立派な教師になる為に   作:撥黒 灯

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What's your name? 【Ⅲ】

 

 

 

「オタカラの気配は感じるが、まだ遠いな」

 

「とにかく今は、先に進もう」

 

 

 ゴールへ向かう道のりは遠いらしい。

 とはいえそれは歩みを止める理由にはならない。なんせ彼らは注目を浴び始めた現代に蘇りし最新の義賊──怪盗団なのだから。悪を見逃してしまうのは、彼らの流儀に反するから。

 やる気の灯り続けているジョーカーの瞳がさらに昂ったことに、誰も気づいていない。

 

 吹き抜けになっているフロアを抜け、2階の廊下へと出た怪盗団の面々。内装は若干先程よりも落ち着いていて、失われていた統一性を取り戻しつつある。とはいえ配色は未だに悍ましさを落としきっていないが。

 下層では壁を見るたびに眉を寄せていたフォックスの苛立ちも若干落ち着いてきたようで、露骨に顔を顰めることはなくなった。

 次の階へ行く階段を探す彼らだったが、地図を見るに通らなければいけないであろう部屋の前には、見張りが立っている。

 

 

「どうするよジョーカー、倒すか?」

 

「いや、他に道がないか探す」

 

「道、ですか? 地図には……」

 

「憶えておくといい、スネイク。ダクトっていうのは案外、どの部屋にも繋がっているんだ」

 

 

 ダクト? と渚は首を傾げる。

 そうして怪盗団が次に訪れたのは、地図上ではいけない空間で、一番近くにある部屋の近くの部屋。その部屋を隅々まで探すと、ジョーカーの言う通りに通気口があった。

 

 

「……」

 

「どした? 怖いのか?」

 

 

 スカルが肩に手を回してくる。

 怖い、のだろうかと渚は自問した。返ってきた答えは、否定だった。

 

 

「いえ、懐かしいなって」

 

「……まさかスネイクは、ダクトを通ったことが?」

 

「ううん。けれど、潜入は何度かやってたから」

 

「「「どんな中学生活を!?」」」

 

 

 知らない者としては尤もなツッコミだった。同じ反応をしなかったのは、ジョーカーとクイーン。クイーンは椚ヶ丘のことを何となくであるが知っているから。ジョーカーはスネイクのことを最初から一般人にカウントしていないから。

 事実スネイクも、ダクトの通過こそしたことはないが、崖をよじ登ったり、トランポリンを使って塀を飛び越えたりと色々なことをしている。潜入したこと自体があまり公にできることではないので、詳細を話すことはできないが。経歴だけ見れば明らかに一般人には括れない。

 

 

「……まあ、そういうことなら大丈夫か。先を急ごう」

 

 

 ジョーカーの掛け声で、男から順にダクトへ侵入していく。

 さすがに狭く、這うようにして進むことになったが、渚はその身が小柄なお陰もありそこまで苦痛には感じなかった。

 そうして通気口を抜けた先には、ジョーカーの目論見通りの空間がある。注意して廊下の様子を探ると、先程は邪魔に感じた見張りをやはり越えていたらしい。方角的には先程と逆側にその姿を見た。

 

 

「どうやら無事に通過できたみたいだな」

 

「このまま階段を目指す?」

 

「ああ。何よりもまずは、オタカラルートの確保を優先しよう」

 

 

 オタカラルート。

 パレスの核であるオタカラを盗み出すための経路。怪盗団の話によれば、本番は予告状を出した後の一回のみで、無駄もミスも許されない。その為の準備として一番大事なのが、当日の手順・経路の確認だという。

 

 

「それで、オタカラはどこにあるの?」

 

「分かんないんだよね。オタカラの大体の位置が分かるのて、モナくらいだし」

 

 

 スネイクの質問に、パンサーが答える。

 気になる子に話題を振られ、アピールチャンスを得たモナだったが、その様子はひどく落ち着いていた。

 

 

「それなんだが……すまんジョーカー、地図出してくれ」

 

 

 頷き、懐から地図を出すジョーカー。

 床に置き、広げる。全員が四方から地図を囲む中、1人頭身の低いモナはてくてくと歩き、やがて一か所を指差した。

 

 

「この地図で言えば……この4階とかが怪しいんじゃねえか?」

 

「確かに、わざわざこんな長い廊下を作るくらいだ。入られたくないのかもしれない」

 

 

 広げた地図内でモナが指さしたのは、4階の一室──というより、4階唯一の部屋だった。そしてその部屋へと辿り着くまで、4階の階段からただ長い廊下が一直線に伸びている。

 一見すると無駄な廊下だろう。

 だが、他に部屋がないということは、奥の部屋の利用者以外は訪れることのないエリアということになる。隠し事をするなら持って来いだった。

 

 

「だが、あからさま過ぎる……」

 

 

 問題は、一本道であること。

 経路を絞るということは、万全の備えをしておけるということだ。

 

 

「良いんじゃねえの? 分かりやすくて」

 

「世界が全員スカルみたいな考えなしなら話は早いんだが──」

「ンだと!?」

「──まあ、十中八九何かあるだろうぜ」

 

 

 それでも行くか? とモナは全員へ問う。

 代表して返事をするのは、リーダーであるジョーカーだ。

 彼は不敵な笑みを浮かべて、応える。

 

 

「それでも、行くしかない」

 

「そう言うと思ったぜ!」

 

「ああ。その男気、それでこそジョーカー、といった所か」

 

 

 3人の男たちが右腕を掲げ、前腕部をかち合わせる。

 

 ……何か、男同士って感じだな。

 

 その輪に入れなかったスネイクは羨ましそうに見ていた。

 同じく内輪から弾かれた女性陣とモナは、話を続けている。

 

 

「はぁ……でも、進まなきゃ何も始まらないか。相応の備えが必要ね」

 

「頼んだぜ参謀」

 

「私も手伝うよ、クイーン!」

 

「ありがとう、パンサー。……それでモナ、今はオタカラを感じるの?」

 

「気配はあるぞ。このパレスに入った時からな」

 

「え? じゃあ結構近くにあるってこと?」

 

「……いや、それならもっと強く……いや、すまんアン殿、ワガハイにもよくは分からねえんだが……いや、まずは行ってみようぜ」

 

 

 疑問は浮かんでいるものの、確証は持てていないようだ。漠然とした不安を抱えている波長をモナの中に見た渚だったが、この件に関しては原因を取り除く以外に対応しようがない。

 故に彼らは、直進する。

 

 途中に大きなシャドウを倒したり、またダクトを通過したり、その他様々な障害物を乗り越えて、遂に彼らは4階へ辿り着いた。

 待ち構えていたシャドウを殲滅し、開けた空間にて彼らは一息つく。

 前方には大きな扉があり、そこへ続く廊下がはてしなく伸びていた。

 

 

「そろそろ終点みたいだが……どうだ、モルガナ、オタカラの気配は」

 

「……なんてこった……コイツは、“何も感じない”! 間違いなくこの近くにはねえぞ!」

 

 

 モナの答えに、全員が驚きの表情を浮かべる。

 解答したモナ自身、だがそんなはずは……と落ち込み始めた。

 地図が示す終点は4階の現在地。しかしこのフロアには、手がかりになりそうなものが何もない。

 

 

「ンだよ、無駄足か?」

 

「いや、少なくとも4階に何もないことが分かっただけマシだ」

 

「つってもなあ……」

 

 

 スカルは悪態を吐きながら、床を蹴った。

 いくらジョーカーがポジティブに捉えていようと、手がかりを失くしたことは事実。

 一旦戻ってしらみ潰しに隠し通路を探すしかないかと思われた、その時だった。

 

 

「モナ、さっき何も感じない、と言ったか?」

 

 

 腕を組み、思考に耽っていたフォックスが口を開いたのは。

 全員の視線がフォックスへと向き、やがて彼が視線を向けるモナへと再び集まる。

 

 

「あ、ああ……だが、それがどうしたって言うんだ?」

 

「先程までは感じていたものが4階に来てなくなったというなら、それはオタカラから離れたということだろう? つまり一番低い階層にオタカラがある、ということにならないか?」

 

「……確かに。となると1階とか?」

 

「いいえ、モナは1階から2階へ移動した時、そこまで強く感じてはないって言ってたわよね? なら、オタカラがあるのは1階じゃなくて」

 

「「……地下か!」」

 

 

 ジョーカーとスカルが同時に声を上げた。

 そして全員、得心がいったと頷き合う。

 

 

「この地図には地下の存在も、降り方も書かれていない。つまりは“どうしても隠したい何か”が地下にある、っていうことだな」

 

 

 地図を取り出しながら、ジョーカーはニヤリと笑った。

 一度は下がりかけた全員のモチベーションが、再度上昇し始める。

 

 

「でも、隠された部屋なんてどうやって見つければ」

 

「前やったように、監視員とかの会話を盗み聞くとか?」

 

「それも良いが、総当たり過ぎる。そっちは最後の手段にして、もう少し的を絞っていこう」

 

「というと?」

 

「“隠し通路”なら大きな絵画の裏。“隠し階段”なら応接室や会議室の大テーブルの下。そして“隠しエレベーター”なら社長室と、相場で決まっている」

 

「いやそれドコ調べだよ」

 

「名探偵コナン」

 

「マンガじゃねえかッ!」

 

「冗談はさておき、隠したいものが隠しやすそうな場所にあって、それを守る為に厳重な警備を敷けそうな所を、一か所知っているんだが」

 

 

 薄い笑みを浮かべたままのジョーカーの、仮面で隠しきれていない視線を追う。

 当然、一本道が目の前にあった。

 

 

「そうね、まず探し物をするなら、ココからかしら」

 

「っしゃあ! じゃあ早速行くとしようぜ!」

 

 

 スカルが気合を入れ、歩き出す。

 数歩歩いた所で何かに引っかかったのか、ウー! ウー! と警報が鳴った。

 

 

「スカル……」

 

「お、俺じゃねえって!」

 

 

 警報が鳴り響く中、大きな機械音がし始めた。

 そして、“左右の壁が開く”。

 

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 

 雪崩れ込んできた警備員らしきシャドウたち。

 即座にスネイクたちも臨戦態勢を取った。

 

 

「敵15体! 全員! 気合入れろよ!」

 

 

 モナの檄が飛ぶ。

 狭い通路だ。全員が参加すると返って邪魔になる。シャドウも隊を分かれて進行してきているので、怪盗団も3人と4人の2班に分かれた。

 ローテーションでの迎撃、開始。

 

 

────

 

 

「ジ・エンドだ」

 

 

 モナの最後の一撃が決まり、総勢15体のシャドウは無に帰る。

 時間にしてそう長くはなかったものの、突発的な戦闘だったため、怪盗団の面々が得た疲労はなかなかに大きい。加えて全員の連携ではなく、少人数での連携を強いられていた点や、大技や広範囲の技などの使用も禁じられる点も作用したのか、パンサーやフォックスは、少し息が上がっていた。

 

 

「壁から、シャドウが……」

 

「まあ、下の階までは普通に部屋のあった間取りだ。隠し部屋などがあるんじゃないかとは思ったが」

 

「音からして機械……絡繰部屋ということだろうな」

 

「……当然これだけの仕掛けの為に、こんな長い廊下使わないわよね」

 

 

 誰もが、次の一歩を躊躇った。

 だが、躊躇していても何も始まらない。

 ジョーカーは無言で、スカルの背を叩く。

 

 

「行け、特攻隊長」

 

「誰が特攻隊長だッ!?」

 

 

 ったくよぉ、と歩きはじめるスカル。

 そしてそこから10歩進んで、また警報が鳴り始めた。

 

 

「スカル……」

 

「だから俺じゃねえってッ!?」

 

 

 そうしてまた、左右の壁が空く。シャドウがうじゃうじゃと湧いて出た。

 

 

「おいおい、このままじゃキリがねえぞ。どうする、ジョーカー」

 

「このシャドウを倒し次第、全力でゴールまで駆ける。警報が鳴ってから左右の壁が開くまでは、若干のタイムラグがあるからな」

 

「強行突破か。イイんじゃない?」

 

「まずはこのシャドウを片づけましょう!」

 

 

 パンサー、クイーン、モナ、スカルが接敵し、交戦を開始した。彼らが第一波を退くまで、ジョーカーとフォックス、スネイクは後ろで待機することになる。

 

 

「スネイク、走り出したら俺とお前が殿だ」

 

「え、僕も?」

 

「身のこなしの軽いお前なら、シャドウの攻撃を避けながら進めると思ったんだが」

 

「……多分、できるとは思う」

 

「後は適度にカウンターを入れて、速度を下げないままシャドウの数を減らしていってもらいたい」

 

「了承した後に要望が増えた!」

 

「俺とお前なら、出来るはずだ」

 

 

 強い瞳が、渚の心を打ち抜く。

 

 

「……うん、分かった」

 

「よし。……フォックス、できればこの戦いでは」

 

「ああ、見ていると良い。存分に舞ってくるとしよう」

 

 

 口角を上げるフォックスに、任せたと告げるジョーカー。

 後に彼は宣言通り、第2波のほとんどの敵を全力を以て壊滅させる。

 そして来る最終第3波。シャドウが減るたびに緊張感が増していき、ジョーカーもスネイクも、視線を鋭いものへと変えていった。

 

 そして最期、スカルの一打がシャドウを打ち倒し──

 

 

「全員、突撃!」

 

 

 ジョーカーの掛け声が、廊下に大きく響いた。

 

 




 

 一応このオリジナルパレスも残す所あと3話(の予定)。
 その後は原作合流予定(原作通りに進める訳ではない)なので、他怪盗団キャラ参加まで、もう暫しお待ちください。

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