君と掴むのは   作:粗茶Returnees

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一話 出会い

 

 《アルヴへイム・オンライン》。アバターのモチーフが妖精で、空を飛べるVRMMO。種族も別れており、種族間抗争があったりなかったり。いろんな意味で話題を呼びまくった《ソードアート・オンライン》とは違い、魔法も使用することができる。当初のグランドクエストは諸々の理由でクリアされたというか、なくなったわけで、今は新たなクエストがある。かつて《ソードアート・オンライン》の世界そのものだった浮遊城アインクラッド。それを100層までクリアするというのが新たなグランドクエストだ。

 そんな大型アップデートがあってから時が流れ、新たな話題ができていた。それはオリジナル(O)ソード(S)スキル(S)を掛けた決闘だ。オリジナルソードスキルというのは、その名の通り自分だけのソードスキルだ。アインクラッドが追加された際に、ソードスキルも追加され、さらにオリジナルソードスキルを作れるようになったのだ。もっとも、ソードスキルは元々システの補助があって発動できていたもの。その速度を自分で再現してソードスキルを作るなど至難の業で、作れる者などいないと批判があったものだ。

 

「それを作った奴がいて、そのスキルを掛けて決闘ね」

「そうそう。しかもメッチャクチャ強いのよ。あんたもやってみたら?」

「OSSには興味ない。人のものを奪うなんてゴメンだね」

「勝つ気満々だね〜。勝てる保証なんてないのにさ。その人もう20連勝してるのよ? しかも体力がイエローゲージにも減らされないし」

 

 イエローゲージにまで減らされることなく20連勝ってのは凄いな。俺でもそんなことできるとは思えない。そいつの実力の高さを知るには十分過ぎる情報だ。そして、戦ってみたくなってきた。実力者との勝負ってのは燃えるものがあるし、そのレベルの奴はそうそう現れないからな。

 

「結局やる気出てんじゃん」

「OSSに興味はないが、そいつとの勝負は面白そうだからな。場所は?」

「そんな急かさないでよね。何時でもやってるわけじゃないんだしさ。まぁもうすぐ始まるから直接案内してあげるわよ」

「助かる」

 

 俺に話題を提供してくれて、案内まで買って出てくれた姉御肌の彼女はリズベット。通称リズ。やることなくて暇になっている時に何かないかとメッセージを送ると、今回のように何かしら話題を持ってきてくれる。イベント事が好きなようで、こういう話の情報は逐一集めているらしい。

 そんなリズに案内されやってきたのはとある孤島。そんな広くないというか、中央に馬鹿でかい木が生えている以外特徴のない場所だ。だからこそこういう決闘事にはもってこいなんだろうな。人が無駄に集まり過ぎないから。

 俺達もその島へと着くと、すでに戦闘が始まっていた。話題に上がっているからか、野次馬もそこそこいる。そんな野次馬たちの視線の先には、一人の少女と男性が勝負していた。どうやらこれは辻デュエルらしい。そしてリズからちょっと聞いていたとおり、だいぶ強いようだ。少女の方がOSSを作ったんだろうな。動きが鋭くて速い。男性の方が呆気なく負けた。途中から見ただけだから、最初は頑張ってたのかもしれないがな。

 

「ボクの勝ちだね!」

「ほんとに強いんだね」

「あはは、ありがとう! 誰か他に挑戦者いませんかー?」

 

 ボクっ子か。しかも天真爛漫な笑顔だ。うちの怖い女性陣とは違うね。あ、間違えた。キリトを取り巻く怖い女性陣だった。俺はクラインのギルド『風林火山』に所属してるし、女性は一人もいないんだった。面白いギルドなんだが、華がないんだよなー。

 そんなことを考えていたらリズに背中を蹴り飛ばされた。押されたのでもなく、突き飛ばされたのでもなく、蹴り飛ばされた。笑顔が怖いのだが、俺は何もリズにしてないだろ。というか、そんなことするから俺の中で怖い女性なんだよ。

 

「お兄さん大丈夫? 結構強く蹴られてたけど」

「ん? あぁ大丈夫だ。慣れてるから」

「それはそれでどうかと思うけど……」

「そんなのはいいんだよ。せっかくだし勝負しようぜ」

「おっ、お兄さんやる気だねー。しかもなんか強そうだし……、うん! ワクワクしてきた!」

 

 この子は戦闘民族か何かなのか。なんで初対面で少し話した相手の実力を推し量ってくるんだ。しかも眩しいくらいに目を輝かせているし。自分でもそれなりに強いと自負しているが、この子の無駄に高そうな期待に沿うかは知らないね。

 デュエルはすぐに始められるものじゃない。ルール設定もあるし、どちらかが申請し、もう一人がそれを受理することで始められるのだ。受理してから始まるまで10秒あるんだけどな。

 

「お兄さんの希望は? ボクはどんなのでもOKだよ?」

「地上戦の剣のみ全損決着」

「あはは、即答だね。えーっと、地上戦で魔法はなしで、決着方法は全損っと。うん、できた!」

「お、きたきた」

 

 デュエルの設定を終えた少女がデュエルの申請をしてくる。目の前に現れたウィンドウに目を通し、少女の名前がユウキだと覚えて受理する。今度はカウントダウンが開始され、ユウキは剣を抜刀して構える。あれはだいぶ細いが片手直剣だな。対する俺が使うのは刀だ。そして俺は抜刀せず、刀に手を添えた状態で腰を落としてカウントが終わるのを待つ。

 

──3……2……1……

 

「ふっ!」

「……っ!」

 

 カウントがゼロになった瞬間に合わせて全力で大地を蹴りユウキへと迫る。ユウキもまた駆け出して来ていたために2秒もかからずに間合いに入る。俺はその時になって刀を右手で掴んで横に一閃した。刀で行うものとして一番有名な斬り方"居合"だ。

 俺はSAOの時からこの動作をひたすら繰り返していた。その結果キリトにさえ霞んでしか見えないとまで言われるほどの速さに至ったのだ。たいていのプレイヤーはこの速さについてこられないらしく、確実に一撃を入れられる。SAOで最速と言われたキリトや《閃光》の異名を持っていたアスナも「防ぐのが間に合うかどうか……」と言っていた。ヒースクリフは別格だったけどな。

 そんな俺の居合をユウキは所見であるにも拘わらず防いだ。ユウキは居合の速さに驚いているようだが、俺からすれば初めて確実に剣で防がれたことに驚きだ。ヒースクリフは盾だったからカウントしない。

 

「ずば抜けた反応速度だな。俺が知る限りじゃ君が一番だぞ」

「ありがとう。ボクが知る限りでも、こんなに速い攻撃できるのお兄さんしか知らないよ」

「防いどいてよく言う!」

 

 俺が防がれた状態から力を入れこむのに合わせ、ユウキは剣を刀にスライドさせながら俺の脇目指して跳ぶ。横をすり抜ける際にそのまま俺を斬ろうという魂胆だ。俺は膝を曲げることで力が足にも加わるようにし、斬られる寸前で左斜め後ろへと跳んで躱す。

 

 ──っ! っとに速えな!!

 

 慌てて躱したせいか、俺はいささか跳び過ぎた。俺が着地して慣性に耐えている間にユウキが目前にまで迫っていた。その勢いに乗せて突き出される剣。俺は剣の腹に刀をぶつけることで左側にずらし、体を右斜めへとずらすことでやり過ごす。そして今度は俺が仕掛ける番だ。先程ユウキにやられたことをやり返す。刀を剣にスライドさせなていき、やや斜めに振り抜く。

 だがさすがの反応速度だ。ユウキは自ら体を仰向けに倒すことでそれを躱し、かつそのまま反撃につなげるべく後転しながら俺の顎目掛けて足を振り上げる。俺はそれを避けられなかったが、すぐさま顎を引いて視線を戻したことで、ユウキの追撃の隙を潰すことに成功した。

 

「女の子の胸を斬ろうとするのはどうかと思うよ」

「デュエルやってる時点でそんなこと気にするな。そしてペタンコは黙ってろ」

「ペタっ……!? いくらボクでもそれは聞きづてならないね!」

「事実だろ」

 

 さっき後転しながら避けたやつも、アスナとかリーファみたいな胸だったら当たってただろ。だがユウキは避けた。掠りもしなかった。つまりユウキはペタンコだということだ。見た目通りのな。デリカシーがないどころか最低な発言であることは自覚しているが、俺からすればユウキが誘発した発言なのだ。非は半分しかないと思っている。

 ペタンコ発言されたからというわけではないだろうが、ユウキの速度が一段と上がる。振り下ろされる剣に対して、刀を下から振り上げることで防ぐ。単純な筋力はこちらが上なので押し勝てる。剣を弾いて一歩踏み込み刀をユウキの首目掛けて振り下ろす。それをユウキがしゃがむことで避け、そのまま俺の胴を斬ろうと剣を薙ぐ。俺は左手でユウキの頭を掴み、脚力と腕力を使って高く跳躍することでそれを躱す。そのまま降りるのではなく、空中で足を交差させることで反動をつけ、ユウキを蹴り飛ばす。直前にユウキが腕を交差させたために対してダメージは入らなかったようだ。

 

「っ!」

「ッ!」

 

 着地した俺が駆け出すのと、蹴られて後退していたユウキが駆け出すタイミングが重なる。再び刃を交えるも、今度は弾くことはできなかった。力の入れ方を変えられたらしい。器用どころの話じゃない。最初のやり方がおそらくユウキが得意なやり方。それを変えたら普通は動きが悪くなる。しかしユウキはそれを変えたところで動きに変化が現れない。

 

 ──天賦の才ってやつか……!

 

 今になってようやく純粋な剣のみの戦いが始まった。体術が挟まれることはなくなり、剣術のみの戦いに。ダメージが大きいものを防ぎ、少量のダメージなら気にせずに刃を振るう。どれだけダメージを受けているのか、残りの体力はどれほどあるのか。そんなものは視界にいっぱい入らない。ただ目の前にいる好敵手(ユウキ)との戦いに全神経を注ぐ。

 武器を振るうための部位だけに意識を向けるなど三流のやることだ。ユウキの一手一投足を見逃さないように眼をこじらせる。剣が空気を切り裂く音、足が地面を蹴る音、呼吸音さえ聞き逃さないように耳を張る。刀を最速で振るうために、力の伝わりを阻害しないために空いている左手や両足の指先まで神経を張り巡らせる。

 

「──はぁっ!!」

 

 この戦いに終わりを告げたのは、ユウキのOSSだ。剣がライトエフェクトに包まれたのを見て、ソードスキルが来るのは理解してた。俺は最大に集中力を高め、それを迎え撃つべく刀を構えた。突き出される刃。見落とすようなものでもなく、迎撃も間に合う速さだ。だが、全てを防ぐことはできなかった。7撃目まで防いだところで、ユウキのスキルの連撃の多さに驚き、集中が欠けてしまった。ユウキのスキルは7撃で終わらず、その後に4撃、つまり計11連撃の技だった。俺は残りの4撃を防げず、最後の一撃をくらって綺麗に体力が尽きた。

 

「……だー、くそっ負けたー」

「はぁ、はぁ、お兄さん。ほんとに強いね。ボクのOSSあんなに防がれるとは思わなかったよ。次は全部防がれそうだしさ」

「見えるもんは全部斬るってのが俺の心情だからな。……ま、負けた俺がとやかく言ってもしゃーねーな」

 

 俺がその場に座り込み、あぐらをかきながら後ろに手をついて空を仰いでいると、ユウキが両膝を地面につき、俺の膝に手を置いて乗り出してきた。すんごいいい笑顔してるけど、いきなりこれは距離感近すぎると思うんだよな。お兄さんは、この子が人に騙されて酷いことされないか不安だよ。誰かが保護者になってずっと見守っていてほしいくらいだ。

 

「ねぇねぇ! お兄さんはなんでソードスキル使わないの? 最初のあのすんごい居合斬りだってOSSにしたら威力も大きくなるのにさ!」

「OSSにしたら硬直(・・)があるだろ。ソードスキルも同じだ。確実に決められる自信がある時にしか使わねぇんだよ。それで削りきれなかったから敵に攻撃の機会与えるだけだろ」

「なるほどねー。お兄さんボクと似てるね!」

 

 似てる……似てるのだろうか。たしかにユウキも最後のOSS以外ソードスキルを使わなかったし、似ているところもあるのだろう。俺が素直に似てると思えないのは、それ以外でも違う要素があるからなんだけどな。その違う要素は、俺は殴る、蹴るといった動作も交えて戦うということだ。もちろんモンスター相手にはそんなことしてないけどな。それに対してユウキは本当に剣のみだ。対人戦でも剣のみ。一貫してる。というか俺が特殊らしいんだけどな。

 さらに顔を近づけてくるユウキを抑えて押し返し、体を乗り出していたのも直させる。ユウキが正座状態。俺はあぐらかいてる状態。

 

「辻デュエルの目的は?」

「強い人に会うこと! お兄さん強いし、お兄さんでいいかなって!」

「やだ」

「なんで!?」

「内容は知らんが、たぶん俺は(・・)向いてない(・・・・・)

「そんなことないと思うんだけどなー」

 

 ブーブーと文句を言ってくるユウキだが、俺の勘が告げている。この子が今求めてる人材は俺じゃないと。何をするかは知らないし、予想もできないんだが、違うということだけはわかる。だからこの子のためにも承諾するわけにはいかないんだ。納得してくれなさそうだけどな。

 

「俺以上の適任者は絶対にいるから。だからもうしばらく辻デュエルを続けておくといい」

「いなかったら?」

「その時は俺が参加する」

「絶対だよ?」

「ああ。絶対だ」

 

 ユウキが小指を立てて顔の前に出してくる。指切りをしようってことなんだろうな。俺も小指を立ててユウキの指と絡める。細くて、小さくい指。柔らかい肌。そして、どこか儚さのある雰囲気。

 ずば抜けた反応速度から、リズからは先に「SAO帰還者かもしれない」なんて聞いていたが、対戦してわかった。この子は違う。だってユウキがSAOにいたならば、間違いなくユウキが《二刀流》のユニークスキルを手にしていただろうから。

 楽しそうに指切りをしたユウキは、保険とはいえ人材を確保できたからか笑顔を弾けさせた。この子は笑顔が誰よりも似合う。そんなことを心底思うね。

 

「そうだ。フレンド申請しとくよ。連絡取れたほうが便利だろうし、適当にクエとかも行こうぜ?」

「いいの!? やったー!」

「ははっ、そんな喜ばれるとはな。送ったぞー」

「来た! えーっと……ジーク?」

「そう、ジークだ。よろしくなユウキ」

「うん! よろしくねジーク!」

 

 これが、この後しばらくしてさらに有名になり、《絶剣》という異名をつけられるようになる少女──ユウキとの出会いだった。

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