立派な教師になる為に   作:撥黒 灯

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What's your name? 【Ⅳ】

 

 

『はぁ……はぁ……』

 

 

 膝に手を付き、切らした息を整える怪盗団の面々。

 彼らは、罠という罠を駆け抜け切った先の部屋に辿り着いていた。

 

 

「ふぃ~……死ぬかと思ったぜ」

 

「おいおい情けねえなぁスカル」

 

「んだとぉ?」

 

「止めなさい2人とも。……さて、着いたわね」

 

 

 行きついた広い部屋には、机を始めとする大きな家具が存在している。

 ジョーカーたちの推測が正しければ、ここに地下へ渡る為の“ナニか”が存在しているはず。

 彼らはそれぞれ、室内の物色を始めた。

 

 潮田 渚ことスネイクも、違和感を感じるものを探そうとして、壁に掛かっている数々の額縁に目を止める。

 

 

 ──これは……

 

 

「スネイクも気になったか」

 

「フォックス?」

 

「古い写真だな。中身からして日本のものではなさそうだが」

 

 

 彼らが見据えるのは、白黒の写真。それも、写っている光景は夥しいものだ。

 死者と思われる存在が転がっている写真。配給を奪い合ってしまう大衆の写真。銃の手入れをしている少年の写真。

 どの写真も決して明るいものではない。死や悲しみ、苦しみがどの写真にも写っていた。

 

 

「……筒内は元々、海外の戦場や被災地を取材していた記者だったよ」

 

「なるほど。それでか」

 

 

 フォックスはゆっくりと歩みを進めながら、1枚1枚を吟味するように眺めていく。

 

 

「何か気になることがあるの?」

 

「いや……筒内は私欲にまみれただけのジャーナリストだと思っていたが、存外それだけではなかったらしい」

 

 

 頷きながら写真を確認していくフォックス。

 その姿を見つつ、スネイクは過去に調べた筒内の情報を思い出す。

 

 

「確か元々は、有名な賞を受賞するほどの記者、という話だったかな」

 

「その評判も頷けるな。この写真からは、“生”が強く伝わってくる」

 

 

 指で四角い窓を作る彼は、若干声を弾ませながらもそう言った。

 スネイクは理解ができず、首を傾げる。

 

 

「生? 死じゃないの?」

 

「ああ。絶望の中の希望、死に抗う生を伝えようとする情熱。確かにこの写真には、それがあった」

 

 

 フォックス──喜多川 祐介は芸術家の卵だ。こと芸術や創作物を見る審美眼は鍛え抜かれている。

 その目を以て彼は、筒内の写真をそう評した。

 彼の言葉を受けて、渚も視点を変えて写真を見てみる。

 確かにそう読み取ることもできた。だが、フォックスの言葉が無ければ、そこに気付くことはなかっただろう。

 

 

「……僕にはこの写真が良いものかどうか、分からないな」

 

「……分かりづらい名画は落書きに等しく、分かりやすい贋作は名画にも似た評判を得る」

 

「え?」

 

「分かりやすいものだけが芸術じゃない。この写真を見て誰が何を想うかは、人それぞれだろう。物の価値はそうやって与えられていくらしい。贋作を評価する者が増えれば、それはやがて本物の評価にも迫るだろう。腹立たしいがな」

 

「……つまり?」

 

「俺のように、この写真を良いものだと評する人間が多ければ、スネイクがどう思おうと、これは良いもの、とされてしまう」

 

「……」

 

「だからスネイクは、今この写真を見て得た感情を大事にすると良い。だれが何と言おうと流されるべきではない。それを見て得た感情はその人のものであり、誰かの言葉や感情で揺らがされるものであってはいけないからな」

 

「──偉い人が丸を四角だと言えば、四角かもしれないと思う大衆が一定層でてくる。そういう、誰かに流されるだけの人間になるな、ということだろう」

 

 

 

 話をしていた2人の後ろから、近づいてきたジョーカーが話に参加する。

 いきなりだったが、彼の発言にフォックスは大きく頷いた。

 

 

「ああ。そしてそれと同時に、発言力を持った際は、自分の発言で多くの人が揺らぐことを理解すべきだ。今の筒香の記事も、件の明智の発言もな。そうだろう、ジョーカー」

 

「……明智?」

 

「スネイクは見なかったのか? ワイドショーで明智という高校生探偵が、“怪盗団がやっていることは犯罪者と変わらない”などという発言をしたのを」

 

 

 フォックスの問いに、スネイクは首を振る。

 近頃テレビを集中して見ることがなかったせいか、彼の記憶に思い当たるものはない。

 

 

「言いたい奴には、言わせておけばいい。何と言われようと、俺たちは俺たちの正義を貫くだけだ」

 

「……己の正義は、背中で示す。か。悪くない」

 

 

 ジョーカーの力強い発言に、フォックスが共感を示す中、スネイクははたしてそうだろうかと思案をしていた。

 彼の頭を過るのは、中学の時の担任の言葉。

 決して正面からぶつかることだけが正解ではないと、潮田 渚は教わっている。

 大事なのは試行錯誤であることと、適応しながら刃を磨き続けること。

 暗殺者──潮田 渚が、大事にすべきことだ。

 気付けば暗殺者から怪盗へジョブチェンジしていたが、どちらも一瞬の機会を逃さずに仕留めることを得意とする職種。

 怪盗として、怪盗団に適応しつつ、暗殺者としての誇りを忘れない。

 そのことは深く頭に留めておこう。と渚は心に決める。

 

 

「あーもう見つからねえ! ジョーカー! なんか見つけたか!?」

 

 

 スカルの大声が響く。

 その問いに対して彼は、一同に静かにするよう目配せをした後、軽く腰を落として集中した。

 

 

「見える……」

 

 

 ただ一言、ぼそりと呟いた彼は、首を鳴らしながら重心を元に戻すと、一直線にとある写真の前へと向かう。

 その写真は特に変哲のない写真。彼はその額縁を躊躇いなく外す。

 ジョーカーが見抜いたのは、その裏。壁に付くスイッチだった。

 

 

「凄い。どうやって……」

 

「よく触られている形跡があったからな」

 

「……わぁ」

 

 

 事もなげに言っているが、写真を意識してみていたフォックスもスネイクも気付かなかったことだ。

 ジョーカーの持つポテンシャルに、感嘆の吐息を漏らすスネイク。

 そして彼がスイッチを押す所を眺める。

 ……数秒経っても特に何も起こらなかった。

 

 

「何も起こらないよ?」

 

「まあ焦るな」

 

 

 言葉の通りに焦った様子はなく、ジョーカーはまた歩き出す。

 次に辿り着いたのは、ずらりと並ぶ棚の前。

 

 

「スカル、引くの手伝ってくれ」

 

「ん? お、おう!」

 

 

 呼ばれて歩み寄ってきたスカルと共に、棚の前に立ち、力を込めて棚を引っ張る。

 人1人が入れるくらいの隙間ができ、その裏側を覗いてみると、またもやスイッチがあった。

 

 

「お、スイッチがあるな。押してみるか」

 

「勿論」

 

 

 ポチッとスイッチを押す。

 すると、先程まで廊下で聞いていたような機械音が響き始めた。

 

 

「この機械音って……」

 

「絡繰りが作動している音ね。何かが運ばれてくるように音が近付いて来てるけど、何が移動しているのかしら」

 

「さっきは音が鳴った後に、シャドウがわんさか沸いて来たよな。シャドウの大行軍だったりして」

 

「イヤなこと言わないでよスカル。……単純に、部屋が移動している、っていうのは、ないかな?」

 

「部屋というと……なるほど、さっきのは警備員の待機室が移動してきていた。ということか」

 

「そうか……え、ちょっと待って。だとしたら今移動しているのも」

 

「いや、あれだけの警備だ。この部屋に外部の誰かがアクセスできるようにするとは考えづらい。別の何かだろう」

 

「あ、そっか」

 

 

 そして、その答えはやってくる。

 壁が動き、何もなかったはずの場所に現れる、1つの扉。

 その扉に見覚えはなかったが、直感的にそれが何かを全員が把握した。

 

 

 “エレベーター”

 

 

 顔を見合わせて、怪盗団は笑う。

 最深部へ進む手筈は整った。

 

 

 

 

 地下に辿り着くと、目の前に見取り図があった。地図によれば、地下はB2階まであるらしい。その最奥にある部屋こそが、オタカラのある部屋だとモナが言う。

 誰もそれに意を唱えず、まずはその部屋を目指すことにした。

 

 

「つっても階段どこだよ」

 

「地図で言うと、この大きな部屋についているみたいだな」

 

「……ここって」

 

「地上にもあった吹き抜けの部屋の真下、か」

 

 

 彼らは顔を見合わせて、頷き合う。

 大目標の前の小目標、ひとまずの目的地が決まった。

 

 駆け抜ける。

 湧き出てくるシャドウの仮面を剥がしては、闘い、剥がしては、闘い、剥がしては、撃ち倒し、剥がしては、闘い、脅し、金を巻き上げ、闘い、話し合い、仲間にして。

 そんなことを繰り返しながらも、彼らの行軍は止まらない。

 そして遂に、その大部屋へとやって来た。

 ジョーカーが扉に、手を掛ける。

 

 

「開けるぞ」

 

 

 誰の返事も待たずに一方的に告げる形で言いながら、彼は扉を開けた。

 彼らの視線の先には、目立つものは何もない。ただ下層へとつながる穴が開いていることと、地上から伸びてきているのであろう無数の管が伸びている光景だけだ。

 彼らは目を見合わせた後、周囲に敵の気配がないのを確認し、身を隠しながら階下を覗き込んだ。

 そこで見た景色を、彼らは決して忘れることはないだろう。

 

 

『やめろぉ! やめてくれぇえええ!!』

 

『俺が何をしたっていうんだッ! 離せ! 離せェ!!』

 

『もう嫌だァ!』

 

『アァァアアアアアッ!!』

 

 

 耳を澄まさなければ分からない悲鳴だった。

 それもそうだろう。

 悲鳴を上げる彼らはポットのようなものに密閉されているのだから。

 そして彼らは、悲鳴を2・3回上げるだけで、“溶けてしまう”のだから。

 

 

「──」

 

 

 誰かが、息を呑んだ音がした。

 各々それが自身のものだったか、もしくは周囲の誰かのものだったかは分からない。探ろうともしない。

 だだ、怪盗団の誰もが目の前の光景から目を離せなかった。

 ポットへは次々と人が運ばれていく。運び込まれる人たちは、顔より下の自由が効かないよう拘束されており、頭を派手に揺らして叫ぶだけだった。

 ポットへと繋がれているのは、地上から伸びている管。一見毒ガスのような禍々しい気体が排出されており、それがたちまちポット内に充満。すると、収容された人が次々と溶けていった。

 人が溶けた後、ポットは派手な駆動音を鳴らす。その後、外に置かれたトレイらしきものへ何かを吐き出した後、ポットは沈黙。そしてまた科学者らしき者たちが、拘束されている人たちをポットへ押し込む作業を始める。

 階下ではそれを、ひたすらに繰り返していた。

 

 

「注入しているのは、地上で巻き上げた噂か」

 

 

 ジョーカーの声を皮切りに、全員がハッと意識を戻す。文字通りの、唖然とするような光景に、目を奪われ過ぎていた。

 

 

「そうみたいね。噂で、人を何かに変える研究?」

 

「何に変えてるんだろう。誰か、見えた人居る?」

 

「ワガハイには見えたぞ」

 

 

 モナが、トコトコと歩いて、彼らの中央に陣取る。

 仲間たちからの注目を集める彼は、猫形態であれば毛を逆立ているであろうと推測が付くほどに、怒っていた。

 

 

「カネだ」

 

「……は」

 

「カネだよ、ポットが輩出しているのは。見間違えるワケがねえ」

 

 

 全員が弾かれたように、再度ポットへと向く。

 人が噂によって消滅し、金銭へと変わる。

 しかし彼らの理解はいまいち確信へと辿り着いていなかった。

 具体的に言えば、筒内はどうしてこのような実験をしているのか。という疑問が、彼らの中には残る。

 各々が思考に耽る中、ふとパンサーが口を開いた。

 

 

「ねえスネイク。筒内って、パパラッチとか、ゴシップライターって呼ばれる人なんだよね」

 

「うん、そうだよ」

 

「ならあの溶けていく人たちってもしかして、芸能人だったり、する?」

 

『……』

 

 

 その発言を受けて、ぎりぎりまで顔を近付け、目を凝らし始める仲間たち。

 

 

「あの人、見たことあるわね。確か、お昼のワイドショーに出てた……」

 

「おい! 今運ばれて来たのって、土曜夜のバラエティ番組に出てたヤツじゃね!?」

 

 

 各自が、見覚えのある顔を見つけ始める。距離がある関係で明確な顔立ちは認識できないが、意識して判別しようとすれば、朧気程度すら把握できないほどの距離でもない。

 上の階の人体実験が何のために行われているかを、彼らは漸く把握した。

 

 

────

 

 

 身を隠しながら下の階へ降り、辿り着いた最下層の廊下。モナはオタカラを近くに感じているらしく、毛を逆立てて鼻息を荒くしていた。

 彼らがパレスへ潜ってから経過した時間は、かなりのものだ。道中度々休憩を挟んでいたものの、疲労を誤魔化せなくなりつつある。とはいえ既に最下層、ゴール前。ここまで来て引き返すという考えは、怪盗団の中にはない。

 

 

「そういえば、気味の悪い配色の壁は、もうなくなったな。あれは地上だけだったのか」

 

 

 不意にフォックスが口を開いた。

 彼がしたのは、歩いている廊下についてのコメント。気味の悪い配色とは恐らく、エントランスから延々と続いていた、迷彩色にような調和性が欠片もない、壁の落書きのことだろう。

 当初不快感を露わにしていた面々も、4階に行くに連れて色が大人しくなっていったため気にしなくなっていた。ただ1人、芸術家の素質があるこの男を除いて。

 そんなフォックスも漸くここに来て、違和感を感じなくなったと言う。

 

 

「まるでツンデレだな」

 

「は?」

 

 

 突如意味のわからないことを言い出したジョーカー。

 誰もか、疲労で気が狂ったのか。と思った。

 

 

「心の奥底を読ませないように、わざと表面をぐちゃぐちゃにしている、ということだろう。この内装の移り変わりを見るには」

 

「……警戒心の現れ、というか?」

 

「ああ。一見さんお断り、というやつだろう。まあ深く踏み込んだ所でこちらからお断りするんだが」

 

「まあそりゃ……で何でツンデレ?」

 

「弱みや本心を見せないようにして、気を張っている姿。他人を拒絶しようとしている姿。これはツンデレだろう」

 

「言い方ぁ」

 

 

 筒内=ツンデレ理論を既に己の中で確立させたジョーカーと、それに着いていけない仲間たち。それでも自信満々に言い切るジョーカーの姿に何人かは、そういうものか? と洗脳され始めていた。

 フォックスとクイーンにおいては、ツンデレって何? という反応だったが。

 

 

「まあ筒内がツンデレかどうかは置いておくとして、他人を拒絶しようとしている姿は気になるね」

 

「ほう、どこがだ、スネイク」

 

「えっと…………あー、ごめん、ただ漠然と」

 

 

 スネイクの答えを聞いて、若干考え込むジョーカー。

 彼は後に、「スネイクと同じように、何か疑問を持っている人」と尋ねる。

 それには、フォックスが手を上げた。だが彼にも、明確な理由は答えられない。

 ひとまず疑問を抱いたことだけを心に留めておくことにして、彼らは探索を続行した。

 

 

 そうして、ようやくたどり着く。

 

 

「見えたぞ、オタカラだ!」

 

 

 モナが声を上げた。

 彼の視線を先を全員が辿る。スネイクはその先に、白いモヤのようなものを捉えた。

 

 

「あれが、オタカラ?」

 

「ああ。顕現前のだがな」

 

「顕現前?」

 

「後でもう一回話す。みんな、もうひと踏ん張りだ、行こう!」

 

 

 そこは、何もない空間だった。

 ただただ広いだけで、家具も人気も何もない。

 ただ白いモヤのようなものだけが中央に浮かんでいる部屋。

 問題は、そこに入る手筈だ。

 外は流石に厳重な警備が敷かれている。そこを突破するのであれば、当日行き当たりばったりで行く他ないだろう。

 取り敢えず大して警戒されていない今は、囮と嘘情報を駆使し、見張りをその場所から引き離すことで対応。守衛さえ退かしてしまえば、入るのは容易かった。

 そうして彼らは、実物へと姿を至らせる前のオタカラを目の前にする。

 オタカラまでのルートは確保された。

 これ以上の長居は必要ない。というジョーカーの判断で、彼らはパレスを後にする。

 今日、彼らの戦いは成立することが証明された。

 決戦の日は、近い。 

 

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