ユウキとのコンビ活動は、あれ以降ちょくちょく行われるようになった。ユウキも俺も別々のギルドに所属してるし、ユウキの方は活動率が高い。だから頻度はそこまで多くない。週に1回か2回程度。行くクエストは毎回傾向がバラバラ。採集もあれば討伐もあるし、護衛とかもある。お互いに一番はっちゃけるのが討伐なんだけどな。
一人で暇になったらソロでクエストに行ってる。キリトたちの方に混ざるのもいいんだけど、連携をそこまで考えない俺にはやりづらい。風林火山でクエストに行くときは、周りが俺の動きを利用して動くからやりやすい。要は甘やかされてるだけなんだけどな。まぁでも、この方がギルドとしても動きが良くなっちゃうんだから仕方ない。
とまぁそんな話は置いといて、今日も一週間ぶりにユウキとクエストに行く。集合場所はいつも同じ。ユウキがデュエルをやりまくってた島。そこに14時集合で、あと30分弱でその時間になる。俺は集合場所に先に来ていて、ユウキが来るのを木にもたれながらのんびりと待ってる。
「今日は俺の方からクエスト持ちかけるか。行きたいのあるし」
「どれに行きたいの?」
「おわっ! ビックリしたー! 心臓に悪いだろ!」
「えへへー、ビックリさせたかったんだも〜ん!」
いきなり横から顔を覗かせてきてたユウキは、イタズラ顔を浮かべながらピースサインをして軽やかに離れる。いかにも子供っぽいなって印象が強くなるが、この子はまだまだ子供だったわ。
「ったく、おはようユウキ」
「おはようの時間じゃないけどね。おはよ〜」
もたれていた木から離れてクエストのリストを開く。その中から今日俺がやりたいクエストを表示させ、それをユウキに見せる。俺の方から率先してクエストを提示するのは珍しく、ユウキは一瞬驚いてからすぐに口角を上げる。獲物を捉えた捕食者のように。
「おもしろいやつだよね?」
「やり甲斐ならある。間違いなくな」
「へ〜? それは楽しみだな〜」
「……内容は見ないのか?」
「クエスト進めながら教えて」
「りょーかい」
リストを閉じて翼を展開させる。ユウキも同タイミングで展開させ、このクエストを受注するためのポイントへの移動を開始する。二人で空を踊るように飛び回り、ポイントに近づいたらどっちが先に降りるかの競争を始める。まぁ、毎回負けるんだけどな。
「今日もボクの勝ちだね!」
「お前より速く動ける奴なんているかよ……」
「なになにー? 負け惜しみー?」
「こいつ……!」
「きゃー、兄ちゃんが怒った〜!」
「わざとらしいなぁおい! あと兄ちゃんって呼ぶな!」
煽ってから逃走を図るユウキを追いかけるために走る。すばしっこいユウキを捉えるのは難しい。全力で走り回る犬を捕まえられないように。あの身体能力の高さはどこから来てるんだろうか。……いや、これは考えるのやめとこ。面白くない結論になりそうだ。
テキトウに走り回ってそうなユウキなのだが、これが意外なことに目的地に向かってる。街に入っても人に当たりかけることもなく、スルスルと躱しながらクエストを受注できる場所に先に行かれる。その5秒後くらいで俺もそこに着いた。
「もっと周り見て走らなきゃ。ジークってば人に当たりかけてたよ」
「お前と同じ視野の広さを求めるなよ。そこまでできればユウキとのデュエルに負けてない」
「そこは少し違うような……まぁいいや。いつ再戦してくれるの?」
「……今度の大会でよくね?」
「あれか〜。うん、いいね!」
再戦の約束を大会と一致させたところで、俺は今日やるクエストを受注した。ユウキが先に済ませてくれてもいいんだが、何故か毎回俺がやることになってる。どっちが受注したって変わらないのにな。
クエストが開始されたら、俺とユウキは早々と今いる街から出る。必要なアイテムは常に備えてあるし、ユウキも合流する前に調達してくれてる。クエストによっては追加で用意することもあるが、今回のはその必要もない。
「で、今日のはどんなやつ? 討伐系ってのは分かるけど」
「今日のは難易度高いぞー。油断してなくてもクリアが難しいだろうし」
「どんくらいの難しさ?」
「グランドクエスト級。エクスキャリバーを入手するくらいの難易度」
「へ?」
俺がニヤニヤしながらそう告げると、ユウキは目をキョトンとさせてその場で足を止めた。ぱちぱちと何度も瞼を上下させてる。その反応を面白がりつつ、もう一度難易度の高さを説明する。
「前々から思ってたけど、ジークって馬鹿なの?」
「よく言われる。てか前から思ってたのかよ」
「うん。バトルジャンキーだし」
「否定できないな」
ユウキと一緒にクエストをやっては、モンスターを狩ることに精を出してる。強敵であるほど頭のネジを外して戦ってる。さすがにふざけられない強さのモンスターが相手だと、そこは真面目にするけども。
それはともかくとして、ユウキが言いたいのは、最高難度のクエストになんで二人だけで行くのか、ということだろう。それはそうだ。かつてグランドクエストを一人で突破しようとして、無謀にも散ったキリトと俺いう前例だっている。リーファとその他の人達が助けてくれたけども。だが、今回は理由がある。二人じゃないといけないという理由が。
「このクエスト
「なにそれ」
「しかも男女専用」
「なんなのこのクエスト!? いかがわしいやつじゃないよね!?」
「もしそうならユウキは呼ばんよ。アスナかシノンに頼む。実力的に」
「……ボク、ジークに彼女ができない理由分かったかも」
余計なことは言わなくていいんだよ。それは
やれやれと肩をすくめてため息を吐いたユウキは、片手を腰に当てて話の続きを促してくる。もう乗りかかった船ではあるし、難易度の高いクエストに挑みたくなるのは、ゲーマーの宿命ってとこだろう。
「男女専用の理由は分からん。二人だけじゃないといけない理由もわからん。それは、クエストを進めてるうちに分かるだろう。んで、やることはシンプルだ。ダンジョンに潜り込んで最奥にいるボスを倒す。そしたら最高レア度の刀がゲットできるってわけ」
「あー、刀だからジークが行きたがるわけね。……さっきエクスキャリバー級って言ってたけど、その刀のレア度って」
「
「なるほどね。あはは……ワクワクしてきたよ!」
「そうこなくっちゃ!」
無事にユウキにもやる気が出てきたところで、移動を再開する。ダンジョンに向かう道中では、このクエストの設定で分かっていることを話していく。
曰く、このダンジョンの最奥で待つボスは、モンスターではなく人であるということ。その人は、刀を手に取るとその刀の力に抗えず、次々と周りにいる人々を斬りつけていった辻斬りなんだとか。当然討伐隊も出たんだが、その討伐隊も返り討ちに合い、最終的に依頼を出すことで落ち着いたのだとか。
「典型的な妖刀ってことだよね」
「まぁな。でもちょっと面白い話があってな? その人がいるダンジョンには、その人以外にも敵がいるんだよ」
「? それってクエストとして普通じゃない?」
「いやいや、その人は自分が住んでた村から
「それってつまり……」
「そう、
結論まで言うとユウキがあからさまにゲンナリする。こういう設定の話は、男としてはわりと人気なんだがな。女子にはそうでもないらしい。ユウキならこっち側かと思ったが、どうやら微妙なようだ。完全に無理ってわけでもないはずだが。
さてさて、疑問として出てくるのは、何故その人は村から一歩も出ないのかということだ。だってまず最初は村にいる人間を殺してる。討伐隊が派遣されるまでの間に移動して別の村を襲撃することも可能だったはず。だが、その人はそうしなかった。何か理由でもあるんだろうか。クエストとして設定されているから、もう村から出ることはないはずだが、どうにも気になる。
「ジーク?」
「ん、あぁ悪い。ちょっと考え事してた」
「別にいいけど、着いちゃったよ。 どうする? その考え事が終わるまで待つ? それってたぶんこのクエストのことでしょ」
「そうなんだが、よくわかったな」
「だんだんジークのことが分かってきたからね〜。それで、どうするの?」
「んー、いや、中に突入しよう。分からないことの方が多いし、進んでるうちに分かってくるだろ」
一旦思考を切って入り口を観察する。森に入ってきたんだが、どうやら妖刀の件は古い時代からの問題、ということになっているらしい。入り口が大樹の根に覆われていて、その隙間から入るようになっている。中は当然真っ暗だし、魔法で灯りを作らないといけない。
ユウキと肩を並べて地下へと進んでいく。最初は自然にできた傾斜だけが足場となっていて、不安定極まりなかったのだが、それもしばらく進んだら整備されたものへと変わる。どうやら降りきったところからが村の敷地のようだ。ゾンビもいることだし。
「武装したゾンビとか映画だと最強キャラだよな」
「すんごい不気味だけどね!」
灯りがないと周りがロクに見えない。そうだと言うのに、灯りがあるとゾンビたちが寄ってくる。しかもこいつら動きがいいし、レベルも高い。ユウキと背中合わせになってお互いの死角を潰しているが、これでは前に進めない。初手でいきなり詰まったな。
「……しゃーない。ちょっとやってみるか」
「何をやる気? やるなら早くしないと戦闘が始まっちゃうよ」
「そうだな。んじゃ、しっかり掴まっとけよ!」
「え、きゃぁっ!?」
振り返ってユウキの膝裏と背中に素早く手を回す。そのままユウキの体を抱え上げ、また振り返って進行方向の暗闇を見る。足音からして向こうの方がゾンビの数が多い。つまりそっちが進路だ。俺は灯りを消すと同時に全力で疾走する。目の前のゾンビすら足蹴にし、壁へと近づいたらそこを走る。現実では無理。ゲームだから可能だし、身体能力を一時的に上げるスキルを使ってるから可能だ。じゃないとさすがに人を抱えながら壁を走れん。
可能な限り壁で距離を稼いで、適当なところで思いっきり壁を蹴る。なんとかゾンビの群れは超えられたようで、暗闇の中をまっすぐ走っていく。ユウキはしっかりしがみついてくれてるし、これなら問題なく進めるだろう。
「なんで暗闇なのにそんなに進めるのさ」
「暗視のスキルを持ってるからな。ユウキは持ってないだろ? だからこうしないと進むのに不便なわけ」
「なるほどねー。で、ボクはずっとこのまま?」
「明るいところに出られるまではな」
抱えた状態じゃなくても、手を繋いでおけばよかったりするんだろうすが、もし急に敵が飛び出してきたら面倒だ。そんなわけで、ユウキにはもうしばらく我慢してもらう。なんてことまで言わなくても、ユウキだってそれくらい分かってくれてる。だから今は、大人しく俺に掴まったまま。
それくらいせいぜい1分くらいだな。やっと暗闇を抜け出すことができた。抜け出したら、そこは周囲を大樹に囲まれた場所で、村があった面影がちらほら見える。人口は100人いたかどうかという小さな村のようだ。
「ジーク、観察するのはいいけど下ろして」
「あ、忘れてたわ」
「まったくもう……」
自分の足で地面に立ったユウキは、軽く体を動かしつつ俺と同様に周囲を観察する。そうしてやはり俺と同じ場所で目がとまった。この廃村の中で、一箇所だけ明らかに異質だからな。
「
「そうだな。奥の方にポツンと一軒だけ健在だ」
「つまり、あそこに行けばいいわけだね」
「そうなるな。たぶんあそこにボスがいるだろうが、準備はいいか?」
「もっちろん!」
満面の笑みでグーサインしてくるユウキに、同じくグーサインで返す。一度だけ拳を軽くぶつけ合い、意識を切り替えながら奥へと進んでいく。左右には崩壊した家がポツポツあるが、その殆どが大樹の根に絡めとられている。
地下のはずなのに届いている日の光。村だった場所だけ木がないからなのか、周囲の大樹が特殊なのも関係してそうだ。特殊というのも、周囲の大樹の枝が、村に光が入るように曲がっているのだ。まるで空へ向けて透明な円筒が伸びていて、木の枝が伸びないようにしているようだ。
だいたいの観察を終える頃には、ボスを視認できる距離にまで歩いていた。やはり敵は人のようで、昔の日本人の村人が着ていたような服装。袴のボロいバージョンみたいなやつ。名前は忘れたが、そんな格好だ。前髪は雑に切られ、獰猛な瞳が見える。後ろは切っていないようで、後ろで一束に纏めれている。右手には真っ赤に染まった刀。鞘が見当たらないが、ずっと剥き出しにしてたんだろうな。
「強そうな雰囲気だね」
「実際強いんだろうな。誰も勝てなかったわけだし」
そいつが立っているのは、この廃村で唯一残っている家の前。家の出入り口からだいたい2歩ほど歩いた場所。たぶんその家がボスの家なんだろう。まぁ、残っているとは言っても、なかなかにボロいんだが。
「そなたらも……敵だな……」
「まぁそうなるな」
「──討つ……」
なんか戦闘開始を宣言する前にボソボソ言ってた気がするが、聞き取れなかったからいいや。倒したあとに運営にでも聞いてみよう。
戦闘が始まったが、ボスが動く気配がない。刀を適当にぶら下げている。だが、敵意はこれ以上ない程に感じ取れる。つまり、こちらから仕掛けるしかない。ユウキに視線を送り、ユウキが頷く。
「んじゃ、始めるか」
抜刀し、ボス目掛けて一直線に走る。右手に持った刀を下段に構え、間合いに入った瞬間に斬り上げる。それを刀で受け流されるが、振り上がった刀をすぐさま縦に振り下ろす。相手の右肩目掛けて。それもまた防がれる。俺の刀と敵の肩の間に、敵の刀が割り込むことで。
止められたことを受け、反撃される前に次の行動に移そうと思ったが、それよりも先に敵が仕掛けてくる。敵の今の行動は防御のためではなく、攻撃のためだったらしい。肩に担がれた刀が、そのまま力任せに振り下ろされる。片手だけのくせに力が凄まじく、完全に押されてしまう。そのまま敵の刀が俺の体を切り裂きそうになったところで、横からユウキが割り込み、難を逃れた。敵の刀を横に逸らしたユウキは、俺と一緒に一旦ボスから離れる。続けざまに攻撃を仕掛けなかったのは、ボスの動きが想定を上回っていたからだろう。
「わりぃユウキ。助かったわ」
「どういたしまして。……完全に防げたわけじゃないけどね」
「いやいや、バッサリやられそうだったところを左腕の掠り傷で済んでるんだ。十分なリカバーだよ」
ダメージエフェクトが光る左腕をぷらぷらっと動かし、特に状態異常がないことを確認する。体力ゲージにも目を向け、掠り傷でどれ程減ったかを確認。強キャラ相手だと掠り傷だろうと馬鹿にならなかったりするからな。そうして見たところで、俺は不可解なダメージだと思った。
──
SAOみたいなデスゲームでも、尋常じゃないダメージを負わされることはあった。しかしそれはまともに受けた場合だ。あの75層の骸骨くんにしたってそうだ。掠り傷程度ならある程度受けても耐えられた。
しかしこいつはどうだ。全くそんな様子が見受けられない。ことALOにおいては、装備の性能と敵のステータスで行われるダメージ計算が徹底的に行われている。当然どれほどの傷を負ったのかもそこに含まれる。そして俺の装備は上位ランクだ。それなのに、ダメージがデカすぎる。4分の1減るとかおかしいだろ。
「ジーク大丈夫なの?」
「ダメージ負うごとに回復してないと速攻でお陀仏だな。バランスでも取ってるつもりなのか、あいつもあの場から動かないようだし」
「でもダメージがおかしいよ。掠り傷でそれなんだよ? まともに斬られたら致命傷じゃん」
「そうだな。そんなヘマはしないとしても、ハードル高いな〜。……とりあえずもう一度だけわざと掠り傷受けるわ」
「……わかった」
仮説は立てられるが、それが妥当なのかの検証が必要だ。死ぬまで戦って、分析して、何度も挑む。なんてゾンビアタックなぞやってられん。てかそんなことができないSAOを駆け抜けてきたんだ。一回の戦闘で徹底的に分析し尽くさないとやっていけねぇっての。
「で、また斬られたわけだけど、
「さっきよりも傷が浅いのにね」
「ま、そういうギミックなんだろ。妖刀って設定をそう活かしてきたか」
「分かるの早すぎ」
呆れるユウキにデコピンし、横で可愛らしく怒っているのを流しつつ思考にふける。仮説を有力なものにするために。このクエストの設定をも資料として扱って。
「……妖刀、か」
「一人で納得してないで教えてよ兄ちゃん!」
「教える教える。だから駄々っ子みたいに袖を引っ張るな! それと兄ちゃんって呼ぶな!」
「ぶーぶー」
「ったく」
バケモノ級が目の前にいるってのに、なんでこんな緊張感のないやり取りをしないといけないのか。変な嘆かわしさに頭を抱え、駄々をこねるユウキにデコピン。それが済んでから、俺はユウキに説明を始める。
妖刀の噂話でよくあるのが、『斬られた傷が治らない』というものだ。傷が治らなければその箇所から菌が侵入し、やがて腐敗させる。まさに妖刀。今回のボスの力も、そこから派生させたんだろう。『治らない』ということにしてしまうと、ゲームとして成り立たない。そこで、『治らない』のではなく、『ダメージが大きい』ということにしたんだ。『斬られる→腐敗』の部分に着目し、腐敗を『大きなダメージ』と解釈。その部分だけをボスの能力に搭載させた、というのが今回だ。
だから掠り傷だろうとそれは『大きなダメージ』となり、体力の4分の1が削られた。そうなってくると、やはりまともに斬られるわけにはいかなくなってくる。バッサリやられたらそのまま即死だろう。最高難易度とはよく言ったものだ。シンプルな脅威ほど厄介なものはない。
「うへー。骨が折れちゃうや」
「でもま、ボスの体力が少ないのが救いだな」
「え、あーほんとだ。1ゲージしかないや。そこだけ人間に合わせちゃってるね」
「そういうこと。やられる前にやれってこった」
「分かりやすい!」
元気に応えるユウキが剣を構えて腰を落とす。なんか嫌な予感がするから、本人も分かっているであろうけども忠告しよう。
「ソードスキルは使うなよ。あいつ相手にやったら負けるぞ」
「分かってるって!」
ユウキが楽しそうに頬を上げる。俺と戦った時と同じだ。強者との戦闘を楽しんでる。デュエルにしちゃあフェアもくそもない差なんだが、ユウキにとってはさしたる問題でもないんだろう。今度はユウキが先に仕掛けるし、俺はそのフォローに動こうと視線を前に戻そうとしてすぐにユウキに戻した。
構えからして繰り出すのは、片手直剣の突進系スキル『ヴォーパルストライク』だろう。
「お前分かってねぇじゃん!」
俺のツッコミも虚しく、ユウキが爆発的な速度で敵に突っ込む。ユウキのフォローのために俺も全力で走るしかないが、ユウキはやはり傑物だった。
スキルの勢いで突っ込むユウキに合わせ、ボスが居合の構えを取る。ユウキの速度は凄まじく、そして相手の見切りもレベルが高い。ベストタイミングで居合斬りを放った。
しかし、
「はぁ!?」
思わず叫ぶ。だってユウキは、敵の間合いギリギリで
「ハァぁ!!」
ガラ空きとなっていた敵の胴体にユウキの剣が突き刺さる。一時停止したくせに威力は変わることがないらしく、敵の体がぐらつく。しかしぐらついただけだ。人型とはいえさすがに最強級ボス。すぐに攻撃を再開する。
「よっ! と……驚かせてくれるなー」
敵の攻撃を流しながら、スキル使用による硬直で動けないユウキを回収する。抱えたままでこの敵と戦えるわけもなく、回収したユウキをすぐに後方に投げる。「ふぎゃっ」って声が聞こえたが、それに反応する余裕なんてない。
敵の攻撃に型なんてない。流派もあるわけがない。おそらくは戦い続ける中で身につけていった独自の剣術だ。だからこそ見切りにくい。こいつの戦い方は、いわば闇鍋だ。どういうものが飛び出してくるか分からない。なんなら振り方だって、剣術を修めてる人からすれば荒々しい。そのくせ筋だけはいいんだ。
「やりづれぇ!」
いくつかの剣術を見てきたせいで、どれかに近いものだと頭の中で解釈してしまう。こいつは、
俺が苦戦している間にユウキが動けるようになり、二人で連携しながら敵を押し始める。どちらかが隙を作り出せば、すかさずもう一人だダメージを入れる。従来なら二人が前後にいて、片方がソードスキルでダメージを稼ぎ、硬直時間中はスイッチしてもう一人時間を稼ぐ、というやり方だ。
しかしこの敵相手にそんなことはできない。どちらかが普段からタンクを担当していたら話は別だったが、ユウキも俺もダメージを稼ぐ側を担当してきた。タンクなんてあまりできない。そして何よりも
「あいつ強えなー」
「パワーあるし、スピードもあるし、そのくせして視野が広いもんね。あと動きが読めない」
「それな。特に最後のが厄介すぎる。普通のボスなら攻撃パターンがあるのに、あいつは俺達の動きに逐一反応しやがる」
「ホント厄介……逐一? ……ねぇジーク」
体力が危なくなったところで二人同時に後退し、回復アイテムで体力を前回にさせながら話し合う。そうしてるとユウキが何かに気づいたようで、なかなかにイイ顔をして作戦を立てた。ユウキにしては珍しく良い案で、それが成功していけばもっとダメージを与えていける内容だ。
「いっちょやりますか!」
「うん!」
コンビとしちゃあデコボココンビもいいところ。どっちも動けるから合わせられてるってだけ。でも、だったらそれこそ役割を分担した方がやりやすい。いや、もはやこれは役割分担でもない。お互いに共有したルールなんて一つだけ。
どっちかの体力ゲージが危なくなれば二人とも退避
これだけなんだから。それなら俺達はどう戦うのか。それは単純にして愚かなやり方。きっと他のプレイヤーたちが「お前ら馬鹿だろ」っていうような戦い方だ。
「そっち見てていいのか?」
敵がユウキと交戦している間に斬りかかる。これだけでは普通だが、俺がソードスキルを使うわけじゃない。そして圧倒的な反射速度を見せるこの敵が、俺に反応した瞬間にユウキがソードスキルを使うわけでもない。お互いにソードスキルは使わず、自分の動きだけで戦う。そして、
連携すればたしかに負担は減るだろう。しかし俺達は連携に不慣れという事実が足を引っ張る。それならばいっそ連携を狙わないほうがいい。お互いに実力者なのだから、好き勝手に動きながらも味方の邪魔だけはしない。
それに、理由はもう一つある。それは、このボスの反応速度だ。左右から仕掛けても裁かれる。しかもリアルの達人でいうところの『気配察知』。それと同等のものもできるらしい。つまりこいつに死角なんて存在しないということだ。だから背中側からせめても素早く反応される。だから連携が成立しにくい。連携はいうなれば、二人で作る一つの流れだ。そのせいで止められやすい。
だが、狙い目がないわけじゃない。それはユウキがやった『ヴォーパルストライク』から分かった。あいつは、反応が良すぎるせいで咄嗟の切り替えができない。あくまで、一つ一つの動きに対してのみ反応するのだ。それ故に連携は対応されやすい。しかし、それなら二つ同時に別々の流れをぶつけてやればいい。これには対応しきれないのだから。
「ジーク!」
「りょうか──ユウキ!!」
「あ……」
ボスの体力ゲージをなんとか半分近くまで減らしたが、そのタイミングでユウキの体力も黄色ゲージに突入した。だから後方に一旦下がって体力を回復しようとしたのだが、ここに来て敵の動きに変化が表れた。いや、どのボスだってある程度削れば新モーションを見せたんだ。それをこいつには当てはまらないと思っていたせいだな。
片手で刀を振るっていた敵が、両手で刀を持って下段から一気に振り上げる。ユウキはそれに反応して防いだのだが、力負けして体が浮き上がる。体も若干仰け反り、腕が上がっている。隙だらけになったユウキを守ろうと動いたのだが、敵がさらに予想外の動きを見せた。左手でユウキの足首を掴み、俺に目掛けて投げつけてきた。
「ぐっ……かはっ……!」
咄嗟にユウキをキャッチしたまでは良かった。だが勢いを殺すことはできず、俺はユウキを抱えた状態で吹き飛ばされた。運がいいのか悪いのかは知らないが、このエリアで唯一残っている建物に吹き飛ばされ、壁を突き破って中に入り、次の壁にぶつかって勢いが止まった。壁とユウキの間に挟まれたから余計に苦しい。
「ユウキ……大丈夫か?」
「なんとか……赤ゲージだけど、ジークは?」
「半分くらいだな。……建物の中にあいつが入ってくるかと思ったが、そうでもないんだな」
「みたいだね。それならまた回復を……あれ?」
「どうした? アイテム切らしたか?」
「ううん。まだ残ってるんだけど、ジーク……アイテム使えない」
信じられないといった調子でそう話すユウキにギョッとした俺は、慌ててウィンドウを開く。そこで確認すると、ユウキが言ったとおりアイテムの使用ができなくなっていた。この建物の中だから駄目なのか、それとも敵の体力が半分になったからそう変更したのか。それを確認することはできない。
なんせユウキは赤ゲージだ。次掠り傷でも喰らったら死ぬ。まだ体力が残ってる俺が囮になったとしても、出入り口が敵の待つ正面か、その少し横にできた穴しかない。どちらも敵の射程範囲だ。あの反応速度からして囮なんて通用しない。
「ユウキ、魔法で回復は?」
「今試してみたけど、効果が激減してる。全然回復してくれない。……この建物の中だからかな?」
「……かもな。魔法の効果が全然効果を出してくれないなら、ここから攻撃魔法撃っても駄目だな」
「外でも駄目だったじゃん。あいつ魔法斬っちゃうもん」
「キリトが知ったら目を輝かせるだろうなー。さてさて、どうしたものか」
「うーん、リタイアはないとして……ってうわぁ!?」
部屋を見渡したユウキが、急に悲鳴を上げて飛びついてきた。ユウキの悲鳴にビックリしたんだが、ユウキが指差す方向を見て俺も固まる。
そこに
俺はしがみついてきたユウキの頭をポンポンと優しく叩き、大丈夫だと伝えながら頭を回転させる。ボスの後ろに一つだけ建物が残っており、そこには祈りを捧げる骸骨がいるんだ。何かがあるのは明白。
──妖刀……動かないボス……建物……祈る誰か…………そもそもこのクエストの設定は……
「ジーク?」
「……」
「ねぇジークってば!」
「そういうことか」
「むぅ、無視しといて何かに納得してるってどうなのさ」
「悪いユウキ、お前はここで待っててくれ」
「へ?」
「このクソッタレなクエストを終わらせてくる」
目を丸くしたユウキが俺を止めようとするが、俺はそれを聞いてあげない。まずここはデスゲームじゃない。死んだって死なない。それに、この状況ならどのみち俺しか戦えない。そして、これはきっと、
俺はユウキの肩に手を置きつつ、骸骨に視線を向ける。ユウキもそれにつられてそっちを向くが、何かあるわけでもないからすぐに俺に視線を戻して可愛らしく首を傾げる。
「大丈夫だ。全部終わらせてやるさ。お前の兄貴も、呪いも」
「どういうことなのさ……」
状況が飲み込めないユウキに申し訳なく思うが、説明は後でいいだろう。そこそこ作り込まれたクエストを終わらせるのが優先だ。このドラマじみた
俺が言うことを聞かないと諦めたユウキは、ため息をついて道を開けてくれる。それにありがとうと伝え、堂々と正面から敵とぶつかるために、出入り口へと歩きながらユウキに言葉を投げかける。一つだけ見せてないものがあったな、と。
「……なにさ」
「ははっ、機嫌悪いな。……俺は何も変わらないと思ってるんだがな、キリト曰く今からやる俺の戦い方が
「ジークの本気?」
ユウキの問いに言葉を返さず、一度刀を鞘にしまう。俺のお得意の居合斬りを放つために。あらゆる思考を遮断し、外で待つ敵だけを見る。ゆっくりとした歩調は次第に加速していき、外の光が目に入ったと脳が認識する前に居合斬りを放ち敵の後方に立つ。斬った感触はあった。斬られた感触はない。居合い勝負だと俺に軍配が上がるらしい。
「
「そなたのような者には……何もできん……」
「そんなことはないさ。馬鹿な俺にだって、背負ってるものがあるからな!」
背中越しの会話を止め、振り向きざまに斬りかかる。刀が交差する。
──火花が散る
先程までは押されていたが、もう力負けするとは思っていない。
──再度火花が散る
積み上げてきたものがある。地獄のような日々を生き抜くために、守るために。己の力を伸ばし、技を磨いてきた。
──何度も何度も二人の間で火花が散る
──片側は傷を負わず、片側は数カ所に新たな斬り傷が生まれる
「お前はその子を守るために刀を手に取った。全てから守るために。そうだろ!」
「……そなたには分かるまい……我が妹に迫った
「ああ分からねぇな。当事者じゃないから。だが、守りたいっていうあんたの想いなら共感できる。そのために武器を手にして、戦ってきたからな!」
「……そのようだな。研ぎ澄まされている……」
「自分が強くあるために刀を手にした! 自分が強くあれば守りたいものを守れると信じて! あんたはそれに成功した! なのにあの子はまだ祈ってる! それはあんたがあの子の声に耳を傾けなかったからだ!」
「なにを……」
「話の全部は妹さんに聞きやがれ!」
幾度も刀を交差させつつ言葉を交してみたら、俺の考え通りの展開だった。これを考えたやつはイイ性格してやがる。俺からしたら胸糞悪い。だから、初挑戦者である俺が、ここで、このクエストをクリアする!
刀は斬るものだが、『剛』と『柔』がある。それは死んだ親父がよく口にしてたことだ。刀を極めるなら、どちらも疎かにしてはいけないと。バランス良く修め、昇華し、己が信じるもののために振るうんだと。
この敵は明らかに『剛』の方が強い。自分で課した使命をやり遂げているのだし、その極地に至っているのは明白だ。だからこそ強い。だが、『柔』はそこそこのレベル。最低限修めているだけ。境遇を考えれば仕方ないこと。怒りに震え、心を鬼にして戦っていたのだから。
だがもうこいつが戦う理由はない。それならば勝てる。俺が全て終わらせる。
鍔迫り合いを解き、刀を中段で水平に構える。俺が仕掛けようとしてるのは向こうも分かってる。だからそれを迎え撃つために相手も構える。鳴っていた剣戟の音も、地面を滑り、蹴る音も止んでいる。今聞こえているのは、大樹の隙間から流れてくる風の音のみ。
その音も次第に弱くなり、やがて──止んだ。
「──ッ!」
「フッ……!」
音が止んだのを合図に一気に駆け抜ける。水平に構えていた刀を敵の左横を通り過ぎる時に合わせて振るう。それを相手に防がれ、相手は斜め後ろにいる俺を斬ろうと振り向くが、それよりも先に俺は止まった箇所で左足を軸にターンし、もう一度敵の左横をすり抜ける。今度は敵の防御が間に合わず、腹を斬ることができた。だがそこで止まりはしない。すり抜けてすぐに今度は通った場所を戻っていきながら斬りつける。そうして最初にいた位置に戻り、居合斬りを全力で横に一閃した。
二度敵の横をすり抜けつつ一撃ずつ、折り返しで戻りながら一撃ずつ、最後に居合斬りを放つ5連撃。それが俺のOSS「
「ぐっ……見事……な技だ……」
「死んだ親父に教わった唯一の技だ。ここぞって時にしか使わないし、使うに値する人だと思わなかったら使わない」
「そう、か…………そなたに聞こう……私は
「……妹さんにも聞いてほしいことだが、俺は間違っていないと思うぞ。あんたの剣は守りたい人のために使われてた。決して自分のためじゃない。それが間違ってるわけがない。噂じゃ妖刀なんて言われてるけどとんでもない。あんたは立派な守護者だよ」
「そこまで言われるほどの……存在でもないがな……。……村人を……役人を……全てを斬るしか知らなかったのだから……」
「それでもさ。世間一般じゃどうかは知らない。てかそんなのどうでもいい。あんたが守りたい人のために刀を振るった。それが事実だ。あんたはそれに後悔してないだろ? それでいいじゃないか。周りがどうこうじゃない。自分がどうか、それがきっと大切なことだよ」
戦いが終わり、建物の中にいたユウキがひょこっと出てきて俺の隣まで歩いてくる。それを見たこの人は、戦闘のときに見せたあの目ではなく、優しい人の穏やかな目をしていた。ユウキと俺を交互に見て、何かに納得したように一度だけ頷く。
「そなたらは……その手を離さぬようにな……」
唯一残っていた建物の中から、白い光に包まれた少女がふわふわと揺れながら出てくる。どっからどう見ても幽霊なんだが、そこは何も言わないほうがいいんだろうな。その少女は、その人の前まで移動し、そっと小さな手を頬へと伸ばす。
『兄上……ずっとありがとうございました。もう兄上は……戦わなくてよいのです……』
「……あぁ、そのようだな。……そなた、名は?」
「……黒瀬
「ボクはユウキだよ」
流れに乗れよって思ったが、ユウキだってバカじゃない。だがネット環境でリアル名は基本的によくない。となってくると、ユウキというのは本名から取ってるんだろうな。
「良い名だ……。秋刀……そなたにこの刀を託す。同じ護る者であるそなたに……託したい」
「ああ。大切にする」
驚くことに、その人の刀の鞘は、幽霊少女こと妹さんが持っていた。どこからともなく手品のように鞘を取り出し、兄のほうがそっと納めていく。そうして納刀した刀を持った手を伸ばし、俺はそれを謹んで受け取った。その瞬間兄の方も白い光に包まれ始め、二人がいなくなるのだと直感的に分かった。
「ねぇ待って! 二人の名前も教えて!」
「ユウキ……」
「……そうさな。訪ねておいて……教えぬのは不義理よな……。私の名前は
『私はハルと申します』
「っ!?」
「緋丸さん、ハルさん! 教えてくれてありがとう! またね!」
『ええ。それでは』
緋丸さんとハルさんを包む白い光が大きくなり、やがて二人を包んでは空高く飛んでいった。俺とユウキはそれが見えなくなるまで見送る。光が見えなくなると今度は周りの大樹の枝に一斉に桜が咲き、風と共に舞い降りて来る。
「あはは、すごい綺麗だね……。これが桜吹雪ってやつだよね」
「あぁ、そうだな」
俺は幻想的な景色を眺め、ユウキはその景色に溶け込んで舞う。本人は楽しんでるだけなんだろうが、俺からすればユウキすら幻想的に思えてくる。それくらい桜吹雪の中にいるユウキが綺麗で、様になっていた。こっそり写真を撮ったのは内緒。
しばらく舞ってからユウキが戻ってきて、腰に手を当て頬を膨らませる。写真がバレたのかと思ったらそうじゃなかった。このクエストの謎を教えてないことを言及された。
「あ〜そうだったな。ユウキも薄々気づいただろうが、まずあの人は辻斬りとかじゃない。ハルさんを守るために刀を手にして戦い続けた人だ」
「やっぱりそうなんだ。だからあの家の前から全然動かなかったんだね」
「そういうこと。んで、ハルさん超美人だったろ?」
「あー、男の人って単純だねー。……ジークも?」
「男全員をそうだと思うな。あとたしかに美人だったけど、俺はハルさんよりはユウキの方が好きだな」
「ふ、ふーん? そう、なんだ……」
なんだこいつ急にしおらしくなっちゃって。可愛いかよ。まぁそれは置いとくとして、問題はその後なんだよなー。
「緋丸さんは強すぎた。村人は死ぬか逃げるかだったんだろ。んで、逃げた人がホラを吹いて討伐隊が派遣された。緋丸さんをその人たちにすら勝っちゃった」
「元々は素人なんでしょ? できるの?」
「そこで"呪い"とも呼べちゃう力の登場なんだよ。ハルさんは祈ってたろ? あれは緋丸さんに『死んでほしくない』と祈ってたんだ」
「あ! その祈りが力になったんだ!」
「そう。でも、『死んでほしくない』と祈ったがために、緋丸さんは"死ねなくなった"。ハルさんが亡くなって以降はその力が中途半端に残ったんだろ。緋丸さんは、"不死"ではなくなり、だが"不老"になった。そうして出来上がったクエストが今回のクエスト」
「……なんか悲しいね……」
ユウキは優しいな。なんて言葉をかけてやることもできない。実際これは悲しい話なんだから。悲しい話で、でも途中までは美しい話。そんな両面を抱えたクエスト。やっぱりこれを考えたやつに是非とも会ってみたいね。どういう思考してんのか聞いてやりたい。
「そういえばその刀の名前は?」
「ん〜? ……入力できちゃうパターンですわ」
「ほんと!? それならボクが付けていい!?」
「なんでだよ!」
「だってジークだったら変な名前つけそうだもん! あの二人の名前を含んだ刀にしたいもん!」
「その謎の信頼は何なんですかねぇ!」
俺だって何も思わないわけじゃない。ユウキほどではないにしても、な。そんなわけで、所持権が俺にあるせいで自分では入力できず、ギャーギャー騒ぐユウキを片手で抑えながら頭上を見上げて考える。ユウキの要望に乗ってやるのは癪だが、
「──
「うん……うん! すっごくいい! あはは! ありがとうジーク!」
「おわっ……!」
ユウキに思いっきり飛びつかれた俺はバランスを崩し、背中から後ろに倒れる。受け身が取れなかったせいでわりと痛い。戦闘じゃないからダメージは入らないけどさ。
「どんだけ嬉しいんだよ……」
「えへへ! すーっごく! だよ」
「ったく……」
俺の腹の上に座り、胸に手を置いて顔を覗き込むように見てくる。ユウキの髪が俺の頬や首筋をくすぐる。天真爛漫な顔と舞いちる桜が俺の視界の大半を占める。普段の表情が鳴りを潜め、一人の女性だと認識させられるような魅力的な顔になる。ゆっくりと近づけられ、お互いの吐息がかかるほどの距離で止まる。
ああ……やっぱり──
「これで心置きなく説教ができるね!」
「…………はい?」
「とぼけないでよ! その体力ゲージちゃんと見て! 今赤だよ! しかもボクより少ないの! もう一センチもないじゃん、ミリじゃん! ボクすっごいヒヤヒヤして怖かったんだからね!」
「え、ちょっ、ユウキさん?」
「話聞いてるの!?」
「聞いてないです」
「この、バカジーク!!」
ビンタがメッチャクチャ痛い。これで死んだら笑いもんですわ。とか現実逃避してたらまた怒られた。
ちょ、誰か助けて……この子緋丸さんより強いよ……。