新たなフレンド兼好敵手兼暇つぶし相手こと、ユウキとの出会いから早一週間。この間一度もユウキとは出会ってない。コンタクトは取るのだが、どうにも毎回都合が悪い。ユウキとクエスト行ったら絶対楽しいだろうに、何故か毎回俺がログインできない時に誘われるのだ。向こうも調整しようとしてくれてるから、嫌がらせってわけじゃないのにな。むしろ俺が嫌がらせしてる感が出てくる。次あったら絶対謝るとしよう。
「あ、修行と称してソロプレイしてる時間がいらないな」
「おっ、珍しいな。ジークがログハウスに一人で来てるなんて」
「よっキリト。邪魔してるぜー。ついでにあるもの勝手に飲み食いしてる」
「遠慮というものを知らないのか……。客人用に置いてるものではあるけどさ」
「固いことは気にするな。さぁさぁソファにでも座りたまえ」
「ここ俺とアスナのログハウスだからな?」
「はいはい惚気オツ」
適当に流して話すのはいつものこと。キリトもそれを知っているからため息をついて向かいのソファに座った。さっきキリトが言ったとおり、俺がここに来るのは珍しい。ソロプレイか、風林火山にいるかがほとんどだからな。
「で、なんか話があるんだろ?」
「さすがキリト。無駄に察しがいい。重たい話でもないから気楽にな」
俺がキリトに話を持ちかける時はたいてい重たい話だったり、危なっかしい案件だったりする。それは主にアインクラッド内での話だったがな。『死銃事件』は菊岡から持ってこられた話だし。須郷のあれは俺からエギルにリークしたけども。そんな経験があるからキリトは真面目な雰囲気を出したわけだ。
だが今回は本当に軽い話だ。事件性は一切ない。最近の話題になっているあの話だからな。そんなわけでキリトの警戒を解かせ、俺はテーブルの上にあるクッキーを一つキリトに投げ渡し、一つは自分で食べる。
「軽い話ってのは分かったが、それならそれで勿体ぶらずに言ってくれよ」
「んー。その前に一つ確認だな。キリトは『絶剣』と戦ったか?」
「ついこの間戦ったぞ?
「ほうほう。さすがブラシスコンコンビ。その一言でそういう流れになるか」
「関係ないだろ。それとシスコンじゃない」
いやー、たぶん関係あるだろ。それなりの関係だからこそたった一言で挑んでみるかってなるわけだし。それとキリト。お前シスコンだけを否定したな。リーファのブラコンについてはノーコメントでいいのか。俺はネタにするだけだから何でもいいが。
「それで、いったい何の話がしたいんだよ」
「簡単なことだ。どうだった?」
「負けたよ。反応速度が速すぎる」
「あ、そっちじゃない。それは予想してたから」
「うぐっ、嫌な予想されてたもんだ。……そっちじゃないって、どういうことだよ」
なんだこいつ。こんなところで頭の回転が悪くなるのか。たしかに俺の言い方が悪かったけども。キリトならいけそうだったんだが、さてはまだ寝ぼけてやがるな。
「戦ってみて
「! そういうことか。……《SAO帰還者》ではない。それはジークもわかってることだと思うが。俺は……あの子が完全にここの住人なんだなって感じたよ」
「
「ってことはジークと同意見ってわけか」
「そうだな」
次のクッキーを口に入れて噛み砕きながら思考にふける。あの反応速度は、それだけアバターに慣れているからできることだ。仮想世界はいくらリアルに近づけてもギャップがある。最初はその感覚に慣れず、人によっては「気持ち悪い」と感じる。それを乗り越えたらリアルのように体を動かせるわけだが、それでも完全ではない。リアルとバーチャルの違いを一切感じず、バーチャルに完全に慣れるまではそれなりに日を要するのだ。
それを嫌でも達成することになったのが《SAO帰還者》と呼ばれる人たちだ。あの城に閉じ込められ、二年間ダイブし続けた。一切のログアウトもできず、完全にアバターを我が肉体とすることになった。
だがユウキはそこにはいなかった。SAOをプレイせずに俺達と同じ、いや俺達以上に仮想世界に順応した。そのことから考えられるのは、彼女は俺達以上にダイブし続けているということだ。つまり、その
「ジークはどうする気だ?」
「んあ?」
思考の海に潜っていると、キリトに中断された。質問があまりにも抽象的だが、キリトが言いたいであろうことはなんとなく察せられた。そして俺の答えも決まっている。
「
「ははっ、ジークらしいな」
「だろ?」
ユウキの事情に察しがついても行動はしない。だってユウキから頼まれてないからな。そして、おそらく素人の俺が関わったところで邪魔になる。それなら俺は何も知らないだけのユウキのフレンドでいよう。きっとその方がユウキのためになるから。
キリトと笑い合い、飲み物を飲み干したところで席を立つ。キリトに会うという用事はこれで終わったからな。もうここにいる必要はない。ユウキに連絡して、何かクエストでも行こう。
「相変わらず動き回る奴だな」
「ジッとしてるのは性に合わないからな。あ、そういやキリト。お前本気で戦ったのか?」
「そりゃそうだろ。手を抜くなんて相手に悪いからな」
「二刀流か?」
「……いや、あれはたぶんもう使わない。使わないでいいようにって願ってるよ」
残念というか何というか。キリトの言いたいことも分からないでもないか。アインクラッド74層で初めて皆に知れ渡った二刀流。それはユニークスキルで、その存在はありがたられた。
何度も他人の窮地を救い、強敵を打ち倒してきた技だ。キリトにとって二刀流を使う状況は、
キリトの思いも大事だと笑みを作り、ログハウスから出ようとしたら、今度はキリトにジト目で言われた。お前はどうなんだと。
「俺はちゃんと本気だったぞ? キリトみたいに二刀流なんて裏技ないしな」
「刀をどう持ってた?」
「お?」
「
「ははっ、想像に任せるよ。それに俺はいつだって真面目だ」
キリトに背を向けながら手を振って家を出る。向かう場所は決まっている。今日は特に予定がないからな。
それにしてもキリトのやつ。刀の持ち方なんて気にしてたのか。俺からすれば片手だろうと両手だろうと変わらないんだけどな。なんだろ、気合の入れ方でも変わるのだろうか。ユウキで試してみるのもありか。
羽を広げて一気に飛ぶ。こういうのってバイクと同じで、他に人がいないと加速できるだけ加速したくなるよな。今何キロぐらいで飛べているのか計れたらいいのに、今度要望出してみようかな。あ、でもそれをつけたら速度を上げることに夢中になりすぎて人とぶつかるって事案が増えたりするか。難しいもんだな。
「お、今日もやってるやってる」
ユウキは必ずこの場所でデュエルする。観客もいてくれるから、遠目からでも人の集まり方で把握できる。俺は減速しながら地面へと降りていき、ある程度高度が下がったら羽もしまう。自由落下に任せて着地だ。
「今日は他に挑戦する方いませんか〜?」
「今日も精が出るなユウキ」
「あ、ジーク! リベンジする?」
「今日はそういう気分じゃないからパス」
「えぇー。他に人がいないからお開きになりそうなのにー」
いや、人がいないならお開きでもいいだろ。なんでそんなに残念そうにしてるんだよ。あれか? 一日の想定人数やら時間やらにまだ達していないからか? だが俺は、そんなユウキの都合を汲み取らない。暇ならむしろこちらとしては好都合なのだから。
「時間が空いてるなら今からクエストいかないか?」
「へ?」
「今日なら俺はフリーだし、まだ一緒にクエスト行ってないしさ。もちろんユウキ次第ではあるけど」
「行く! ジークとクエスト行きたかったし! みなさーん! そんなわけで今日はもうお開きです!!」
ぶーたれていたユウキの機嫌も一転。クエストに行くって話になったら笑顔を弾けさせた。ここまで喜んでもらえると、誘った側としても嬉しいものだな。観客たちからの視線が刺さってくるけども、ぶっちゃけ気にならない。どちらかと言えば「羨ましいだろ」ってマウント取りたくなってくる。
「行こ!」
「ん? おわっ!」
ユウキに手を取られて思いっきり引っ張られる。駆け出すユウキに合わせて俺も走り、ユウキが飛べば俺も飛ぶ。一瞬で連れ出す側から連れ出される側に変わったんだが……、まぁいいか。ユウキとクエストできれば何でも。
ある程度飛んで、誰もいない場所に一旦着地する。そこでようやくユウキは俺の方に振り返った。良くも悪くも性格通りに前ばっか向くよな。それは別にいいんだけどさ。確認しておかないといけないことがある。
「ユウキは何するか決めてんのか?」
「え? 何も決めてないよ? だってジークが誘ってきたし」
「そうなんだけどさ。だからこそ疑問に思ったわけよ。ユウキが俺を引っ張ってたわけだし」
「あー、あはは……ごめんね」
頬を掻いて苦笑いを浮かべるユウキに俺は肩を落とす。考えなしというか無鉄砲というか。でもそれが不思議と嫌に思えないあたり、ユウキの人柄が出てるんだろうな。
俺は近くにあった木に背中を預けて、やりたいと思っていたクエストのリストを見る。こういうのはメモを取るタイプなんだよ。ゲーム系とか、俺が面白いなって思うやつくらいなんだけどな。それを見て今からどれを始めるか考えていると、ユウキが横から覗き込んできた。
俺のウィンドウを覗き込むということは、当然距離が近くなる。肩とか当たってるし、ゲームの細かい使用のせいでユウキの髪の匂いが鼻を擽る。ボーイッシュな性格してるのに女の子らしいのか、ゲームだからこうなのか、ユウキの名誉のために前者だと考えておこう。
「むっ。今なんか失礼なこと考えてなかった?」
「ユウキも女の子らしい面があるんだなって思っただけだ。それよりこの中でやりたいクエストあるか? なかったら違うやつでもいいが」
「ん〜……あ、この『王墓荒らしの捕縛』がやりたいかも。報酬のアイテムが欲しいな〜」
「あーこれか。たしかに女子受けするやつだよな。よし、これ行くか」
「やったー!」
依頼主が亡き王の娘。人民に愛された王だけど、貴族には嫌われていたのだとか。王は王で貴族との話し合いの中で折衷案を出していたけど、ナメられるわけにもいかないから対立したんだとか。そして王が死んだことにより、王の財宝も埋葬されたわけだが、タイトル通りそれが荒らされてると。そいつらをとっ捕まえろってわけだな。ありがたいことに生死問わずときた。
「話の流れからして背後には貴族がいるんだろうな」
「ボクそういう人好きになれないなぁ」
「だろうな」
話を聞き終わったところでクエスト開始。そのエリアへと向かっていけばいいわけだ。王墓って時点でどこのやつを指しているのかは明白。間違えて時間のロスなんてことにはならない。
「進行度が上がったね」
「場所が合ってたってわけだな。これは間違えるほうが凄いけど」
「たしかにね!」
楽しそうに鼻唄まじりにステップを踏んでユウキが進んでいく。ダンスとは呼べないものだが、舞っているとは言える。
すでにダンジョンの中に入っていて、モンスターやらトラップやらが出てきてもおかしくない。それでもユウキはそのまま楽しそうに先頭を進んでいく。俺はそんなユウキのフォローでもすればいいのか、と考えていたが、ユウキの視線を見て気づいた。
──
ただはしゃいでるだけでは無かったらしい。その証拠に、たった今飛び出してきたスケルトンソルジャーの奇襲をあっさり躱してカウンターを入れている。そのまま流れるように鮮やかに剣を振るい、一人で素早く倒している。
俺はそれを横目に見ながら後続のスケルトンを切り刻む。ユウキと戦ったやつがリーダー格らしく、後続のスケルトンは雑魚だった。
「あれでちゃんと見れてたんだな」
「うん。いつもこんな感じだからね。ボス戦は違うけど」
「ボス戦でやられたらこっちがしんどいわ」
「あはは! それみんなにも言われるよ!」
「みんな?」
「うん。ボクのギルドメンバー! こう見えてもボクはギルドマスターだからね?」
「えぇ……」
ユウキがギルドマスターとか。中々に不安しかない。主にギルドの運営という点で。赤字とか……にはならないか。強いんだからクエスト行って稼いで解決だもんな。人員の采配は怪しいけど、こういうタイプならメンバーの方が勝手にバックアップするだろうし。……ふむ、なんだかんだでやっていけてそうな。
「メンバーが助けてくれるからやっていけてるんだよ」
「やっぱそんな感じか」
「やっぱって何!?」
イヤイヤ。だってこういう子がギルドマスターしてるなんて言われてもな。あなたなら安心ですね、とはならないんだよ。
考えてみれば
「それにしてもさっきからスケルトンばっかだな」
「たしかにね。あれかな? 王様の怨念で呪われて死んだ人とかかな?」
「ゲームでありそうな展開だが、ユウキってホラーいけるのか?」
「ビミョー」
「おい」
ホラー系が微妙なくせしてよくそんなこと考えられたな。"ゲーマーの血が"ってやつなのか? だとしたらユウキもなかなかのヘビィゲーマーだな。キリトの同類じゃないか。
「あれ? 分かれ道だ」
「ヒントもなかったし、これは当て感か?」
「外れたら?」
「トラップだろうな」
右に行くか、左に行くか。どちらかが正解でどちらかが間違い。このクエストの設定上、間違えたらトラップだろうな。モンスター大量発生の方がテンション上がるが、自重するかね。
右と左であからさまに違うのも何かのヒントなのだろうか。右は今まで進んできた洞窟と何ら変らないまま。左は石畳がビッシリと敷かれている。王の墓場だということを強調して考えたら、左の石畳の方を選ぶべきなんだろう。しかし、これが引っ掛けなら右に進むのが正解だ。
さて、どっちにしようか。ここまであからさまに違うと逆に考え込んでしまうな。考察好きには効果的な仕掛けだ。
「左だね!」
「……その根拠は?」
「こっちのほうが王様のお墓っぽい! ボクが
「なるほど。だがなユウキ。その理屈なら、入り口からそうしておくべきじゃないか?」
ユウキの考えは何らおかしなことではない。臣下の立場になって考えてみるのも重要だ。だが、俺がもし臣下なら、入り口から整えるし、トラップをもっと仕掛ける。途中から露骨に変えているのは、安易な考えをするやつを確実に嵌めるためだろう。
「うーん、それもそうなんだけど……、ボクの中でこっちだって決まっちゃってるの」
「どんな理屈だよ。屁理屈にもなってないぞ」
「あはは、難しいことはいいんだよ。ボクはボクの心に従いたいんだ」
「! ……ははっ、眩しい奴め。いいぜ、乗ってやる」
「ありがと!」
まったく、そんだけ強い目して言われたら断れないじゃないか。奥底から光を灯らせた強い瞳。人として強い証。……あー、そりゃあ敵わないわけだよ。そんな目を自然とできる人間に、今の俺みたいな奴が勝てるわけもない。いずれ超えてやるけど。
ユウキの直感に従って左側に進む。綺麗に敷き詰められた石畳の通路。壁や天井も同じようになっている。ぱっと見ではトラップが見受けられないが、こういう時の定石は、壁か床の一部がスイッチになってることか。
「ほら、こっちが正解っぽいでしょ?」
「まだ分かんねぇけどな」
「大丈夫だって〜。……あ」
「おい」
ステップとターンを繰り返しながら上機嫌に進んでいたユウキが、バランスを崩して壁に手を当てた。そしてそのブロックが凹んだ。壁の向こう側で何か駆動音が響き、進行方向の奥でも音がする。間違いなくトラップが起動してる。
「な、何が来るだろうね〜」
「声が詰まってるぞユウキ」
「そんなことないよ?」
奥から来るであろう何かに備え、武器を構えて様子を窺う。聞き耳を立てて待っていると、だんだんと音が近づいてくることが分かる。
隣にいるユウキに視線を向けてみると、トラップを笑顔で待ち構えていたユウキの表情が引き攣っているのが分かった。どうやらこれは想定外らしい。
「逃げるぞユウキ!」
「そうだね! これは剣じゃどうしようもない!」
急いで武器をしまって来た道を戻っていく。全力疾走するが、後ろから迫ってくる大量の水の方が速い。追いつかれるのもそう遠くないだろう。てかもう真後ろまで迫ってる!
体が水流に呑まれる。その寸前に可能な限り空気を吸っておく。やらないよりかはマシだろう。水流に呑まれた瞬間は、体が錐揉み状態だったが、しばらくしたら一定の状態で保たれる。相変わらず水の中だが、これならやっとユウキの様子を確認できる。
そうして水中の中で体を動かしてユウキを探す。上下左右と忙しなく探し、すぐ様ユウキの姿を視界に捉える。ユウキは口を手で抑えた状態で水に運ばれているが、その様子がおかしかった。気合で近づいて表情を見ると、苦しそうに眉をひそめている。どうやら体内の空気が保たないらしい。
──なら俺がやることは一つだけ
俺はすぐにユウキの体を引き寄せ、強引に口を抑えている手をどけさせる。弱った瞳を向けてくるユウキに内心謝りつつ、俺はユウキの唇を自分の唇で覆った。目の前で動揺してるのがよく分かる。だがこちらも真剣だ。それに構ってる余裕もない。
離れようとするユウキの後頭部に手を回し、離れないようにする。そうして完全に固定したところで、
通路の分岐点にまで戻されたところで、俺とユウキは水流から解放される。濡れた服が体に張り付いて気持ち悪い。こんなところまで再現しなくていいものを。
「ゲホッゲホッ……! あぁー、しんど……」
「けほけほっ、はぁはぁ……酷いよジーク!」
「何が!? トラップ発動させたのユウキだろ!?」
「そこはごめんなさいだけど、その後! ボク……初めてだったんだよ!?」
「初めてって、水泳が?」
「違うよ! キスだよ! ファーストキスをたった今ジークに取られたの!」
口元を隠し、顔だけでなく耳の先まで赤くしたユウキが怒鳴ってくる。まだ体に酸素が回りきってないせいか、床に座り込んで大きく肩を上下させながら呼吸しているのに、よくもまぁそんなに声を張れるな。
恨めしそうに睨んでくるユウキに申し訳無さもある。頭を掻きながら一言謝るも、どうやら相当ご立腹のようでなかなか許してもらえない。女心って難しい。
「あ、そうだユウキ」
「……なに」
「俺も初めてだし、おあいこってことで許してくれね?」
「それとこれとは別! だけど……え……? ジーク彼女いないの?」
「生まれてこの方、彼女なんてできたことありませんね! んなわけで、俺のファーストキスの相手はユウキってわけ。こう……チャラにならね?」
「ならないよ!」
駄目か。わりといい考えだと思ったんだけど、やっぱり女心って分からない。エギルさんに聞いても分からないんだろうな。
ユウキの機嫌を戻してもらわないと、クエストの再開ができない。どうすればいいのかと頭を悩ませていると、当のユウキが急に自分で頬をパンパンと2回叩いた。その場で飛び跳ねて立ち上がり、俺の方へと視線を向けてくる。
「このことはお互い忘れること! それで手を打と!」
「りょーかい。んで、クエスト再開か?」
「うん! 今度こそ奥まで行こう!」
「いや、クリアするなら引き返すしかないぞ」
「なんで!?」
もう一度奥に行こうと歩き始めたユウキが、質問とともに目の前まで戻ってくる。ずば抜けた俊敏性に目を見張るが、今は関係ないな。
「このクエストのおかしな点ってわかるか?」
「おかしな点? このあからさまな分岐点とか?」
「そこもおかしいがそうじゃない。クエストの内容を思い出してみろ」
「んー? 墓荒しを捕まえることだよね?」
「そうだ。なら
「あっ! そうだよね! それなら入り口で待てばいいんだもんね!」
俺の言いたいことが分かったようで、ユウキは首を大きく縦に振りながら答えてくれる。だが、今の答えだけじゃ不十分だ。俺はユウキが答えなかったその先を口にする。本当はどうしたらいいのかを。
「時間が経てば賊が侵入してくる。そういうクエストなら、今も敵が現れない方がおかしい」
「入り口で待ってたら発生するとか?」
「その可能性もあるが、このクエストは敵の生死を問わず、だ。そして今発生したトラップは、人が死ななくても不思議じゃない程度のもの」
「つまり、ボクらが賊扱いってことなの!?」
「そうなるな。おそらく、俺たちプレイヤーを打つことで、仕掛け人たちが得するっていう仕組みのクエストになってるんだろ。あくまでクエストだから、別の挑戦者に影響が出ることもない。あるとすればスケルトンが増えるぐらいだな」
最初から罠ってわけだ。なんとも嫌らしいクエストを思いついたものだな。これを考えたやつなかなかにイイ性格してやがる。ぜひとも会ってみたいものだね。そして殴ってやりたい。
「そんなわけで、戻って仕掛け人たちと戦うぞ」
「あ、そうなるんだ」
「そりゃあな。貴族の息がかかってるんだろ。本当の王族は幽閉かなんかだな」
「ふむふむ、それじゃあ本当の王家の人たちを助けに行こっか!」
ここまで分かってしまえば、このあとの展開は楽だった。当然な話だ。なんせ自分の手を汚そうとしない人間を、相手にするんだからな。剣を向けてしまえばそれで相手が降伏。クエストクリアってわけ。呆気なさ過ぎて、ユウキは不服そうだったけど。
その機嫌も報酬で治った。本当の王族が良心的な人だったこともあるだろうけども。報酬はアクセサリー類のアイテムだったし、ユウキも女の子ってことなんだろうな。俺は完全に性能面だけ見てたけど、そしてよく確認してみたら別にいらないアイテムだった。だからユウキに俺の分もあげた。ギルドメンバーの誰かに渡せばいいよって感じで。
「さてと、そろそろ解散しますかね。いい時間だし」
「えー、もう一個くらい行こうよ〜」
「……しゃあねぇな。誘った側だし、一個で終わるのも味気ないか。何か行きたいクエストあるのか?」
「ジークのメモ見せて!」
やっぱり考えなしだった。さすがユウキだ。全然交流はないが、さっきのクエストの間にそれなりに人となりが分かった。第一印象が崩れない子。どこまでも真っ直ぐで輝かしいことだ。
なんて思って、メモを覗くユウキを眺めていたら、視線に気づいたユウキがこちらを見上げて小首を傾げる。それに何でもないと返して、どのクエストに興味を示したのかと話を進めていく。今やったのとは打って変わって、今度は討伐系のクエストだな。さては不完全燃焼だったな。
「今日はボクらコンビだね!」
「まぁ、二人だしな」
「あはは、よろしくね! 兄ちゃん!」
「っ!? ……兄ちゃんって呼ぶなよ」
「なんか、兄ちゃんっぽいなーって。兄ちゃんいないけど」
「やれやれ」
『兄ちゃん』と口にしては、嬉しそうにはにかむユウキの頭を雑に撫でる。口では止めてくるが、表情は相変わらず緩んだまま。こっちが複雑な印象にならされたが、それもクエストで気晴らしができるだろう。
少し年の離れたパートナーができたものだ。一時的なものだろうけど。