世に文月のあらんことを
今回胸糞描写あるよ
権力とは人を腐敗させ、善人さえも悪の道に誘い込む
お互いの信頼なくして勝てる戦なし
3月29日 水曜 0500 提督用私室
影野は目を覚ましベットから起きあがる。いつものように洗顔を済ませた後休憩室に向かう。そこには食材の入ったかごと珍しく早起きした妖精がいた。
「提督、貰ってきました!」
「うん」
「それではお願いします」
影野提督は朝食を作りはじめた。一時間程の作業を終えて簡単な朝食を作った。メニューはご飯、味噌汁、玉子焼き、納豆。
「頂きます!」
「頂きます」
妖精はいつも美味しそうに食べる。影野はいつもそう思っている。
部屋には暫く食器の音が静かに響いていた。
「あ~美味しかった~三杯も食べちゃいました」
「ごちそうさま」
「おっとと、ごちそうさまでした。感謝感謝です」
この後部屋に置いてあった高性能食器洗浄機に使用した食器を入れた。
今日の予定ほ0800の朝礼を行い、今日は一日かけて呉の01から09までの鎮守府鎮守府全てを回り、所属する提督達に挨拶、何人かは顔を知っている者がいた。しかし全員影野には関わりたくない様子。
1200 呉第04鎮守府
影野は昼食を別の鎮守府で食べていた。
場所は四階の来客用食堂だ。長テーブルが用意されており、共に食事をしているのはこの鎮守府所属の提督の中でトップである河原少将だ。年齢は46歳、見た目通りのおじさんだ。この世界の軍人を含め仕事の定年は65歳である。
「どうかな影野提督?うちの鳳翔の腕は?」
「美味です」
「それはそれは」
「私の分までご用意して頂いてありがとうございます」
影野の使用する机の右斜めのスペースに妖精の食事が用意されていた。ご丁寧に妖精用の小さい椅子と机まで。
「君は他の妖精と違って影野提督の大事な相棒だと聞いている。同じように対応するのは当たり前のことだよ」
河原は笑顔でそう言った
「元憲兵所属の君からみてうちの鎮守府の雰囲気どうかね?」
「並」
影野の答えに河原は苦笑いを浮かべる。
「並ですか・・・それは何も誉めるところも指摘するとこもないと言うことでしょうか?」
「いえ、違いますよ。この鎮守府は全体の環境、艦娘同士の関係性は問題ないです。しかし提督達と艦娘達の絆が不足しています」
「艦娘との絆ですか。この鎮守府には私の他に四人の提督がおります。皆は私と違いまだ若い、彼らは艦娘と積極的に関わろうとしているが・・・」
河原の顔の表情が暗くなる。
「貴方がそれを止めていますね」
「うむ・・・」
「喪失と恐れ」
影野の言葉に河原は少し驚く。
「何でもお見通しか。影野提督の言うとおり、彼女達と関わり絆を深めるとそれを失った時の感情は耐え難い物だ。私は過去にその様な光景を多く見てきた」
河原は思い出す。新米の提督が両思いだった艦娘を沈めてしまい廃人になってしまう光景、自ら命を絶ってしまった光景。彼らはわざと艦娘を沈めた訳ではない、慢心と無茶な作戦、進撃を命じた上官からの命令など様々な要因がある。河原は自らの部下にそうなってほしくないと思っていた。
思い更ける河原に妖精が話しかけた。
「河原提督はこの戦争の初期から海軍にいたのですか?」
「その通りだよ妖精、あの頃はまだ艦娘も妖精もいない中我々だけで戦っていた。その中で上官、同期、中には家族、私の世代や今の上層部は失うことの重さを特に知っている」
「・・・」
「その方々がついこの間まで今の上層部を占めてていましたね」
「そうだ、そしてその中で狂ってしまいこの間までの君達のお世話になった者も多いはずだ」
「・・・」
影野の見た河原は更に口を開く。
「もう一つ言いたいことがあるんだ。ある時突然艦娘と君達妖精が現れた。そこから奴等・・・深海棲艦との戦いは・・・五分五分となった時、海軍全体が浮き足たった。・・・しかしそれは戦いの激化と新たな野望が始まったと私は思っている」
影野は黙って話を聞いている。河原の言う野望とは現日本・・・もしくは海軍が行った事だ。
この頃日本海軍は艦娘という深海棲艦に対する唯一の切り札を使い陸軍、空軍を半ば傀儡にすることに成功した。そして時の政権をその影響力を使って自らの支配下にしようとした。
その一歩として東南アジア、西大平洋の島々の制海、制空権を日本が防衛する見返りにそれらの主権を持つ国の好きな湾岸に租借地と防衛の為の軍事組織を駐留させるという条約を当時の政権に提案させた。オーストラリアを除く、これらの国々は深海棲艦に蹂躙されるくらいならとその条約を結んだ。この結果海軍は一時期この国の国政を操れる出来る程の権力を手にいれた。
「あの時は酷かった、上層部は利権と癒着、腐敗まみれだった。艦娘達も一部を覗き不幸な目に・・・」
「自らも」
「自らも?」
「河原提督、その時は有能な多くの人材も潰されたのです」
妖精の言葉に驚く河原。
「そ、それはどういう事でしょうか?」
妖精は暗い表情で影野を見る、影野は頷いた、すると妖精は話し始めた。
この時期は今でこそ日本海軍にとっては断罪の歴史となっているいが、いまでもこの時を懐かしむ者も多い。
ある時若く有能な男の提督が鎮守府に着任した。彼は艦娘と積極的に関わり艦娘達も彼を信頼し、その鎮守府はあっという間に戦果を上げた。ある時彼は他所の鎮守府との上官との演習で勝利した。その上官は自身よりも階級も年齢も下の若造に敗北したことに屈辱を受け、自らの権力を使い若い提督にでっち上げの罪を擦り付け憲兵に逮捕させた。若い提督の鎮守府所属の艦娘達は上官に申し立てを行った、上官はある条件を提示してそれが終わったら解放してやると言った。
「その条件とは・・・」
「マッサージです」
「!?」
河原が驚くのも無理はない、妖精の言ったマッサージとは性的な奉仕を意味するからだ。
「それも上官の関係者を含む友人、知人の・・・」
「上官の鎮守府は・・・」
「ブラック鎮守府と呼ばれています」
ブラック鎮守府とは艦娘の運用に関して特に厳しく、冷酷で鈴に例えると艦娘の使い捨て、暴行を含むあらゆる行為が日常的に行われる鎮守府の事を指す。
妖精の話は続く。若い提督の艦娘達は彼の為ならとどんな屈辱にも耐えた、時には励まし合い、涙を流しながらも耐えた。しかし、上官達はその様子を若い提督にみせつけた。彼はそれにショックを受け最後・・・彼が指輪を渡す筈だった艦娘が彼の目の前で上官との行為を見せつけられた若い提督の心は壊れてしまい、その場で舌を噛みきって自殺した。その後彼の艦娘達は絶望からただ快楽を求める存在となり、最後は・・・
「止めてくれ・・・」
「・・・」
「明確に軍法を犯している!なぜそんな暴挙を見逃せたのだ!」
河原もその様なことが行われていたのは知っていた、しかしここまで酷い行いは知らなかった。いや単に目を逸らそうとしていたかもしれない。
「確かに艦娘に関する軍法はその通りです。しかし例外を覗き、自ら進んで行うのは禁止されていません」
妖精は淡々と語る。
「その時その瞬間似たような事は起きていました。艦娘にとっては暗黒時代です。それに当事者達も初めは誠実な人が多かったのですが」
「長い戦争が人を狂わせたかのか・・・」
「貴方の方針ではもしかしたらこの先似たような事が起きるかもしれませんよ」
「なんだと!!!」
「交流は大切なんですよ。共に戦う者同士のを理解しないと勝てるものも勝てないです」
河原は考える。
「・・・お互いの理解」
「河原提督?」
河原は決心した
「後で部下達を集めて話し合ってみる」
その言葉に妖精は喜んだ。
「ありがとうございます!」
「・・・」
「影野提督も喜んでいますよ!」
「そうか・・・」
「そろそろ」
影野が時計をみて呟く。
「あ、そうですね。河原提督そろそろ次の鎮守府に出発します」
気が付けば時刻は1250
河原は影野と妖精を見送った後に執務室に戻ってきた。
影野は内線を手に取り電話を掛ける。
「・・・後で部下全員を私の執務室に呼んでくれ」
河原は決心した。変えていくことを
「影野提督・・・君は奴ら・・・艦娘兵器派にとっては厄介だな、しかし穏健派からしたら救世主・・・流石は死神だ」
暫くすると執務室をノックする音が聞こえた。
次回予告
提督の同期と演習、実食影野の特性シュークリーム 暗殺実行