立派な教師になる為に   作:撥黒 灯

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Believe in love 【Ⅱ】

 

 

 方針を決めてから、怪盗団の動きは早かった。

 次の日のうちには話を纏め、扉越しとはいえ、佐倉 双葉本人との接触に成功。

 そうして話を進めるうち、彼女はパレス侵入への最後の鍵。欠けていたパスワードを零した。

 彼女は家の居心地を苦しい、と。部屋を『墓場』だと。

 

 

 “『佐倉 双葉』は、『佐倉 惣治郎宅』を、『墓場』だと思い込んでいる”。

 

 

 判明したキーワードに憤慨しつつも、怪盗団は遂に、ターゲットのパレスへと侵入を果たした。

 侵入に際し、オタカラの眠る場所から離れた場所に繋がってしまう等の紆余曲折はあったものの、その本殿とも言える中核の建物にはすぐにたどり着く。

 中核。つまりは墓場がそこにはあった。世界で最も有名と言っても過言ではないであろう王墓。ピラミッドが。

 潮田 渚──スネイクの記憶の中には、実物のピラミッドがある。中学卒業前の思い出作りと称して、担任に40カ国ほど連れまわされた際に見た。

 ただ、その時よりも至近距離で見上げており、かつこのまま内部を攻略しようと言うのだ。受ける印象も大分違う。

 

 中へと入った彼らを待ち受けていたのは、頂上へ続くかとも思える、長い階段だった。

 

 

「しかし美しい。古代の神秘だな。やはり写真より実物は迫力がちがう」

 

「えっと、祐介さん、これも実物じゃないよ? 僕も実際には中に入ったことはないけど、ここまで冷房が効いているわけでも、あちこち電気の光がある訳でもないと思うし」

 

「まあ、あくまでここは双葉の心の中。それも本来は彼女の部屋であるはずの場所よ。そう思うと冷房が効いててもおかしくないし、どこか近代的でも可笑しくはないわね」

 

「確かにな。アイツの部屋の中にはデカいパソコンもあったし、そもそもあんなハッキング能力を持つ身だ。このピラミッドの光景も納得ってもんだぜ」

 

 

 ピラミッドの内部はとても涼しく、ここがあくまで認知上の空間であると怪盗団の面々に強く意識づけた。実際の砂漠の上にあるピラミッドは、どんなに内部がひんやりしてようと、快適な室温を保ったりはしないであろう。

 またメンバーの中で唯一、双葉の部屋へと押し入ったことのあるモナは、ピラミッドの内装に見える、どこか電脳的な光にも納得の色を示した。その感想は他のメンバーにもすぐに伝わり、簡単に納得を引き起こす。

 今まで双葉はアリババというコードネームで、ハッキング等を利用し怪盗団に接触してきたのだから。嫌でも少女がその分野に近しいことを思い出した。

 

 

「? 待て。実物の中に入ったことはない、ということは、渚は実物を見たことはある、と?」

 

「……ま、まあ」

 

「是非、話を聞かせてくれ。外観の違いなどを詳しく」

 

「後にしろ後に。今回は楽勝っぽいし、ちゃちゃっとお宝頂いて帰ろうぜ」

 

「そんな簡単に行くと良いけど」

 

 

 いつも通りブレない祐介を窘めつつ、彼らは階段を登る。

 階段を登る彼ら怪盗団の服装は、ただの高校生と同じく制服や私服のままだ。怪盗としての服は、パレスの主に警戒されていなければ現れない。

 つまり佐倉 双葉に、怪盗団を拒む意志はないということ。

 彼らの進行は阻まれることなく、順調に足は進み続けた。

 

 

「む? 誰かいるぞ!」

 

 

 ──そんな簡単にいかないとは思った。と誰かが心の中でぼやく。

 

 

 

 そこにいたのは、1人の小柄な少女だった。よくある南国の民族衣装で、かつ一目で高貴な者用の服だと分かるものを着こんだ、日本人の少女。

 モルガナは少女の風貌を見て、彼女が佐倉 双葉のシャドウであると断言した。

 そうと分かればと怪盗団の面々が次々に話しかけるが、しかし反応がない。

 各自のフラストレーションが溜まる中、漸くシャドウが口を開くかと思えば。

 

 

『我が墓を荒らすもの。何しに来た』

 

 

 と、排他的な口調で蓮たちに問い掛けてくる。

 その後のやりとりは、不可解なものだった。

 心を盗んで欲しいと言った割に、盗れるものなら盗って見ろと言う。

 己の心の中だと言うのに、他人事のようにその場所について語る。

 

 

「挑戦的だな」

 

「ツンデレというやつか」

 

「……ねえ蓮さん、何かが食い違ってないかな」

 

「ああ……祐介、これはツンデレじゃない。デレが無さそうだ」

 

「その食い違えは指摘してないよ!?」

 

「冗談だ」

 

「真面目にやりなさい」

 

 

 真の一喝に、冗談を言って濁した蓮も、改めてシャドウと向き直る。

 

 

「1つ問う。お前の真意は、何処にある?」

 

『……』

 

「佐倉 双葉が本当にしたいことは、何だ?」

 

『……』

 

 

 黙秘。

 代わりに、と言わんばかりに、どこからか声が聞こえてきた。

 

 お前が殺したんだ。

 薄気味悪い。

 疫病神。

 お前のせいだ。

 人殺し。

 近寄らないで。

 

 それは、佐倉 双葉が受けた罵詈雑言。

 彼女の心に残る、傷。

 彼女の心を歪めた、悪意。

 

 

『ここには母もいる。わたしも死ぬまで、ここにいる』

 

 

 その言葉を最後に、双葉のシャドウは消えた。

 そしてその直後、蓮たちの姿が、怪盗団の服装へとシフトする。

 

 

「警戒された!?」

 

「どうなっている?」

 

「クソ、なんだってんだよ!」

 

 

 事態に追いついていない彼らに、更なる追い打ち。

 ひと際大きい音が鳴り響き、大きくピラミッドが揺れた。

 怪盗団と双葉のシャドウが話していた階段中腹めがけて、頂上から大きな球が転がってくるのが見える。

 

 

「マズい……マズいぞ、オマエら走れ!」

 

 

 モルガナが言い切るより先に、各々が階段を駆け下りだす。

 時間にして10秒余り。彼ら体感的には刹那の出来事。

 あまりにも強制的な拒絶を受け、怪盗団は一度出直すことを決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「しばらくここをアジトにしようぜ」

 

 

 現実世界に帰還した後の話し合いで、竜司がそう言いだす。

 今までは渋谷の連絡通路を集合場所にしていたが、ターゲットが四軒茶屋に居るのであれば、一度渋谷に集まって移動は効率が悪い。

 しかしそれは、蓮の負担にもなりそうだ。

 渚は蓮の顔を伺う。

 

 

「蓮さんはそれで大丈夫なの?」

 

「問題ない。むしろ近くて嬉しい」

 

 

 どうやら本心らしい。

 それなら良いか、と渚も納得した。

 

 

「じゃあ、次からはここをアジトとして使わせてもらうわね」

 

「ああ。……勿論、アジト云々は抜きにして、遊びに来てくれても構わない」

 

「そうか、恩に着る。ちなみにコーヒーやカレーは」

 

「勿論有料だ」

 

「……そうか」

 

「ユースケはほどほどにしとけよ……」

 

 

 しかし、冷房代が浮くのは有り難い。と笑う祐介。節約と言えば聞こえは良いが、色々と彼の将来が不安になる渚だった。

 

 

「そういうことなら、僕もお邪魔しようかな」

 

「待っている。ゲームや映画もある分は見放題だ」

 

「よっしゃ、じゃあ少し早く集まって遊ぶってのもアリだな!」

 

「そうね。少し早く集まって宿題を進めてもらおうかしら」

 

「…………いやほら、宿題は1人で集中して進めるし」

 

「先に終わらせておけば後々楽になるんだから、やっちゃえば良いのに。最終日に泣きついてきても助けないわよ」

 

「……ゼンショシマス」

 

 

 目をそらし、片言の日本語で返事をする竜司に、絶対やらなそうだな。と全員が思った。

 

 

「……い、いやぁ、とんでもねえ夏休みになりそうだなぁ? 世界的ハッカー相手にして、ピラミッドでオタカラ探しだぜ?」

 

 

 話題を変えようとしたのか、竜司が笑みを浮かべながら言う。

 その言葉が、妙に渚の胸に引っかかった。

 

 

「あんたさぁ、なんで楽しそうなの? 怪盗団存続の危機だよ、わかってる!?」

 

 

 杏の容赦のない返答に、その通りだな、と渚は思った。

 何事も楽しむのは才能かもしれない。しかし、困っている人がいて、苦しんでいる人がいて、それを助けようとする状況を楽しむのは、どうなのだろうか、と。

 戦いを楽しむ、危機を前にして気分が高揚する、といったものとはまた別種の感情のように思える。後者ならば渚にも覚えがあった。その違いがなにか、今の渚には判断つかない。

 判断がつかないから、いったん心に浮かんだ疑問には、蓋をすることにした。

 

 

 

 

 日を改めて、パレスの攻略を進める怪盗団。

 彼らの中でも、パレスの攻略が最も長い4人──ジョーカー、スカル、モナ、パンサーが、その道中の流れに違和感を覚えた。

 他のパレスに比べ、謎解きの要素が多い、と。

 

 謎解き。つまりは、答えが用意され、解かれることを前提とした謎が設置されているということ。

 クイーンやスネイクは過去のパレスのことを知らず、その観点には辿り着かなかったが、そういうことであれば見方は変わってくる。

 

 

「双葉は、何かを伝えたがっている?」

 

「そもそも心を盗んで欲しいと言ったのは双葉本人よね。だからスムーズにオタカラへとたどり着けるよう誘導されているのかしら」

 

「いや、だとすると最初に拒絶した理由に説明がつかない」

 

「……確かに。あんなことしなくても、そのまま階段を登らせてくれれば、改心できたもんね」

 

「じゃあ、謎解きを利用して、何かをこっちに教えようとしている、とか?」

 

「伝えたいことがあるのなら、なぜ初めからそれを言わない?」

 

「……そこがどうにも引っかかる。全員、見落としがないように一層注意して掛かろう。分かってはいたが、どうやら一筋縄ではいかなそうだ」

 

 

 様々な仕掛けを躱しながら、彼らは話し合い、思考を進める。

 また3体、シャドウが出てきた。フォックスが先陣を切って敵を切り結び、ジョーカーが追撃して弱点をつく。スカルの追撃で相手を気絶させ、弱ったところをパンサーの火力で一薙ぎ。

 彼ら怪盗団が得意とする戦術の1つが嵌った。そうした戦闘を数回繰り返した後、前衛と後衛の1部が入れ替わる。

 各々の消耗具合によって前線に出るメンバーを入れ替えつつ、パターン化した攻め方を繰り広げる。人数が増えて来て、取れる策が増えた。ジョーカーは自身の労力を以前のものと比較しながらそれを実感しつつ、自身の活かし所を含め、全体に注意を配り続ける。

 そんなジョーカーの負担を減らすべく、全員が己の得意な所を活かす形でカバーをしていた。例えばスカルは先陣を切って相手に切りかかる。フォックスは場の違和感に気を配る。パンサーは全員の顔色を確認する。モナは敵の情報を確認する。クイーンは解けていない謎を明かす。等々。

 ではスネイクは、と言えば。

 主に彼が自身に課した役目は、索敵と不意打ち。スカルの役割がジョーカーの指示を待って行われるものなら、スネイクのそれは独断で行われるもの。指示が飛ぶより先に最適なタイミングを逃さないための初撃を担っている。

 

 

「ッ!! 崩したよ!」

 

「流石だぜスネイク! ワガハイも続くぞ!! “ゾロ”ォ!!」

 

 

 鮮やかな追撃が繰り広げられる。フェイントも交えたペルソナによる物理攻撃で、相手の体勢を大きく崩し、すかさず生まれた隙をジョーカーが突いた。

 そうして、周囲の敵を一掃した彼らは先へ進む。

 

 

 

 

 パレスを攻略していく中で、怪盗団の面々は3枚の壁画パズルと出くわした。それぞれ解き明かすことで、当時の情景ややり取りなどが聞こえてくる、謎の仕掛けだ。

 それらを見たことに加え、気まぐれのように現れるシャドウ双葉が仄めかす内容も照らし合わせることで、怪盗団は1つの推察をした。

 佐倉双葉は、母親の死の原因が自身にあることを深い傷のように背負い込んでおり、責任を取るにはそれこそ、自身の死を選ぶべき、と考えているのでは。

 ピラミット型のパレス。ピラミットは王の墓。このパレスの王──主の双葉。

 それらすべてが、彼らの頭の中で繋がる。

 

 

「子供が甘えるのは、当然だと思うけどな……」

 

 

 目にも耳にも焼き付いている、母親に双葉がきつく当たられていた壁画を思い出し、パンサーはそう零した。親が甘やかすのは義務ではないが、子が甘えるのは当然の権利だ。

 

 

「でもよ、寂しい子供時代だったんだな」

 

 

 スカルが悲しそうな声色で、心なしかいつも纏っている覇気を潜ませて、そう発言する。親に甘えられず、拒絶されているのを見たら、誰もがそう思うだろう。

 スネイクはそこに、少しのひっかかりを覚えた。

 

 

「……そこまで冷たくされていたのに」

 

「?」

 

「お母さんの死に責任を感じ続けるなんて、よほど好きだったんだね」

 

 

 最初は優しかったのかな。と感じ入るスネイク。自身にも昔、母親との仲が良好とは言えなかった時期がある。母を怒らせたら怖い。どうしたら受け入れてもらえるのかを考え続けている。そんな時期が、彼にもあった。

 けれどもそれは、母の優しさを引き出すための好意。攻撃されないための守りの行動であった。ポジティブな感情から生まれた行動ではなかったと言えるだろう。

 対して双葉はどうか。母が存命であるスネイクに感情を推し量ることはできるはずもないが、母親の呪縛にとらわれたことのある人間として、彼女の心情に寄り添ってみようと試みた。

 しかしどうあがいても、難しい。

 逆に言えば、今まで見てきた双葉の環境からでは、いくらスネイクたちの認識できていない外野からの圧力などがあっても、今の彼女のような状況にはならないのでは。とまで考えられる。

 つまるところ、今怪盗団には見えていない双葉の母親の一面を、双葉が知っている。それゆえの死への罪悪感なのだろう、と結論付けるしかない。

 

 

「お母さんと仲良かった時期もあったのかな」

 

「そういえばマスターが、母親は本当に可愛がってたって言ってたよね。普通の仲が良い親子だったって」

 

「……外面だけ良く見せてたんじゃねえの?」

 

「ううん。仲の悪い親子が、死後何年も、それこそ自分の命を以て償おうとするほど、その後悔を引きずるかな?」

 

「性格によっては有り得るけれど……確かに言われてみれば不自然な気もするわね。本当に仲が良い時期があって、その時期のことを双葉が引きづっている、とか?」

 

「じゃあなんで、双葉の母親はこうも冷たくなっちまったんかね」

 

「研究が上手くいかなかったとかか?」

 

「仕事が上手くいかなくなって、私生活にも悪循環、か。よくある話だな」

 

「でも、それなら育児ノイローゼで死んだってだけの責め方をされなくない?」

 

「……確かに。それで双葉だけが責められるのはおかしい……」

 

 

 降って湧いた矛盾のようなものに、頭を悩ませる怪盗団。

 そういうときに、切り口を変えて見れるのは、頭脳派の人間の強みだろう。

 

 

「……もしかして」

 

 

 嫌な可能性を思いついたクイーンが、言葉に出しながら、思考を纏める。

 

 

「いま私達が見たのは、すべて双葉の認知。そのそもそもが、捻じ曲げられているとしたら?」

 

「どういうこと?」

 

「前に、遺書のシーンを見たでしょう? あの光景みたいに、周囲の大人に有りもしない言葉と罪を投げつけられて、自身の中の母親との思い出を、悪いものに改竄してしまった……とか」

 

「……つまり、育児ノイローゼと言われ続けたことで、実際の思い出をそのエピソードに沿ったものへと自身で作り変えてしまった、ということか?」

 

「んなもん、洗脳と同じじゃねえか……!」

 

「有りもしない罪に、双葉ちゃんは苦しめられているっていうこと?」

 

「推測でしかない。推測でしかないんだけど、そう思うとなんでパレスが私達に謎解きをさせているのかも、説明ができちゃう」

 

「心を覆う偽りを、暴かされていた。ということか」

 

 

 ジョーカーが今回のパレス攻略の本質を見抜く。

 すべては確証のない推測で、飛躍に飛躍を重ねた憶測でしかない。

 それでも、墓を暴いた結果出てきたものが、双葉にとっての救いであってほしいと願う。

  

 

 

 

 そうして彼らは、迷宮と化したピラミッドの内部を駆け抜け、オタカラへの最後の道らしきものへとたどり着く。

 最後に道を阻むものは、現実の佐倉 双葉の、認知の壁。

 “自身の部屋には誰も入れない”という思い込みから、強固な要塞となった扉だった。

 

 

 

 現実のわたしに招いてもらえ。

 シャドウ双葉からそんな助言をもらった怪盗団は、いったん探索を切り上げ、現実へと帰還することを選ぶ。

 さらに日を改めて、彼らは双葉に部屋の扉を開けてもらおうとお願いにいくことにした。

 

 

 

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