立派な教師になる為に   作:撥黒 灯

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 すみません。長らくお休みを頂いておりました。
 他の作品の再開と合わせて、こちらの更新も月一程度を目安に再開いたします。
 他の作品が完結するまでは変わらず月一程度の予定です。
 ただ、プライベートの関係で、まだしばらくは安定しないかもしれませんが、
 引き続き、お付き合いいただけますと幸いです。




Believe in love 【Ⅲ】

 

 

 

 ──潮田 渚にとって、親とは。

 特に母親とは、何か。

 

 

 パレスから帰ってきた日の夜のこと。

 疲労した身体で帰ってきた渚を待っていたのは、母の用意した暖かい夕飯。

 食卓の上に並んだ品々を見て、食欲が沸いている渚はしかし、手を出すことができなかった。

 

 

「どうしたの渚。お腹空いてない?」

 

「ううん、ちょっとね」

 

 

 浮かんだ疑問をについて考える必要性を、渚は感じている。なぜなら、渚としてはまだ、双葉の感情に対して共感ができていないからだ。

 しかし、感情を理解していない半面で、彼女に対しての親近感はある。それゆえに、その親近感の出所が分かれば、双葉についてより一層の理解ができ、何て声を掛けるべきかが分かる気がしたから。

 少しでも彼女と向き合うことができるのであれば、と渚は過去の自分と双葉の壁画を照らし合わせる。

 

 

 ……昔の僕は、母さんの顔をいつも伺っていた。

 

 

 双葉を叱る母親の壁画を見て、渚が思い出したこと。思い通りにならない母親が、 りつけるように強制してくる恐怖。克服した今でも、少し肩が震える程度には彼の脳裏に焼き付いている。

 しかし今の渚と母親の距離感は良好だ。怖い思い出も確かにあるが、最近には良い思い出もあった。恩師の手助けや渚の成長もあり、お互いが手探りではあるものの、親子の距離感を取って生活できていると言って良い。

 何より渚の脳裏に残っているのは、中学生時代最後の大作戦の際、信じていると言って何も聞かずに送り出してくれたこと。

 卒業式の日に聞いた、自分を見習って頑張ってみると言った姿。

 どちらも、渚の胸の内を温かくしてくれる、大切な思い出だ。

 

 

「母さん、いつもありがとう」

 

 

 それは、不意に口から出た言葉だった。渚自身、口に出してからハッとしたくらいには。

 

 

「どうしたの、いきなり」

 

 

 それでも、嘘ではない。引っ込めるつもりも、渚にはなかった。

 

 

「ううん、言いたかったんだ」

 

「ちょっと止めなさい。母の日でもないのに」

 

「母の日にしかお礼を言っちゃダメなこともないでしょ」

 

「……ご飯のおかわり、あるわよ」

 

「まだ食べてもないよ。いただきます」

 

 

 思い返した思い出には辛いこともあったけど、それでも母が好きだという感情が渚にはある。それは、冷たい記憶だけでなく、温かい記憶もあるからだと、渚は思った。

 もしも蓮たち怪盗団の予想が正しく、双葉の認知が歪められているのだとしたら、彼女はもしかしたら、支えてくれるはずの温かい記憶を忘れながらも、母が好きだったという感情だけを抱きかかえて、冷たい罪の意識に苛まれているのかもしれない。

 

 過去、渚は母を恐怖し、その恐怖から逃げるように立ち回っていた。今の双葉は母を亡くした責任を──ないはずの罪の意識を背負い、その罪から逃げるように死を求めている。

 

 

 ……助けたいな。

 

 

 渚の目に、覚悟の色が灯る。

 立派な教師になるのであれば、恩師が自分にしてくれたように、今度は自分が、双葉を救いたい(手入れする)。と。

 

 箸が進む。

 決戦に向けて気持ちが定まり、今はただ栄養を蓄えて、時を待つだけだ。

 

 

 

 

 

────

 

 

 

 次の日の朝、アジトに集まった怪盗団の面々はさっそくの作戦会議に挑む。

 消極的な意見も多かったが、真の意見を否定できる者がおらず、彼女の作戦が決行されることに。

 

 

「双葉は心を盗んで欲しいのよ。心を盗みに来たって正直に言えば、あの扉も空けてくれるわ。勇気を振り絞って、怪盗団に接触するくらいなんだもの」

 

 

 真の作戦では、なんとかして扉の前に立ち、話しかける必要がある。佐倉惣治郎宅に再びの不法侵入を試みた彼ら怪盗団は、家に上がり込むことには何とか成功。しかし彼女の自室の扉を前にしたところで、肝心の双葉の説得が難航した。

 それでも再三の説得の末、双葉側から扉を開けてもらうことに成功。シャドウからの助言通り、招いてもらう形で。

 この行為で、双葉にとって自室は聖域ではなくなった。他の者たちが入ることのできてしまう場所と認知されただろう。つまりパレス最奥の扉は、入る手段のない場所から、自由に入れる場所へと変わったということだ。

 

 

「そうだ。忘れるところだったぜ。読んでくれ」

 

 

 目的を果たした怪盗団の面々が帰ろうとする中、竜司が予告状を双葉に渡す。尤も、双葉は押し入れの中に隠れてしまっていたが。

 それでも小さい声で、予告状……? という呟きが聞こえてきて、無事認識されたことを彼らは悟る。

 目的は果たした、と残った面々も出ていく中で、渚は不意に足を止め、双葉に話しかけることにした。

 

 

「ねえ佐倉さん」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

「小さいころ、好きだったごはんって覚えてる?」

 

「な、なんだ急に……ごはん……?」

 

 

 少し時間を置いたものの、問いかけに明確な答えは返ってこない。ごはん……ごはん……と呟きが聞こえてくるだけだ。

 

 

「良かったら、考えてみて」

 

 

 それでも自身の問いが、少しでも双葉の明るい思い出に結び付けば。思い出すきっかけになればいいなと渚は考えながら、室内を後にした。

 そうして彼らは玄関前に集合し、再びパレスへと舞い戻る。

 

 

 

 

────

 

 

 

 

「外からでも分かるくらい、パレスの警戒が強まってるね」

 

「そうだね。ヒシヒシと感じる」

 

 

 拒むような気配。敵対の意志。

 スネイクはその感覚に懐かしさを覚え、思い出したことに一瞬辟易とした。中学時代の、率先して思い出したくはないものの1つだ。

 それでもスネイクは知っている。意識されている方が、やりやすいこともあるということ。怪盗団の仕事だって同じ。予告状でわざと意識させることで、盗るべきオタカラを意識させ、パレスに出現させている。

 悪い状況ではあるが、好転させられない訳では決してない。スネイクも、他の怪盗団のメンバーも、踏んできた場数は多いのだから。

 

 

「けどよ、盗んで欲しいって言ってた割には、警戒するっておかしくね?」

 

「……人の心の動きは、分からないものだよ。諦めているはずのものが目の前にあったら欲しがっちゃうし、死にたいって言ってても生きることは諦められなかったりする」

 

「分かる! 痩せなきゃって思ってても、ついついおかし食べちゃったり」

 

「あーあるある。テスト前とか夏休み最終日とかに限ってゲームしたくなったりな!」

 

「食費がなくなるのが分かっていても、ついつい美しいものがあると買ってしまったりな」

 

「そのくらいにしておけ! 大シゴトの前だぞ!! っていうか誘惑に弱すぎだろ。大丈夫かよオマエら」

 

 

 一喝したモナが、発言したパンサー、スカル、フォックスを見る。

 大丈夫じゃねえな、と白目を剥いて呆れた。

 

 

「真面目にやらなきゃいけない時に限って雑談してしまったりもする」

 

「悪乗りしないのジョーカー。あと、スカルは後でアジトで宿題やるわよ」

 

「え、なんでオレだけ……?」

 

「よし、気を引き締めて行くぞ皆。ショータイムだ」

 

 

 返事をする者。頷く者。前に進む者。うなだれる者──否、バシッと両手を合わせて、気合を入れる者。

 それぞれが覚悟を目に、決意を胸に宿し、ピラミット内部へと足を踏み入れる。

 

 

 

 オタカラの目の前までやってきた怪盗団を待っていたのは、罠などではない。

 

 

『フゥゥタァァバァァァ!』

 

 

 双葉を苛む、認知の怪物だった。

 

 

「デカすぎでしょ……!」

 

 

 彼らの前に現れたのは、人間の数倍はある大きさの、空を飛ぶ眼鏡の女性。あまりの巨体に、羽ばたきだけで怪盗団が吹き飛ばされそうになる中、姿勢を低くして身体を安定させたスネイクが顔を歪ませる。

 

 

「これは……人!? こんなに大きく威圧的に思うほど、認知が歪んだの!?」

 

「そんなことって……!!」

 

「おい、あぶねえ!」

 

 

 体格差がありすぎる。怪物はただクイーンに向かって腕を振り下ろしただけ。それでもかなりの速度と衝撃が地面を襲った。間一髪、ジョーカーが助け出したおかげでなんとかなったものの、まともに食らえば重傷は免れない。

 

 

『王の墓に近づくな……災いが……訪れるぞ……!』

 

 

 女形の化け物はそう言って飛翔する。自由に飛翔できる敵は、距離を思うがままに操れてしまう。

 

 

「銃とペルソナのスキルで応戦だ! 距離を詰めてきたら油断するな!」

 

「でも……遠くて当たらない!」

 

「遠くで動く敵に当てる時は進行方向に攻撃を置いて! 胴体を狙ったり、獲物を追いかけての狙撃じゃ遅いから!」

 

 

 悠々と、スネイクは攻撃を当てていく。スネイクからしてみたら、的がでかくて動きの遅い的だ。当たらないイメージの方が難しい。

 パレスは認知の世界。当たらないと思った攻撃は必ず当たらない。だからこそ、スネイクは実演を兼ねて当て方を教え、決して不可能ではないことを示した。

 それを見て、ジョーカーが銃を抜き、構える。

 狙い澄まして撃った1発は、見事敵の胴体を捉えた。

 

 

「……当たる」

 

「やるじゃねえかジョーカー! スネイクも!」

 

「……様になっているな。続いて魅せよう!」

 

「うん! アタシだって!」

 

 

 ジョーカーに続き、スカル、フォックス、パンサー、クイーンと攻撃を当てていく。それでも銃弾には限りがあり、ペルソナの使用には精神力を使う。長期戦はできそうにない。

 

 

「どうする、このままじゃジリ貧だぞ!」

 

「てか効いてる感じがしねえぞ! どうやったら撃ち堕とせんだアレ!」

 

「襲ってきたところで飛び乗って翼を!」

 

「ダメだよ! あの速さで飛ぶ敵にしがみつくなんて、落とされちゃう!」

 

「待てテメエら……敵、急上昇! もしかして落下攻撃か!?」

 

「総員、防御体勢! いつ来るか分からないが、注意しろ!」

 

 

 全員が防御の構えを取る中、スネイクがジョーカーに話しかける。

 

 

「ジョーカー! 敵の大技が来たら、潜伏してきて良い!?」

 

「……任せた! 期待している!」

 

 

 一瞬の視線の交差を経て、ジョーカーが頷きを返した。その返事を以て、スネイクは“消える”準備に入る。

 敵が飛翔し、離れるということは、一瞬でも意識が逸れるということ。加えて大技の後だ。上手く自分を“消せれば”、認知存在に気づかれず行動を取れる。

 そうして、仕掛けてきそうな悪意を感じ取ったスネイクは僅かに姿勢を低くし、すぐに動けるよう準備した。

 

 

『アァアアアアァ!』

 

「ッ!! ダラァ!」

 

「負け……ない!」

 

 

 なんとか無事に大攻撃を食い止めた怪盗団の気配を感じつつ、スネイクは物陰に隠れる。

 

 ……次に大技が来た時が勝負かな。

 

 最低でも、羽の大部分はもっていかないといけない。スネイクにそこまでの力はないが、隙を作ることには長けている。あとは他の面々と協力するだけだ。

 意識を敵に集中させようとしたスネイク──だったが、不意に足音を耳が捉えた。

 不思議に思って音の発生源へと視線を向けると、フラフラと歩いてくる、眼鏡姿の少女が。

 

 

「ちょっ、佐倉さん!?」

 

「うん? そ、その声はさっきの……ごはん男か?」

 

「ごはん男って……そうだけど、今はそれどころじゃ……!!」

 

 

 不自然なほど目が合わない双葉だったが、彼女は渚の足元から胸元までを見て、おおよその背格好が自分と同じくらいの相手であると認識する。実際双葉の身長は149cm、スネイクが159cmなので頭1つ分程度は違うが、近年引きこもっていた双葉が見た人間の中では、一番双葉の目線に近い人間だった。

 

 

「……っ!」

 

「佐倉さん!?」

 

 

 不意に、うずくまった彼女。口からは苦悶の声が漏れ出している。

 そして渚の大声て気づいたのだろう。怪盗団の面々がスネイクと双葉の元へと寄ってきた。クイーンが膝をつき、双葉の心配をする。他のメンバーもちらりと横目で状態を確認したものの、敵を目の前に完全に意識をそらすことができず、クイーンとスネイクにすべて任せることに。

 

 

『お前がわたしを殺した……お前が!!』

 

 

 認知存在は、双葉を視界に収めると、そう言った。

 

 

「お前が……ということはまさかこの化け物、母親か!?」

 

『お前さえ、いなければ! 死ぬのよ、お前は嫌われ者! 生きてる意味なんてない! 誰にも必要とされてない!』

 

「生きる意味なんて親が決めることじゃない!!」

 

 

 母の認知存在の暴言を受けた双葉は俯きそうになったが、聞き捨てならない言葉を拾ったスネイクが割って入る。

 

 

「……ごはん男」

 

「誰かに必要とされる必要だってない! 彼女は、彼女の人生を歩いているんだ! 生きる意味も! 将来も! 佐倉さんのものだ!」

 

「……」

 

 

 地面にうずくまる彼女の肩に手を置き、スネイクは声を掛ける。

 

 

「立たなくてもいい。でも、思い出すんだ佐倉さん。佐倉さんのお母さんは、佐倉さんと一緒にいてくれなかった?」

 

「もう1回聞くよ。子どもの頃の好きな食べ物は? 好きな玩具は? 好きなアニメは? 好きな動物は?」

 

「う、うぅぅ」

 

「それを見る時、お母さんは隣にいなかった!?」

 

「それは……それは……」

 

「そうだよ!!」

 

 

 思い出せない様子の双葉に、パンサーが話しかける。

 

 

「しっかり見て! あんな化け物がお母さんな訳ないでしょ! あれはあんたの作り出した幻!」

 

「そうよ! マスターが言ってたわ! 『母親ひとりで、頑張って育ててた』って!」

 

「誤った記憶をすりこまれてるんじゃないのか!」

 

「誤った、記憶………………うっ!」

 

 

 立ち上がろうとした双葉が、頭を押さえて、痛みに耐えるように膝を曲げる。

 だが、その表情はさきほどまでと違って見えた。

 

 

「そう。知ってた。……でも、わたし……」

 

 

 その目に宿るのは、反逆の意志。

 

 

「わたしは、もう、歪んだ上っ面なんかには騙されない……他人の声にも惑わされない……自分の目と心を信じて、真実を見抜く」

 

 

 近くにいたクイーンとスネイクが離れる。

 ジョーカーも、スカルも、パンサーも、フォックスも、その言葉と表情を見て、押し黙った。

 彼女の答えを、見届けようと。

 

 

「お前なんて、お母さんなわけない! 腐った大人が創った偽物だっ! ぜったいに……ぜったいに……許すもんか!

 

 

 反逆の意志に応えるように、双葉の身体からシャドウが現れ、変質していく。

 

 

 

「思い出したんだ……いつだってお母さんが時間を作ってくれたことも! 美味しいカレーを作ってくれたことも!」

 

 

 現れたのは、双葉のペルソナ。まるでUFOを模しているかのような見た目で浮遊しているかと思えば、双葉を内部へと連れ去っていく。

 だが、悪意は誰も感じ取れない。むしろ双葉を収容して初めて、息吹を感じるような仕組みになっていた。

 だから過去、ペルソナに目覚めた全員が納得する。クイーンのバイクのような、搭乗の必要のあるペルソナなのだと。

 

 

『お願い、手伝って!』

 

 

 その言葉が聞こえてきたとき、怪盗団の面々は、全員敵を、認知存在の母親を見据えていた。

 走り出す姿勢を取る者、刀に手を置く者、拳を握りしめる者など、様々な準備の姿勢を取りつつ、次の言葉を待つ。

 

 

『あいつ、やっつける!!』

 

 

 号令はいらず。

 全員が、敵に向かって駆けだした。

 

 

 

 

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