元ブラック鎮守府に着任   作:nekoge

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前回のあらすじ

提督命を狙われる


信頼は小さな一歩から始まる


3話

ねぇ影野君

 

・・・

 

やっとだね

 

・・・

 

まずはおめでとうようやく夢が叶ったね

 

・・・

 

でもあの子達怯えてるね。影野君の顔が怖いからかな?私も初めて会ったときは怖かったな~

 

・・・

 

そんな不機嫌な顔しないでよ

 

・・・

 

そろそろ行かなきゃ

 

・・・!

 

じゃあまたね、今度は私が影野君の前に現れるときは影野君がピンチな時だ

 

・・・?

 

でも安心して、きっと助けるから。あの時みたいに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3月28日 火曜 0600 提督室私室

 

影野は目を覚ました懐かしく愛しい者の声だ。

 

「・・・文香」

 

まだ薄暗い鎮守府庁舎の部屋に小さく声が響く。

 

影野は首に掛けてある懐中時計と指輪をみた。一つは愛しい人からの贈り物、もう一つは愛しい人に渡せなかった贈り物だ。

 

「むにゃむにゃ、影野隊長まだおやつには早いですよ」

 

妖精はまだ眠っている。

 

「・・・」

 

影野はベットから起き上がると寝間着のままトイレ、洗顔を行い、固形物の朝食を済ませ部屋の机に座った。

 

今日は0805に鎮守府所属の艦娘、隊員、事務員総員の前で着任挨拶、0930に影野が指揮する護衛艦視察、1000から1150まで鎮守府全体の視察、1330から呉地方総監府での挨拶と正式な命令受領、各種手続き、1530から呉市長に挨拶&住所登録、とにかく忙しい。

 

時刻は0625に。すると館内放送で総員起こし5分前が流れた。

 

「影野提督・・・」

 

「おはよう」

 

「おはようございます影野提督」

 

「眠いか?」

 

「少し眠いです」

 

「コーヒー」

 

「頂きます・・・」

 

影野は妖精用の小さなカップを取り出すと器用にコーヒーを注ぎ妖精に渡した。

 

「あぁ・・・コーヒーはブラックに限りますね」

 

妖精はそう言っているが影野はミルクを入れる派だ。

 

すると0630となり総員起こしのラッパが鳴る。

 

《総員起こし》

 

「さて朝御飯はなんですか!」

 

妖精は影野の用意した朝食を見て落ち込む。

 

「・・・早く温かい食事お願いします」

 

「善処する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0700 本館 食堂

 

ここは海軍の施設である。現日本海軍は旧海軍、海上自衛隊時代から総員起こし5分後に体操を行う。実際に鎮守府内に居る警備隊と港務隊と護衛艦の隊員は行っている。艦娘達は誰も行わない。

 

艦娘達は配食時間になると一階の食堂に行き食事を行う。

 

「そわそわ」

 

「そわそわなのです」

 

「止めてくれないかなそれ」

 

「うぅ・・・」

 

「二人とも大丈夫よ!私がいるじゃない!」

 

「雷もそればっかりじゃないか」

 

「逆に聞くけどなんで響はそんなに落ち着いてるの?」

 

「なのです!」

 

「今さら慌てたところで意味がないよ」

 

響は素っ気ないようすで答える。

 

「ちょっと響、そんな言い方って!」

 

「もういいかい?ごちそうさま」

 

響は去っていった。

 

周りの様子も似たような光景だ。

 

すると食堂に置いてある植木に小さい影が表れる。

 

「不味いですね。想像以上に不味いですよ!」

 

「そうですね」

 

「やべぇよやべぇよ」

 

「みんなぴりぴりですね」

 

「あなた達は呑気ですね」

 

「ほめてもなにもでないですよ」

 

「それほどでも!」

 

「やりました」

 

「頭痛くなりそう・・・」

 

それは影野と一緒に来た妖精とこの鎮守府に元々居る妖精の3人だ。彼らは影野に頼まれて艦娘達の様子を偵察していたのだった。

 

「大丈夫かなこの鎮守府・・・」

 

大丈夫じゃないよ妖精。

 

 

 

 

 

 

 

0745 鎮守府中央広場

 

艦娘を含め鎮守府に働く一部を除く総員が集まった。しかし艦娘と隊員、事務員の列は離れており、お互い極力顔も会わせないようにしている様子。

 

総員が集合した5分後に影野が広場に現れた。服装は黒色の礼装の第1種冬服《海上自衛隊の幹部の黒い冬服の制服》、鎮守府隊員も礼装服だ。

 

0800の国旗掲揚が終わり影野は予め用意されていたお立ち台に昇る。

 

すると鎮守府当直士官の隣にいた若い隊員がサイドパイプで総員を吹き、《総員集合》を令する。

 

当直士官の号令で総員が影野に敬礼を行い影野が答礼を行い、遂に影野が口を開いた。

 

「3月23日付けで着任した影野海誠。呉地方総監所属第08鎮守府艦娘艦隊及び第4護衛隊所属護衛艦隊『やまゆき』指揮官を任命され昨日着任した。よろしく」

 

影野はまるで業務内容を淡々と述べるかのような様子で口を開いた。

 

(なんか淡々としているわね)

 

(前の司令官と違って細いのです)

 

(前の奴と違って背が高いわね)

 

(意外に顔はいいわね・・・目付き悪いけど)

 

艦娘達は思い思いの事を考えた。

 

それから三分以上経過したが影野は一切口を開かない。

 

「・・・・・・?」

 

上記の表記は総員の総意である。

 

誰もが言葉を失った。

 

(え?これだけ?)

 

(何かもっと言うことないの?)

 

皆そう思った。奇しくも艦娘と人間の思考が一致した瞬間だろう。影野はそう思った・・・かもしれない。

 

その後当直士官の号令で敬礼をすると影野は広場から去っていった。

 

残された人々は暫くその場で立ち尽くしたが、すぐにそれぞれの職場に戻っていった。

 

 

 

 

 

庁舎の廊下

 

「・・・提督あの挨拶なんですか?」

 

「許せ」

 

「折角一緒に考えた挨拶の原稿どこにやったんですか?」

 

「部屋」

 

「提督なら覚えられたはずです!絶対わざとですよね?」

 

「・・・」

 

「はぁ・・・仕方ない人ですね」

 

「・・・」

 

「まぁいいです。これから頑張っていけばいいです!」

 

妖精は影野に甘い。

 

「次は護衛艦の視察ですね!」

 

「うん」

 

影野は肩に乗せている妖精と話ながら執務室へと歩を進める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

0840 駆逐寮

 

「なんなのよあの挨拶!」

 

「ププ変わった提督ですね」

 

「もう漣ったら笑いすぎよ」

 

「だって朧、あんな挨拶ある?もしかして新しい提督ってコミュ障?」

 

「いい印象ないわよ。ただの糞提督よ!」

 

「ちょっと顔かっこよかったですね」

 

「で、でも目付きが怖いです」

 

「おやおや~かっこいいのは認めるのですか~」

 

「あうぅ」

 

「漣!からかわないの!」

 

「痛った~い!酷いよ朧~」

 

「とにかく皆気を付けるのよ!」

 

「分かってるわ」

 

「う、うん」

 

「へ~い」

 

「漣!ちゃんと返事する!!!」

 

「は、はい!ぼーのちゃん!!」

 

「ぼーのちゃん止めろ!!!」

 

「全く」

 

「は、はは」

 

食堂の時と同じくどこも似たような反応である。

 

その後影野は自分の指揮する護衛艦3隻と鎮守府全体の視察を終えて庁舎の執務室に戻っていた。

 

1200 執務室

 

「護衛艦なんて久しぶりでしたね!」

 

「ああ」

 

「この鎮守府広いですね!」

 

「ああ」

 

「この後のお昼はなんですか!!!」

 

「・・・」

 

「わくわく」

 

影野は執務室に置いてある戸棚からカップ麺を取り出す。

 

「・・・えっ」

 

「我慢」

 

「・・・食堂は駄目ですよね」

 

「いづれは」

 

「いつになるやら・・・そうだ!」

 

「?」

 

「事前に頼んで持ってきて貰うのはどうでしょうか?」

 

「・・・」

 

「それか護衛艦で食べます?」

 

「・・・」

 

「それか事務員の別館の食堂に行きますか?」

 

「・・・」

 

「それとも作りますか?休憩室に調理場がありますよ!」

 

「明後日から」

 

「やったぁ!!!」

 

妖精がはしゃぐ。影野の料理の腕はいい。

 

「明後日からは毎日食事が楽しみになります!!!」

 

「まかせろ」

 

「あ、3時のおやつはどうします?」

 

「明後日から」

 

「やったぜ」

 

「ふむ」

 

「でも食材どうするんですか?」

 

「少し拝借」

 

「泥棒は駄目ですよ!」

 

「問題なし」

 

「責任者は自分だから問題なしってわけですか?駄目ですよ?」

 

「・・・頼んだ」

 

「最初のおやつはシュークリームでお願いします」

 

「・・・了解」

 

その後護衛艦の視察、艦長との挨拶等の行事を終えたらあっという間に夕方となり、今日の課業も終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2030 鎮守府 調理室

 

食堂の隣に隣接されている調理室そこに割烹着を着た女性と2人の少女が食器を拭いていた。

 

「ありがとうね、文月ちゃんと皐月ちゃんこれで最後だから」

 

「僕達こそお礼を言いたいよ!だって毎日美味しいご飯作ってくれてるのから!」

 

「文月もそう思うよ~」

 

「ふふっありがとう」

 

外からみればとても絵になる風景だ。例えるならお母さんのお手伝いをする姉妹のようだ。守りたいこの笑顔。

 

「すいません」

 

そこに影野の相棒妖精が現れる。

 

「あら見かけない子ですね」

 

「妖精さんだぁ~」

 

「初めて見る妖精だな?」

 

「初めまして、この度影野提督と一緒にこちらの鎮守府に着任しました妖精です!」

 

 

「「「・・・!」」」

 

妖精の言葉に場が少しだけ不穏なものになる。

 

「・・・すいません空気を悪くしてしまって」

 

「いえ、こちらこそごめんなさい」

 

「ねぇねぇ妖精さん」

 

「どうしました?文月さん?」

 

「司令官と来た妖精さんはなんの妖精さんなの?」

 

文月の質問の意図を説明すると、彼女達艦娘にとって、妖精とはそれぞれ役職がある存在と認識だ。整備員からパイロット、それは様々だ。

 

「私は影野提督の相棒です!」

 

「相棒?」

 

「な、なんだそれ!?」

 

「変わった役職ですね」

 

「ねぇ妖精さん」

 

「なんですか文月さん?」

 

「司令官ってどんな人なのかな?」

 

文月の質問に言葉を失う皐月とほうしょう。

 

「影野提督はとても頭がよく優しいです。あと料理がとてもうまいです。ちょっとコミュニケーションが下手ですけど、あれでも過去には恋人が居たんですよ!。とっても素晴らしいですお方です!!!」

 

妖精の話を聞いて3人はそれぞれ考える。

 

(妖精さんは言うことはまるで嘘みたい。でも何だか気になるな~)

 

(信じられないよ、人間なんてどうせ同じだよ。僕は騙されないぞ)

 

(妖精さんは嘘をつきません。でも信じられない私がいます)

 

すると鳳翔が妖精に話しかける。

 

「妖精さん、ここに来たのは何かご用があったからじゃないですか?」

 

「あ、そうでした!実は食材を分けて欲しいのです!」

 

「食材ですか?」

 

妖精は鳳翔に理由を話した。

 

「分かりました。必要な分は持っていって下さい。でも一つだけ条件があります」

 

「鳳翔さん!?」

 

「大丈夫よ皐月ちゃん」

 

「なんですか?」

 

「実は食材の量と種類を少し増やしたいのですが」

 

皐月はその言葉に驚いた。いくら妖精さんとはいえ間接的に司令官に意見を言っている。皐月の経験上それは許されないことだった。過去に前任者に意見して暴行を受けたり、無茶な出撃で轟沈してしまった艦娘もいる。皐月はその言葉を姉のから聞かされていた。だが妖精の言葉は皐月には予想できない物だった。

 

「いいですよ!要望は紙に記載して持ってきて下さい」

 

「「え!?」」

 

「もし、持っていくのが心情的に難しいのなら私が代わりに持っていくので安心してください。今週はまだ忙しいので、来週からは休日以外はいつでも大丈夫です」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「お礼なら私でなく提督にお願いします」

 

「あ、」

 

「直接じゃなくてもいいですよ。ゆっくりでいいんです。提督はここの以前の状況も前任者のことも全て把握しています」

 

「そ、そうですか。お心遣い感謝します」

 

「いえいえ」

 

「(鳳翔さん・・・)」

 

「ねぇねぇ妖精さんもう一ついい~?」

 

「何でも聞いてください!」

 

ん?今難でもって言ったよね?まぁ冗談はさておき文月は純粋な意味で聞いている。

 

「何でも・・・司令官の得意料理ってなに~?」

 

「提督は全ての料理が得意です。特にはワインに合うおつまみとデザートは特に上手いです」

 

「デザートってなに?」

 

「デザート知らないんですか!?」

 

妖精は驚いた。

 

「うん、皐月知ってる?」

 

「僕も知らない」

 

「鳳翔さんは?」

 

「意味は存じ上げています。実際に出したことはありません。前任者が去るまでは最低限の食材でしかお食事をお出ししてないですから、出しても果実ぐらいです」

 

今は大分改善されたとはいえこの鎮守府は甘味を買ってないのだ。鳳翔の言うとおり出てきても余り新鮮ではない果実のまだ。

 

「マジですか・・・ではお教えいたします。デザートとは食後に食べる美味しい果実やお菓子のことです。まぁ食後に食べるおやつですかね」

 

「おやつって何?」

 

「あらゃらゃ、そこもですか。おやつとは午後もしくは深夜に少しだけお腹が減ったときに何かを食べる事です。夜に食べるのは夜食とも言います」

 

「へぇ~」

 

「甘いものか」

 

「ごめんなさい妖精さん、この子達まだお菓子類は食べたこと無いのです」

 

「えぇ!!」

 

妖精は鳳翔の言葉に驚く。以前の部隊ではその職務上様々な鎮守府に訪れていたが、駆逐艦をはじめ多くの艦娘はお菓子と聞くととても楽しみにしている雰囲気が感じられた。しかしこの子達には感じられない。妖精はそれを可愛そうだと思った。

 

「なら食べてみますか?」

 

「え?」

 

「む?」

 

「はい?」

 

妖精の言葉に3人は驚く。

 

「提督に言えば作ってくれますよ?」

 

「ご、ご迷惑ではないでしょうか」

 

「僕は別に・・・」

 

「あたし食べてみたい」

 

「え?」

 

文月の言葉に皐月が反応する。

 

「食べたい!!!」

 

「分かりました。皆さんのおやつも作ってもらうように頼んでみます」

 

「ありがとう妖精さん」

 

文月は妖精を優しく手で包んで自分の頬に優しく擦りつける。抱き合っているみたいだと皐月と鳳翔は思った。

 

「うっぷ、わっぷ、文月さん分かりましたから、そろそろ離して下さいよ~」

 

「わっごめんなさい」

 

「いえいえ、文月さんの柔らかほっぺを堪能できました、後で提督に自慢してやりますよ」

 

「えへへ」

 

「それではここで失礼します、そろそろ帰らないと提督が寂しがりますから」

 

「妖精さんばいばい」

 

「はい、それでは皆さんおやすみなさい!鳳翔さん明日の朝早くに取りに行くので朝食の準備の時に食堂の何処かに置いておいて下さい。用意してほしいリストはこちらです」

 

妖精は鳳翔に食材の書かれた紙を渡すと帰っていった。

 

「・・・二人とも今日はもう休んでいいですよ」

 

「分かった」

 

「は~い」

 

皐月と文月はそう返事すると自室に帰っていった。

 

「おやつ楽しみだね」

 

「べ、別に私は・・・」

 

ほうしょうは二人が出ていくのを確認すると明日妖精に渡す食材の確認をするため調理室の奥にある貯蔵庫に向かった。

 

 

 

 

 

 

「影野提督」

 

「・・・報告」

 

「ミッションコンプリート」

 

妖精がグッとする。

 

「了解」

 

「あと明後日のおやつ追加お願いします」

 

「・・・了解」

 

「何だか嬉しそうですね」

 

「善きかな」

 

「これが第一歩になってほしいです」

 

「頑張る」

 




世に文月のあらんことを






次回予告

影野の他の鎮守府視察





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