立派な教師になる為に   作:撥黒 灯

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Outline of ideal image 【Ⅰ】

 

 

 疲れ切った身体を、ベッドに投げる。

 慣れ親しんだベッドにうつ伏せのまま倒れ込んだ潮田 渚は、1分に満たない程度の時間をそのまま何もせずに過ごした後、身体を反転。仰向けになり、部屋の電気が付いてないにも関わらず、右腕で目を覆った。

 彼が疲労を隠しもせずにぐったりとしている理由は2つ。

 パレス攻略に伴い体力がとてつもなく消費されたことと、最後のやり取りが心に残っていること。

 

 

 ……何も、言えなかったな。

 

 

 何故あの時、消えゆく筒内のシャドウに、少しでも前向きに消えられるように言葉を掛けられなかったのか。

 声を出そうとはしていた。しかし音に乗らず空気だけが彼の喉から出て行った。

 音を乗せられなかったのは単に、心のどこかでブレーキがかかったから。

 

 “悪には、悪を”。

 

 ペルソナとの契約の際、聴こえた声。悪逆に対しては、悪逆で返すことを是とした思考。

 その行為自体は、歴とした悪だが間違いではない。目には目を歯には歯をという言葉が浸透しているように、ある種の不文律──世間に黙認される行いである。仕返しというものは必ずしも善ではなく正当化もされないことではあるが、信念を通すという意味では、やらなければいけないタイミングも出てくるだろう。

 確かに今回の一件、“怪盗団”としてでしか解決できなかっただろう。渚は別に今回の一件について、彼ら団員に不満を抱いているわけではない。胸のモヤモヤは、自身に対してだった。

 渚の考えることは1つ。

 “改心”という反則技に頼らなければ解決できない、自分の力量。もしくはその方法に頼らずにすんだであろう、Ifの解決策が思い付かないことだ。

 

 

「……」

 

 

 不意に憧憬の対象(恩師の姿)の姿を思い浮かべる。彼は突拍子もない言動や理に叶った行動で、生徒を正解に導いてきた。思い出す場面から芋づる式に、輝いていた1年間の思い出が掘り起こされていく。

 言うまでもなく、逃避だ。

 それを自覚しつつも、楽しかった過去へと想いを馳せていると突然、ポケットに入れたままだったスマホが鳴動した。

 

 

『大丈夫か?』

 

 

 怪盗団のリーダーである、雨宮 蓮からの連絡。

 そのメッセージに、心配を掛けたままだったことを思い出す。

 

 

『ごめん。もう家に付いたよ。僕は大丈夫』

 

『そうか』

 

 

 渚はここで一回スマホを閉じる。

 しかし、少々素っ気なかったかと思い直して、再度メッセージ画面を開いた。

 

 

『今日はありがとう』

 

『こちらこそ助かった。ありがとう。それで話は変わるが、近日中に時間をもらえるか? 少し話したい』

 

 

 蓮からの問い掛けに、逡巡の様子を垣間見せた渚。

 とはいえ彼にも、燻っていても仕方ないことは分かっている。

 結局、断る理由もないなと思い至り、了承することに。

 

 

『大丈夫だよ』

 

『なら明日、どこかで待ち合わせないか?』

 

『うん。どこにする?』

 

『渚が来やすいところで良いぞ』

 

『僕もどこでも良いけど……蓮さんは四軒茶屋に住んでるだっけ?』

 

『ああ。他には銀座とかも通学路だから寄るが』

 

『……それなら銀座の方が出やすいかな』

 

『なら銀座で。学校終わり次第行くから、先に着いたらどこか適当なところで待っていてくれ』

 

『分かった』

 

『それじゃあまた明日』

 

 

 挨拶に返事をして、スマホを閉じる。

 

 

 ……お腹、空いたな。

 

 

 渚は気付かなかったが、身動きを取るのが億劫になるほどの陰鬱とした気持ちが若干軽くなっていた。

 食欲が湧く状態へと誘ったのは蓮との会話だったが、当然現状に気付いていない蓮に、その意図はない。

 また、これが蓮の狙って引き起こしたことであれば渚自身気付いたかもしれないが、自身より他人の機微に敏感な少年は、終ぞ己の変化を自覚することはなかった。

 

 

────

 

 

 渋谷駅前。

 喫煙所に近づく気にはなれなかった渚は、電車のモニュメントの前で蓮を待つことにした。

 背中を緑色の車体に預け、ふうっと一息吐く渚。端から見たら疲れている男子? 高校生であるが、事実彼の疲労は溜まっている。

 約束を取り付けてきたのは先方とはいえ、年上を待たせるという行為はどうだろうかと寸前で思い至った渚は、少し急ぎ足で電車の乗り継ぎを終え、渋谷までやって来ていた。

 その所為か若干息は乱れ、頬は高揚し、額に汗が滴っている。何故か通りかかる女子高生や男子高校生が一瞬チラリと目を向ける程度の色っぽさを醸し出されていた。なお本人は当然のごとく気付いていない。時は7月。夏の魔力である。

 一方、待ち人である蓮はといえば、渚とその周囲の反応を数秒眺めた後、改めて合流へ向けて足を進めた。

 動きを止めていた理由は単純。渚が制服姿だったからだ。今まで蓮は私服の渚しか見たことがなかった為、少し新鮮で驚きを得ていた。

 決して渚を男子高校生がチラ見する光景が面白かったとかではない。

 

 

「渚」

 

「あ、蓮さん。こんにちは」

 

「こんにちは。待ったか?」

 

「ううん、今来たところ」

 

「……オマエら、デートじゃねんだから……いや、もしかしてそうなのか?」

 

 

 渚が蓮と会話していると、別のところから聞き覚えのある声がした。渚がその姿を探すより前に、蓮の方に掛けられた通学鞄から、黒い物体が地面へ落ちる。

 2本の足で音なく着地したのは、モルガナだった。

 

 

「デートか。確かにこのご時世、そうとも言うかもしれない」

 

「え、そうなの!?」

 

「言わないかもしれない」

 

 

 一瞬で発言をひっくり返す蓮。渚もモルガナも一瞬置いていかれた。沈黙の中、先に復活したのはモルガナ。付き合いが長い分耐性があり、彼の方が立ち直りの速さに一日の長がある。

 

 

「どっちだよ!! ……まあ良い、それじゃあ、ワガハイは先に帰ってるからな」

 

「待っていても良いんだぞ」

 

「ここは人混みに酔いそうだし、合流できるか分かんねえだろ」

 

「それもそうだな。すまないモルガナ」

 

「別に。……楽しんでくるんだぞ、ナギサ」

 

「え、うん。ありがとう。モルガナ」

 

 

 それだけ言い残して、颯爽と四足で駆けていくモルガナの背中を見送る。

 1人で帰して良かったのかと聞くと、いつもあんな感じだと返答が来た。

 蓮とモルガナの関係性も、いまいちよく分からない所だ。いい機会だから聞いてみようかと渚は思ったが、先に蓮が移動をし始める。

 

 

「行こうか」

 

「うん。……えっと、どこに行くの?」

 

「…………そうだな」

 

 

 そう言って、顎に手を当てる蓮。

 

 ……あ、考えてなかったんだ。

 

 渚は言葉に出さずに驚く。誘われるくらいなのだから、何かしらの目的があるのだと推測していたからだ。渚視点、付き合いが浅いながらも築きあげてきた雨宮 蓮の人物像では、1つ1つに目的を持って取り組むような気がしていたので、返答がスムーズに返ってこないことにまず違和感があった。

 まあ、目的に場所は関係ないのかもしれない。と思い直す。目的がなかったらなかったで別に渚の構う所ではない。ただ今日の予定が単に年上の知人と遊びに来たという事実に変わるだけだから。

 

 

「この辺で時間を潰すとしたら、駅地下、ジム、映画館くらいか……さて」

 

「結構手あたり次第いく挙げてくね……?」

 

 

 渚の耳に引っかかったのは、時間を潰すという表現だ。何かしら、この後に予定があるような口ぶりだったが、その真意はまだ測れない。

 挙げられた選択肢の中なら何が良いかな。と渚は考えてみた。恐らく映画が1番楽しそうだ。何が上映しているかは分からないが、感想を言い合うのも楽しいだろう。

 

 

「……そうだな、駅地下を回るのはどうだ?」

 

「……駅地下」

 

 

 渚の想いとは逸れたが、決して嫌な選択ではない。

 地下には色々なショップがあり、かつ範囲が狭い。放課後の短い時間でふらっと回る分には十分な店舗数だ。渚に断る理由はなかった。

 

 

「良いね、行こう」

 

 

 頷く蓮。

 そのまま2人で、他愛無く、当たり障りのない話をしながら、駅の方へと戻っていった。

 

 

────

 

 

 合流から2時間ほどが経った頃、2人はファミレスの席に座っていた。

 ドリンクバーで汲んだ飲み物を手に取り、喉を潤す。

 夏と言うことで水分を持ち歩いてはいたけれど、腰を据えて休むという行為はまた違うなと2人でしみじみと感じた。

 

 

「それにしても蓮さん、顔が本当に広いんだね」

 

「そうか?」

 

 

 今日1日を振り返りながら、渚は蓮に話しかける。

 彼に同行して分かったのは、相変わらずの底知れなさ。

 

 

「ここの店員さんとも顔見知りみたいだし、来る途中に寄ったコンビニでも挨拶されていて、駅地下の花屋でも話しかけられてたでしょ」

 

「花屋とコンビニは時々バイトしてるからな。ここにはよく雨の日とかに勉強しに来る」

 

「へえ。勉強好きなの?」

 

「ああ。最初は頭がいいと思ってもらえれば周囲の目も変わるかと思って勉強を始めたんだが、1学期の期末はぎりぎりトップ10には入れなかったからな。2学期の中間こそ1位を取るのが目標になった」

 

「……そっか」

 

「意外か?」

 

「ううん、別に。勉強はモチベーションがないと続かないだろうから、はっきりとした目標があって良いなって思って」

 

 

 渚にとっては思っていたよりもしっかりとした反応が返って来て、驚いたを超して感心した。

 誰かを見返したい、という欲求は強い原動力になるけれど、終わりがあっけなくやってくる。勉強の他にも見返す方法があるからだ。

 それに比べてテスト順位に対する固執というのは分かりやすく勉強でしか解消できない。それに維持ということを考えれば、達成した後も戦い続ける必要がある。

 故に渚は純粋に、良い目標だなと思ったのであった。

 

 

「それに勉強ができないとも思ってないよ。普段のやり取りから、蓮さんと真さんは頭が良いんだろうなって思ってたし」

 

「そこで杏たちの名前を出さなかったこと、後で本人たちに言っておく」

 

「えっ!?」

 

「冗談だ」

 

 

 冗談にひっかかり本気で驚いた渚が、跳ねた心臓を落ち着かせる。数秒経って、ジト目を蓮に向けた。一方の蓮は澄ました顔で、すまないと笑う。

 蓮は真顔で冗談を言うので、相変わらず本音との区別が付きづらい。その質の悪さは渚も知っているが、蓮も自覚してやっている節があるので、慣れるまで時間が掛かりそうだった。

 

 

「まあ実際、各々得意不得意がはっきりしているだけだし、テスト外の所で秀でるものがあったりもする。杏は帰国子女で、英語が話せるし」

 

「へえ……!」

 

「? どうした?」

 

「あ、ごめん。僕も英語が好きだからさ」

 

「そうか。なら今度話してみると良い」

 

 

 実際に外国に住んでいた人に話を聞ける機会はそう多くなく、同年代ということであれば殊更に希少だ。忘れないようにしようと渚はしっかりと脳内のメモ帳に書き込む。

 

 

「祐介は美術系ではかなりの実力者だ。……いまは少しスランプ気味だが、復活すればその名を全国に届けることもできるだろう」

 

「ああ、芸術家……道理で」

 

 

 一緒に話している際に出てくる言葉から察するに、常人とは異なる観点を持つ人間なのだということには想像がついていた。美術系に精通しているということで、祐介のイメージ像がだいぶはっきりと固まってくるほどには、渚の中でしっくりきている。

 だとすればパレス攻略時に度々出てきた班目という人物名は、やはり祐介に掛かっているのだろう。班目 一流齋は、一般層にも知れ渡っている美術界の重鎮の名だ。ごく最近、個展や怪盗団の影響で一層知名度が上がったが。

 

 

「竜司は…………まあ良いか」

 

「急に雑!?」

 

「いや、表現しようとすると難しいんだ。まああれだ。付き合えば分かる良さがある人間、と言っておこう」

 

 

 人の良さという観点で見るのであれば、渚にも分かることがあった。

 以前、渚を食事に誘ってくれた時のような人に物怖じしない大胆さや優しさは、一朝一夕で付くものでもない。その点で言えば渚は坂本 竜司という人間を好ましく見ている。

 ただ、それはそれとして、蓮が竜司の学力や能力的な事についての明言を避けたことにも気付いていた。気付いた上で触れないことを選ぶのだが。

 だからこそ蓮も、話を変えることにした。

 

 

「渚も勉強はできるんだろう? 附属高校の方はあまり知らないが、蛍雪大学の方は聞いたことがある。結構上位の大学だよな?」

 

「そうだね、難関大学だよ。付属高校も……入試はすごく難しかった」

 

 

 入試の時期を思い出す。色々なことが重なっていて、それでも1つ1つを解決しながら、全力で望むことができた受験のことを。

 当時の結果は補欠合格だった。その後の振り分け試験では先取り予習の成果もあり、上位の成績を取ることができたが、決していつも余裕があったわけではない。

 それでも、蛍雪大学附属高校に入ったことは後悔していなかった。

 

 

「だろうな。どうしてそこに入学しようとしたんだ? 何の理由もなくそんな難関校に挑戦したわけでもないんだろう?」

 

「うーん、理由はいくつかあるけど、おおまかにいえば挑戦と、後は恩返しかな」

 

「恩返し?」

 

「一番最初は、母さんが蛍雪大学への入学を希望してたから。次に将来の選択肢を増やすため……だったんだけど。今は、そうじゃなくて……その、夢、があるから」

 

 

 途切れ途切れではあるが、渚ははっきりと夢という単語を口に出せた。

 まだ口に出せる喜びを彼は持っていて。

 口に出したことで喜びを覚えたことに、悲しみを覚えた。

 

 

「……」

 

 

 己のやりたいことを素直に口に出せない状況を、渚は過去にも経験している。恐らく喜びは、その当時と比較して沸きあがってきたものだ。

 対して悲しみは、解放されたはずの過去の柵と比べるほどに、今の状況を心が重くとらえていたことに気が付いたから。

 

 

 

 

 

 

「渚はすごいな」

 

「……え?」

 

 

 唐突に、蓮が渚を褒めだした。

 気付けば俯いていた顔を上げて、渚は対面の彼の表情を見る。

 蓮の眼差しは、とても穏やかだった。

 

 

「将来のビジョンがあって、きっとそれから逸れないように行動しているんだろう?」

 

「……うん」

 

「その歳で明確な道筋を立てていて、その為の努力が出来ている。きっと出来ている人の方が少ないだろうに」

 

「そんなことないと思うけど」

 

 

 それは、渚の本心から来ている言葉だった。現に彼の身近にいた人間たちは、将来の目標を決めていて、その目標に対するアプローチまで整えていたから。

 しかしその環境の、椚ヶ丘中3年E組というクラスの特殊さを、渚は失念していた。

 

 

「いや、将来の夢が決まってない人、ぼんやりとしている人、決まっているけれど道筋が不確かな人は多いはずだ。俺がそうだから、っていうわけじゃないが、それでもみんな、“迷い”を抱えて生きていると思う」

 

「……」

 

「迷って、色々なことを考えて、間違えて、訂正して、漸く将来のビジョンっていうのを形成していく、んだと俺は思う」

 

 

 その言葉は、蓮の今までの歩みによって絞り出されたものだ。仲間たちのこと、知り合った同世代の友人、東京で出会った大人たち、色々な人たちとの会話や思い出を振り返り、それぞれの迷いと、戦いを思い返し、渚への言葉を型取らせている

 同世代では少ないだろうが、色々な大人子どもの悩みと向き合っている蓮だからこそ、吐ける言葉だ。

 渚はその背景を知らないがしかし彼の言葉が軽いものではなく、またただの気休めではないことを理解していた。

 加えて渚の心に染み入った理由の1つに、蓮の話がひとつの記憶に結びついたことが挙げられる。

 

 

────────

 

『君たちが平等に授かり、いづれ平等に失う才能があります。それは、若さです。若さという才能が逃げないうちに、何度も失敗して、修正して、立ち止まらず前に泳いで行ってください』

 

────────

 

 

 それは中学時代の恩師に、将来なりたいものを報告した際に受け取った言葉。

 同じことを言っている、と渚は思った。

 同じことを言われていたことを、思い出した。

 

 

「……迷って、失敗して良い、か」

 

 

 渚の記憶の中の恩師は、迷ってはいけないなどとは言わなかった。間違えてはいけないなどと、決して口にしていない。

 それどころか、間違って結構、とか言いそうだと、渚はふと笑みを零した。

 

 

「……うん、そうだね。その通りかもしれない」

 

「……良い顔になったな」

 

「蓮さんのお陰だよ」

 

 

 大事なことを思い出させてくれた蓮に、渚は立ち上がって頭を下げる。

 良い先輩に出会えたことに、感謝をした。

 

 

「……ねえ、蓮さん」

 

「なんだ?」

 

「僕は、立派な教師になりたいんだ」

 

 

 蓮に出会わなければ、きっと大切なことを忘れてしまっていただろう。

 高校生活の出足を挫かれたせいか、ずいぶんと消極的だった自身の行動を思い返して反省する。

 “どうして、高校に入ってから挑戦らしい挑戦をしてこなかったのか”。

 “現状維持にばかり、気を回してしまったのか”。

 恥じ入る点は、多かった。

 

 

「へえ、どんな教師なんだ?」

 

「詳しく言うと難しいけれど、中学時代の僕や、クラスを救ってくれたような先生になりたい」

 

 

 そして同時に、見ているゴールの遠さも再確認する。そこに辿り着く方法は見えていたわけではなくて、自分が勝手に決めつけていたもの。

 まだ渚は、己に何が足りないのかすら、理解していない。

 

 

「……そうか。誰かを救える存在っていうのは、難しい目標だな」

 

「うん。すごく難しい。どうしたらなれるかも正直分かってない。さっき蓮さんはすごいって言ってくれたけれど、そうじゃないんだ。僕もまだ、迷ってる。迷う必要があった。きっと、今のままじゃ駄目なんだってことが、いま、分かった」

 

 

 だから。

 渚はそう区切る。蓮の目を、まっすぐ見据えた。

 

 

「蓮さん、手伝ってもらえませんか? 僕が、立派な教師になるための準備を」

 

「!! ああ、俺で良ければ」

 

 

 一瞬驚いた表情をしたものの、蓮はすぐに力強く頷いた。

 そして、右手を渚へ差し出す。

 これから一緒に頑張ろうという、握手を求めて。

 

 

「~っ!! ありがとう!!」

 

 

 パッと笑顔を咲かせて、渚は蓮の手を両手で取る。

 力強く握り、ありがとう、ありがとうと上下に振った。

 そのように一通り喜んだ後で、不意に渚は思いつく。この話では、蓮に何のメリットもないことに。

 

 ……どうしようか。

  

 返せるものは、少ない。当然金銭面での返礼は難しく、「いつか蓮さんが困ってる時は手助けする」なんて、本当に機会がやってくるかも不確かな約束も、渚はしたくなかった。

 そんな渚が渡せるものなど、1つしか思い至らない。

 

 

「代わりにと言ったら何だけど、ちょっとした“コツ”を教えるね」

 

「技術?」

 

「うん。蓮さんが習得できるかは分からないけれど、いつか必要になるかもしれないから」

 

 

 これから教えるものは、技術であっても、暗殺術などではない。教わった身体の動かし方などでもない。戦うための力はきっと、誰かに教えてはいけないものだと思ったから。

 仮に暗殺技術やそれに関連する体術の出所を聞かれても、渚に応える術はない。緘口令が敷かれていることについて、事細かに話せないのは自明の理。

 

 故に。

 渚が教えるのは、彼が、彼自身の手で磨き上げてきたもの。

 

 

「人の“意識の波長”の、捉え方について」

 

 

 磨き抜かれた観察眼。とてもじゃないが一朝一夕で真似できるものではない。

 しかし、蓮もかなり特殊な目を持っていることを、前回のパレス攻略で見せつけられている。

 やってみる価値はあるはずだと、渚は思った。

 一方の蓮は、渚が言っていることの意味がよく分からなかったものの、やる気の渚を見て、ならせっかくだし教えてもらおうと挑戦的に笑った。

 

 

「それじゃあ、取引ということで」

 

「うん。改めて、これからよろしく」

 

 

 






 晴れてコープ解禁。
 コープアビリティ1は作中でちらっと言った意識の波長の下位互換である、「シャドウ観察」(ネーミングセンス×)。
 アビリティ内容は、サードアイ発動時、敵シャドウの感知範囲が分かるというもの。
 具体的に言えば、どの角度からならどこまで近づいても気づかれないかが分かる、というものです。サードアイ強化アビリティですね。

 ……それで、あの、コープについてなんですが、
 大変申し訳ございませんが、“悪魔”ということでお願いします。
 一応、決めた理由について言い訳させてください。

 渚が悪魔コミュになった理由。
 暗殺教室開始時、彼は恐らく刑死者だったと思います。
 刑死者/吊るされた男(自暴自棄)
  ↓母の2週目であることの否定で次へ。
 死神(停止)
  ↓教師になるという夢を見つけて再スタート。次へ。
 節制(調和・自制)
  ↓高校入学と同時に崩壊。次へ。
 悪魔(新たな出会い・回復中) ⇐今ここ。

 というわけで、悪魔の逆位置が現状の渚君に当て嵌まるかなと思っての判断です。
 全国の原作ファン及び大宅さん推しの方々には申し訳ございませんが、本作の悪魔コープは渚君になります。
 私としても魅力的な原作キャラを減らしたくない中で、断腸の思いでの判断しました。ご容赦ください。
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