立派な教師になる為に   作:撥黒 灯

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Believe in love 【Ⅳ】

 

 

『お前なんて、産まなければ……!』

 

「何を言われたって、わたしは生きる!」

 

 

 シャドウが何を言おうと、覚醒した双葉は揺るがない。冷静に、打てる手を以て追い詰めていく。それは参謀であるクイーンの役割とはまた別の、補助のような役回り。

 足りない手があれば用意し、不足した情報があれば探る。

 今までにできていなかった動き方が、双葉の参戦でできるようになっていた。

 今まで届かなかった攻撃が、通るようになった。

 徐々に徐々にと追い詰めて、やがて、詰め手が訪れる。

 

 

「今! ……撃ってぇ!」

 

 

 ピラミッドに寄りかかる瀕死のシャドウに、双葉の号令でジョーカーが銃を撃つ。

 勇ましく飛んでいた姿は見る影もなく、敵はピラミッドを転がり落ちていった。

 

 

「双葉!」

 

 

 戦闘が終わった影響か、ペルソナに搭乗していた双葉が落ちてきた。

 怪盗団の視認した彼女の姿は、現実で見た姿や、パレスの屋上に現れたときのものとは異なっている。

 怪盗服。

 彼らが仕事着のように着ている謎の服装のようなものを、双葉も身に付けている。

 

 

「うぉ! なんじゃこりゃ」

 

 

 双葉自身、無我夢中だったのだろう。自身の変化にようやく気が付いたらしい。思わぬ自身の姿に、驚愕の声を上げた。

 

 

『……双葉』

 

 

 そこに、声が響く。

 全員が視線を向けると、消えかかっている1人の女性の姿が。

 

 

「お母さん……?」

 

『本当の私のこと、思い出してくれて、ありがとう』

 

 

 さきほどまで敵対していたシャドウとはまったく異なる、とても優しい口調。

 そもそも見た目がまったく違う。羽が生えてなければ、図体も人の身体の範疇。

 つまるところ、歪んだ認知が解けた、のだろう。スネイクはそう解釈した。

 

 

「あの、お母さん……大好き」

 

 

 色々言いたいことはあるだろう。それでも双葉は、それらすべてを飲み込んで、母への愛を口にする。

 忘れてしまっていた記憶。想い。それらをただ一言に乗せて。

 

 その言葉を聴けて、スネイク──渚は、自分たちが仕事を果たせた実感を得ることができた。改心が、ここに完了したのだと。

 愛を、想いを、双葉は思い出すことができたのだと。

 

 

『私もよ、双葉』

 

 

 そう優しい声で返す母親の姿は、やがて消えていった。

 認知世界だ。双葉が言いたいことを言えたのであれば、役割を終えたのだろう。彼女の中で一区切りつけることができたと言ってもいい。

 

 

「……帰る」

 

 

 えっ。と全員が驚く中で、双葉はずんずんと気にすることなく歩いて行ってしまった。

 怪盗団の面々だけが、その場に残される。

 

 

「ホントに帰っちゃった」

 

「き、きっと疲れてたんじゃないかな」

 

「ふむ。先ほどから俺たちが彼女の視界に居たのかも定かではないが」

 

「あー、疲れてっとそういうことあるよな……って、そうだ。オタカラ!」

 

 

 スカルが宝箱に駆け寄る。

 だが、その箱を開けると、そこには何もなかった。

 

 

「あれ、オタカラは!?」

 

「……このパレスのオタカラは多分、双葉さんの思い出、だったんじゃないかな。それか」

 

「フタバそのもの、だろうぜ。実体はあった。さっき独りでに帰っちまったが」

 

 

 スネイクの推測に、モナが肯定を返す。

 誰も、その推測に対して異を唱える人間はいなかった。

 

 

「って、マズいぞ!」

 

 

 突如、モナが声を上げる。

 瞬間、地震のような揺れが、ピラミッドを、怪盗団を襲った

 

 

「なに!? 地震!?」

 

「オタカラが持ち出されたんだ。それに歪みも解消された! つまり」

 

「パレスが、崩れる!?」

 

「た、退避ー!!」

 

「嘘だろオイ!」

 

 

 来た道を戻る暇はない。揺れは段々と酷くなっている。

 崩れ切る前に降りるしかない。と、彼ら怪盗団は、ピラミッドの外面を駆け下りていった。全力で。文字通りの命がけで。

 怪盗たちは、全速力で逃げ帰った。

 

 

 

 

────

 

 

 

「死ぬかと思った……」

 

 

 異世界から帰った彼らは、喫茶店ルブランの前に不時着した。命からがら逃げ帰ったということもあり、元来た場所まで戻れなかったことが大きい。

 

 

「ん? お前ら何してんだ?」

 

「あ、いえ……」

 

「……せっかく来たんだからお茶でも頂いてく?」

 

「それも良いが、真と杏はまだ“行くところ”があるだろう?」

 

「そうね……できれば蓮にも手伝って欲しいの。男手があった方が良いとは思うから……悪いけど、皆はルブランで待っていてもらえるかしら?」

 

「分かった」

 

 

 当然、ルブランの前で騒げば、店主である佐倉惣治郎が出てくる。だが、事情を説明するわけにもいかない。

 動揺を隠せない面々がいる一方で、双葉のことを思い出したのだろう。安否が気になった真が機転を効かせ、蓮がそれを汲み取った。

 万が一、覚醒の反動で倒れていたとしたら、女子2人では心許ない。場所を考えれば、あまり大勢で押しかけることも難しく、加えて、惣治郎の動向を見れる人員が何名かは必要だ。

 渚、竜司、祐介は惣治郎とルブランへ。

 蓮、杏、真は双葉を見に佐倉宅へ。

 それぞれ、気が抜けているようで抜けないまま、別行動を取る。

 

 

「くぅー! 冷房効いてる! さっきまで暑ィとこにいたから染みるぜ」

 

「マスター、冷たいものを人数分。俺はコーヒーを頂きたい」

 

「あいよ。そっちの金髪は」

「オレコーラ!」

 

「……はいはい。で、そっちの……後輩の子は何が飲みたい? 好きなの頼んで良いぞ」

 

 

 そっちの小さい子、と言いかけた惣治郎だったが、寸でのところで押し留めた。以前、蓮が紹介の時に話した、小柄なことを気にしているという話が頭をよぎったお陰だ。

 頭をガシガシと搔きながら、自然とサービスを振る舞う惣治郎に、逆に渚が委縮する。

 

 

「え!? そんな、ちゃんと払いますよ」

 

「ま、この前面白くもねえ話を聞かせちまった詫びみたいなもんだ。気にすることはねえよ。ただでさえウチの居候が世話になってるみたいだしな」

 

「そうだぞ渚。もらえるものを断るのは謙虚ではなく、失礼だ」

 

「祐介のそれはもらう為の方便だよね!?」

 

「せっかくくれるって言ってんだから甘えておけばよくね?」

 

「竜司は素直過ぎる! ちょっと遠慮しようよ!」

 

 

 いつの間にか、遠慮なくツッコミをするようになっていた渚。やはり同じ鍋をつついた経験は大きかったのだろう。加えて、後輩を強引に成長させるダメさ加減。一緒に居た期間は短いが、距離は急速に縮まっている。縮めてよかったのか渚には分からないが。

 

 

「遠慮なんて一人前になってからするんだな。そのうち普通に、客として来てくれれば、それで良いっての。それで、何にする?」

 

「……そういうことなら、必ず。すみません、ミルクティーとかってありますか?」

 

「あいよ」

 

 

 飲み物を準備しながら、惣治郎はボックス席に座った3人をじっと見る。

 

 

「ん、どうしたんスか?」

 

「いやなに。そういやアイツの居ない時にアイツの知り合いがまとまって居るのは、なかなかねえなって」

 

「あー……確かに。オレはたまに来たりするけど」

 

「俺もだ。休日、気分転換に来るのに重宝している。それに……ここは俺にとっても特別だからな」

 

 

 祐介が壁に掛けてある絵に目を向ける。渚がその視線の先を追うと、大きな一枚の絵があった。赤子を大事そうに抱える、母親の絵だ。

 

 

「素敵な絵だね」

 

「……ありがとう」

 

「祐介が描いたの?」

 

「いや、違う。これは……まあ、拾いものだ。少し、縁があってな」

 

 

 実際には祐介の母の描いた絵であるが、この場でそれを説明してしまうと、第三者である惣治郎がいることで、ややこしいことになってしまう可能性がある。そのため、ぼかすしかない。

 煙に巻かれたことに渚も気づいているが、深堀はしないことにした。彼の目が、祐介の逡巡を読みぬいたから。疾しいことがないということだけは、祐介から見える波長が語っていた。

 

 

「せっかくだし、居ない蓮の話でもしようぜ!」

 

「うん?」

 

「マスターから見てどうなんスか? アイツ」

 

「どうって言われてもな。手のかかる居候だよ。つっても俺がしてやれることなんて、飯とかの準備をしてやることくらいだがな」

 

 

 そう言う惣治郎は、少し優しそうな表情をしている。決して嫌われてはいないようだ。

 

 

「これでもう少しバイトをしてくれれば言うことねえんだが」

 

「確かに蓮っていつも忙しそうにしてるよな。何してんだろ」

 

「駅地下でよくバイトをしている姿を見るな。それに、杏や俺の学校の女子生徒と一緒にいる姿を見る」

 

「あーオレも新宿でよく女と一緒にいる蓮をよく見るぜ」

 

 

 蓮の普段の姿か。と渚は思い返してみる。

 学校の違う渚は、そこまで私生活で蓮と出くわすことが多くない。一緒に過ごしたことは何度かあるが、竜司や祐介に比べたら全然少ないだろう。

 でも、そんな女性と一緒に居る目撃情報が多いんだ。と少し驚いた。結構その辺は渚からしてみると、真面目に見えていたから。

 

 

「……へえ、アイツもやることやってんじゃないの」

 

 

 感心したように、惣治郎は言う。

 だが一方で、竜司と祐介の表情はやや暗い。

 

 

「問題は連れ歩いている人間が毎回違うことか」

 

「……刺されるんじゃねーの?」

 

「心配のし過ぎだろ。それにまあ、そういう無茶は若者の特権だからな。……とは言ったが問題を起こすのは……軽く注意でもしておくか……?」

 

 

 保護観察中の蓮がもしそれが女性トラブルだったとはいえ、警察沙汰でも起こせば、惣治郎の監督責任も発生してしまう。最悪を想定するなら、注意をするべきだ。

 一方で惣治郎自身も、女性関係はそこまで厳密にしてきた男でもないので、どの口で言うべきかという思いもあった。

 

 

「……一旦この話はここまでにするか」

 

 

 惣治郎、いったん保留。

 

 

「逆に、お前らから見た蓮はどうなんだ?」

 

「どうってまあ……相棒っスかね。時々意味わかんねえことや、訳分かんねえ内容に興味を示すこともあっけど、やっぱり良いダチって言うか……あと、思い切りがあって気持ちいいやつって感じっス」

 

 

 奇行の類がある人間を良い友人と呼べるのだろうか、と渚は一瞬考えたが、脳裏に突拍子もないことをやりだす良い同級生たちの姿が思い浮かんだので、止めた。

 

 

「俺から見た蓮は、一緒に居ると落ち着くが、色々な衝動を与えてくれる友だ。アイツといると、良い着想が生まれそうでな」

 

 

 落ち着く。確かにそうだろう。その一方で彼らが評する通りに、積極的に動くというか、考え方が自由な側面がある。

 大まかに2人の言っていることもわかるなぁ、と内心同意する渚。

 竜司も祐介も、良い表情で友人を語っている。その表情を見て、惣治郎も穏やかに頷いた。

 

 

「後輩目線は、どうなんだ?」

 

 

 問われて、渚は思い浮かべる。

 蓮の後姿、並んで見た時の印象。

 彼に抱く気持ちを、言語化するのであれば。

 

 

「頼れる兄、みたいなものかもしれません。迷っていても導いてくれそうな、リーダー性というか、そういうものがあるなって。一緒にいると、色々勝手に勉強になりますし」

 

 

 それは、例えば、先生のように。

 導いてくれる後姿に安心感を覚え。

 隣を歩く横顔にやる気をもらえる。

 そんな存在だ。

 

 

 アイツがねぇ。と惣治郎は、最初に屋根裏へ迎えた時の気力のない青年の姿を回想して、感心した。

 今では見違えたものだと、心の底から好意的に語ってくれていることの分かる友人たちを見て、満足感にも似た何かが、惣治郎の胸の中に広がっていく。

 その湧き上がった気持ちが、惣治郎が無意識でも、自然と口角を吊り上げる。

 だがその一方で、先輩2人は違うことを考えていた。

 

 そうだろうか。と祐介は内心で首を傾げる。

 確かに祐介にとっての蓮も友であり、信じられる男ではある。が、彼を見習って育つということには色々な側面を見ている祐介にとっては、少々苦言を呈したい気持ちもあった。

 まあその懸念も、何かの後を追う構図というものが頭をよぎってしまったせいで一気に想像が膨らみ、自己の世界に入り込んでしまったため、外部からは微笑んでいるようにしか見えないのだが。

 

 まだ知らねえか。と竜司は一瞬悲しそうな目で渚を見る。

 蓮と一緒に過ごしてきた破天荒な日々が、彼のフラッシュバックした。

 とはいえ竜司にも、部活動等で先輩として振る舞っていた過去がある。多少は見栄を張ることもあったし、何なら渚や、後から入る怪盗団の面々には、少々見栄っ張りになってしまうのが竜司だ。

 アイツも、後輩の前では良いセンパイであるように努力してんのかね。

 そんな親近感のような気持ちが、彼の気持ちを温かくさせる。

 せめて渚の夢は、壊さないでおいてやるか。と思いながら。

 

 なお、竜司や祐介が懸念した内容は、おおよそ彼らや第三者が起因しての行動なので、蓮自体には基本的に非がないことには、彼らは気づいていない。

 

 三者三様の理由で微笑み始めて、みんな蓮のことが大切なんだなと思いつつ、物言わぬ暖かい表情が少し怖かった渚。

 

 そんな中で、蓮から連絡が来る。

 

 

「渚、すまない。惣治郎を連れて家まで来れるか?」

 

「良いけど、どうかしたの?

 

「その、双葉が倒れたまま目を覚まさなくてな」

 

「え!?」

 

 

 思った以上の一大事だった。

 出されたミルクティーを飲み干し、場所を変えるべく、渚は口を開く。

 

 

────

 

 

「ああ、これか。たまになるんだ」

 

「へ!?」

 

「体力を使い果たしたんだろうな。電池切れみたいなもんだ」

 

 

 どう説明したものかと怪盗団が苦心していたところで、さらりと出された新情報。普段あまり動かない分、体力がないことにも起因しているらしい。

 一度この状態になったら数日そのままである、という内容も聞き、胸をなでおろす半面で、数日っていつまでだ……? と期限やカレンダーを思い浮かべる面々。

 双葉には、やってもらわなければならないことがある。

 とはいえ、パレス攻略の後の疲労も察するべきところがある。期限もそこそこ空いているため、彼女の起床を待つことにした。

 

 ──それから、実に1週間と少し、待つことになるとは彼らの誰も思わなかったが。

 

 




 

 次回はその1週間と少しの間のお話。

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