立派な教師になる為に   作:撥黒 灯

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 本当にただのコープ回。


Outline of ideal image 【Ⅱ】

 

 

 

 双葉の目覚めを待っている間、意図せず時間の空いてしまった怪盗団の面々は、日常生活に戻されることになった。

 真面目な学生を演じることも大事、というのは真がよく言う言葉ではある。各々がやややきもきしながらも学生生活を過ごす中、渚はある大切な用事を済ませるために、四軒茶屋へと訪れていた。

 

 

「こんにちは」

 

「お。いらっしゃい」

 

 

 純喫茶ルブラン。蓮の居候先にして、路地に少し入ったところにある個人経営の喫茶店。

 初見の人間には入りづらいだろうが、渚はもう数回入ったことがあり、かつ店主の佐倉惣治郎とも顔見知り程度にはなっているので、そこまで抵抗を感じることもない。

 とはいえそれは渚にとっての話。

 同行者からしてみれば、そんな渚の感情なんて知ったことではない。

 

 

「お、お邪魔します……?」

 

「……どうも。いらっしゃい」

 

 

 茅野 カエデ。

 別名、もとい本名、雪村 あかり。

 その日、渚は彼女とともに、ルブランへと足を運んでいた。

 

 

 

 

 

 以前、筒内の一件が終わったらお詫びも兼ねて連れて行くという話があったものの、しばらく忙しくしていた関係で、実行できていなかったソレを、双葉の起床待ちである本日、行うことにした。

 メジエドの問題も双葉の問題も喫緊であったが故、仕方のないことではあるが、それでも本来急ぎだったはずの問題をここまで後回しにしてしまったのも事実。

 前もって渚から蓮には相談がいっており、また蓮から惣治郎にも相談をした。

 もてなす準備は出来ている。

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 

 カウンターには、マスターである惣治郎の他に、エプロン姿の蓮もいる。蓮から惣治郎に依頼した際、代わりに手伝うことを命じられたからだ。

 そんな蓮が歓迎の言葉を告げながら、渚とカエデを席に案内する。

 

 

「蓮、エプロン似合ってるね」

 

「まだまだ修行中の身だけどな」

 

「? 何か練習してるの?」

 

「今はコーヒーを入れる練習をよく夜にしている。今度飲んでみるか?」

 

「……じゃあ、今度お願いしようかな」

 

 

 一瞬、コーヒー飲めるかなと不安になった渚だったが、そこで断るのも何か負けたような気がしたため、承諾することに。渚の真意を知らない蓮は、年下の友人のため、絶対に至高の一杯へと辿り着くことを胸に誓ったのだった。

 

 

「……渚、あのお兄さんと仲良いんだね。同じ学校の人?」

 

 

 起こしているのは絶妙なすれ違いだが、そうとは知らないカエデが、渚と蓮の2人の関係性をそう評する。

 

 

 

「あ、ううん。けど最近よく一緒に遊んでるんだ。雨宮 蓮さんって言って……なんというか、凄いしっかりとした人なんだ」

 

「へえ……何友達なの?」

 

「…………」

 

 

 答えに窮した渚は、助けを求めて蓮の方を向く。

 狭い店内。他にお客さんもいない状況で、聞こえていないこともない。後輩の窮地を察した蓮は、しかし無表情でサムズアップを返した。

 

 ……突き放された!?

 

 仕方がない。まだ付き合いの浅い身では、渚の趣味も分からないので、話を合わせることも何もできないのだ。もしも知っていれば口の出しようもあるのだが、如何せん渚も知らないことを言ってしまっては嘘だとバレてしまう。

 蓮の返したサムズアップは、渚が感じたような突き放した形ではなく、好きなように言ってしまって構わないという意を伝えようとしただけだったりするのだが、そこはやはり出会ってからの日数が物を言ってしまった形に。

 そのすれ違いは後日訂正されるのであるが、一旦今は、渚がなんとか誤魔化さなければならない。

 

 

「……何の友達、っていうと難しいんだけど、強いて言うなら、プラモデル仲間……?」

 

「へえ、渚って今プラモデルとかやってるんだ!」

 

「僕はモデルガンとか見てたんだけど、その時に色々あって意気投合して……」

 

「モ、モデルガン……!? な、渚、大丈夫なの!? あまりそういうお店とか行かない方が良いんじゃ……まだ尾行の人とかいるよね!?

 

大丈夫。昔のエアガンとかだったら流石に止められるかもだけど、モデルガンは実用性はないし、観賞用ってことで誤魔化せるから

 

 

 尾行の人。椚ヶ丘中学校元3年E組(暗殺教室)の卒業生たちは、多くの組織にマークされている。特に一部のルールを守らない記者──筒内のような存在がいることもそうだが、他にも自衛隊や警察なども彼らの周囲には定期的に表れていた。

 尤も、警察も自衛隊も、名目上は彼ら元E組の生徒たちを護るように手配されている。特殊な訓練を受けて育った彼らは、色々な実績を持つエキスパートとしての側面をもっており、その力に目を付けた悪党に、悪用されるのを防ぐのが目的だ。

 ……そしてまた、“彼らが非行に走らないための監視”でもある。

 

 数多の訓練の結果、特に自分たちのペースに引き込めば、戦闘のプロとだって戦えるスキルを身に付けてしまった未成年の子どもたち。国を運営する立場の大人たちとしては、放っておくほうがリスクと判断したのだろう。

 ──と渚の親友である少年が推測しており、その推測に元E組の生徒たちは理解を示した。

 彼ら自身の能力が、他人を守ることもできれば、傷つけることができるのも、身を以て知っていたから。

 

 

それに、結構出来が良いんだよ? 当時使ってたのにそっくりなんだ。見る?

 

「持ち運んでるのは駄目じゃない!?」

 

「あ」

 

 

 ド正論。

 とはいえ、急な集合にも備えられるように持っておかないといけないかと、渚も家に置くわけにはいかなかった。家に置いておいて親に捨てられる、といった懸念もある。

 だがカエデに言われて、この状態で尾行の人に捕まったらどうなるかが分からない、ということに気づいた。

 

 

「……ああ、今日はそれも見せに来てくれたのか。すまない、前から見たいと駄々こねてしまって。やはり迷惑だっただろうか」

 

「あ、ううん! 大丈夫だよ! 寧ろ急でごめんね」

 

 

 咄嗟に、蓮がフォロー。カウンターから移動して来て、渚に手を伸ばした。取り繕っていることを悟られないよう、渚も乗っかってモデルガンを渡す。

 興味深そうにモデルガンを見ている、フリをしている蓮をしり目に、またコソコソと話し出すカエデ。

 

 

「事情は分かったけど……気を付けてね渚。流石にそれが見つかったら

 

そうだよね。ありがとう、茅野

 

 

 危なかったー! と内心で冷や汗をかく渚だった。蓮や他の仲間たちに預けておく相談をしなくては、と強く自分の脳裏に刻んだ。また、蓮も実は所持しているのが明るみに出るとマズいことを、渚は知らないのだが。

 

 

「……そういえば、紹介できてなかったよね。彼女はかや──雪村あかり。中学の同級生なんだ」

 

「初めまして、雪村あかりです。成渓高の1年生です」

 

「初めまして。俺は雨宮 蓮。秀尽の2年生です。渚君とはいつも仲良くさせていただいてます」

 

「こ、これはご丁寧に……」

 

「保護者への挨拶!?」

 

「? 渚の大切な友人なんだろう? 礼くらい尽くすが」

 

「尽くし方がおかしいでしょ!」

 

 

 た、大切な……!? と席で震えているカエデが、蓮には見えている。渚は蓮を見ていて見えていない。

 蓮は悩んだ。恋仲ではない、と事前に聞いている。

 ……>微笑ましく見守ることにした。

 

「……フフ。ああ、すまない。改めて、本日はご来店ありがとうございます。渚からは聞いていますが、一応確認させていただきます。本日は甘味を中心に用意しておりますが、何か食べられないもの、苦手なものはありますか?」

 

「……あ、いえ、特には」

 

「ありがとうございます。それでは、ごゆっくり」

 

 

 一礼して、優雅に立ち去る蓮。

 その姿を、ぼぉっと見送る渚とカエデ。

 

 

「……なんか大人っぽい人だね」

 

「……仕事のスイッチが入るとああなるんだね。僕も知らなかった」

 

 

 年齢が1つ違うだけなのに、その立ち振る舞いは正しく“大人”のものだった。

 なお、蓮が内心、全力でカッコつけたことに対する満足感を抱いていることは、彼らに伝わっていない。惣治郎は、いっちょ前にカッコつけやがって……と更に大人の視線で見ているが。

 

 

「……改めて、茅野。この前はゴメン。急用で外すことになっちゃって」

 

「……ううん、渚にも色々あったんだろうし、私もゴメン。急に泣き出しちゃって」

 

 

 無理もない。

 さきほどまで一緒にいた人間が、痕跡なく姿を消したのだから。

 席を外している時間が長かったのも、彼らの特殊な環境も、カエデの不安材料だった。それこそ、彼らの力を悪用したがっている人間や、情報を得たがっている存在に連れ去らわれたのだとしたら、という思考は止まらない。カエデはその時、いつか得たような、“近しい人が自分の近くで自分が何もできないまま居なくなる”という無力感に苛まれることになったのだ。

 吹っ切れたはずの、姉を亡くした時の感情がフラッシュバックしてきたのもあり、待ちながら呆然と泣く他なかった。

 

 

「律も何か知ってるみたいだったけど、教えてくれなかった。……1つだけ聞かせて。危ないことは、してないよね?」

 

「……うん。大丈夫だよ」

 

 

 嘘だ。バリバリ命がけの怪盗業へと身を投じている。

 だが、それを明かす訳にもいかない。

 

 

「……そっか。それならいいんだ!」

 

 

 カエデも、それが嘘なのには気づいた。気付けてしまった。

 渚の演技は残念ながら、上手いものではない。寧ろ演技という意味では、茅野の方が数段階上。平時であれば、見抜けない訳もない。

 それでも、理由の追及はしなかった。心配していない訳ではないが、渚を困らせたくないわけでもなかったから。

 でも。

 だから。

 

 

「何か困ったことがあったら、私じゃなくても、相談してね?」

 

「……うん、何かあったら、必ず」

 

「じゃあ約束!」

 

 

 本当は一番にそれを聞きたい心を我慢して、カエデは笑う。その演技を、渚は見破れなかった。

 ……観察眼が人一倍優れた男は、先入観もあって、色々な気づきと共に推測を立ててしまっていたが。

 眼鏡をクイと上げ、何も言わずにただの店員のように、再び作業へと戻った。

 

 

「それで、今日はこの前のお詫びにも兼ねて、最近よく来る喫茶店を紹介したかったんだ」

 

「そうなんだ! 渚に喫茶店ってイメージなかったから少し新鮮かも!」

 

「……そうだよね! 喜んでもらえるといいなって」

 

 

 一瞬、それって大人っぽくないってことかな? と邪推した渚だったが、確かに喫茶店に入ったことは片手で数えられる程度。事実として受け止める他なかった。

 

 

「お待たせしました。コーヒーです」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「ありがとうございます」

 

 

 提供されたコーヒーとミルク、砂糖。取り敢えず渚がひと口飲んでみると、想像していたよりも苦味が薄い。思わず、飲めた……! と目を光らせた所を見て、蓮がカウンター裏で隠れて小さく、よし、っとガッツポーズ。

 ここ数日の夜間、惣治郎に相談してから扱かれた特訓の成果が実った瞬間だった。

 そんな教え子の喜びに少し嬉しくなりながらも、惣治郎は蓮を小突く。

 まだ、提供は終わっていない。ここからは惣治郎の特訓の成果だ。

 

 

「っと。すみません。こちらが本日特別メニューの、特大プリンです」

 

「「!?」」

 

 

 蓮は大皿に高く聳え立ったプリンをもって、崩れないよう慎重に机に置いた。尤もそこそこ固めのプリンなので、崩れるというよりは、落ちそうになったくらいだが。

 

 

「あー、お嬢さんが大好物って聞いてな。できる限りでやってみたんだが、これでどうだ?」

 

「た、食べてみても!?」

 

「あ、ああ。勿論」

 

 

 震えながら、スプーンでプリンを掬うカエデ。それを口に運ぶと、彼女の頬が崩れ落ちた。

 

 

「……! ……~~~っ!! 美味しい!」

 

「……そりゃ良かった」

 

 

 ほっとしたような惣治郎に、蓮が親指を立て、渚が小さく礼をする。それを受けて、止せよと手を立てる惣治郎。

 普段の提供メニューにプリン自体はあるが、それを大きく作った試しはなかったので、惣治郎もここ数日は調整したものの、何とか形にしたらしい。

 その裏で、プリンの悪夢を見るほどに廃棄に手伝った功労者()もいたが、彼は主張しないでただ成功に終わったことを喜んだ。

 

 

「これ、全部食べて良いの!?」

 

「勿論。茅野の為に用意してもらったんだから。寧ろお詫びなんだし、遠慮せず食べて」

 

「……それじゃあ、いただきます!」

 

 

 目を輝かせながらプリンを頬張るカエデの姿を少し眺めた後、渚は席をそっと立ち、まずは惣治郎にお礼を告げに行った。

 

 

「今日はありがとうございます。あんなに素敵な食べ物と飲み物を」

 

「なぁに、気にしなさんなって。あんま女性は怒らせるんじゃねぞ。あとコーヒーはコイツが淹れたもんだから、俺じゃなくてコイツに礼を言いな」

 

「……蓮もありがとう。本当に」

 

「気にするな。渚にはいつも助けられてるからな」

 

「僕の方こそ」

 

 

 早くも半分ほど削られているプリンを傍目に、渚は蓮の方へと寄る。

 

 

「本当に今回は僕1人じゃ何もできなかったから、力を貸してもらえて助かったよ」

 

「そうか? 渚なら何だかんだできたと思うが」

 

「……得意じゃないもので戦っても、()れないからね。確かに練習とかはできたけど、多分今の僕じゃ料理とかの経験が少なさ過ぎて満足してもらうには足りないと思う。そこは申し訳ないけど、信頼できる筋の方が確実だから、頼らせてもらったんだ」

 

 

 何か不穏な表現が聞こえてきたが、そういうものかと蓮は納得した。確かに、そこまで時間をかけられない以上は、土台がある自分や、本職の惣治郎に依頼した方が確実性は高い。

 とはいえ、渚の手料理おかしでも効果は絶大だったと蓮は思うのだが、渚はもしかしたら自己評価が低かったり、異性への対応になれていなかったりするのかもしれない。と分析する。

 

 

「また今後、何かで役に立てるように頑張るね」

 

 

 ……渚から、感謝の気持ちを感じる。

 蓮は彼の言葉に、よろしく、と頷きを返した。

 

 

「ごちそうさまでした!!」

 

「「「はやっ」」」

 

 

 

 






 コープランク2。
 渚は追い撃ちをしてくれるようになった。




 渚はカエデと別れた後、蓮へと質問してみた。


『ねえ、蓮。喫茶店でバイトでもしてみれば、少しは蓮みたいに大人っぽくなれるかな?』

『大人っぽくなりたくてやるなら、辞めた方が良い』

『すみませんでした』


 当然の返し。
 渚は火が出るほど恥ずかしがり、枕に顔を埋める。
 
 一方の蓮は、大人っぽく見えてたのかとほほを吊り上げ、「ナニ笑ってんだ……?」とモルガナに訝しがられていた。


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