立派な教師になる為に   作:撥黒 灯

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 今回思い出したかのようにイセカイナビの話題を強引に組み込んだのは、本当に書いていて思い出したからです。
 すみません。


What's your name? 【Ⅱ】

 

 

 アジトとして紹介された、渋谷駅の連絡通路。

 そこには、怪盗団の面々が既に勢揃いしていた。

 

 

「よっ、来たな!」

 

「全員集合、だね」

 

 

 竜司が蓮をいち早く見つけ、目を輝かせる。

 それに対し蓮は鞄を持っていない方の手を上げて返事をし、彼の鞄に身を潜めたままのモルガナは顔だけ出して、よっと挨拶をした。

 渚もそれにつられ、腰を折って頭を下げる。

 固い固いと杏が笑った。

 

 

「ま、仕方ないか。渚くんだけ年下だもん、遠慮しちゃうよね」

 

「でも別に気にしなくてイイんだぜ? 仲間なんだしよ! オレらだって真に敬語使ってねーし」

 

「……まあ今となっては良いんだけどね。そっちの方が壁を感じないし。渚君も、無理にとは言わないから、少しずつ慣れてくれると嬉しいわ」

 

「……そういうことなら」

 

 

 年上に敬語を使わない、という経験はあまりない渚だったが、不満をひとまず呑み込んだ。

 仲間として、歳の差を気にしない仲になると言うのであれば、それを声を上げて否定する気はない。寧ろそこまで気を許してくれていることが、少しだけ嬉しかった。

 怪盗団の面々は知らないことだが、基本的に平日の日中の渚は、学校の同級生と少し距離を置いて話している。否、それはもはや話すという行為ではなく、必要事項の確認と表しても良いようなやり取り。構文をなぞるような代わり映えしない言葉を交わすだけだ。

 渚はその傾向を不満がっている訳ではない。残念には思っているが、仕方のないことだと割り切っている。状況に甘んずるつもりはないが、それでも何か行動を起こしたいとは思っていても、何をするかは皆目思い浮かんでいなかった。

 そんな渚にとっては、既知の友人以外で久方ぶりに心を開いた会話が許されそうになっている場所。怪盗団に対し抱いていた疑念が小さな罪悪感を産んだが、それでもそれを越える程に暖かい気持ちにしてもらえたことに変わりはない。

 砂漠の中のオアシス、というほどでもないが、乾き始めていた心に潤いが満ちるように、彼らの醸し出すアットホーム感が染み入った。

 

 

「あれから、筒内からの接触はあった?」

 

 

 真が渚の顔を覗き込むようにして問う。

 彼女の瞳からは純粋な心配が見て取れて、本当に心配してくれているのだと渚は理解できた。

 

 

「いいえ、特には何も」

 

「そう。……そうよね。今回、向こうは働きかけなくても良いんだし」

 

 

 今回、と真は言った。

 発言から勘繰るのであれば、以前似たような事件が起きた時は働きかけがあったということ。誰か、もしくは全員が誰かに脅された、ということだろうか。

 渚は想像する。今までに公として怪盗団が狙ったのは、芸術家の班目と、マフィアの金城。脅すとすれば金城であろうか。

 とはいえ、悪人も職業で一括りにはできない。そもそも芸術家など一般的には悪人には見えないだろう。仮定だけでは判断がし辛かった。

 

 

「完全に弱みを握られているのはこちらだ。向こうは行動を起こすことなく、俺たちを待っていれば良い」

 

「ふむ。ネタはもう上がっている、というやつか」

 

「おっ、なんか聞いたことあんなぁ、ソレ。誰かのコントだっけか?」

 

「いやいや間違ってるし。それ警察とか探偵のセリフでしょ」

 

「警察が犯人を捕まえる時とか、そう言うわよね。確か、揺るがない確証を掴んでいるって意味だったかしら」

 

 

 場の空気が重くなる。

 渚の罪悪感が増した。

 

 

「すみません。僕のせいで」

 

「それは違う」

 

 

 責任感から謝罪をした渚に対し、間髪入れずに蓮が反論。

 まっすぐな瞳が、渚の暗い感情を射抜く。

 

 

「渚に責任なんてない。悪いのは、情報を悪用しようとする筒内だ」

 

「そうそう! 渚くんが悪く思うことなんてないから」

 

 

 蓮の力強い否定に、杏が同意。

 周囲に居る面々もそれぞれ言葉には出さなかったが頷いていた。

 そんな中で、祐介が何かに思いついたように、口を開く。

 

 

「しかし筒内も悪党とはいえ、流石はジャーナリストだったな。俺のことを知っているとは思わなかったぞ」

 

「そういえば祐介、初見で名前を言い当てられてたね」

 

「はっ。どうせ金になるとかで覚えてただけじゃねえの」

 

「……それでも、筒内というジャーナリストが、優秀であるということに違いはありません」

 

 

 渚は以前調べた情報を共有することにした。

 世界的にも価値がある賞にノミネートされる程の腕前。今とは打って変わって、正直なものを正直に書いていた時代があったこと。

 その後、パパラッチやゴシップライターと呼ばれる所まで身を落とし、それでも敏腕のフリージャーナリストとして数々の国内賞を取っているということ。

 一通り、彼について分かっていることを伝えると、珍しく真面目な顔をした竜司が口を開いた。

 

 

「なんか悪い奴が評価されてんのってムカつくよな」

 

「竜司は評価されないもんね」

 

「うっせ!」

 

 

 出てきた言葉は真面目から遠くかけ離れていた。

 

 

「あー……筒内の話してたらシャドウの姿思い出しちゃった」

 

「シャドウって、あの気持ち悪いヤツだろ?」

 

「まあ、今までのシャドウも見た目は最悪だったけどね」

 

 

 己以外の全員の顔色が悪くなっていくのを、渚は見た。

 それぞれトラウマを抱えているらしい。

 渚もパレスで見た、筒内のシャドウの姿を思い返してみた。

 継ぎ接ぎだらけの白衣の男。背には巨大な鋏を背負っていて、白衣の内側には対象となるように迷彩柄のジャケットを纏っていた。

 なんともアンバランス。何を思ってその風貌でいるかなど、渚の理解が及ぶ範囲ではない。

 

 

「あの奇抜な外見もよくよく考えてみると、筒内は自身のことをそう捉えている、ってことよね」

 

「どういうこと?」

 

「筒内の姿もパレスと同じ。彼の認知による産物ということよ」

 

「意識的か無意識にかは分からねえが、そうだぜ。きっとアイツもどこかで、自身の歪さには気づいてんだろうよ」

 

 

 パレスは構成者の認知・認識によって生まれた歪みの結晶。パレスが新宿区周辺を科学研究所として映したのなら、筒内にとっての新宿区は、科学を突き詰める場所、ということになる。

 それと同様に創造主の姿さえ本人の認知や認識によって決まると言うのならば、筒内のその姿は、どのような想いから導かれたものなのだろうか。

 

 

「難しく考えることはねえぞ」

 

 

 蓮の鞄から顔を覗かせたモルガナが、渚に語り掛けてくる。

 

 

「やることは1つ。オタカラへのルートを確保して、予告状を突き付け、頂いていく。それだけだ」

 

 

 そのあたりの詳しい事情を、渚は知識として得はしたものの、理解を示していない。体験がないのだ。それも仕方なかった。

  モルガナ自身、渚の理解を期待して言ったのではない。単純に、筒内のことを彼の思考から逸らそうとした結果である。

 その試行は上手く行ったのか、渚は考察を後回しにした。

 

 

「……」

 

「あれ、どうしたの蓮」

 

「いや、何でもない。ともかく期限はあと2週間弱。気は抜けない」

 

 

 何かを考え込んでいた蓮だったが、問いかけにその雑念を振り払うよう首を振り、体重を掛けていた手すりから離れた。

 

 

「行こう」

 

「うん!」

 

 

 

────

 

 

 

 現実から、異世界へ。

 その移動は一瞬で行われる。まるでそこに時間の連続性がないように。場所の関連性がないように。

 しかし実際はパレス内部でも時は流れる。現実と景観はほとんど同じで、些細なところに違和感があるだけだ。

 とはいえ、その違和感こそが、白い布に付いた染みのように目立つ。そこが現実ではなく異世界であると気付かせてくれる。

 

 

「改めて見ると、凄いですね」

 

 

 道行く布切れを纏う通行人を眺め、渚は呟く。

 

 

「正直、まだパレスってのが何なのかも分かってないしね」

 

「……そういえば、渚のスマホにも例のアプリってあるのか?」

 

「アプリ?」

 

 

 卒業後、新しく買い与えられたスマホを取り出す。特に気にはしていなかったが、確かに起動画面にはいつもと異なるアイコンがあった。

 

 

「この目みたいなものですか?」

 

「やっぱりあったか」

 

「それもマジで気持ち悪いよな。気が付いたらスマホん中に入ってんだもんよ」

 

「これ、パレスに何か関係が?」

 

「関係も何も、それを使ってパレスに入って来てるんだ」

 

 

 そう言われて思い出すのは、初めてパレスに入った時のこと。

 最初、蓮はスマホを取り出して筒内の名前を告げた。その際、スマホが候補が見つかりましたと音声を出力。続いて場所についても渚が新宿区周辺と答えたことに対し、またしてもスマホは同じように答えている。

 当時のやり取りは、今渚のスマホに入っているアプリの行使、ということだったのだろう。

 

 

「異界に入るのに必要なのは3つ。“誰”が“何処”を“どう”思っているか」

 

「後はその人物にパレスさえあれば、検索に引っかかる」

 

 

 異世界(パレス)の検索。それがいつの間にやらスマホにインストールされていたアプリの機能だと、使用者たちは説明した。

 到底信じられるものではない話。しかし、そもそもパレスからして信じられないもののオンパレードだ。現状、そういうものだとして納得する他ない。

 

 

「どう思ってるのかっていうのを当てんのが一番メンドーなんだよな。キーワードなんて全然当たらねえし」

 

「ほんっとにあんなの分かるワケないでしょ。ジョーカーは毎回よく当てられるよね」

 

「実はヒントが与えられてるからな」

 

「えッ!?」

「ナニィッ!?」

 

「嘘に決まってるでしょう……嘘よね?」

 

「嘘だ」

 

「だから! お前の嘘は分かりづらいんだよ!」

 

 

 焦ったようなスカルのツッコミに、ジョーカーはフッと爽やかに笑った。

 

 

「精進が足りないな」

 

「ぶん殴りてえ……」

 

「はいはい止めておきなさい。それより、渚君も加わった以上、もっと話すべきことがあるんじゃない?」

 

 

 言い合いを続けた2人を、柔らかく止めるクイーン。

 そしてその時に彼女が放った一言が、男2人を完全に止め、興味を惹く。

 

 

「「話すべきこと?」」

 

「そうだな。ナギサも怪盗団に入るなら、コードネームが必要だろ?」

 

「「……おお」」

 

 

 モナの発言に、ジョーカーとスカルが納得の声を漏らした。

 同時に全員の視線が渚を捉える。

 

 

「やっぱり、性別?」

 

「止めて!?」

 

「……見た目的には、ニンジャ、とかになるのだろうか」

 

「……うーん、日本由来の言葉だからかな。しっくり来ないわね。横文字にして……近いとしたら、アサシンとか?」

 

「!?」

 

 

 一瞬、ドキリとした渚。まさかここでもアサシンとして認知されるとは思っていなかった。

 しかし、発言者がクイーンだということを考えると、渚の背景も知った上での提案だったのかもしれない。渚がどれだけ考えた所で、答えはクイーン本人にしか分からないのだが。

 

 

「おいおい、ワガハイたちは怪盗団。殺しはご法度なんだぜ?」

 

 

 しかしその提案は、モナによって却下される。

 却下理由も、言われてみれば当然のことだった。

 彼らが暗殺を否定するのであれば、アサシンという名前は演技が悪すぎる。

 

 

「でも、忍者って方向性は良いんじゃない?」

 

「確かに。しかし、不殺で、隠密……忍者の他に何かあるだろうか」

 

「スネーク! やっぱ隠密って言ったらこれだろ!?」

 

「渚、段ボールは使えるか?」

 

「なんで段ボール? 使うって?」

 

「「分からない側か」」

 

「え、なんなの!?」

 

 

 ジョーカーとスカルが何かを理解しあったようにハイタッチを交わすが、周辺にいる他の誰も話に付いていけていなかった。

 不思議なものを見るような視線を受けて、居心地が悪くなったのか、2人はコホンと咳払いをする。

 

 

「そうだな、スネイクはどうだ?」

 

「? ジョーカー、それはさっきのと何が違うの?」

 

「さっきのは軍人(スネーク)。今のは(スネイク)。全然違うだろう?」

 

「なんとなく発音が違うことだけは分かった。……まあ蛇っていうのは良いかもね。襟巻も蛇柄だし」

 

「ナギサはどうだ?」

 

「スネイク……うん。それが良いかな」

 

 

 一度口に出してみて、何かが合致するような感覚を渚は得た。

 己の口元を覆う襟巻を手で引っ張って視界に入れる。確かに蛇柄だ。

 しかし、それを確認するより先に、付けられたコードネームがしっくり来きていたことを、渚は自覚している。それが何故自分の感性に当て嵌まったのかは分からないが。

 

 

「よし、それじゃあこれからナギサのコードネームは“スネイク”だ! よろしく頼むぜ!」

 

「こちらこそ、よろしくね」

 

「……よし、行こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二度目の場所に足を踏み入れる。

 科学研究所のパレス。その内部は前回同様かなり異質で、気色の悪い景観をしていた。

 受付スペースに常設されていたらしい館内見取り図を取ってから奥へ。明らかに入室を許可していないであろうスペースへと入り込み、内部を駆け抜け、更に奥深く。研究者たちが多くいるスペースを避けるようにして、実験対象である住人達の区画へ。

 

 

「ここに居るのは……街中に居た人たちか」

 

「みたい、だね」

 

 

 身に纏っている衣服は、パレスの外で見かけたものと同じ。とはいえ、内部でそこまでひどい扱いを受けている訳ではないらしい。

 とはいえ、不気味であることと、人の顔に生気がないことには変わりがなかった。

 

 

「収容されているのか? しかし何故ここに」

 

「……この先に、ここの人たちを利用するような何かがある?」

 

「そういうことかもな」

 

 

 ジョーカーたちの足取りが、少し遅くなった。それでも歩みを止めることはない。進んで良いのかも迷いはしない。悪事は暴かれるためにあるのだと言わんばかりの行進を、彼らは続ける。

 門番のように立ち塞がる研究員のシャドウを蹴散らし、階段を昇って上の階へ。

 そうしてそのまま先に進んでいく彼らが目にしたものは、やはりと言うべき光景だった。

 

 

「ンだよ、これ……」

 

 

 到着したのは、1階から吹き抜けになっている空間だった。扉をくぐった時に真っ先に視界へ入ったものは、下から上へと延びる無数の管。

 隠れて1階を見下ろすと、管の根本にはポッドのようなものがあり、その内部には先程見かけたような一般人たちが入っている。

 人を収容したポットからは何かが抜き取られているかのようで、上へ上へと何かを運んでいた。管をその何かが通るたびに、内部に閉じ込められた人間はやせ細っていく。

 やがて絞りつくされたのであろう、入る前からは想像も付かない程に疲労を滲ませた人間たちはポット排出され、違う場所へと歩かされる。そして空いたポットへは、先程の収容場所からか、次々と人間が誘導されてきていた。

 

 

「何だ、何を運んでいる」

 

「なんか絞り取ってるみたいだよね。えっと、栄養とか?」

 

「……見た目そのままじゃないと思うわ。筒内の認知による装置だし、ジャーナリストに関する人から抜き出すもの、といえば、情報、じゃないかしら?」

 

 

 フォックスの疑問に答えたパンサーの解答をクイーンがより正解へ近そうなものへと導く。

 情報。記者が一般人から抜き取るものとしては、確かに妥当なもの。

 事実として彼らは情報を売ることで飯を食べている。逆に言えば、情報がないとお腹を膨らませることはできない。そういう意味で言えば、パンサーの栄養という答えもあながち間違いではないのだろう。

 

 

「なるほど。筒内からすれば、人はみんな情報を蓄えている獲物、ということか。……反吐が出るな」

 

「ジョーカーの言う通りだ、クソ! この光景、ムカつくぜ」

 

「強制的で機械的。ここに筒内の職業的な情熱や誠意は感じられないな。描き手の顔が見えないとは、まったく悍ましい光景だ」

 

「取る側は流れ作業で、取られる側に拒否権がない。……なんて一方的なんだろう」

 

 

 男4人が、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 そんな男たちを見たパンサーは、彼らと同じく眉を吊り上げて装置の方向を見ていて、一方でクイーンはだけが、目線を悪い意味で釘付けにされながらも、意識を切り替えなければ、と己に言い聞かせていた。

 

 

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