ。
1つ情報をもらせば今のネット社会、情報はすぐに拡散される。ひと度出回れば火消しは難しい。
人の口に戸は立てられないと言うが、この件を誰かが漏らした途端、渚たちE組の生徒は勿論、担任たち、椚ヶ丘関係者たち、政府や軍にも迷惑がかかる。
それだけは、避けないといけない。
「みんな、空気を悪くしちゃって、ごめんね」
笑顔のまま、謝る。卑屈な謝罪ではない。堂々とした謝罪だ。
新担任の男性教師も目を通した調査書からおおまかな経緯を知っていて、教頭や校長からも事前にある程度の注意喚起をされていた。それでも何と言って良いのか分からなかったのだろう。口を開いても声を出すことはない。
だからこそ、渚が動く。渚しか動けないのなら、本人が動くに他なかった。
彼の後ろには、悪くなった空気の被害を1番受けている生徒がいるのだから。
「本当にごめん、僕はこれで終わりにするよ。君の番になるんだけど、いけそう?」
「う、うん。大丈夫」
「良かった」
慌てて立ち上がった後ろの座席の少女は、動揺を隠し切れず、噛み噛みになりながらも、自己紹介を始める。
その場は何事もなく、収まった。かのように見えた。
いや、一応収まったのだろう。
代償は、潮田 渚の友達を作るハードルが格段に上がってしまったことくらいだった。
まさかのペルソナ要素なし。